帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』

『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』
1979年3月17日公開
脚本 若槻文三
監督 東條昭平
特殊技術 佐川和夫

 

白猿ハヌマーン(声・二又一成
ブッダを敬い勇気と善良さを兼ね備えながらも仏像泥棒に殺されてしまった少年コチャンにウルトラの母ハヌマーンの魂を移し変えた存在。よく踊る。
ハヌマーンは1万年以上昔の太古の地球の平和を守り続けていたタイ国の伝説の英雄で、風神ヴァーユが送り込んだ風を天女が口で受け止めて誕生したと言われている。
三叉や剣を武器とし、風を操ったり光の輪や刃を撃ち出したりする。
太陽神スーリヤに会って太陽を地球から遠ざけて干ばつの危機を救い、ウルトラ6兄弟と協力して怪獣軍団を倒した。

 

ウルトラ6兄弟
仏像泥棒に殺されたコチャンがハヌマーンとして生まれ変わるのを見届ける。その後、ハヌマーンと一緒に怪獣軍団と戦った。

 

ウルトラの母
仏像泥棒に殺されたコチャンをハヌマーンとして生まれ変わらせた。

 

怪獣軍団
古代怪獣ゴモラ
身長 40m
体重 2万t
R作戦失敗の影響で地底から出現した怪獣軍団のリーダーである怪獣帝王。
口から炎を吐き、角からビームを放ち、さらに怪獣念力を使う。
ウルトラ6兄弟の必殺光線で怪獣念力を打ち破られ、最後はハヌマーンの光の刃で真っ二つにされた。

 

宇宙大怪獣アストロモンス
身長 60m
体重 5万8千t
怪獣軍団の一体。
ハヌマーンの光の輪によって頭と両腕を切断された。

 

暴君怪獣タイラント
身長 62m
体重 5万7千t
怪獣軍団の一体。
特殊燃料タンクの爆発に巻き込まれて死亡した。

 

泥棒怪獣ドロボン
身長 51m
体重 3万t
怪獣軍団の一体。
ハヌマーンと初代マンによって頭と両腕の皮を剥がされた後、ハヌマーンの「骸骨にしてやるぞ!」の言葉通りに骸骨にされて倒された。

 

妖怪怪獣ダストパン
身長 56m
体重 3万2千t
怪獣軍団の一体。
ハヌマーンの光の輪によって頭と両腕を切断された。
元々はウルトラシリーズではなく『ミラーマン』の登場怪獣。

 

物語
仏像泥棒に殺されてしまった少年コチャンはウルトラの母によって白猿ハヌマーンとして生まれ変わる。
一方、太陽の異常接近による干ばつを解決する為にヴィルット博士は人工降雨ロケットの開発を進めるのだが……。

 

感想
1974年にタイで公開された『ハヌマーンと7人のウルトラマン』を日本公開用に再編集したもの。
原題を見ると分かるが、主役はウルトラ6兄弟ではなくハヌマーンハヌマーンインド神話の一つ『ラーマーヤナ』に登場する猿の英雄で、風神ヴァーユと天女の子供で、塔のように高く、雷のごとく大きな声を発し、空を飛び、神通力があり、体も伸縮自在となっている。悪魔ラーヴァナとの戦いではそれらの能力を駆使して大活躍したのでインドではかなりの人気があるらしい。
『レオ』の「男だ! 燃えろ!」に登場したカーリー星人や「ウルトラ兄弟永遠の誓い」に登場したアシュラン等、この時期のウルトラシリーズインド神話ゆかりのキャラクターがいくつかいる。
本作に登場するハヌマーンは信仰心と勇気と善良さを兼ね備えるも仏像泥棒に殺されてしまった少年コチャンがウルトラの母によってハヌマーンの魂を移し変えられた存在と言う設定になっている。

 

冒頭にウルトラの星の紹介がある。
暗黒宇宙の裏側に存在しているM78星雲は6900万個もの星を有していて、その中で最も大きいウルトラの星は地球の直径の60倍あり、300程の都市がある。太陽は無く、地下に900台設置されている原子力発電所によって作られているプラズマエネルギーを使っていると言う設定。
ウルトラの星の設定が劇中でここまで語られるのは当時としては珍しい。それにしても、M78星雲が暗黒宇宙の裏側にあったとは驚きだ。

 

太陽が異常接近して干ばつに襲われる地球。
ヴィルット博士は人工降雨ロケットで雨を降らせようとするが、助手のマリサーは「仏様のお力を忘れてしまってはいけないと思うわ」と苦言を呈する。
科学者とは思えない発言だが、実はハヌマーンの事を信じていなかったところを見ると、マリサーはヴィルット博士に自分の力を過信してはいけないと釘を指す意味で言ったのだろう。事実、ヴィルット博士は「科学こそ現代のハヌマーンだ」と英雄気取りであった。

 

人工降雨ロケット施設の関係者は円谷プロ作品の特別チームの隊員服を着ていて、MACのマックロディーを移動手段に使っている。
話し方のせいか、ZATの隊員服を着ている2人が『レオ』の「冒険野郎が来た!」に登場する佐藤三郎隊員を思い出させる。

 

ハヌマーンのお面を被り、子供達の中心となって雨乞いの踊りを踊るコチャン。仏像泥棒に勇敢に立ち向かうも殺されてしまい、ウルトラの母によってウルトラの星に運ばれてハヌマーンとして生まれ変わる。
空を割ってウルトラの母がコチャンの亡骸を運び去る場面はインパクト大。あの手は身長40m以上あったと思う。
コチャンにハヌマーンの魂を移し変える場面は『T』の「ウルトラの母は太陽のように」でのタロウ誕生シーンの流用なのでウルトラ6兄弟の中でタロウだけいない。
命を落とした主人公がウルトラマンになって復活するのはよくある展開だが、怪獣ではなくて人間に殺されたのはコチャンだけである。

 

コチャンが死んでハヌマーンとして復活した事を知った親友のアナンダはハヌマーン(=コチャン)を追うが日射病で倒れてしまう。
ここで遠い遠い昔の伝説が語られる。
王子ラマヤーの弟ラクサナが鬼の矢に刺された。ティペークの老人はサッパーヤ山の頂に咲くサングロテトリチャナーの花汁を傷に付ければ鬼の矢は抜けてラクサナの命は助かると告げる。
しかし、太陽が昇る前でないと効き目が無くなってしまうので、ハヌマーンは太陽神スーリヤに自然の流れに逆らう事になっても悪い鬼と戦った勇気あるラクサナを助けてほしいと頼み、太陽神スーリヤはそれを了承して日の出を遅らせる。
そしてハヌマーンはあちらこちらに移動するサングロテトリチャナーの花を伸びる尻尾で捕らえてラクサナを助けたのだった。
(因みに自分が持っていた本ではハヌマーンはラマヤー(ラーマ)とラクサナ(ラクシュマナ)を助けて悪魔ラーヴァナと戦ったとなっている)

 

伝説は蘇った。ハヌマーンは太陽神スーリヤに会い、太陽を地球から遠ざけて干ばつの危機を救う。
太陽が動くのか?と言う疑問はあるが、ウルトラの星だってウルトラキー一つで自由に動く世界なので深く考えないでおこう。(本作は神話を下敷きにしているし)
ところで太陽神スーリヤはどうして地球に異常接近したのだろうか? 見る限り、ついうっかりと言う感じだが、神様のついうっかりで滅亡の危機に陥りたくないものだ。
日射病の原因を取り除いたハヌマーンはサングロテトリチャナーの花でアナンダを助ける。
アナンダはコチャンの復活を喜ぶが、コチャンは「僕はもう皆と遊べないんだ」と言い残し、サングロテトリチャナーの花を置いてアナンダのもとから去ってしまう。

 

実はハヌマーンはアナンダを助ける前にまずコチャンを殺した仏像泥棒を退治している。出来れば、アナンダを助けて「僕はもう皆と遊べないんだ」と言った後に仏道泥棒を退治してほしかった。
有名な「仏様を大切にしない奴は死ぬべきなんだ!」と叫んで、巨大化して仏像泥棒を殺すハヌマーンが妙に楽しそう。
本作はヒーロー作品と言うより神話を現代に置き換えた作品と言えるので、ここは信仰心を失った人間に天罰が下ったと見るべきであろう。(神話や伝説や昔話では天罰で酷い目にあった人間がたくさんいる)
仏像泥棒が言った「仏が無くても生きていけるが水が無くちゃ生きていけない」はなるほどと思ったが、それは自分が宗教にあまり関心が無いからかな?

 

テスト用の人工降雨ロケットを打ち上げて雨が降った事に喜ぶヴィルット博士。
ハヌマーンのおかげか人工降雨ロケットのおかげか分からないがとにかく雨が降った。
いよいよR作戦(「レイン=雨」か?)を本格的に開始しようとするが、指揮官から異常が見付かったので中止するよう命令が下る。しかし、異常を知らせる警告ランプは点いていないと無視して残りの人工降雨ロケットも発射。すると、ロケットは次々と爆発して、その衝撃で地底から怪獣軍団が出現してしまう。
その後もヴィルット博士は逃げようとするマリサーに向かって水爆にも耐えられるよう設計しているので逃げる必要は無いと言うが、ロケットの特殊燃料タンクが爆発し、その巻き添えであえなく死亡してしまう。仏も指揮官も無視して自分こそ英雄だと過信した男の哀れな末路であった。

 

その後、怪獣軍団の猛攻でパニックとなる中、マリサーとアナンダは感動の再会を果たすのだが、2人が姉弟だと言う紹介が無かったのが残念。前半に2人の話を入れておけば再会シーンで感動できたのに……。
一方で2人がゴモラに襲われる場面は合成が上手く出来ていたと思う。

 

怪獣軍団はゴモラ、アストロモンス、タイラント、ドロボン、そして『ミラーマン』に登場したダストパンの計5体。
怪獣軍団がタイ国軍を倒すと、そこにハヌマーンが現れる。(飛び方が凄いなぁ)
なかなか頑張るが、さすがに1対5では不利。そこにウルトラ6兄弟が(ようやく)登場!
タイラントは先のロケットの特殊燃料タンク爆発に巻き込まれて死亡。
アストロモンスとダストパンハヌマーンの光の輪によって頭と両腕を切断され、ドロボンはハヌマーンと初代マンによって頭と両腕の皮を剥がされた後、ハヌマーンの「骸骨にしてやるぞ!」の言葉通りに骸骨にされて倒される。
最後に残ったゴモラは怪獣念力でハヌマーンとウルトラ6兄弟を近付けさせない。
「ATフィールド!?」、
「駄目だわ! ATフィールドがある限り……」、
使徒には接触できない!」。
なんて冗談はともかく、ウルトラ6兄弟が必殺光線を一斉に発射して怪獣念力を打ち破ると、エースとタロウがゴモラを抑えている間にハヌマーンゴモラを滅多打ちにし、最後はハヌマーンが発する光の刃でゴモラを真っ二つにするのであった。
個人的な感想だが、話で聞いた割には怪獣軍団の倒され方はそれほど残酷には見えなかった。もっと残酷な場面を想像していたと言うのもあるが、結構コミカルに演出されていたからかな。
何回も言うが本作は神話を下敷きにしている。神話や伝説や昔話では悪魔や怪物は結構酷い倒され方をしているので、本作の怪獣軍団が上のような倒され方をされたのもその流れであろう。

 

戦い終わって、夕日の中で踊るハヌマーン。(別れの儀式か?)
そしてウルトラ6兄弟はウルトラの星に帰っていく。
「太陽にも負けない勇者ハヌマーン。いつかもう一度ウルトラの星に来てくれ。我々は勇者ハヌマーンを心から歓迎する。さようなら、勇者ハヌマーン」。

 

主題歌はささきいさおさんの『ぼくらのウルトラマン』。

 

一部地域では『実相寺昭雄監督作品 ウルトラマン』や『レオ』の「レオ兄弟対怪獣兄弟」が同時上映された。

 

本作は第2期ウルトラシリーズ時にタイで制作公開された。その時は日本では公開されなかったが、その後、リバイバルブームを受けて公開される事となった。
当時はウルトラ6兄弟が全員揃って戦う話が少なかったので本作は貴重な作品だったと思われる。ただし、インド神話の影響がかなり強い内容となっているので見ていて混乱した人も多かったかもしれない。
後に円谷プロとタイの製作会社チャイヨー・プロダクションとの間で訴訟問題が起きた為に日本で新たにソフト化される事は難しくなり、そう言った意味でも貴重な作品になってしまった。