『ウルトラQ ザ・ムービー 星の伝説』
1990年4月14日公開
脚本 佐々木守
監督 実相寺昭雄
特技監督 大木淳吉
ワダツジン
「星から来た女」で地方の伝説によっては天女と同一視されている。地球が昔の美しい姿を失っていくのを止めると言う使命を帯びて宇宙のある星からやって来た。
口から超高速で海水を放って古代の遺跡を乱開発していく者達を次々と殺害していき、その一方で自分の目的に賛成してくれそうな地球人を探して海人族と出会った。
万城目と惹かれ合うが最後は日本に希望を求めた自分が間違っていたと告げ、「ノアの方舟」と呼ばれる宇宙船で海人族と共に地球を去り宇宙の果てに消えていった。
遮光器土偶態、ミラーメタル態、人間態と3つの姿を持つ。人間態の時は「星野真弓」と名乗っていた。
名前の由来は海の神「ワダツミ」かな。
古代神獣薙羅
身長 50m
体重 3万1千t
弥生時代から地底に眠っていた海の神。
遺跡の開発工事で長い眠りから目覚めた。
星野真弓や海人族の訴えを聞き入れて彼女達に近付く者達を襲った。
強力な尻尾を持ち、口から光線を吐く。
最後は星野真弓や海人族と共にノアの方舟に乗った。
物語
古代の遺跡で盗掘者やリゾート開発業者が次々と不可解な死を遂げた。
「古代史スペシャル」を企画したTTVの浜野も行方不明になり、万城目達は浜野の行き先を探す事になるが……。
感想
円谷粲さんが円谷プロから独立して設立した円谷映像の旗揚げ作品。
この後、円谷映像は『エコエコアザラク』や『仮面天使ロゼッタ』と言った作品を手掛けていくが、2004年にアートポートに事業譲渡されて円谷エンターテイメントが設立される事となった。
『ウルトラQ』の劇場版は1986年に金子修介監督を中心にしたオムニバス形式の企画があったが様々な理由で見送られ、その後、佐々木守・実相寺昭雄コンビが1982年に企画した『元祖ウルトラマン 怪獣聖書』を元に本作が作られた。
TV版から設定がリニューアルされていて、万城目、一平、由利子はTV局TTVのスタッフとなっている。
星川航空の設定が変更されたのは1966年と比べて交通網が発達した事でわざわざセスナで移動する必要が無くなったから、毎日新報の設定が変更されたのは新聞よりTVの力が強くなったからと思われる。
本作での万条目達のキャラクターは『ウルトラマンガイア』のKCBクルーに引き継がれているところがある。
万城目達のキャスティングも一新されているがナレーションはTV版と同じ石坂浩二さんとなっている。
TV版との繋がりは特に語られていないが、一の谷研究所には一の谷博士を演じた江川宇礼雄さんの写真が飾られてある。
その他、西條康彦さん、黒部進さん、小林昭二さん、毒蝮三太夫さんがゲスト出演していて、実相寺監督作品の常連役者も多数出演、ちな坊一家まで出演している。
本作は佐々木・実相寺コンビによる円谷作品の集大成と言った感じがある。
実相寺監督による映像美が堪能できる作品で、万城目と星野真弓が竹取塚で対話する場面での輝く竹を思わせる地下から伸びる光、浜野が星野真弓と海人族について語る場面でのビルのガラス越しに陽炎のように映る遺跡が印象に残る。
本作は環境破壊がテーマなので至る所で破壊されていく環境が描かれているが、その究極の絵として工場の煙突越しに見える富士山がある。
『ウルトラQ』として見た場合、本作はかなり違和感を覚える作品となっている。一応、宇宙人や怪獣が出てはいるが、薙羅を出す必然性は薄く、地震や嵐による天変地異にしても話に支障は無い。
『ウルトラQ』は「怪獣」を社会に定着させた作品だが、本作に限って言えば「ウルトラシリーズは「怪獣」を出さなければいけない」と言う暗黙の決まりに縛られてしまったところがある。
本作はむしろ『ウルトラQ』と言うより『怪奇大作戦』に近い雰囲気を持っていて、『怪奇大作戦』の「京都買います」の舞台を京都から日本全体に広げた作品と言える。登場人物も『ウルトラQ』と言うより『怪奇大作戦』のSRIに近く、浜野と万城目が牧と三沢、一平が野村、由利子がさおり、星野真弓が「京都買います」の須藤美弥子に当てはめる事が出来る。
よく言われるように本作は『ウルトラQ』としてではなく実相寺監督作品として見る事を勧めたい。
連絡を絶った浜野を一平と由利子が捜すが、近所付き合いが無く、実家も既に無くなっていて、両親も早くに亡くし、親しい親戚も友達もいない浜野の手がかりを探すのは容易ではなかった。
人間との関係が薄い一方で天女伝説との関係が多い事で浜野と言う人間は本当に存在していたのかと言う不思議な感覚に陥る。特撮を使わなくても非日常的な雰囲気が作られているのがさすがであった。
遮光器土偶は宇宙服に似ているので縄文人は宇宙人と会ったのではないかと言う説が面白い。星野真弓のサングラスと土偶の遮光器を繋げるアイデアが秀逸。こういうトンデモ歴史は結構好き。
時の権力者に追われて内陸に移り住み、その地に新たな名を残したと言う海人族の設定は『ウルトラセブン』の「ノンマルトの使者」を思い出す。
もっとも、海人族自身が南の海から移り住んできた渡来人らしいので、現日本人がかつて海人族にした事を海人族もかつてはしていた可能性は十分考えられる。
その地に住んでいた種族を別の地から移り住んだ種族が駆逐する。歴史は何度も繰り返すのだろうか……。
海人族とは常世の国を信じている古代人の心を持ち続けている者達の事で、常世の国とは古代人が考えた遥か遠くにある不老不死の楽園との事。
理想郷伝説は古来から世界各地で語られているが、それは一種の現実逃避とも考えられる。
常世の国から浦島太郎の竜宮伝説や天女伝説の空の果てが考え出されたように作り話としてならともかく実際にそれを現代の日本で求めてしまうと現実に生きる者達とはズレた奇異な存在に見えてしまう。事実、劇中にあった海人族による常世の国へ行く為の禊の儀式は異様で、どこかカルト集団に近い部分を自分は感じてしまった。
「古代史スペシャル」はまだ時期尚早で生半可に古代史をまとめてしまうと必ず後悔する事になる。もっとじっくり考えないと物笑いになる日が来ると万城目が忠告する場面がある。
本作公開の10年後に発覚する古代史を次々と変えていった「ゴッドハンド」と呼ばれた人物による捏造事件を予言しているかのようで驚いた。
本作は古来からの環境や心をすっかり失ってしまった現在の人間を否定的に描いているが、皮肉混じりながらもどこか嫌味が無く、最後までしぶとく生き残りそうな人間をある種の愛情を持って描いている感すらある。
古来からの環境や心を失おうが人間は今日も変わらぬ日常を送り生きていくのだ……。
『ウルトラQ』の「五郎とゴロー」と「1/8計画」が同時上映された。
本作は1996年に亡くなられた大木監督のウルトラシリーズ監督最終作となっている。