帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「怪獣使いと少年」

怪獣使いと少年 ー巨大魚怪獣ムルチ登場ー
帰ってきたウルトラマン』制作第33話
1971年11月19日放送(第33話)
脚本 上原正三
監督 東條昭平
特殊技術 大木淳

 

宇宙調査員メイツ星人
身長 210cm
体重 68kg
地球の気候や風土の調査にやって来た宇宙人。
念動力で自分の宇宙船やムルチを地中に封じ込めたが、地球の汚れた空気に体を蝕まれて宇宙船を掘り出せなくなってしまった。
金山と言う人間に変身して良と言う少年と親子のように暮らしていたが暴徒と化した人間達に殺されてしまった。
悪魔と天使の間に…」のゼラン星人のマスクを使っている。

 

巨大魚怪獣ムルチ
身長 48m
体重 1万t
1年前にメイツ星人によって地中に封じ込められた。
メイツ星人が人間に殺された為に復活する。何の因果かメイツ星人の体を蝕んでいた排気ガスの元を破壊していく。
口から炎を吐く。
スペシウム光線を受けて炎上した。

 

物語
あの子が宇宙人なのかい? えぇ、宇宙人ですって……。あの子、宇宙人なのよ。あいつ宇宙人なんだぜ! この宇宙人野郎!!

 

感想
ウルトラシリーズ最大の問題作とも言われている話。
今回の話は東條昭平さんのウルトラシリーズ監督デビュー作となっている。インタビューを聞く限り、東條監督自身は差別問題に強い関心があったわけではなく、脚本の上原さんもあそこまで生々しくするつもりは無かったようだが、そんなスタッフの思惑を遥かに超えて本作は生まれてしまった。

 

誰かが覗いているような絵、虐められる良と焚き火、首吊り縄のような紐、冷たく寒い雨と視線、流され続ける排気ガスと物語が話題になる話ではあるが映像的にも印象深い話となっている。

 

ウルトラマンとムルチの戦いは雨が降りしきる中、建物から火柱が登ったりしてかなりの迫力。

 

「日本人は美しい花を作る手を持ちながら、一旦、その手に刃を握ると、どんな残忍極まりない行為をする事か」と言う伊吹隊長の台詞に今回の話のテーマが示されている。
人間は自分達以外の存在を異質として排除しようとする気持ちがある。特に日本は島国のせいか、日本人以外の民族を自分達とは異質であると感じる気持ちがあると思う。

 

良を差別する街の人間達は宇宙人を恐れているが、多数になると良を執拗に虐めるようになる。最後に暴徒と化した群衆が良を自分達の手で処刑しようとしたが一人や二人だったら絶対にしようと思わなかったはず。多数だから出来たのだ。
群れた人間ほど恐ろしいものは無い。群れる事で恐怖が薄らぎ、逆に怒りや憎しみや悲しみが無限に増殖する。過去に暴徒と化した群衆によっていくつの悲劇が生まれた事であろうか……。

 

しかし、伊吹隊長が言うように人間は醜い部分だけでなく美しい部分もある。相手が誰であろうと差別せずにパン屋としてパンを売ったお姉さんは今回の話で救いのある部分であった。

 

暴徒と化した群衆、自分の仕事を全うしたパン屋のお姉さん、良、郷、伊吹隊長、メイツ星人。自分はこの中でどこに位置するのかと考えたが、直接手を下さないし助けもしない、絶対に当事者になろうとしない、噂話をするだけの街の人々かな……。

 

「勝手な事を言うな! 怪獣を誘き出したのはあんた達だ。まるで金山さんの怒りが乗り移ったようだ……」と言う郷の台詞の通りにムルチはメイツ星人の体を蝕んでいた排気ガスの元を破壊していく。ここは「怪獣少年の復讐」のエレドータスや「戦慄! マンション怪獣誕生」のキングストロンと同じく怪獣を怒りや破壊衝動の具現化としている。

 

人間の醜い部分をまざまざと見せ付けられた郷は戦う気力を失ってしまう。しかし、ウルトラマンとしてMATとして郷は戦わなければならない。何故なら街には醜い人間だけでなく、パン屋のお姉さんのように美しい心を持った人間もいる。そんな人々を守る為にウルトラマンや特別チームは戦うのだ。
この事は後に『ウルトラマンT』の「白い兎は悪い奴!」でも語られている。

 

虚無僧として現れる伊吹隊長。
これまでの話もあって伊吹隊長は郷がウルトラマンである事を知っていたと考えられるが、良や郷を見守る父親のイメージを示していたとも解釈出来る。

 

調査の為にやって来て、人間の為に怪獣と戦い、ボロボロに傷付いたメイツ星人はどこかウルトラセブンモロボシ・ダンを思い出す。モロボシ・ダンはウルトラ警備隊と言う仲間を得たが、ひょっとしたら、メイツ星人のような運命を辿る可能性もあったのかもしれない。

 

メイツ星人のマスクはゼラン星人のものが使われている。
狙ったかどうかは分からないが、今回の話は「悪魔と天使の間に…」と対になっている。「悪魔と天使の間に…」では輝男を宇宙人と疑わなかった為に惨事が起き、今回は良を宇宙人ではと疑った為に惨事が起きた。

 

「おじさんは死んだんじゃない。メイツ星に帰ったんだ。おじさん、僕が着いたら迎えてくれよ。きっとだよ」と言いながら延々と宇宙船を掘り出そうとする良。彼はこの地球にさよならをしたいのだ。
その様子を見ていたのは郷と上野隊員と言う天涯孤独だったが今はMATと言う家があって伊吹隊長と言う父がいる二人であった。(と言う事は第1話「怪獣総進撃」の時点では生きていた郷の母親はその後に死んでしまったのかな?)

 

「地球は今に人間が住めなくなる」と言う良。おそらくこれは単に空気が汚れている事を指しているのではないだろう。空気の他にも汚れていっているものがある。それは人間の心……。

 

ウルトラマンメビウス』の「怪獣使いの遺産」は今回の話の後日談となっている。ただし、スタッフが違うので今回の話のテーマ等がそのまま描かれているとは言い切れない部分がある。

 

 

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