帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「地球より永遠に」

「地球より永遠に」
ウルトラセブン誕生30周年企画』第2話
1998年7月5日発売
脚本 武上純希
監督・特撮監督 神澤信一

 

分身宇宙人ガッツ星人(2代目)
身長 2m~40m
体重 200kg~1万t
岬町を舞台に人間に硫黄細菌を移植して硫黄人間に改造していた。
マントルプリュームから人類絶滅を免れる道は硫黄人間しかないと地球防衛軍に迫る。
3人に分身して光線を発する。一度はセブンを倒すがウルトラホーク1号によって宇宙船ごと倒された。

 

硫黄怪獣サルファス
身長 50m
体重 4万7千t
不動岳の地下に潜んで火山活動を活発化させていた。
体内に硫黄細菌を持っている。地球怪獣だったがガッツ星人に改造されたらしい。
火山性ガスで太陽を隠し、口から硫黄ガスを吐き、両手を合わせて光線を放つ。
ワイドショットも通じなかったが太陽エネルギーを大量に吸収した新技・ネオワイドショットで倒された。

 

物語
不動岳の異常活動によって火山性ガスが大量に発生する。
調査を開始したウルトラ警備隊は火山性ガスの中でも活動可能な人間と遭遇する。
一方、地球を放浪するダンもある宇宙人の陰謀を感じとっていた。

 

感想
今回の話は「地球の記憶」が取り上げられているらしいが、どちらかと言うと「人類の記憶」と言った感じになっている。

 

大気の90%以上が硫化水素で酸素は殆ど存在しない生物が生きていけない世界に徘徊する謎の男。酸素を嫌い火山性ガスで生きる男の正体は何者かによって硫黄細菌を移植されて改造された人間であった。
上半身裸で暴れる様は完全にゾンビでちょっと怖い。

 

不景気の中でも破格で求人していると言う謎の会社と仕事を求めて集まった若者が次々と行方不明になっていると言う噂を聞いたダン。
「この星で一人放浪するようになってから感覚が研ぎ澄まされたのかもしれない。耳を澄ますと、私と同じようにこの星に住み着こうとしている異星人達の息づかいが聞こえてくる」。
『誕生30周年企画』のダンは特別チームに所属しないで各地を放浪していて、その先々で事件と関わると言うロードムービーの形を取っている。TVシリーズではなくオリジナルビデオシリーズだから出来た設定であろう。

 

寂れた工事街のバーに入ったダンはまだ子供のナツミを見てミルクを注文するとここは子供がいる場所じゃないと話す。
すると、ダンの周りを若者達が取り囲んで一斉に襲い掛かるが、ダンはそれをあっさりと返り討ちにする。
迷惑をかけたとダンはバーを出ようとするが、ナツミはどうせ泊まる所なんて無いんでしょうと引き止める。
TVシリーズでは難しいであろう大人の雰囲気。

 

ナツミはこの街を嫌な街だと思ってほしくないから親切にしたとダンに告げる。
その後、街を彷徨うダンは親切なタクシーに乗せられ、運転手の顔馴染みのホテルを紹介される。
まだ街に残る良心を感じるダンだったが、謎の存在がナツミを襲いホテルも爆破してしまう。
ウルトラセブン、ここにお前のいる場所は無い。この街からすぐに立ち去るのだ。この街にいる限り、お前が関わった人間は全て同じ目に遭う」。

 

ダンが殺人事件の容疑者に挙げられた事を知ったフルハシ参謀は驚き、ウルトラ警備隊に頼んで事実関係を調査してもらう。
フルハシ参謀の個人的事情で動かされるシラガネ隊長が嫌々なのが印象的。
前回の事件でダンを怪しいと思っていたカザモリは俄然やる気。今回のカザモリは若くて素直で直情的でかつてのカジ隊員を思わせる。
カザモリ本人が妙に声が高くて喜怒哀楽がハッキリしているのは声が低くて落ち着いているダンのカザモリとの差別化の為であろう。カザモリのキャラクターはダンの展開に合わせて設計されているところがある。

 

サトミ隊員に対して「君」付けは止めてほしいとカザモリが訴えているところにダンが現れる。
カザモリ「キサマ……!」、
ダン「光栄だな。覚えていてくれて。カザモリ君、だったかな?」、
カザモリ「お前なんかに「君」呼ばわりされる覚えは無い!」。
しかし、カザモリはあっさりとダンに入れ替わられてしまう。
ダンが変身したカザモリは声が低くていきなり渋くなっていて怪しさ大爆発。他にも知らない情報を何故か知っているわ勘が冴えまくっているわとサトミ隊員が何も気付かなかったのが不思議でならない。
「何があったか知らないけれど、すっかり強気になっちゃって。いざと言う時、弱音を吐かないでよ、カザモリ君」。
因みにダンが変身したカザモリは最初の台詞だけ森次さんが声を当てていて、その後は山崎勝之さんが低い声を出している。

 

街の若者と知り合って噂の仕事に関わる事になったカザモリとサトミ隊員。ドスを効かせたサトミ隊員が似合いすぎ。
まるで留置所みたいな場所に送られるが、そこは部屋から出るとバリアが待ち構えている怪しさ100%な場所であった。
それにしても、危険なバリアがあって、カザモリとサトミ隊員が大声でエイリアンの話をしていても何の反応も見せなかった他の若者達はちょっと変だ。もっと周りに関心を持って生きてほしい。

 

噂の仕事場のリーダーはなんとナツミであった。
驚くカザモリはナツミと波止場で会話を交わす。ここは「ウルトラ警備隊西へ 後編」のダンとドロシーの場面がモデルかな。
カザモリ「いい街だね、ここ……」、
ナツミ「こんな街が?」、
カザモリ「あぁ、素朴で優しい人達がいる。今時、そんな人達に会える街は珍しいよ」、
ナツミ「昔は皆、この海のように優しかった。そんな人達はこの街を出て行ったわ。吹き溜まりみたいになってしまった、この街を……」、
カザモリ「君は……出て行かないのか?」、
ナツミ「生まれた街だもの。思い出も捨てて出て行く所なんて無いわ。人が、この星を捨てて出て行けないようにね」。
今回の話の面白いところは地球全体の問題を架空の一都市を使って説明しているところであろう。変わってしまった街を実際に映す事で言葉のみで語られる地球全体の問題に説得力を持たせている。

 

ナツミがいきなり苦しみ出したのを見てカザモリは以前見付けていたナツミの目薬を渡す。
目薬を注して苦しみが治まったナツミはカザモリが姿を変えたダンであると確信を抱き目薬の中身が硫黄化物質である事を明かす。
人間を硫黄人間にする薬が目薬だったのは絵的にちょっと拍子抜けな感じがした。硫黄化物質と言う安易な名前も少し考えてほしかったかな。

 

酸素呼吸と鼓動を止めて硫黄細菌で生きていると言う硫黄人間。
地球は火の世紀を迎えていて、汚れきった人類、街、世界が全て地球自身の意思によって焼き尽くされる。その後、生き残れるのはガッツ星人に選ばれた人間達だけとナツミは語る。
さらにナツミは自分達を新世紀に生き延びる為に生まれ変わった新人類として、何も殺さず汚さずとも生きていける完全生命体と称し、地球は人間を滅ぼそうとするがガッツ星人は人間を浄化して新しい世界にも生き延びさせてくれると訴える。
地球が人間を滅ぼそうとしていると言うのは『平成セブン』だけでなく同時期の『ガイア』にもあった展開。世紀末ならではの雰囲気と言える。
『平成セブン』の特徴の一つである「新人類」と言うテーマも登場するが、劇中見る限り、硫黄人間がナツミの言うような完全生命体とはとても思えないのもある意味で『平成セブン』らしい。

 

セブン暗殺計画 前篇」と同じくセブンはガッツ星人の分身攻撃に翻弄され倒されてしまう。
今回の話、戦闘シーンは『セブン』のガッツ星人編を踏まえているのだが、話全体を振り返るとガッツ星人である必要は無かった。むしろ、今回の敵は必ずしも悪とは言い切れない要素が必要なので『セブン』最強の侵略者とも言われるガッツ星人の存在は逆に邪魔だった気がする。

 

倒されたセブンにナツミはガッツ星人のメッセージが入っているディスクを渡して「共に火の世紀を生き抜きましょう」と告げる。
その後、地球防衛軍でディスクへの対策会議が行われる。懐かしのタケナカ参謀が長官として再登場しているのが嬉しかった。

 

かつて恐竜の絶滅は大型の隕石の衝突と言った地球の外に原因を求めるものが主流だったが、今は地球自身にあらゆる生物を絶滅させる周期のようなものがあるのではないかとする説が主流になっているとの事。
エコブームで「地球に優しく」と言う言葉が流行っているが、地球はそんなに生物に優しくないのかもしれないと呟く学者。この説は同時期の『ガイア』の「46億年の亡霊」でも取り上げられている。

 

地球では何億年かに一度、マントルの流れが変わって大きく湧き上がる事がある。その影響で地表の火山活動が異常に活発化して地上が焼き尽くされ、あらゆる生命が滅び去ると言うマントルプリューム絶滅説。
聖書の「ノアの洪水」に続く「ノアの業火」とも言える滅亡のイメージが斬新だった。

 

マントルプリュームによる一時的な絶滅を免れても地表の植物が全滅して地球は火山性ガスに覆われてしまう。その火の世紀を生き抜くには人間そのものを環境に順応させるしかない。
たとえ姿形が変わっても生き残る事が最も大事だと考えれば、人類そのものではないとしても人類のDNAを継ぐ者を残す事も有効な手段の一つと言える。
ウルトラシリーズは人類の考え方を変えて未来を生きようと言う話は何度かあるが人類そのものを変えてでも未来を生きようと言う話は少なくて、この辺りはヒーロー作品と言うよりSF作品の要素が強い『平成セブン』ならではの話となっている。

 

マントルプリュームが起こるのは1億年後か明日か分からないがガッツ星人はそのX-dayを10年以内とした。
フルハシ参謀はガッツ星人の技術を借りて人類のDNAを残すか人類自身が別の方法を探すか選択しなければならないと語り、地球防衛軍ガッツ星人に従うかどうか、そもそもガッツ星人の言葉は真実なのか、色々な意見が出る中、最後は人類を未来永劫に残す為の努力を我々自身の手によってしなければならないとしてガッツ星人の手は借りないとの結論を出す。
その別の方法はまだどのようなものかは決まっていないが、ナツミが語った街の話を考えると、退廃した街に昔のままの心を持って残った人間が現地球人で、退廃した街に対応して暮らす人間が硫黄人間となるので、退廃した街を捨てた人間から生きられなくなった地球を捨てて別の星を目指すと言う選択が出てくる。ただ、これは前作の「地球星人の大地」で人類の間違った未来として語られている選択であるが……。

 

ガッツ星人の秘密基地に突入したウルトラ警備隊は刃向かう硫黄人間を次々に倒していく。
一応、麻酔弾で眠らせただけだが、撃たれて眠った硫黄人間が死体に見えるし、地球防衛軍の突入部隊もまんま軍隊なので、この場面は軍隊が武力で反政府組織を鎮圧しているように見える。
シラガネ隊長がウルトラホーク1号で残った硫黄人間ごとガッツ星人の基地を爆破するのは「ノンマルトの使者」でノンマルトの海底都市を爆破したキリヤマ隊長に重ねているのかもしれない。
TVシリーズではないとは言え、個人的にはウルトラシリーズでここまでやってしまうのはどうかなと思うところはある。

 

硫黄人間を元に戻す方法はあると話すミズノ隊員。冒頭に現れた硫黄人間を研究した成果であろうか。助けられたサトミ隊員がすぐに元気になっていたので元に戻すのは結構簡単なようだ。
捕らわれたサトミ隊員を元に戻さなければならないのは分かるが、人間である事を捨てるかどうかと言う今回のテーマに対して、硫黄人間になっても簡単に元に戻れると言うのは選択の重みが一気に軽くなってしまった感じがする。

 

ナツミは何者も殺さず何物も壊さず生きていける新しい肉体を得られたのにどうして分かってくれないのと悔やみ、セブンに向かって地球からも愛される事の無かった罪深い人類を見捨てないでほしいと頼んで息絶えてしまう。
ナツミはやたらと硫黄人間の素晴らしさを語っていたが、色々な破壊行為をしていた硫黄人間のどこが何者も殺さず何物も壊さず生きていける存在だったのか疑問。
『平成セブン』は人間の存在を悪にする為に人間以外の存在を善とする事があるが、決して褒められる行為をしていないのに言葉だけはその存在を褒めていて違和感を覚える事が多い。
今回のガッツ星人は悪とは言い切れないと言う意見があるが、ガッツ星人は多くの人を硫黄人間に改造し(一部は自らなった者もいるが)、多くの人を殺し、サルファスを使ってマントルプリュームを早めた疑いもある。
さらに硫黄人間は一定間隔で硫黄化物質を摂取しないと苦しむのでガッツ星人の支配から逃れられない形になっている。所詮、ガッツ星人の地球人硫黄人間化は善意の振りして相手の弱みに付け込んだ地球侵略に過ぎない。
まぁ、カザモリを無傷で帰して地球人との交渉の場を用意したガッツ星人に対して交渉もせずに攻撃した地球防衛軍やセブンもどうかとは思うが……。
これを反省してか『EVOLUTION5部作』に登場した植物生命体は素直に素晴らしいと思える存在になっていた。

 

ナツミの亡骸を抱いてセブンは「何者も……踏み込んではいけないんだ。他の惑星に生まれ、滅んでいく者達の運命に!」と叫ぶ。
この言葉が『平成セブン』におけるセブンの基本姿勢。
これを破るか否かが『最終章6部作』や『EVOLUTION5部作』のテーマの一つとなっている。

 

ウルトラアイを掲げ、遂にカザモリがセブンに変身する。
特別編の要素が強かった『T』のテンペラー星人編を除いて、ウルトラマンに変身する人間が代わるのはこれが初めて。
この設定は後に『ティガ』の『古代に蘇る巨人』のツバサやアムイ、『ネオス』のセブン21を経て、『ネクサス』のデュナミストに結実する。

 

セブンとサルファスの戦いの前半は光線技をあまり使わない肉弾戦主体の展開。
ウルトラホーク1号がなかなか援護に来ないのがちょっと疑問。
火山活動の活発化によって地割れが起き、サルファスの吐く火山性ガスによって太陽が隠されるが、シラガネ隊長は「人類は人類以外の存在に運命を変えられてはならない。セブン、戦ってくれ!」とウルトラホーク1号で火山性ガスを掻き消す。
この展開は「地球星人の大地」と全く同じで、以前はフルハシがやっていた役を今回はシラガネ隊長が担うと言うのはシラガネ隊長がフルハシの後を継ぐと言う意味だと考えられる。
今回はセブンに変身する事でカザモリがダンを継いだ事に目が行くが、一方でシラガネ隊長がキリヤマ隊長やフルハシ隊長を継いだ話でもあった。

 

戦いが終わり、カザモリがカプセルを投げると中から本物のカザモリが現れる。
ダン「人間は運命を選択した。X-dayは明日かもしれないし百年後かもしれない。その日の為に人類は人類として立派に生きてほしい。人類の未来は……君達若者が決める」、
カザモリ「あなたは……。ひょっとしてあなたは……!?」。
カザモリの問いに答える事無く姿を消すダン。
今回のセブンは人類の運命に干渉しようとしたガッツ星人を排除したと言えるが、人類に選択権があると言うのならガッツ星人に従う選択も許されるはず。つまり、今回のセブンはガッツ星人に従うべきではないと人類の運命に干渉してしまったのだ。
カザモリに変身したセブンがフルハシ参謀に向かって「僕は……思います。たとえどんな事があろうとも、この星の人類の運命は、この星の人類の手によって決められるべきだと……。たとえ、それが、どんな悲劇的な、運命だとしても……」と言っているが、宇宙人であるセブンが人類の運命は人類の手によって決められるべきだと人類に忠告して結論に関与してしまう事は一つの矛盾と言える。そして、この矛盾が『平成セブン』でのセブンの物語の軸となっていくのであった。

 

事件解決後に「ダン。お前はダンなんだろう? 俺に隠したって無駄だ。カザモリ隊員に化けたお前なんだろう?」と言ってカザモリを追い回すフルハシ参謀と「僕はカザモリです!」と言って逃げ回るカザモリ。
この後、カザモリはモロボシ・ダンと言う存在に振り回され続ける事となる。