「勇気ある戦い」
『ウルトラセブン』制作第40話
1968年6月23日放送(第38話)
脚本 佐々木守
監督 飯島敏宏
特殊技術 高野宏一
強奪宇宙人バンダ星人
自分の星の物資を使い果たしたので資源を求めて地球にやって来た。
宇宙ステーションのみの登場だが、宇宙ステーションもクレージーゴンも自動操縦でバンダ星人自身は地球に来ていなかった可能性もある。
収容した車に設置されていた新型のスペリウム爆弾によって宇宙ステーションを爆破された。
ロボット怪獣クレージーゴン
身長 42m
体重 3万t
交通ニュースで渋滞している場所を調べ、霧を発生させて車を襲っていた。
バンダ星人の宇宙ステーションを破壊された後も活動を続ける。
額の部分から光線を撃つ。
エメリウム光線もアイスラッガーも通用しない強敵だったが、ミクロ化したウルトラセブンの体当たり攻撃(ステップショット)を受けて倒された。
名前の由来は「クレイジー(狂った)」かな。
物語
心臓病の手術を控える治少年に会いに行くダン。
一方、霧の中で車が消失する事件が起きる。
感想
特撮部分が充実しているのに対して本編部分が弱いのが気になる話。
心臓病の手術を控えた治はダンが来なければ手術を受けないと駄々をこねる。
事件が起きていない時ならともかく、宇宙人のロボットが人々を襲っているのに自分に会いに来るのを優先しろと言うのはさすがに自分勝手すぎる。治の手術に対する恐怖は分かるのだが、ただのワガママな少年に見えてしまったのが残念。同じ題材なら『ウルトラマン80』の「少年が作ってしまった怪獣」のようにもっと少年の心理描写に力を入れてほしかった。
治はアンヌ隊員ではなくてダンが来なければいけないと言っていたが、そこまでダンに拘る理由も説明不足。ウルトラ警備隊の男性隊員に憧れていたのかもしれないが、大勢の人の命と治の手術を天秤に掛けるのなら、もう少しダンと治の関係を納得できるようにしてほしかった。
今回の話と似た展開である『ウルトラマンレオ』の「泣くな! おまえは男の子」では、おおとりゲンは梅田トオルの父親代わりになると言っていたし、二人の関係はおおとりゲンとMACの関係より長いので、おおとりゲンが自分よりMACの任務を優先させた事に梅田トオルが怒るのも分かるのだが。
「人間の科学は人間を幸せにする為にあると言う事を信じるんだ」と治を説得するダン。
しかし、劇中では治にとっての科学(手術)は怖いものとして終始描かれていた。ダンは約束を守って病院に来るのだが治がその事を知ったのは手術の後。出来れば手術の前に治はダンが来た事を知り、ダンがウルトラ警備隊の科学の力を使って宇宙人のロボットと戦っている事、自分も科学(手術の先生)を信じる事に気付いてほしかった。これでは治は勇気を出さなかったように見えてしまう。
ウルトラセブンはウルトラ警備隊の武器(科学)と力を合わせて敵を倒したのでテーマをちゃんと描いたと言えるのだが治の描き方は不十分であった。ここは子供を話の中心に据えた第2期ウルトラシリーズの方が上手かったと思う。
ダンは約束を守って治のいる病院に来るが、自分の怪我の手当の為に病院に来たと治に思われたくないとして戦いで負傷した箇所の治療を拒否する。しかし、事件が解決した後、ダンは車椅子に乗る程の怪我だった事が判明する。さすがにこれは治療するべきだったと思う。ダンの負傷はそのままウルトラセブンに引き継がれるので、負傷したウルトラセブンがクレージーゴンに倒されてしまったら治のいる病院が破壊されて治の命が危なかった。第一、治を傷付けたくないから自分の怪我を放っておくと言うのは優しさを勘違いしていると言える。今回の話は全体的に医療関係の扱いがあまり良くなかった。
1967年に南アフリカで世界初の人間同士による心臓移植が行われたが患者は手術から18日後に肺炎で死亡している。当時の心臓移植の状況を考えると、治の恐怖も分かるところがある。
バンダ星人の事をうっかり口にしてしまうダン。
ここは地球人であるハヤタ隊員と違う宇宙人ダンだからこその場面。
クレージーゴンのデザインはそのアンバランスさが「科学の歪んだ姿」を表しているみたいで面白い。
最後のクレージーゴンの残骸の場面は1968年に公開された『猿の惑星』のラストシーンを思わせる。
ウルトラ警備隊がバンダ星人の宇宙ステーションを破壊するのに使用したスペリウム爆弾は「遊星より愛をこめて」でスペル星人の血が放射能汚染される原因となったものらしい。名前だけ同じの別物か、地球人もスペル星人と同じ道を辿ろうとしているのか、「新型」とあるので放射能の問題がクリアーされたものなのか。気になる……。
今回の話は佐々木さんと飯島監督の『ウルトラセブン』最終作となっている。