帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「明日のエースは君だ!」

「明日のエースは君だ! ー最強超獣ジャンボキング サイモン星人登場ー
ウルトラマンA』制作第52話
1973年3月30日放送(第52話)
脚本 市川森一
監督 筧正典
特殊技術 高野宏一

 

遊牧星人サイモン星人
身長 190cm
体重 80kg
ヤプールの侵略を受けて宇宙を放浪していた。ヤプールの宇宙船から攻撃を受けて地球に不時着するとウルトラ兄弟を気取る地球人の子供達に虐められたが、そこをTACに保護される。
しかし、実際はヤプールの残党が変身した姿で、子供達から優しさを奪い、エースを地上から抹殺する事が真の目的だった。
テレパシーを使って星司を追い詰めるが、最後は星司のタックガンに撃たれて死亡した。
名前の意味はヘブライ語で「神が祈りを聞く」。

 

最強超獣ジャンボキング
身長 59m
体重 5万t
ヤプールの残党がかつてエースに倒された超獣達の最も強い部分を結集させて再生させた超獣の王。劇中ではユニタング、マザリュース、カウラが確認され、その他にマザロン人やスチール星人も加わっているらしい。……何故にスチール星人が?
口から炎やミサイルを撃ち、目から光線を放つ。
TACの細胞分解ミサイルも効かない強豪だったが、エースのメタリウム光線とギロチンショットの連続攻撃で倒された。
名前を直訳すると「大王」となる。

 

月星人南夕子
ジャンボキングとの決戦に挑む星司に「もしあなたがウルトラマンエースだと言う事を誰かに知られたら、あなたは二度と人間の姿に戻れないのよ」と意味深な忠告をする。

 

物語
地球に逃げ込んだサイモン星人を追ってヤプールがやって来た。
ヤプールはもう地球には用は無く、大人しくサイモン星人を引き渡せば地球から手を引くと言うが、星司から「ウルトラ兄弟は弱い者の味方」と諭された子供達はサイモン星人を守ろうと立ち上がる。

 

感想
色々と路線変更があった『A』も遂に最終回。

 

ウルトラ兄弟のお面を付けてサイモン星人を虐める子供達。
星司はウルトラ兄弟は弱い者の味方だと言っていたが、ヒーロー作品では必ず最後にヒーローが勝って敵の宇宙人や怪獣は倒される。と言う事は敵の宇宙人や怪獣は弱い者と言えるのではないか? ヒーローがそれらを倒すのは弱い者虐めと言えるのではないか?
実際のヒーロー作品は「正義のヒーローが悪事を働く敵を倒す」と言う構図なのだが、それが「強いヒーローが弱い敵を虐める」と言う構図に見る事も出来るとして、同じ作品でも見る人によって受け取り方が変わってしまう事を示している。

 

TACがサイモン星人の事を色々と知っていたのは宇宙パトロールの成果かな?

 

ウルトラ兄弟のお面を被った子供達はウルトラ6番目の弟ダンと同じ存在。今回の子供達はサイモン星人を守ろうとしたが、サイモン星人の正体はヤプールの残党で自分達の優しさが利用されていたと言う裏切りを受ける。しかし、エースの最後の願い通りに、たとえ裏切られても優しさを失わなかったら彼らはウルトラの星を見る事が出来る。ウルトラの弟に、明日のエースになれるのだ。

 

子供達の秘密基地が登場するのは『セブン』の「史上最大の侵略 後編」を思い出す。
子供達の武装した姿は安保闘争を思い出す。

 

久し振りに聞いたヤプールの声。やはりこの声が良い。
ジャンボキングは今まで倒してきた超獣達の最も強い部分を結集させて再生させた超獣の王とも言うべき最強の超獣と言う最終回に相応しい設定。
竜隊長が大気に浮遊している超獣の分子を一ヶ所に云々と科学的に説明しているのに対し、ヤプールは亡霊やら怨霊やらと言っていたのが興味深い。
ところで子供達はどうやってマザリュースの存在を知ったのだろう?

 

「家や街はまた立て直す事も出来ます。しかし、あの少年達の気持ちは一度踏みにじったら簡単には元には戻りません」と訴える星司。最後の「たとえ何百回裏切られようとも……」と対になっている台詞。又、『A』の戦いが人間の心を重視している事の表れとも言える。

 

TACの切り札である細胞分解ミサイル。でも正確には光線兵器。
投げ網作戦はTACと言うより『T』のZATみたいだ。

 

人間にはテレパシーが無いのでサイモン星人がヤプールの残党だったと証明するには自分がエースである事を明かさなければならなくなった星司。ヤプールの残党のたとえ自分が死んでもエース(星司)を道連れに出来たらそれで良いと言う捨て身の作戦。やはり性質が悪い。

 

エースである事がバレたら二度と人間の姿に戻れなくなるとはどういう事だろうか?
おそらく「二度とエースと分離出来なくなる」と言う事ではないだろうか。つまり「二度と純粋な人間に戻る事が出来ない」。これなら『T』や『メビウス』でエースが星司の姿であったのとも辻褄が合う。
因みにバレたの線引きだが、変身する決定的瞬間をハッキリと見られたらかなと思う。もしそうなら『帰マン』の最終回「ウルトラ5つの誓い」で郷秀樹が次郎君とルミ子さんの目の前で変身したのも二度と純粋な人間には戻れなくなると言う覚悟の上だったと言う事になる。

 

今回のエースは子供達に自分の正体を見せる為に最初は人間大に変身してから巨大化すると言う珍しいパターンになっている。
この後の「彼らに真実を伝えるにはこうするしか仕方が無かった。さようなら地球よ、さようならTACの仲間達。さようなら、北斗星司……」が『A』における北斗星司最後の台詞。

 

エースとジャンボキングの戦いは最終決戦にい相応しくかなり盛り上がる。
途中から夕焼けに変わるが、これは映像の美しさを狙った演出であって、劇中の時間との整合性は気にしない方が良い。

 

次の時代を担う子供達に最後の願いを託してエースは地球を去って星となった。かつてのウルトラの父のように今度はエースが子供達の目指すべき目標、ウルトラの星となったのだ。
このエースとヤプールの戦いは相打ちやヤプールの罠にはまったエースの負けと言われる事もあるが、実はこの戦いはまだ勝敗が決していない。
何度も言ったように『A』は人間の心を戦いの舞台としている。人間がヤプールの言ったように裏切りから優しさを失うか、エースの言ったようにたとえ何百回裏切られても優しさを失わないか。その決着はまだ付いていない。いや、人間が生き続ける限り永遠に続いていく戦いなのだ。

 

最終回でエースは人間に目指すべき道を示す存在となった。それはある意味で「神」と言えるのではないだろうか?
そして対するヤプールは人間の心から大切なものを奪おうとした文字通りの「悪魔」と言える存在だった。
初期設定は崩壊したものの『A』の根底にあった神対悪魔(善対悪)の図式は終始変わらなかったと思う。

 

路線変更が相次いだ『A』だったが、今回は初期の設定を踏まえつつ、復讐の鬼となったヤプール、怨念の象徴たる超獣、月星人(と言うより女神)となった南夕子、ウルトラ6番目の弟達と目指すべき目標としてのウルトラの星等、これまであった色々な要素を全て拾った見事な最終回となった。
最後に主題歌が流れる中、レギュラー登場人物の映像が映し出され、エースの姿と共に「おわり」の文字が出される。これはスタッフが『A』で描くべき事は全て描いたと言う意思表示なのかもしれない。

 

今回の話は市川さんのウルトラシリーズ脚本最終作となっている。この後、市川さんは子供向け作品から一般向け作品へと活動の場を変えていった。

 

「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえその気持ちが何百回裏切られようと……。それが私の最後の願いだ」。