帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「分裂! UPG」

「分裂! UPG」
ウルトラマンギンガS』第13話
2014年12月2日放送(『新列伝』第75話)
脚本 武井彩
監督 小中和哉

 

分身宇宙人ガッツ星人ボルスト(SD)
身長 14cm~40m
体重 150g~1万t
「最後のチャンス」としてバードンにモンスライブしてビクトリーと戦うが勝てず、エクセラーにもっと強い怪獣を求めるが「自身の体で戦え」とチブルサーキットを暴走させられてしまう。
暴走後は言葉を発する事は無く、ただ雄叫びを上げるだけとなる。
自分の意に反して巨大化してライブベースに向けて破壊活動を行うが、ギンガとの戦いでチブルサーキットが外れて正気に戻る。結果的に自分を助けてくれたギンガに対して戦闘体勢を解き、自分を捨て駒にしようとしたエクセラーを倒すと宣言するが、直後に発射されたビクトリウム・キャノンによって爆発してしまった。

 

火山怪鳥バードン(SD)
身長 14cm~62m
体重 150g~3万3千t
かつてウルトラマンを倒した事もある最強クラスの怪獣でボルストがモンスライブした。
毒を含んだクチバシ攻撃でビクトリーを苦しめるがウルトランス・キングジョーランチャーで毒袋を破壊されてしまった。

 

物語
復活が迫るルギエルが放ったエネルギー弾が地上に落下。
敵の強大さに対して国際防衛機構の神山長官は侵略者に対する防衛体制をフェーズⅤに移行。UPG最大の切り札であるビクトリウム・キャノンがその姿を現す!

 

感想
「相次ぐ怪獣事件に対処すべく軍が過度な防衛力を求めるようになる」と言う平成ウルトラシリーズ定番の話。
この手の話では軍の力は否定的に描かれるのだが、今回はルギエルが放ったエネルギー弾が直径3kmを焼き尽くしていて、神山長官が言う通り、これが大都市に命中していたらウルトラシリーズ最大規模の死傷者が出ていたので、これに対抗できる力を求めてしまうのは仕方が無い事だと思う。そもそもウルトラマンがいなかったらUPGは第1話の時点で全滅していた可能性すらあったわけだし。

 

UPGを管轄する国際防衛機構の神山長官が登場。
冒頭のルギエルが放ったエネルギー弾による被害を受けて侵略者に対する防衛体制がフェーズⅤに移行される。これによりライブベースの指揮権は陣野隊長から神山長官に移され、陣野隊長以下UPG隊員は資格を剥奪される事となった。
これまで軍隊色が薄めだったUPGがいきなり『G』のARMYや『ダイナ』のTPCのような体制に移行させられたのは驚きだった。
ところで「国際防衛機構」とはどういう組織なのだろうか?
この世界では現代になって地上に怪獣が現れたのは『ギンガ』で描かれた2年前の降星町の戦いだけである。劇中の描写を見るに降星町の次に怪獣が現れたのは『ギンガS』第1話だと思われる。と言う事は怪獣が再び出現するかどうかまだ不透明なうちにそれに対する強大な軍事力が秘密裏に用意されていたとなる。もしエクセラーの侵略が無かったら、ビクトリウム・キャノンはどのように使われたのだろうか……?

 

ライブベースの地下に国際防衛機構が総力をかけて開発したビクトリウム・キャノンが収められていた。ライブベースの地下にあるビクトリウムプラントでビクトリウムからエネルギーを取り出してビクトリウム・キャノンの攻撃力に使うと言う仕組み。
エクセラーだけでなく人類もビクトリウムを搾取していた。「切り拓く力」でショウは地上の人間がビクトリウム強奪の犯人かと疑っていたが実はその疑いは当たっていた事になる。

 

ライブベースの地下にビクトリウム・キャノンが収められている事は友也も知らない事実であった。そしてここでUPGの中で陣野隊長だけはビクトリウム・キャノンの存在を以前から知っていたのではないかと言う疑いが出る。結論から言うと答えはYES。システム開発を担当した友也に知らせずにビクトリウム・キャノン関係の設備を追加するにはさすがに陣野隊長の許可が必要。むしろ、システムを開発した友也が知らなかった事から陣野隊長が他のUPG隊員に知られないよう隠蔽工作を行っていたと考えられる。

 

神山長官は射撃の腕を磨いてトップの腕前になったアリサを引き抜いた人物で、アリサにとって恩人のような人であった。そのアリサをUPGに推薦したのも神山長官で、ビクトリウム・キャノン使用時にアリサの射撃の腕が必要になると考えての事であった。
又、UPGの陣野隊長は人知を超えた力を安易に扱うのは危険だとビクトリウム・キャノン使用に反対の立場を表明していたので、いざとなったら神山長官は陣野隊長を外してアリサをUPGの隊長の据えるつもりだったのかもしれない。ただし、アリサは神山長官のそんな考えに賛同するような人物ではなかったわけだが。(そしてアリサをライブベースに残していた事で神山長官の作戦は失敗に終わってしまう)

 

ところでアリサは「射撃の腕を磨いてトップの腕前になったところを神山長官に認められて引き抜かれUPGに推薦された」となっているが彼女の経歴は一体どうなっているのだろうか?
アリサは現在19歳。劇中の季節がいつ頃なのか分からないが、それでも高校卒業から1年程度である事は確実。『ダイナ』や『メビウス』のように怪獣が何年も出現している世界なら、その年齢でも重火器に触れる機会はあるのだろうが、『ギンガS』では2年前に降星町に怪獣が出現するまで地上に怪獣が出現した事が無い、我々視聴者の日本と同じ状況だった。そんな中で女子中学生か女子高校生だったアリサが銃の腕を磨いていた。2年前の怪獣出現を受けてわずか2年でここまでの腕になったのか、それとも怪獣が出現していない中でも銃を使うような環境にいたのか。アリサの父親は警察官だったらしいが……。

 

陣野隊長が神山長官推薦のアリサとシステム開発の友也以外のUPGメンバーを雫が丘出身のゴウキとどこにも所属していないヒカルにしたのは、神山長官と本格的に衝突した際に神山長官の息がかかっていない人物を手元に置いておく為だったのかもしれない。
実際、陣野隊長は神山長官にビクトリアンに関する情報を一切教えていなかったりと、いずれ衝突が起きた場合に備えていたように見られる。

 

「得体の知れないウルトラマンにいつまで頼っているつもりなのか?」と言う神山長官の発言にゴウキは「ウルトラマンは俺達の仲間だ」と反発。しかし、神山長官は「本来、この星は我々人類が守るべきではないのか? ウルトラマンも異星人だ。いつ、人類の脅威の存在になってもおかしくはない」と反論する。
「地球は人類自らが守る」と言う言葉は『初代マン』や『セブン』の時は物語を締める大事なものだったが、平成に入ってからはロクな使われ方をされなくなった。時代が変わったと言えばそれまでの話なのだが、昭和と平成でのウルトラマンや武力に対するスタッフの考えの違いを感じる。

 

神山長官の発言を聞いたヒカルは激怒して「今の言葉取り消せよ! あいつが、ウルトラマンがどんな思いで戦っているのかも知りもしないくせに!」と詰め寄る。
ヒカルには悪いが、神山長官がギンガがどんな思いで戦っているのか知らないのも無理が無い。だって、教えていないんだから。
ギンガもビクトリーも人類とはコンタクトを取っていないし、ヒカルもショウも友也もUPGにすらウルトラマンに関する事は喋っていない。ウルトラマンの秘密が皆に知られたら色々と不都合が起きるのは分かるが、こちらからは何も言わないが、こちらが頑張っている事をそちらは察しろと言うのは無理がある。
ウルトラマンなら「ギンガ対ビクトリー」でギンガがビクトリーやショウを邪悪に感じなかったように相手の心を感じ取る事が出来るのだが、あいにく人間は会話しないと相手が何を考えているのか分からない。そこが口が動かないでテレパシーで会話するウルトラマンと口を動かして会話する人間の違いと言える。
もし、ショウが自分に関する事を一切喋っていない状態でヒカルに向かって「自分がどんな思いで戦っているのか貴様は知りもしないくせに」とか言ったら、おそらくヒカルはこう反論するだろう。「喋って教えてくれなきゃ分からねーだろ」。

 

かつてウルトラマンを倒した事もある最強クラスの怪獣バードンのスパークドールズをボルストに授けるエクセラー。
ボルストはバードンの猛毒攻撃で一度はビクトリーを追い詰めるがウルトランス・キングジョーランチャーで毒袋を破壊されて飛び散った毒が目に入って一時退却する。
ビクトリーは毒攻撃が鬼門になって来たなぁ。そしてボルストは目をやられる事が多い。
ギンガがいないのでビクトリーが一人で戦って苦戦すると言うのは「未来への聖剣」と同じだが、今回はヒカルがギンガに変身できない理由付けがちゃんとされていた。
宇宙船に帰って「もっと強い怪獣をよこせ」と言うボルストに対し、エクセラーは「もう遊びは終わり」とチブルサーキットを暴走させて「今度は自分の体で思う存分戦え」と宣告。「元々お前は捨て駒だったんだよ……」と遂に本性を現す。

 

暴走した状態のボルストは言葉を発せず、ただ雄叫びを上げるだけ。
平成に入ると知性ある宇宙人は巨大化後も知性を保っている事が多かったので、この演出はボルストがエクセラーによって暴走させられていると言う事を強く印象付けた。
ギンガとの戦いでチブルサーキットが外れたボルストは戦闘態勢を解き、それを見たアリサは「撃てない」と言うが神山長官は「チャンスだ」と言う。まぁ、ボルストは何度も撤退しては再挑戦を繰り返していたので、ここは神山長官が言うように倒せるうちに倒してしまった方が良いと言うところはある。実際、ボルストがモンスライブした怪獣で多くの犠牲者が出ているし。
ボルストは基本的に人間を取るに足らない弱者として小馬鹿にしていたが、最後はその人間の手によって倒されてしまった。(そして次回でエクセラーに「宇宙最強を名乗るあなたが下等な人間ごときに敗れるとはね」と嘲笑されてしまう)
ところでビクトリウム・キャノンで倒されたボルストはスパークドールズに戻れたのかな? ビクトリウム・キャノンの威力や演出を見るにスパークドールズに戻らずそのまま完全消滅したようにも見える。もしそうならギンガシリーズで初めての死者と言う事になるのかもしれない(シェパードンはクリスタルスパークドールズになって後に復活可能となっている)

 

爆発したボルストを見て「見たか! 我々人間が巨大怪獣を倒したぞ」!と叫ぶ神山長官。
しかし、劇中においてUPGは既にシュナウザーと連結したチャージガンで何体か巨大怪獣を倒している。この台詞を言わせたいのなら、ここまでUPGが巨大怪獣を倒す描写を無しにするか、チャージガン、シュナウザー連結のチャージガン、ビクトリウム・キャノンとUPGの戦力が増していく描写をもっと丁寧に描いてほしかった。

 

陣野隊長達が再びライブベースに乗り込む時の「誰がここのシステムを作ったと思っているんですか? 開発者を舐めんな……です」とドヤ顔でパスカードを見せる友也が良い。『ギンガS』ではすっかり大人しい優等生になっていたが、久し振りに『ギンガ』時代の不敵さを見る事が出来た感じ。
ふと思ったのだが、立ち位置的には実は友也の方が神山長官が送り込んだスパイだったと言う展開も可能だったかもしれない。ビクトリウム・キャノンを極秘に開発するならシステム開発者である友也が協力していたとする方が自然な感じもするし。

 

「地上人が私達が封印した愚かな歴史を繰り返そうとしている……」。

 

今回の話は武井さんの現時点でのウルトラシリーズ脚本最終作となっている。

 

 

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