「エースの願い ー異次元超人巨大ヤプール 満月超獣ルナチクス登場ー」
『ウルトラマンメビウス』第44話
2007年2月17日放送(第44話)
脚本 長谷川圭一
監督 小原直樹
特技監督 菊地雄一
ウルトラマンエース
身長 40m
体重 4万5千t
地球からメビウスとCREW GUYSを見守っていて、マリナに時空波の発信源の破壊方法を伝えると、自身は石柱の用心棒であるルナチクスをメタリウム光線で倒した。
又、自身の過去を踏まえてミライに仲間との絆を教え、メビウスが再びバーニングブレイブに変身して巨大ヤプールに勝利するきっかけを与えた。
戦いが終わり、ミライに自身の変わらぬ願いを伝えた後、南夕子との再会を果たす。
異次元超人巨大ヤプール
身長 50m
体重 8万2千t
ミライ、アヤ、ヒルカワを異次元に落とし、ヒルカワを通してミライに人間の醜さを突き付け絶望させようとした。
念動力を駆使し、右手の鎌から光波を撃ち出す。
バーニングブレイブに変身できないメビウスを追い詰めるが、星司の言葉からCREW GUYSと離れていても心は繋がっている事を実感したミライがバーニングブレイブに変身すると、そのまま逆転のメビュームバーストを受けて倒された。
最後に自分が敗れても偉大なる皇帝に仕える暗黒四天王がまだ3人残っている事を告げ、破滅の未来で待っていると捨て台詞を吐いて爆発した。
満月超獣ルナチクス
身長 58m
体重 6万3千t
かつて月の文明を滅ぼした超獣の別個体で、月面に到達した時空波の発信源を守る用心棒。
口から白い煙とマグマ火炎を吐き、切り札として目玉を爆弾にして撃ち出す事が出来る。
CREW GUYSの援護に現れたエースのメタリウム光線を受けて倒された。
冷凍星人グローザム
身長 2m~52m
体重 200kg~2万t
ヤプールが倒されたのを受けて次は自分の出番だと名乗りを上げるが、既にデスレムに抜け駆けされた後だった。
悪質宇宙人メフィラス星人
身長 60m
体重 2万t
出撃しようとするグローザムに向かって既にデスレムが出た事を告げる。
物語
ミライ達を異次元に落としたヤプールはメビウスを絶望させようとする。
一方、月面に到達したCREW GUYSは時空波の発信源を破壊できずにいた。
それを見守っていた北斗星司はミライとマリナにテレパシーを送る。
感想
ミライ達と一緒に異次元に落とされたヒルカワが目覚めると世界は廃墟と砂漠が広がっていた。自分達が気絶していた間に世界が滅ぼされてしまったと考えたヒルカワはGUYSが役立たずだからこうなったとミライに八つ当たりする。
人間の悪意の象徴であるヤプールが人間の善意の象徴であるウルトラマンのアイデンティティーを揺さぶる為には身勝手で利己的な人間が必要不可欠。ヒルカワはまさにうってつけの人物であった。
『メビウス』では主要キャラに対する批判者が少ない。序盤はリュウがその役目を担っていたがメビウスの正体が判明した後は理解者に変わっていった。
色々な考えを持ったキャラクター達がぶつかっていく方が話は作り易く、過去にも『帰マン』の岸田隊員や『A』の山中隊員、『ガイア』の梶尾リーダーや『コスモス』のフブキ隊員等がいた。
なので、ヒルカワを準レギュラーにして違った視点からGUYSやウルトラマンを見ていくと言うのもアリだったと思う。CREW GUYSとは違った、一般市民から見たウルトラマンと言うのも描けたと思うし。
ただ準レギュラーにして描写が増えると人間味が出てきて憎めないキャラになる事があるので、もしそうなったら、徹底的に憎まれ役となった実際のヒルカワに比べてインパクトの弱いキャラになった可能性がある。
ヤプールの「酷い仕打ちをする人間を何故守る?」と言う問いにミライは「人間が好きだから」と答える。
それを聞いたヤプールは好きな人間にミライを殺させようと、ヒルカワに銃を渡して「ミライを殺したらお前の命は助ける」と持ちかける。
ヒルカワは銃を撃つがミライはバリアーでそれを阻止。異能の力を見たヒルカワは「化け物」と言ってミライを恐れる。ここはモロボシ・ダンやおおとりゲンと同じ「人間に変身している宇宙人」と言う設定ならではの展開。
因みに『メビウス』では怪獣頻出期に続発した侵略事件の影響で宇宙人に対する悪感情が渦巻いていると言う設定になっている。
今回のヤプールの作戦だが、メビウスを倒すだけならミライが気絶していた時に襲った方が良い。しかし、ヤプールはウルトラマンと人間の絆を断ち切り、ウルトラマンが絶望したところを倒そうとした。ウルトラマンをただ倒すのではなく、ウルトラマンがこれまで関わってきた守ってきた人間を使ってウルトラマンを倒す事でこれまで築かれてきたウルトラマンと人間の関係をも叩き潰そうとした。ヤプールの中では『A』の「明日のエースは君だ!」でエースと繰り広げた人間の心を舞台にした戦いがまだ続いているのかもしれない。
因みにヒルカワを演じた加藤厚成さんは『A』の放送が開始された1972年4月の生まれである。
時空波の発信源である石柱から発射される干渉フィールドでフェニックスネストの機能が停止。しかし、地球から月の状況を見ていた星司はテレパシーでマリナに石柱を破壊する方法を教える。
ここからウルトラ兄弟とCREW GUYSの繋がりが生まれていくのだが、どうして星司がマリナを選んだのかは不明。耳が良いから話しかけたのかなと思ったが、テレパシーだから耳の良さは関係無いだろうし……。
星司のアドバイスを聞いたマリナはガンスピーダーで出撃。「深海の二人」ではマリナはガンスピーダーを信じ切る事が出来なかったが、今回は率先して石柱破壊へと動く事になる。
リュウがルナチクスを引き留めている間にマリナが星司から破壊ポイントを聞き、それをジョージが撃つ!
干渉フィールドが消滅した事を知った星司は「夕子……、行くぞ!」と言ってウルトラタッチで変身! スター光線でフェニックスネストをルナチクスから守りエースが月面に降り立つ!
石柱はフェニックスネストのフェニックスフェノメノンによって破壊され、ルナチクスもマリナの援護を受けたエースによって倒される。こうしてUキラーザウルスとの月面の戦いから始まった『メビウス』における超獣との戦いはルナチクスとの月面の戦いをもって終わりを迎えるのだった。
変身してヤプールに戦いを挑むメビウスだったが、先のメビウスキラーとの戦いのダメージで既に限界だった。(出来ればカラータイマーは最初から赤であってほしかった)
苦戦するメビウスに向かってヤプールは「人間との絆と言う強さが逆に最大の弱点でもある」として「メビウスはCREW GUYSのサポート無しではまともに戦えない無力な存在だ」と断じる。これはこれまでメテオールの活躍があっただけに説得力のある台詞であった。
因みに今回はエースの客演回であるが、 実はエースも最初は男女合体変身したりウルトラ兄弟の救援があったりと「一人では戦えないウルトラマン」だった。
メビウスの苦戦を見てヒルカワは隠れるが、逆にアヤはメビウスの前に姿を現す。
「ミライくーん! 君は前に一度、私の命を救ってくれた! 君は私のナイトなんだよ。だから今度も救ってくれなくちゃ駄目なんだから! ウルトラマンは絶対に負けない、白馬の騎士なんだから!」。
ヤプールの光波でアヤは吹き飛ばされメビウスも力尽きる。それを見たヤプールは「一人では何も守れない無力なウルトラマンだ」と嘲笑う。しかし、そこに星司の声が届く。
「お前は一人じゃないぞ。たとえ離れていても、お前には感じられるはずだ。勝利を信じて戦っている仲間達の姿が」、
「かつて俺も大切な仲間と別れた。共に苦しみ、笑い、戦った人と……。彼女は自分の使命を終えた時、同胞達が待つ場所へと帰って行った。俺は一人きりになった。だが俺は戦えた! 離れ離れになっても彼女の意志が俺の中にいたからだ。俺達は変わらず一緒に戦っている。そう実感できたからだ。立てメビウス! 仲間達の想いと共にヤプールを倒せ!」。
「思い出の先生」での『80』に続いて今回は『A』の路線変更についてフォローがされた。星司と夕子の関係は想像できたものではあるが、実際に高峰圭二さんが言葉にした事で重みがぐっと増した。これは当時の役者をキャスティングした『メビウス』最大の強みであったと言える。
星司のミライへの言葉は『A』でセブンやゾフィーがエースに贈った言葉を思わせる。あの時は言葉を贈られる側だったエースが今度はメビウスに言葉を贈る側になったと言うのは時の長さを感じて感慨深い。
星司の言葉を聞いたミライはCREW GUYSとの繋がりを実感して復活。
「ヤプール! 僕は一人なんかじゃない! 心はいつも仲間達と繋がっているんだ!」。
そしてメビウスはバーニングブレイブに変身して猛ラッシュ!
いつもは大人しいミライが珍しく感情を露わにしての逆転劇なので燃える!
バーニングブレイブに変身したメビウスのメビュームバーストを受けて遂に倒されるヤプール。
「何故だ!? 貴様が俺に勝てるはずは……! 俺が敗れても、偉大なる皇帝に仕えた四天王はまだ3人残っている。破滅の未来で待っているぞ……!」。
まさかヤプールがこんなお約束な捨て台詞を吐いて倒されるとは思わなかった。他の侵略者とは一線を画している感じがあったが、皇帝に対する忠誠心は本物だったようだ。何がここまでヤプールを皇帝に心酔させたのだろうか……。
こうしてヤプールは最初にエースと戦った後、次にエースの義弟であるタロウと戦い、さらにそのタロウの弟子であるメビウスとも戦った事になった。ここまで多くのウルトラマン達と戦った敵はヤプールとバルタン星人ぐらいであろう。こうしてヤプールには長年に亘って暗躍を続けるウルトラマン達の宿敵と言うイメージが定着する事となった。
ヤプールが倒された事を知ったグローザムは次は自分の出番だと名乗りを上げるが、メフィラス星人に既にデスレムが向かった事を告げられる。
ヤプールの抜け駆けを怒っていたのに自分も抜け駆けするのがデスレムらしい。
元の世界に戻れたミライ達だが、ヒルカワは感謝するどころかメビウスの正体を黙っているつもりはないと言って去っていく。ショックを受けるミライにエースが月から語りかける。
「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえその気持ちが何百回裏切られようとも……。それが私の変わらぬ願いだ」。
戦いが終わった後、アヤは「また助けられたわね」と言い、ミライは緊張した面持ちで「僕はあなたのナイトですから」と答える。そしてアヤは「ありがと」とミライの頬にキスをする。
さて今回の話ではヒルカワの所業が取り上げられる事が多いが、個人的にはアヤの言動の方が気になった。
星司の変わらぬ願いは「何百回裏切られようとも」とあるように見返りを求めない優しさが語られている。なので、ミライの優しさをヒルカワが踏みにじっても、星司はミライに優しさを失わないでほしいと訴えたのだ。しかし、その後にミライはアヤにキスをしてもらうと言う見返りを貰っている。これでは「優しさは裏切られる事もあるが、ちゃんと返してくれる人もいる」と言う事になって星司の言葉の意味が弱まってしまう。
人間を守るか否かと言う問いかけにヒルカワと言う悪人とアヤと言う善人を出して語るのなら、「明日のエースは君だ!」の言葉より『T』の「白い兎は悪い奴!」に出てきた「一部には汚い心の人もいる。しかし、多くの人間は皆、美しい心を持っている。少ない悪人の為に多くの善い人を見捨てるわけにはいかないんだ!」「その人間の汚さも美しい心を引き立てる為にある」の方が合っていたと思う。発言したのがメビウスの教官のタロウだったので、より自然に話を繋げられた気もするし。
今回のアヤは「ミライは自分のナイト」と言ったり最後にミライの頬にキスをしたりとミライとの関係をかなり個人的なものにしていた。それに対してミライもまんざらでもない感じだったが、この後二人の関係に進展は無かったようだ。
結論から言ってしまうと、「好き」と言う言葉でもアヤが恋愛的な「LOVE」なのに対してミライは博愛的な「LIKE」であった。モロボシ・ダンとアンヌ隊員やウルトラの父と母の関係の他、80の失恋話もあるのでウルトラマンにも恋愛感情があるのは確かなのだが、メビウスはまだ恋愛より友情や博愛の方が強いようだ。
ヤプールが倒され、ミライに変わらぬ願いを告げた星司に語りかける人物がいた。
「星司さん……」、
「夕子……」。
星司が振り返るとそこには南夕子が。
「本当にお久し振り」、
「あぁ……」、
「もし私が月の人間じゃなくてずっと地球にいられたら、星司さんと一緒にこんな風に年を重ねていたのかもしれない」、
「そうだな……」、
「でも、後悔はしていません。さっき、星司さんが言ってくれたように、私も星司さんをずっと近くに感じていたから……」、
「夕子……」。
そして二人は掌を重ね合わせ、実に35年振りとなるウルトラタッチを果たすのだった。
『メビウス』の前までは昭和の作品のフォローが平成でされるとはとても考えられなかった。ウルトラ兄弟達のその後や桜ヶ岡中学校の同窓会や星司と夕子の再会等はそれぞれの頭の中で想像するしかなかったのだが『メビウス』はそれを現実のものとしてくれた。過去のエピソードの補完については賛否両論あると思うが、『メビウス』がやってくれた事には大きな意義があったと自分は思っている。
CREW GUYSとの絆でバーニングブレイブに変身できるようになったメビウス。
今回は「CREW GUYSが近くにいなかったら変身できない」と言うウルトラシリーズの強化フォームでは珍しく変身に制限がある事が描かれた。
しかしそれも今回の話で「遠く離れていても心は繋がっている」として乗り越える事が出来た。
しかし、メビウスの試練はまだまだこれからであった……。
今回の話は小原監督のウルトラシリーズ監督最終作となっている。