帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「果実が熟す日」

「果実が熟す日」
ウルトラセブン1999 最終章6部作』第3話
1999年9月5日発売
脚本 右田昌万
監督・特撮監督 高野敏幸

 

犯罪宇宙人レモジョ星系人
身長 ポワン・160cm ゲイル・180cm ムーピョ・170cm
体重 ポワン・40kg ゲイル・80kg ムーピョ・100kg
地球で生体兵器ボラジョの実験を行おうとした矢先に母星の警察に収容されたテロリスト。収容中に反乱を起こして輸送機が南アメリカのペルー山中に墜落するとそこから逃亡した。全員で7人いたが機内の争いで3人だけ生き残った。
擬態能力があり、ポワンはサエコと名乗って歯室歯科医院で歯科医を務め、ゲイルは将来有望な新人ボクサー、ムーピョは会社員として正体を隠していた。
ムーピョはウルトラ警備隊に射殺され、ゲイルは残った力をボラジョに与えて力尽き、サエコも最後はウルトラ警備隊に射殺された。

 

植物獣ボラジョ
身長 56m
体重 3万1千t
レモジョ星系人のテロリストが地球で実験しようとしていた生体兵器。
貨物船でリマから東京に運ばれるがウルトラ警備隊によってその殆どが焼却される。しかし、残った最後の一つがゲイルの力を受けて熟し巨大化した。
花弁から極端に濃度の濃い酸を発し、蔦で相手を絡め取る。
ウルトラ警備隊の援護を受けたセブンのワイドショットで爆発した。

 

カプセル怪獣ウインダム
身長 ミクロ~40m
体重 0~2万3千t
カザモリの持つ青いカプセルから登場する。
額からレーザーショットを撃つ。
レモジョ星系人を撃退した。

 

物語
地球に一隻の宇宙船が不時着し凶悪な宇宙犯罪者と生体兵器が地球へ解き放たれた。
一方、ミズノ隊員は通っている女性歯科医に入れ込んでいたが彼女に宇宙犯罪者の疑いが持ち上がる。

 

感想
『平成セブン』で初めてダンが全く登場しなかった話。

 

今回の話は簡単に言えば「マフィアの女に手を出してしまった警察の話」。
地球に逃れた宇宙犯罪者と言う展開は『セブン』の「宇宙囚人303」を思い出すが、綺麗な女性歯科医が実は人間じゃなかったと言う展開は『A』の「ベロクロンの復讐」を思い出す。脚本もそれを狙ってか、『A』で北斗の歯に幻覚を見せる物体が仕掛けられたようにサエコはミズノ隊員の歯に盗聴器を仕掛けている。
それにしても恋に落ちたミズノ隊員は目付きがイヤラシすぎて最高だったw

 

レモジョ星系人のデザインはキノコがモデルなのだろうが性器も思わせるものでちょっと趣味が悪い。
サエコは「歯を見ればその人の全てが分かる」とミズノ隊員に言っていたが、もしかしたらそれがレモジョ星系人の変身の条件かもしれない。
ところで、どうしてサエコはミズノ隊員に変身しなかったのだろうか? ミズノ隊員を騙すより簡単でリスクも無かったと思うのだが……。(実際、一度はカザモリに変身してウルトラ警備隊を罠にはめる事に成功しているし)

 

ペルーで見付かった人間そっくりのエイリアンのサンプル。それは地球人との共通言語を得る為に南米支部の研究員の姿をコピーしたレモジョ星系人の一人だった。
レモジョ星系人は東京にテロリストが潜伏している事と生体兵器ボラジョが持ち込まれた事を告げて息絶える。地球の危機を知らせてくれたのだがカジ参謀は「人間の皮を被った化け物」と敬意を払っているようには見えなかった。
ここでレモジョ星系と協力体制を取る事も可能だったと思うがカジ参謀のこの対応ではそれは無かったのだろう。地球に味方してくれるかもしれない星を見付けるのも生き残る為の策の一つだと思うがカジ参謀には異星人と協力する気はさらさら無いようだ。下手をしたらレモジョ星系に対してワープ航法ミサイルを撃ち込んだ可能性すらある。そうやって次々と敵を作っていったら逆に地球は生き残れなくなると思うのだが……。

 

分析の結果、レモジョ星系人は一日12時間から16時間しか変身を保てない事が分かるが、人間が外に出て他人に身をさらす時間は大体それぐらい。シマ隊員は「ご近所付き合いの薄いご時世、周りは皆レモジョ星系人かも」と呟く。
7人のテロリストのうち何人が東京に入り込んだのか不明にして、事件解決後もまだレモジョ星系人のテロリストは街に潜伏していて機会を狙っているのかもしれないと言う不穏な結末もありだったかもしれない。

 

東京1千万人の中からどうやって3人のレモジョ星系人テロリストを見付け出すか。
カザモリは「人間の姿を借りても異星人としての本来の姿はいつまでも隠し通せるものではありません」と訴える。自分の事を含めての言葉だろうか。

 

ウルトラ警備隊が警察や民間人と密に連携して調査を進める一方、カジ参謀は記者会見を開いてレモジョ星系人テロリストの情報を発表する。
このカジ参謀の行動はウルトラ警備隊に疑問視される。確かにパフォーマンスが過ぎた部分はあったが、結果的にレモジョ星系人のテロリストを追い詰めて炙り出せたので記者会見は成功だったと言える。それに対してウルトラ警備隊は真実か虚偽か分からない情報に振り回されて結局は何も得られなかったし。(カジ参謀の記者会見のせいで処理しなくてはいけない情報が格段に増えてしまったと言うマイナス要因はあるが、ウルトラ警備隊はレモジョ星系人と直接会っても正体が分からなかったのであまり擁護は出来ない)
ところでフレンドシップ計画は地球を攻撃する可能性のある星に対して先制攻撃としてミサイルを撃ち込むものだが、今回のように既に地球に工作員が潜伏している場合はどうするのだろうか? まさか地球上でミサイルを使うわけにはいかないし……。
そう考えると今回の炙り出しが成功したのは運が良かっただけと言える。今回の話はフレンドシップ計画の重大な欠陥を突いた話と言えよう。(アメリカも対テロ戦争でテロリストと関わっていると思われる国や地域を攻撃したが既に国内に潜伏しているテロリストへの対策は弱くて疑わしきは罰すると言う強硬手段に出た時期があった気がする)

 

挙動不審全開のムーピョ。これで今までバレなかったのが凄い。
ムーピョは数日間何も食べられなくて空腹で万引きしてしまい正体がバレてしまう。
ゲイルはムーピョにゴミ箱を漁れと言っていたが食費くらい渡したら良いのに。見る限り、サエコとゲイルは食事に苦労していなさそうだし……。

 

追われた異星人が街中を走り回る展開が面白い。
周りの人が意外と無反応なのが興味深い。実はこの場面はゲリラ撮影が行われたらしく、街中の人々は撮影とは無関係な一般の人達だったらしい。と言う事はあれは演出無しの自然な反応と言う事になる。得体の知れない存在が現れた時の人々の反応って実際はこういうものなのかもしれない。

 

カザモリに変身してウルトラ警備隊を罠にはめるも逆にムーピョを倒されてしまったレモジョ星系人のテロリスト達はカザモリを殺そうとする。危機に陥ったカザモリはウインダムを使用。『誕生30周年企画』ではカプセルのみの登場だったカプセル怪獣が遂に登場。しかもウインダムがレモジョ星系人のテロリストを撃退する活躍を見せた。
ウインダムは『セブン』の「セブン暗殺計画 前篇」でガッツ星人に倒された後はどうなったのか不明だったが、『平成セブン』ではカプセル内部には生物の治癒能力があるとして一命を取り留めたとなっているらしい。
因みにカザモリが取り出したケースの中のカプセルは4個となっている。『セブン』の「怪しい隣人」で4次元世界に消えたカプセルはそのまま無くなってしまったようだ。

 

エイリアンを捕まえるどころか逆に罠にはまるとはウルトラ警備隊も地に落ちたなと苦言を呈するカジ参謀。でも『セブン』の時からウルトラ警備隊はよく宇宙人の罠にはまっていたと思う。
ミズノ隊員が入れ込んでいるサエコがレモジョ星系人のテロリストだった事からカジ参謀は機密漏洩の疑いを口にする。それを聞いたミズノ隊員は「レモ……、サエコさんが何をしたと……。我々地球防衛軍が追うから彼らは逃げる。ただそれだけの事じゃないですか? ボラジョと言う生体兵器についても死亡したレモジョ星系人の話だけで本当の事は誰も分からないじゃないですか。彼らはこの地球で何の罪に問えると参謀は言うのですか?」と激しく詰め寄る。
ミズノ隊員には悪いが「恋は盲目」と言うか事実が見えていない。
レモジョ星系人のテロリストは既にウルトラ警備隊の隊員を殺そうとしているし、ウルトラ警備隊がレモジョ星系人のテロリストを追う前からサエコはミズノ隊員に盗聴器を仕掛けていた。ミズノ隊員の「彼らはこの地球で何の罪に問えるのか?」と言う台詞は面白かったが、それを効果的に使うにはレモジョ星系人が悪かどうかもう少しボカした方が良かったと思う。

 

カジ参謀によって拘束されたミズノ隊員だったが地球防衛軍から脱出してカザモリとサトミ隊員の説得にも耳を貸さずサエコに会いに行ってしまう。
ミズノ隊員があっさりと地球防衛軍から脱出できたのに驚き。そんな簡単に脱出できる場所ではないだろうに。

 

「自分はウルトラ警備隊員としてではなく一人の人間としてサエコに会いたい」と訴えてカザモリとサトミ隊員を振り切ったミズノ隊員だったが彼がウルトラ警備隊の隊服を脱ぐ事は無かった。
そんなミズノ隊員をサエコとゲイルは遊園地に呼び寄せるが、遊園地にウルトラ警備隊の隊服は目立つんじゃないのかな……。どちらも地球防衛軍に追われている立場なのだからもっと身を隠せば良いのに。
そう言えば、カジ参謀はミズノ隊員に追っ手を差し向けたのだろうか? 同僚であるウルトラ警備隊ではミズノ隊員に理解を示してしまう事は予想が付くので、それとは別の部隊を送っても良さそうだが。

 

ミズノ隊員は自分に盗聴器が仕掛けられていた事に気付いてもサエコへの気持ちに変わりは無かった。それに対してサエコは少し罪悪感を覚えるがゲイルは利用できると考える。
ミズノ隊員と再び会ったサエコは自分達の目的は地球をボラジョで覆う事で、その結果、人間は滅びると告げる。
ミズノ「地球にはたくさんの命があるんだ!」、
サエコ「だから何なの? 人一人愛せなくて、たくさんの命が愛せるの? 自分の想い一つ遂げられないで、たくさんの命の心配が出来るの? そんなの生きてるとは言えないわ! 星一つを犠牲にしてでも一人を愛せる勇気があなたにある? 見せてよ! あなたの助けが必要なの」。
なんとも身勝手な……。
個人的に一人の為に他人をいくらでも犠牲に出来るような人に愛してもらいたくはない。いつ自分がその人にとって特別な一人ではなく犠牲にしても構わない多くの人々になるか分からない。(大体、人を犠牲にして罪悪感を感じない人間に愛されてもねぇ……)
サエコの言葉は最初は「たくさんの命を愛する為にまずは人一人を愛する」と言う真っ当な内容だったのに最後は「人一人を愛するにはたくさんの命を犠牲にしなくてはいけない」と言う恐ろしい内容に変わっている。これはミズノ隊員のサエコへの愛をボラジョの成長へと利用する為にあえて内容を変えたと思われる。

 

ミズノ隊員はレモジョ星系人に協力し、ウルトラ警備隊の力を使ってボラジョを手に入れようとするが、それは嘘で本当は手に入れた情報をウルトラ警備隊に流していた。
おそらくサエコ星一つ犠牲にしてでも一人を愛せる勇気が云々の話で吹っ切れたのだろうが、その心情の変化を描いてほしかった。今回の話は登場人物の心情があまり描かれていない為、行動の理由が分からなくて見ていて戸惑うところがあった。

 

今回のセブンは登場からアクロバティック。前転しながらの登場は他のウルトラマンが何回かやっているがセブンがするのは珍しい。
ボラジョの地面を吹き上げていく攻撃はインパクトあった。やや似たり寄ったりになってきた怪獣の攻撃に新しいパターンを入れられたと思う。
今回は重量感を犠牲にしてでもスピードを重視した演出が成功していて、かなりテンポの良い戦闘シーンになっている。

 

事件が解決して、カジ参謀は良い作戦だったと褒めるが、シラガネ隊長は作戦ではなく一人の非情に迫られた選択があっただけだと答えて退室する。
ウルトラ警備隊が全員退室した後、無人の部屋でカジ参謀が一人天を仰ぐ。
レモジョ星系人のテロリストは完全な悪役として動いていたので、ミズノ隊員は恋心を利用されて振り回されたように見え、カジ参謀の判断はそれほど間違ってはいなかったように思える。
今回の話はサエコの迷いをもう少し見せた方が良かったと思う。劇中でサエコが迷いを見せたのは盗聴器からミズノ隊員の想いを聞いた場面くらいで他はゲイルと一緒に不敵な笑みを浮かべていただけだった。
又、シラガネ隊長が言った「非情に迫られた選択」の場面を描いていなかったのはかなり残念。そこが今回の話の肝だったと思うのだが……。

 

ミズノ隊員は昼間会った遊園地でサエコを見付ける。
ミズノ「サエコさん。一緒に帰ろう」、
サエコ「私をどうするの?」、
ミズノ「地球の科学でも君を故郷の星へ帰す事は出来る」、
サエコ「ミズノも一緒に来てくれる?」、
ミズノ「もちろんさ」、
サエコ「もう、レモジョ星系には戻れない」、
ミズノ「じゃ、ここにいればいい。地球人としてここで暮らすんだ」、
サエコ「暮らせるものか! 嘘の姿で生きるのがどんな事なのか、お前に分かるのか?」、
ミズノ「サエコさんを想う僕の気持ちに嘘は無い!」、
サエコ「お前が本当の私の姿を見たなら……「愛している」などと言えやしない」、
ミズノ「僕は……殺されてもいい」。
ミズノの銃を奪って構えるサエコ。辺りに銃声が響くが倒れたのはサエコだった。
ミズノ隊員が見ると、そこにはシラガネ隊長とウルトラ警備隊がいた。
シラガネ「苦しみは早く終わらせてあげよう。それに俺達にはお前が必要なんだ」。
「僕は……サエコさんに殺されても良かったんだ……」とレモジョ星系人の姿に戻ったサエコを抱くミズノ隊員。メリーゴーランドが明るく哀しく回る……。
ここで流れるBGMは『セブン』の「狙われた街」で使われたもの。唐突だったがインパクトがあってラストシーンとしては秀逸。メリーゴーランドの場面は『セブン』の「悪魔の住む花」のオマージュかな。
ここでの会話でサエコはあえてミズノ隊員の想いに反した返事をしている。
今回の話の裏テーマは「男性にとって女性は理解出来ない存在」「女性は男性の思い通りには動いてくれない存在」と言ったところだろうか。そのせいか、サエコのキャラクターを理解するのが難しい作りになっている。
サエコのレモジョ星系人の姿はラストシーンだけにした方が絶対に良かった。この場面の前に一度あっさりと姿を見せているのは残念だった。