帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「模造された男」

「模造された男」
ウルトラセブン1999 最終章6部作』第5話
1999年12月5日発売
脚本 右田昌万(原案 秋廣泰生)
監督 高野敏幸
特撮監督 満留浩昌

 

宇宙ロボットキングジョーⅡ
身長 56m
体重 4万9千t
かつてセブンと戦って神戸港に沈んでいた機体を地球防衛軍と新甲南重工が引き上げて地球防衛用の軍事ロボットとして修復した。
ラハカムストーンの影響で変わったカネミツ社長によってレスキュー用の電子頭脳を搭載されたが、カジ参謀の恐怖と不安を受けたラハカムストーンによって元の殺戮兵器に引き戻された。
目からレーザーを撃ち、分離して攻撃を回避する。
かつてライトンR30爆弾を受けた箇所にアイスラッガーを連続して受け、最後はウルトラノックで倒された。

 

物語
カジ参謀は新甲南重工のカネミツ社長と協力してかつてセブンを苦しめて今は神戸港に眠っているキングジョーを引き上げて地球防衛用の軍事ロボットに転用しようと考える。

 

感想
『セブン』の「ウルトラ警備隊西へ 前編」「ウルトラ警備隊西へ 後編」の後日談で昭和に登場して平成に復活した怪獣の中でも高い評価を受けているキングジョーの話。特にセブンとの戦いで見せた分離合体機能は絶対に見てほしい名場面。
一方でストーリー面ではキングジョー以外のエピソードも色々と盛り込まれて消化不良になってしまったところがある。これは他の話にも言える事だが、キングジョー復活を謳うのなら素直にキングジョーを中心にした話を作ってほしかった。(カネミツ家やラハカムストーンの話はキングジョーの話でなければやれない話ではなかったはず)

 

「今、世界中に軟弱な理想論ばかり掲げた青白い平和思想が蔓延してマスコミを使って軍需産業に精神的な重圧をかけている」と語るカジ参謀。
ウルトラシリーズでこういう話は珍しい。他に思い浮かぶのは『ダイナ』の「平和の星」くらいかな。
空飛ぶ大鉄塊」ではフレンドシップ計画に対する世論は真っ二つに分かれていたが今回は平和志向に流れているらしい。さすがにフレンドシップ計画は過激すぎたのかな。あまりに極端な動きがあるとバランスを取ろうと反対に向かうのが人間と言うものなので。

 

カジ参謀の進める計画に対してカネミツ社長は「一民間企業がアメリカや先進国に匹敵する力を持てる」「地球防衛軍と新甲南重工お互いの総合力を高める相乗効果を持つ」と述べ、それを聞いたカジ参謀はこれからも上手くやっていけそうだと喜ぶ。
公的機関と民間企業のこういう関係はあって当然だがウルトラシリーズで描かれる事は殆ど無い。出来れば今後もどこかで取り上げてほしい要素だがメインターゲットである子供達には難しい話かな。
因みにカネミツ社長はカジ参謀の「平和主義者がマスコミを使って重圧をかけている」と言う言葉に対して「それを重圧ととるかどうかの違いがある」と平和主義者を敵視するカジ参謀をさり気に批難したりと全てがカジ参謀と一致していたわけではない。

 

地震が起き、ある神社に謎の石柱が出現する。それは1万2千年前に海底に沈んだムー大陸の神殿にあったと言われていた石柱ラハカムストーンに似ていた。
その後、ラハカムストーンの秘密を知った人々が一斉に押し寄せ、一晩で平常の30倍以上の死亡者が出た事が明らかになる。つまり、人の死を願って叶った人がいたのだ。ホラー作品ならともかくヒーロー作品で人の死の願いが叶うのは珍しい。
人を殺せる事を知っていながらラハカムストーンに自分の願いを叶えてもらおうと警官隊やウルトラ警備隊と衝突する人々。こういう人間の醜い部分を隠さず取り上げるのが『平成セブン』らしい。

 

学生時代に幻の大地にハマってペルーまで石版を探しに行った事もあると言うシラガネ隊長の意外な過去に驚き。
伝説によるとムー人は超能力を使っていて大勢が集まると山のような岩も動かす事が出来た。そして戦争やポリスの建設で超能力を疲弊させるとラハカムストーンの前で瞑想して回復させていたとの事。さらに一説によるとムー大陸地殻変動前の日本に位置していたらしい。
有名な幻の大地であるムー大陸が堂々と話に登場するとは思わなかった。
後に解析されたラハカムストーンの文字には「昔々、人間は海から陸に上がった」と書かれていた。ミズノ隊員は正確には海から陸に上がった生物が人間に進化したと指摘するが、もしラハカムストーンの文字を真実とするならば、海に住んでいた人間、つまりノンマルトの事を語っている可能性がある。ひょっとしたら、ムー人はノンマルトだったのかもしれない。

 

ラハカムストーンをちゃんと発音できないシマ隊員にサトミ隊員は「自分の名前もミサトとよく間違えていた」と突っかかり、口喧嘩の果てに「バナナの皮で滑って転んで豆腐の角に頭をぶつけろ」と言ってしまう。
後にシマ隊員も言っているがサトミ隊員は思い出したかのようにいきなり突っかかる事がある。
サトミ隊員の言葉が叶ってしまった時はベタだが笑えた。「死んでしまえ」と言っていなくて本当に良かった。
しかし、この時のサトミ隊員を見ると後の『EVOLUTION5部作』で地球の命運を授けられる人物にはとても思えない。

 

家に帰ったカネミツ社長に向かって娘のハルカは血も涙も無い残酷な人間で母も早く別れた方が良いと言い放つ。
仕事での父の姿を見たら分からなくもないが、さすがに言いすぎな気もする。程度はあれボランティアではないのだから仕事には非情な面があるもの。
父は娘の言い分を全く聞いてくれなかったらしいが、ハルカの方も父とまともに話をしようとしていたとは思えない。ハルカはちゃんと父と向かい合っていたのだろうか。どうも逃げていたように思えるが……。

 

キングジョーを修復して地球防衛軍の軍事ロボットにすると言う提案をするカジ参謀。(実は提案時には既にキングジョーの修復が完了していたりするが)
最終的には世界各地にキングジョーを配備すると言うカジ参謀に対して他の参謀達は市民に過剰防衛と言われる懸念があると反対する。
それを聞いたカジ参謀は「市民市民と! 地球防衛軍はいつから市民の使用人に成り下がったのか? 強力な敵が現れて今の軍備でこれを防げなかった場合、そのあなた方を真っ先にこき下ろすのもその市民だ! もう彼らの言いなりになるのはやめなさい。今の地球防衛軍はすぐ市民にお伺いを立てるだけで芯が一本も無い! これなら確実に地球を守られると市民も承服させられるものを今こそ打ち立てるべきだ!」と熱弁を振るう。
市民と言うのは無責任なものなのでカジ参謀の言い分は正しい。市民から突き上げられた平和志向の世論が「栄光と伝説」でのカジ参謀の過去に少なからず影響しているのだろうか。
ただ、他の参謀達はただ市民にお伺いを立てているのではなくて市民と言う言葉を上手く口実に使っている節があって、市民を上手く利用できないカジ参謀はある意味で純粋と言うか青臭さを感じる。

 

セブンも倒せなかった宇宙最強のスーパーロボットを制御できたら頼もしいとタケナカ長官はカジ参謀の提案に賛同する。参謀会議での決定権は長官にあるらしいが、そう考えると『平成セブン』でのタケナカ長官は結構凄い決断をしている。

 

30年以上前に実際にキングジョーの被害に遭った人々の中には今回の修復を快く思っていない人も少なからずいるらしい。しかし、ラハカムストーン・カネミツ社長は憎悪の対象であるキングジョーを平和の使者に生まれ変わらせる事で人間の意識を変革させたいと答える。
マスコミの言葉だけだが過去の事件の被害者に言及したのが良かった。
見方を変える事でその存在の本質を変えるのはカネミツ社長とキングジョー両者の共通点となっている。

 

「人類は家族」「持つ者は持たない者に分け与えれば良い」と今までとは正反対の発言をするラハカムストーン・カネミツ社長に驚いたカジ参謀は侵略者が来た時にレスキューロボットで守れるのかと詰め寄る。
それに対してラハカムストーン・カネミツ社長はいきなり禅問答みたいな答えを返す。
「侵略者は来ない。しかし、カジ参謀が同じ事を言い続けたら来る」「宇宙はコピー機。良い願いだろうと悪い願いだろうとあまり同じ事を考え続けていたらその願いは世界に押し出される」「考え方を変えれば地球は滅びない」。
それを聞いたカジ参謀は「お前は変わりすぎだ」と吐き捨てる。確かに今までのカネミツ社長を見ていると今のラハカムストーン・カネミツ社長は何かの宗教にハマったかのような印象を受ける。

 

新甲南重工との取引が原因で会社が倒産し自殺して自分に掛けた保険金で従業員の退職金を払った池田製作所の社長。その夫人は包丁を持ってカネミツ社長を殺そうとするがラハカムストーン・カネミツ社長は土下座して訴える。
「私が死んであなた方が幸せになれるのなら殺されよう。だが、そうじゃない。残された従業員やその家族達に最善の事をさせてほしい。努力させてくれ。最善を尽くすチャンスをくれ。お願いします」。
確かにそうなのだが、あまりにも立派すぎて逆に人間らしさが感じられないところがある。まぁ、人間として良い事を素直に出来るラハカムストーン・カネミツ社長を異常にも思えるその感覚が本当はおかしいのかもしれないのだが……。

 

解析の結果、ラハカムストーンは人間が思い描く事を信号化してプラズマを操作する、人間の思考を複写するコピーマシンと言う事が判明する。
そしてカネミツ家にラハカムストーンの反応があった事からカネミツ社長への検査が行われるが、ラハカムストーン・カネミツ社長は「検査をしても自分が特別な存在と分かるだけ。何故なら人間は皆特別な存在だから」と答える。
検査の結果、カネミツ社長は健全たる人間である事が証明されるが、カザモリはまだキングジョーに対する不安を拭い去れない。それを感じたシラガネ隊長はウルトラ警備隊として市民のプライバシーにこれ以上は関われないとして、休暇中なら何をやっても自分は一切口は出さないとカザモリに休暇を出す。
隊員に休暇を与えて自由に行動させる展開は久し振り。
一方、カジ参謀は今のカネミツ社長は体を乗っ取られたか洗脳されたと侵略者の存在を疑う。当たらずも遠からずだったが、仮に本物のカネミツ社長が自分の今までの行動を悔いて変わったとしても、やはりカジ参謀は同じ結論を出していたであろう。そう考えると、ラハカムストーン・カネミツ社長が告げた「カジ参謀自身が侵略者を呼び寄せている」と言うのは当たっていると言える。

 

ハルカは変わった父親を喜びながらもどこか不安も抱いていた。そこにダンがやって来て話をする。「地球星人の大地」のトネザキ教授の時もそうだが、ダンは初対面の相手でもすぐさま腹を割った話をしている。凄いと言うか、ちょっと不自然。
ハルカがラハカムストーンに願ったのは「同じ顔だが心は全く正反対な父に家に来てほしい」と言うものだった。その願いは叶ったのだが、それなら本当の父は今どこで何をしているのか気になってしまったらしい。
父の変化を望んだが、それに違和感を覚えて本当の父の事を気にする。ここまで描いたのなら、ハルカが本当の父ともう一度向かい合おうとする展開を入れてほしかった。(見る限り、本物のカネミツ社長が見付かったりラハカムストーン・カネミツ社長が消えたりしたのはハルカの願いとは思えない)

 

ラハカムストーンの所にやって来たカジ参謀はそこでラハカムストーン・カネミツ社長を見付ける。
ここからラハカムストーン・カネミツ社長の大演説が始まる。
「皆、何故生きているのか分からなくなっている。この世は終わると言う考えに取り憑かれている。何故だ? 何故だ? そのサイクルが早くなって石を浮上させた。これはただの石に過ぎない。ただ、この石は宇宙の仕組みを具現化したものでもある。宇宙はあなた方の考えをそのまま複写するコピー機である。少し前のムー人も私のメッセージを受け入れる事は出来なかった。少し前、1万年前、同じ事だ! この宇宙は! 一瞬のうちに創られた! あなた方は私と別れ、一瞬のうちに陸に上がり、それらを忘れる不便な体を創った! 進化論!? あなた方は自分の知っている枠組みに当てはめようとするばかりで無限の時間の中にある事を知る魂の記憶に問いかけようとはしない! 私はあなた方に等しい。ただ思い出せと言うだけだ」。
本当は途中にカジ参謀の問いがちょいちょい挟まれているのだがそれでもかなり長い。ウルトラシリーズでもここまで長い台詞はなかなか無いだろう。
ラハカムストーン・カネミツ社長の話は侵略者によって多大な被害を受けた地球を舞台に公的機関と民間企業の繋がりや地球防衛軍内部の派閥闘争と言った要素を展開していたこれまでの『平成セブン』とは方向がややズレているが、この後の『平成セブン』はさらにアカシックレコード等も出てきて、このラハカムストーン・カネミツ社長が演説した方向へと舵を切っていく事になる。

 

自分はあなたが思う何者でもあるとしてラハカムストーンはカジ参謀の姿になる。
それを見たカジ参謀は驚愕し、ラハカムストーン・カジ参謀をエイリアンか異次元人だとして、キングジョーを使って世界を破壊しようとしていると叫んでしまう。
この合わせ鏡のカジ参謀の場面が面白かった。
カジ参謀は今までも単なる悪役ではなくて心のどこかに不安や恐怖を抱いているように描かれていたが、コピー機であるラハカムストーンによってそれらが一気に表面化してしまった。
「何を言っている!? それは俺じゃない! お前が言っている事だ! お前が考えている事じゃないかぁ!」、
「同じ事だ。この世にはあなたしかいない。石はあなたの考えに応える」。
恐怖に耐え切れなくなったカジ参謀はラハカムストーンの消滅を願い、自分の内面を隠そうとするのであった。

 

今回のキングジョーとの戦いはギエロン星獣との戦いを思い出すアイスラッガーの連続攻撃、ガッツ星人との戦いを思い出すウルトラノック、最後の欠けるアイスラッガーとキングジョーの強さを存分に見せてくれた。
特にワイドショットをキングジョーが分離して回避し、そのまま超高速でセブンの後ろに回り込んで合体して反撃する場面はCGを上手く使っていて『平成セブン』だけでなく全ウルトラシリーズの中でもトップクラスに入る名場面であった。

 

熊本の実家で発見された本物のカネミツ社長は病院で治療を受ける事になり記憶も順調に回復していっているらしい。
「医者の力と言うより愛の力」「家族とは自分を映す鏡」「困難に直面した時に本当の自分を発見する事が出来る」と語られているが、はっきり言って描写不足。
ハルカの物語として見た場合、上に書いたようにハルカが本物の父と向かい合おうとする場面が欲しかったし、カネミツ社長の物語として見た場合、本人の出番が少ないし、ラハカムストーン・カネミツ社長の出番を含めたとしても宇宙やら何やらと壮大すぎるテーマを独り語りしているだけなのでドラマが弱い。ラハカムストーンの話として見ても前後の話と飛びすぎていて浮いているし、キングジョーの話として見てもカネミツ家やラハカムストーンの話に押されて描写が少なすぎると、今回の話は一つ一つの要素は面白いのだが、やりたい事が多すぎてまとめきれず結果として全てが消化不良になってしまった感じがする。