帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「約束の果て」

「約束の果て」
ウルトラセブン1999 最終章6部作』第4話
1999年11月5日発売
脚本 太田愛
監督・特撮監督 神澤信一

 

海底人乙姫
身長 不明
体重 不明
竜ノ宮市に伝わる浦島伝説では竜宮城には双子の乙姫がいて浦島太郎を迎えたとなっている。
村の皆に自分の無事を知らせに一度帰ると言う浦島太郎に対して乙姫は必ず竜宮城に帰って来る約束として貝の棘で浦島太郎と自分の右手に傷を付ける。決して貝を開いてはいけないと言う約束を忘れてしまった浦島太郎が貝を開けてしまった為、乙姫は死んでしまった。
双子の妹は約束を忘れた浦島太郎に会ってその罪を告発するが、大龍海と浦島太郎が一緒に去っていったのを見て亀と共に海に帰っていった。

 

時空怪獣大龍海
身長 61m
体重 5万2千t
乙姫の双子の妹が乙姫と浦島太郎の約束の貝を海に投げ入れると姿を現した。
空を飛び、口からミサイルやガスを発する。
浦島太郎が掲げた夕顔の花を見ると浦島太郎を連れて光の水滴となって消えた。
乙姫との関係は不明。浦島太郎と乙姫の悲劇の産物である事に違いないが……。

 

物語
カザモリと共にシマ隊員は子供の頃に過ごした街にやって来た。
そこでカザモリは謎の老人と、シマ隊員は謎の女性と出会う。
そして現在の街を過去の村が塗りこめていく現象が起きた。果たしてその原因は?

 

感想
ウルトラシリーズは昔話を下敷きにした話が多いが『浦島太郎』は『Q』の「育てよ! カメ」、『レオ』の「帰ってきたひげ船長!」、『星の伝説』と既に三回も取り上げられている。タイムスリップを思わせる数百年後の村や異なる者との愛である浦島太郎と乙姫の物語がウルトラシリーズと相性が良いのであろう。
同じ題材を下敷きにしているので「育てよ! カメ」と今回の話に「乙姫」と言う名前の人物が登場する事になった。名前は同じだけれどおそらく両者に関係は無いと思われる。

 

浜辺に流された男。手にした貝を開くと中には時間が巻き戻っていく時計があり、歪んだ悲鳴が辺りに響く。
何度か登場する二人の乙姫の場面が幻想的かつ恐怖的で印象に残る。今回の話の予告を見た時はホラーかと思った。

 

シマ隊員は非番の時は釣りをしていると言う事を聞いたカザモリはまだ若いのにたまの非番にデートもしないなんてと呟く。そう言えばダンは『セブン』の「700キロを突っ走れ!」でアンヌとデートをしていたっけ。

 

浜辺に倒れていた女性を保護したシマ隊員は話しかけても女性が反応しないのを見てすぐさまジェスチャーに切り替える。こう言う細かい部分がプロらしくして良い。

 

シマ隊員が保護した女性が光を発するのと同時に過去の村が現在の街に流れ込んでくる。
過去の村に塗り込められていく現在の街の場面は特撮ならではの映像であった。
過去の半鐘と現在の踏み切りの音を重ね合わせるのが面白かった。

 

竜ノ宮市で報告された過去の村の姿があまりに正確だった事からミズノ隊員は光を超えるタキオン粒子の可能性を語る。
昔話を下敷きにしている今回の話にSF作品『セブン』としての科学的根拠を加えたのだと思っていたら後の「わたしは地球人」の伏線にもなっていたのには驚いた。
考えてみれば、人間が既に忘れてしまっていた罪を謎の女性が告発しに来ると言う構図も「わたしは地球人」と同じである。狙ったのかどうかまでは分からないがシリーズの流れとしてかなり上手かった。

 

魚を釣っては家々を訪問して売っている老人。食堂の主人が言うには半年くらい前にひょっこり現れたらしく、意味不明な事ばかり言っていたので住民には頭がおかしいと思われているらしい。
現在の街に流れ込んだ過去の村を見た老人は自分がそこに住んでいた事を思い出すが自分がどうして今ここにいるのかまでは思い出せなかった。
保護した老人を病院に連れて行ったカザモリは医者から老人が生きているとはとても言えない状態である事を告げられる。そこに謎の男が現れて全てはこの老人から始まった事だから手出しは無用だとカザモリに忠告する。
今回はカザモリからダンに変身する場面が何度かあるがスムーズにそれでいて印象的に出来ていた。

 

子供の時からの知り合いらしいおばちゃんの旅館でシマ隊員は保護した女性を休ませる事に。そこでおばちゃんは女性の目元が亡くなったシマ隊員の母親に似ていると話す。
その夜、旅館からいなくなった女性を追ってシマ隊員は浜辺にやって来る。海が大荒れな夜の浜辺は霧も出ていて言い知れぬ何かを感じる雰囲気だった。
人間はどうして約束を破るのかと尋ねる女性に向かってシマ隊員は自分の過去を語る。
子供の頃、父と母と自分の3人でこの浜辺によく来ていたが、母は自分が9歳の時に亡くなり、父は必ず迎えに来るからと約束して自分を祖母の家に預けた。
そこでシマ隊員は拾ったペットボトルを無言で握り潰す。
その話を聞いて女性は自分ならその人を許さないと語るが、シマ隊員は自分も幼い頃はそうだったが今はなんとなく分かるような気がする、どうしようもない事も多分あるんだろうなと答える。
女性はその答えを理解出来なかったが、シマ隊員は理解できなくていいんだよと語る。
翌朝、旅館に戻った女性はいつも素足だったので下駄を貰うがその感覚にちょっと困惑気味。その時の反応がカワイイ。慣れないせいか下駄の鼻緒を切ってしまうが、シマ隊員はそれを持っていたハンカチーフで直す。一体いつの時代のドラマやらと思うが今回の話は人間臭い庶民派シマ隊員のキャラクターが上手くハマっていた。

 

タキオン粒子を確認したミズノ隊員はシマ隊員の隣にいる女性こそがタキオン粒子を発していた未知の生命体だと突き止める。シラガネ隊長から女性が人間ではない事を知らされたシマ隊員は女性に銃を向けるが……。
この場面、シラガネ隊長がシマ隊員に女性を撃つよう強く命じるのが妙に印象に残った。今回に限らずシラガネ隊長は物語の中で憎まれ役を担う事が多いが『セブン』のキリヤマ隊長のイメージがあるのだろうか? 自分はキリヤマ隊長は「待て!」と言って部下を抑えるイメージが強いのだが『平成セブン』のスタッフには「ノンマルトの使者」のイメージが強いのかもしれない。

 

老人が勝手に住み着いた小屋を訪問した役所の人は明日には取り壊しだから出て行ってほしいと告げ、アンタが記憶を取り戻したら自分も協力できるのにと嘆くと、お土産に「最中の亀よし」を置いていく。
ステレオタイプな役人でなくて良いなぁと思っていたら実は正体は亀であった。さり気に(正体を知った後で見ると結構直接的だったが)老人に記憶を取り戻させようとしていたのが上手かった。
亀はその後もタクシーの運転手として老人を約束の場所に連れて行ったりしている。かつて背中に浦島太郎を乗せていた亀が今度はタクシーに浦島太郎を乗せると言う展開が洒落ている。

 

TVで夕顔を見て何かを思い出した老人は亀のタクシーに乗せられて浜辺に。
そこで夕顔の花を見る老人の背後に女性が現れて何故貝を開いたのか問う。
「思い出せ。その手の傷さえ忘れたか?」。
再び過去の村が流れ込み、そこで過去の村の子供と話をした老人は自分が浦島太郎であった事、竜宮城で乙姫と会った事、村の皆に自分の無事を知らせに一度帰る時、乙姫に竜宮城に必ず帰って来る約束として貝を渡され、その貝の棘で二人の右手に傷を付け合った事、乙姫から決して貝を開かないよう言われ、夕顔の花がしおれるよりも早く帰って来て乙姫に夕顔の白い花を見せてあげると約束した事を思い出す。
全てを思い出した浦島太郎だったが手にした夕顔の花は赤かった。
一方、浦島太郎が住んでいた小屋の中では女性が開いていた貝を閉じ、それと同時に現在の街に流れ込んでいた過去の村が消える。
許してくれと謝る浦島太郎に対して女性は「お前を許す者はもういない」と傷の付いていない右手を見せる。この街の浦島伝説に登場する乙姫は双子だったのだ。乙姫の双子の妹が「姉は貝を開いた瞬間に死んだ。償うがいい」と約束の貝を海に投げ入れると海から大龍海が現れる。

 

大龍海は見た目と違って素早く空中を移動しウルトラ警備隊と空中戦を繰り広げる。
龍なのだから空を飛べるのは当然なのだろうが、二足歩行の怪獣が普通に空に浮いている場面は結構驚く。『マックス』の「龍の恋人」に登場したナツノメリュウみたいだったらあまり違和感が無いのだが。
口からミサイルみたいなものを撃つのも違和感があった。昭和のシリーズらしいのだが話の展開上は炎とかの方が合っていたかも。
セブンのアイスラッガーを右手に突き刺しても痛みが無かったらしいが、それは乙姫と同じく右手に傷穴があるからなのかな。

 

セブンと大龍海との戦いの最中、辺りに乙姫と思われる女性の声が響く。
「何故……人間は忘れる? 何故……人間は約束を違える? 何故お前は人間を守る? この不実な生き物を……」。
セブンを倒した大龍海は浦島太郎の所へ向かう。赤い夕顔を大龍海に見せる浦島太郎。その時、夕顔が白くなり、大龍海は浦島太郎を口に含むと光の水滴となって消えるのであった。
それを見た乙姫の双子の妹は約束を違えた浦島太郎、それを許したと思われる姉の乙姫、そしてシマ隊員に対して一体何を思ったのだろうか……?

 

全てが終わった後、シマ隊員は乙姫の双子の妹の下駄の鼻緒を直した時に使ったハンカチーフを海に流す。一枚のハンカチーフを乙姫の双子の妹とシマ隊員とで分けた展開は乙姫と浦島太郎の約束の貝の話に繋がるのかと思ったがそれは無かった。乙姫と浦島太郎の関係と乙姫の双子の妹とシマ隊員の関係を繋げる事は可能だったと思うが……。
今回の話はシマ隊員が終盤全く登場していないのが残念。乙姫の双子の妹がどこかに連れて行っていたらしいが、どこだったのだろう……? 

 

今回はウルトラシリーズらしい幻想的で不思議な話だったがSF作品である『セブン』のシリーズの中では異色な話だったと言える。
「あの男(亀)は老人の望みを叶えてやるのだと言った……。乙姫は老人をこの海に葬りに来たのだろうか? それとも老人を竜宮に連れ帰ったのだろうか? 果たして乙姫は老人を許したのか許さなかったのか? それは誰にも分からない……」。