「きみの未来」
『ウルトラマンギンガ』第11話
2013年12月18日放送(『新列伝』第25話)
脚本 長谷川圭一
監督 アベユーイチ
ダークルギエル
身長 ミクロ~無限大
体重 0~無限大
闇の支配者の正体で全ての元凶。絶望と恐怖で闇に染まった人間のマイナスエネルギーを餌にして復活した暗黒の巨人。
ダークスパークで全ての生命の時間を止めていく。ダークスパークをダークスパークランスと言う武器に変形して戦う。
胸から破壊弾を放ち、ギンガエスペシャリーと同じタイプの光線を放つ。
人々の思いを受けて復活したタロウから光を与えられたギンガと月面で決戦を繰り広げ、最後は自身が敗北した理由を理解できぬままギンガエスペシャリーで爆発した。
物語
結界が解かれ、人々が降星小学校へと集まって来た。
しかし、遂に復活した闇の支配者ルギエルは人々の時間を止めていきギンガも倒してしまう。
絶望的な状況を打破するのは果たして……?
感想
「閉ざされた世界」から張られていた降星小学校と裏山の結界が解かれる。
グレイが結界を張っていてグレイが倒された事で結界も解かれたのか、ギンガサンシャインがスーパーグランドキングごと結界も破壊したのか。特に説明が無いので詳細は不明。
自分は美鈴達を闇に捕らえる事は不可能だと判断した闇の支配者が結界を解いて人々を降星小学校に呼び寄せたように思える。前回の「闇と光」で不利を感じた闇の支配者はホツマに取り除かれたように見せて実は白井先生の中に潜み続け、結界が無くなって人々が学校に集まったところを見計らって皆を襲ったのではないだろうか。
結界によって降星小学校は街から見えなくなっていた。
結界が張られたのは「閉ざされた世界」からだが、それ以前の戦いも結界のようなものでギンガと怪獣の戦いは街からは見えなくなっていたのかもしれない。
今まで生徒がいなくなった校舎だけを見ていた白井先生だったが、降星小学校の卒業生達が心配して集まって来た事でようやく心が救われる。
山田はかつては植物学者になって街を花でいっぱいにすると言う夢があり、今は木村と一緒にボランティアでゴミ拾いをしている。矢神はバイクで世界一周すると言う夢に向かって旅立つ事を決め、ユウカはファッションデザイナーになる為に実家に戻って勉強を始め、剛も再びボクサーを目指す事をカッキーに伝える。そして美鈴の父は美鈴と和解し、黒木と桑原は降星小学校を解体しないで残す方向で事業を考え直す事にする。
ダークダミースパークに魅入られた人々が改心して、それぞれの夢に向かって歩み始めるのはベタだけれどやはり良い。
まぁ、山田と木村と矢神とユウカはダークダミースパークに魅入られる前から新聞に載るほどの犯罪を犯しているので、警察に捕まった雰囲気も無くここにいるのは不自然なのだが……。(特にユウカは不審火で民家を全半焼させたと新聞に書かれている)
この結末に持っていきたいのなら、やはり山田達のドラマの掘り下げをやっておくべきだったし、罪と罰についてもハッキリとさせておいてほしかった。ただ、「双頭の火炎獣」で美鈴が「銀河神社が焼け落ちてから犯罪が増えた」と言っているので、山田達の犯罪も闇の支配者の暗躍だった可能性はある。
「皆、いい顔してんじゃん!」と喜ぶヒカルだったが、そこで闇の支配者が再びダークダミースパークで白井先生を操り学校に集まった人々の時間を止めてしまう。
ここで闇を解放する白井先生の姿が『ネクサス』の「絆 -ネクサス-」でザギに変身する石堀隊員を思い出させる。この他にもルギエルは「復活する為には人間の心の闇が必要」「ギンガとは対のような関係になっている」「ザギのスパークドールズだけ特別扱いされている」「ダメージを受けるとスペースビーストの鳴き声のようなものが聞こえる」「ダークルギエルと言うネーミング」とザギを思い出させる部分がある。
実際、ルギエルは『ネクサス』で未登場に終わったダークルシフェルをイメージしたところがあるらしい。スタッフも共通しているところが多いので、『ネクサス』と『ギンガ』を重ねて考えてみるのも面白と思う。
ルギエルはウルトラマンが登場するウルトラ作品では久し振りとなる新しい敵キャラクター。
前述のザギの他、エンペラ星人やアーマードダークネスやベリアルと言った最近のラスボスをイメージさせる部分があるデザインになっている。
絶望と恐怖で闇に染まった人間のマイナスエネルギーを餌にして復活したルギエル。
「マイナスエネルギー」「学校が舞台になる」「人間の心の闇が怪獣出現に繋がる」と『80』を思い出させる設定。2013年は『T』の誕生40周年なのでタロウが登場したが、80が登場してヒカルを導くと言うのも面白かったかもしれない。
ダークスパークウォーズでのギンガとルギエルの一騎打ちではギンガがルギエルを攻撃すると何故かギンガも同じ箇所にダメージを負っていたが、今回の決戦では自分の攻撃が当たっても自分も相手と同じ箇所にダメージを負うと言う描写は無かった。
ダークスパークウォーズと今回の戦いの違いと言えばヒカルの存在であるが、ヒカルがウルトライブした事でギンガは以前のギンガとは別の存在になり、ルギエルとの繋がりが切れたのかもしれない。
ギンガの登場バンクの途中でルギエルがギンガに蹴りを入れた場面は驚いた。
変身アイテムを掲げようとしたところを攻撃した敵は過去にもいたが、登場バンクの途中で攻撃してきた敵は過去にいなかったんじゃないのかな。
ギンガとルギエルの最初の戦いでは両者のサイズが著しく違っている。これはルギエルのサイズが大きいのか、巨大化の途中だったのでギンガが小さいのか、どちらとも取れるようになっている。(校舎との対比を考えると前者っぽいが)
ギンガは苦戦してあっと言う間にカラータイマーが点滅を開始する。
まぁ、ザラガス戦から全て一日の出来事なので、この時点でヒカルは既にザラガス、ウルトラマンダークとセブンダーク、アントラー、スーパーグランドキングと戦っている事になるので仕方が無いかもしれない。
最初のウルトラマンダークとセブンダークの戦いの後でしばらく寝ていたが、それでも気力と体力は既に限界に来ていたのだろう。
ギンガが敗れ、降星小学校の校舎が破壊され、美鈴達も次々と倒れていく展開は緊迫感が増す。
唯一人残されたタロウはその光景を見て嘆き悲しむ。
タロウ「何故です? 教えてください、父よ、母よ。何故、私にだけ心を残したのです? こんな残酷な結末を見届けさせる為ですか? 全てが終わろうとしている時に何一つ出来ないのなら……! 何故!」、
父「それは……お前がウルトラマンだからだ」、
母「人々の希望を力に変えて戦うのです!」、
タロウ「人々の……希望」。
そこに時間を止められたはずの人々の口から意外なものが出てくる。
ここで降星小学校の校歌が出てくるが、いきなり皆が校歌を歌い出すのは唐突だった。「閉ざされた世界」でカッキーが校歌を口ずさむ場面があるが、それだけではやはり弱い。折に触れて校歌を口にしてほしかった。
それでは最終回の展開を予想されてしまう恐れがあるけれど、物語には予想されて良いものと悪いものがあって、例えば前回明らかになった闇の支配者の正体は終盤まで視聴者に気付かれないようにするのが良いが、逆に今回の皆が校歌を歌う事で形勢が逆転する流れは下地を作って視聴者も納得できる状態にしていた方が良かったと思う。
自分はこの校歌の場面は歌い出すのが唐突だった点を除けば満足。
歌がクライマックスで重要な役割を果たす展開自体が好きだし、集まった人達は降星小学校の卒業生なので子供の頃から慣れ親しんだ校歌で心を一つにすると言うのも納得。白井先生が生徒の前途に幸あれと心を込めて作詞したとなっているので、その校歌がルギエルの呪いを解いて人々の未来への道を切り開いた事で白井先生も救われたと言える。
前回の話で校歌の歌詞が書かれた板が破壊され、今回の話では降星小学校の校舎そのものがルギエルによって破壊された。
しかし、そう言った目に見える物が失われても人々は校歌と言う学校の思い出を使って再び立ち上がる事が出来ると言う展開が素晴らしい。この辺りは精神的なもので最後の逆転劇が行われるウルトラシリーズらしいと言えるかもしれない。
カッキーから始まった校歌は周りに広がっていき、やがて大合唱となる。
白井「もう利用させない! 私の心も! 私の生徒達の心も!」。
そして白井先生は手にしたダークダミースパークを闇から光へと変換していく。
ホツマ「白井先生! やはりあなたは……強い人だ!」。
しかし、そんな人々をルギエルは否定する。
ルギエル「黙れ黙れ黙れ! 人間ごときが!」。
しかし、ルギエルの呪いによって時間を止められたはずの人々は動き出し立ち上がっていく。
タロウ「ルギエル! お前が何を壊そうが、何を奪おうが、人間は立ち上がる。何度も、何度でも!」。
そして人々の手にギンガライトスパークが現れる。
タロウ「ウルトラマンが人間を救うのではない。人間と力を合わせ戦ってきたのだ! かけがえのない友達よ。戦おう! 私と共に!!」。
そして皆は手にしたギンガライトスパークでタロウのスパークドールズのライブサインをリード。遂にタロウの時間が再び動き始める!
「タロウーーー!!」。
今まで溜めに溜めていたのでここのタロウ復活は問答無用に盛り上がる!
登場シーンに主題歌にとこれまでのヒーロー客演の中でも破格の待遇であった。ぶっちゃけ、このままタロウがルギエルを倒してしまうんじゃないのか?と思える程の主人公振り!
再びスパークドールズにしようとするルギエルの攻撃をタロウはストリウム光線で迎撃する。
「負けぬ! 私は今、やっと理解した。ギンガ、君は未来から来たウルトラマンなのだな? だからヒカルを選んだ。ヒカル、お前の真っ直ぐ前に進む力こそが希望なのだ。これを、受け取れぇーー!! ヒカルゥー! 未来を掴めぇーー!!」。
そしてタロウはギンガにエネルギーを与え、そのままルギエルの攻撃を受けて倒されてしまう。
この我が身と引き換えに新世代のウルトラマンを復活させるのは『A』の「奇跡! ウルトラの父」でのウルトラの父を思い出す。遂にタロウもその位置に来たのか。
タロウの格を落とさずに最後にギンガが勝利を収める流れは勢いもあって上手く出来ていたと思う。
タロウがどうしてギンガの正体を分かったかだが、ギンガライトスパークでリードされた時にギンガライトスパークを通じてギンガの情報を読み取ったのかもしれない。
ところでこの降星小学校を当時の円谷プロとして見るとまた違ったものが浮かび上がってくる。
円谷プロに当たる降星小学校は子供の減少によって廃校になり売却された。一度は校舎を保存する話が出るが最終的にはルギエルによって破壊されてしまう。
闇の支配者や白井先生は全ての時間を止めてウルトラマンも怪獣もかつて子供だった人々も人形のまま変化が無いようにしようとした。
しかし、校舎(社屋とか怪獣倉庫とか)が失われても、人々は思い出の歌(劇中では校歌だったが円谷関係だと『ウルトラマンのうた』とかかな?)を歌う事で心を一つにし、それがかつて活躍したウルトラマンを復活させ、そこからさらに新たなウルトラマンへの世代交代が行われる事となった。
ただ、そう考えると、この一連の場面に子供が一人もいないと言うのが問題になってしまうが……。(ここにいるのは子供時代の思い出を持った大人だけで、子供不在のまま物語は進んでいる)
タロウを再びスパークドールズにしたルギエルは勝利の高笑いを上げるが、そこにヒカルの怒りの声が響く。
ヒカル「笑ってんじゃねぇよ……。てめぇなんかに、俺達の未来、止めさせてたまるかー!! 行くぜ、ギンガ!」。
復活したギンガはルギエルと同じ大きさになり、ギンガスパークをギンガスパークランスに変形させたギンガとダークスパークをダークスパークランスに変形させたルギエルの最終決戦が始まる。
ルギエル「止めてやる! 全ての命! 全ての時間を!!」、
ヒカル「止まるのは、お前のその歪んだ野望だ!」。
地球を飛び出し、月に辿り着いた両者。互いの武器が弾かれ、戦いは肉弾戦へ。そして遂にギンガ最強最後の必殺技である虹色の輝きギンガエスペシャリーでルギエルの闇を消し去るのだった。
ルギエル「何故だぁーーー!?」。
断末魔の叫びを残してルギエルは爆発し、残されたダークスパークランスも消滅するのだった。
ギンガとルギエルの決戦は地球を飛び出して月にまで続いた。
スピーディーな展開で短い時間ながらも印象に残る決戦であった。
それにしても『ウルトラマンギンガの歌』は決戦によく似合う。
ギンガの頭部のクリスタルは三つ又になっていて、ギンガスパークのデザインもそれに倣っているのだが、そこから最終決戦に三つ又のギンガスパークランスを出したのが面白かった。
ルギエルとダークスパークが無くなった事で呪いが解けた怪獣達は喜び勇んで宇宙に帰っていく。
ルギエルは全ての生命の時間を止めて人形にする事でこの世から未来を奪う存在であった。それを打ち破ったのはギンガと言う未来から来たウルトラマン。ギンガの存在は未来が必ず来る事の証明である。
そして、その未来はヒカルを始めとする夢見る人々がこれから先作っていくものである。
戦いが終わり、ウルトラマン達も宇宙へ。
「君達に出会えて良かった。ありがとう」と感謝の言葉を述べて光となるタロウのスパークドールズ。
ジャンスターは友也のガンパッドに「GOODBYE FRIEND」とメッセージを送り、それを受けて友也は「GOODBYE FRIENDS」と返す。
そしてギンガは……。
ギンガ「ヒカル……」、
ヒカル「ギンガ……」、
ギンガ「私は宇宙に旅立つが、君はこの星をもっと冒険しろ。それが終わったら、また会おう」、
ヒカル「おう!」、
ギンガ「未来は、変える事が出来る。良いようにも悪いようにも……。それを為すのは君達だ。さらばだ……。ありがとう」。
光となって宇宙に去っていくウルトラマンと怪獣達。
ヒカル達はお互いに手を繋ぎ笑顔でそれらを見送った。
この時の5人のやりとりが子供っぽくて凄く良い。
ギンガとルギエルの詳しい正体はこの時点では不明のまま。
タロウは「ギンガは未来から来たウルトラマンだ」と言い、ギンガは「未来は良くも悪くもなる」と語っている。おそらく良い未来の象徴がギンガで、悪い未来の象徴がルギエルだったのだろう。
戦いを終えたギンガはヒカルに向かって「地球を冒険しろ」と言っている。これはヒカルは冒険家を名乗っているが実際にはまだ冒険をしていない事を指摘したと言える。
果たしてヒカルはギンガと再び会えるような男に成長するのだろうか。それは本作の未来を描いた『ギンガS』で語られる事となる。
「人は誰でも経験する。運命の出会い。運命の別れ。そしてまた始まる。明日と言う未来が……」。
今回の話は長谷川さんの現時点でのウルトラシリーズ脚本最終作となっている。
長谷川さんは円谷でアニメの『SSSS.GRIDMAN』シリーズを手掛けている他、東映の仮面ライダーシリーズの脚本も多く担当している。
これにて『ギンガ』の後期が終了。11月から12月と言うクリスマス商戦に向けての放送となった。
この後の『新列伝』では第26話の「輝けギンガ! 俺たちのバトル!!」で後期の総集編が行われている。かつてはタロウに教えられてばかりいたヒカルが今度は一人で怪獣解説をしている姿に成長が見て取れる。因みに『ギンガ』本編ではタロウ復活の場面はタロウの視点で描かれているがこの回ではヒカルの視点で捉え直されている。又、『ギンガ』本編では最終決戦には『ウルトラマンギンガの歌』がかけられているが、この回では『Legend of Galaxy ~銀河の覇者』がかけられている。