「故郷は地球 ー棲星怪獣ジャミラ登場ー」
『ウルトラマン』制作第22話
1966年12月18日放送(第23話)
脚本 佐々木守
監督 実相寺昭雄
特殊技術 高野宏一
棲星怪獣ジャミラ
身長 50m
体重 1万t
人間衛星の失敗で宇宙を漂流していた宇宙飛行士ジャミラが水も空気も無い星に辿り着いて変異した姿。
何十年かかって自分の乗ってきたロケットを改造し、復讐の為に地球に帰ってきた。
見えないロケットを操り、口から炎を吐く。
火には強いが水には弱く、ウルトラ水流で倒された。
ロケットの大きさや森の中に隠れた事から実は人間大にもなれるのかもしれない。
名前の由来はアルジェリアの独立戦争時にフランス兵に拷問された女性「ジャミラ・プーパシャ」から。
物語
国際平和会議の出席者が次々と殺害される。事件の裏にはある宇宙飛行士の悲劇が隠されていた。
感想
ウルトラシリーズでは「たとえ怪獣に悪意が無くても人間社会が被害を受けるのなら排除するしかない」と言う話がいくつかあるが、今回の話は「人間が怪獣になってしまったら、その人間は社会に害を及ぼす存在として排除される」と言う事を示した。
殆どの人は「人間」である自分は常に科特隊やウルトラマンに守られると思っているだろうが、そんな自分が「怪獣」になって科特隊やウルトラマンに攻撃される可能性もあると、何の疑いも持たずにヒーロー作品を見ている人達に「正義」の恐い部分を突き付けた話。
どうしてアラン隊員は怪獣の正体がジャミラだとすぐに分かったのか。
仮説だが、ジャミラの人間衛星にはカメラが積まれていて、ある国はジャミラが怪獣化していく様を観察していたのではないだろうか。ジャミラは地球が自分の怪獣化していく様を観察していながら助けを寄越さない事を知ってカメラを破壊。カメラが壊された事を受けて、ある国はジャミラが地球に復讐に来るのではないかと考えていたら実際に事件が起きてアラン隊員を日本に送り込む事になったと言うのはどうだろうか。
では、その「ある国」とはどこなのか?
ジャミラの名前の由来を聞く限り、フランスであろう。
ある国はジャミラの事を全世界に隠していたが科特隊パリ本部から来たアラン隊員はジャミラの正体を知っていたし、最後の国際平和会議場の場面では日本とアメリカの他にフランスの旗が映されている。(因みにフランス国旗の3色は「自由・平等・博愛」を表しているらしい)
今回の話は科特隊とウルトラマンが悪役になってしまったと言われる事がある。
確かにジャミラは歴史から抹消された悲劇の存在、犠牲者であるが、自分達と同じ人間を葬り去ってしまったと言う苦悩や葛藤を歴史から抹消された科特隊とウルトラマンもジャミラと同じ犠牲者だったと言える。
もし、この話に悪役がいるとするなら、それは画面に出てこなかった、国際平和会議に出席していた偽善者達であろう。
だが、ジャミラは倒さなくてはいけない存在であった。
自分を見捨てたある国の責任者達に復讐するのならまだしも同じ地球人だからと無関係な人々を巻き込んでしまったジャミラは「人間らしい心を亡くしてしまった」と言える。
イデ隊員は今まで地球の平和を守る為に科学者としての自分の能力を発揮していて、今回もスペクトルα、β、γ線照射装置を開発して見えないロケットを見えるようにしている。
しかし、自分が今まで信じてきた地球の平和や科学が一人の人間に不幸をもたらしていた。ジャミラが無関係な人々を襲うのを見て「人間らしい心はもう亡くなっちまったのかよ!」と叫ぶが、そもそもジャミラがそんな行動を取るようになったのも地球の平和と科学の為にジャミラが見捨てられたから。
国際平和会議の会場に建てられた墓碑を見つめるイデ隊員にジャミラの断末魔が重なる。ジャミラが抱いていた怒りを今のイデ隊員も抱いているのだろう。
人間には耐えられない炎が平気になり、逆に人間にとって必要な水が毒となる。ジャミラは既に「人間」ではなく「怪獣」になってしまった。
それにしても、水の無い星で苦しんだジャミラに対して地球人が「人工降雨弾」で反撃すると言うのが何とも辛い。
国際平和会議の会場に建てられた墓碑銘には「人類の夢と科学の発展の為に死んだ戦士の魂、ここに眠る」と書かれているのだが、実際のジャミラの墓は国際会議場から遠く離れた、誰も通らない山奥にひっそりと建てられている。
パリ本部はジャミラを宇宙から来た一匹の怪獣として葬り去れと命令したが、ムラマツキャップ達はジャミラが地球の土になれる、つまり、宇宙から来た怪獣ではなく地球で生まれ死んでいった地球人、自分達と同じ人間として葬ったのだ。
最後の墓碑について。
「1960-1993」と書かれているが、自分は人間ジャミラは1960年に生まれて1993年に宇宙で消息不明になった(人間ジャミラの死)と考えた。アラン隊員の話によるとジャミラは水も空気も無い星で何十年もかかってロケットを作り変えたとなっているので、実は今回の話は21世紀が舞台だった可能性もある。
因みに『ウルトラマン』は細かい時代設定は決められていないので今回の時代設定をそのまま他の話にまで広げる必要は無いと思う。
「犠牲者(偽善者)はいつもこうだ……。文句だけは美しいけれど……」。
『ウルトラマンパワード』の「宇宙からの帰還」は今回の話のリメイクとなっている。