帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「イノセント」

EPISODE:4 イノセント」
ウルトラセブン誕生35周年“EVOLUTION”5部作』第4話
2002年5月22日発売
脚本 神戸一彦・武上純希
監督・特技監督 高野敏幸

 

双頭合成獣ネオパンドン
身長 60m
体重 6万4千t
外見は異なるが遺伝子レベルはパンドンと同じ種。
セブンが抱えるトラウマを狙って謎の男が再生したらしい。
かつてパンドンを操っていたゴース星人のコントロールシステムで操作される。
植物生命体と同種の種子を蒔く。口から赤い炎と青い光弾を吐く。尻尾で敵を攻撃する。
コントロールシステムを手にする者がいなくなって動きが止まったところをセブンのエメリウム光線と新技・ウルトラクロスアタッカーで倒された。
『セブン』の時に没になったデザインをリニューアルさせたもの。

 

植物生命体ミツコ
身長 150cm
体重 40kg
ユリ科に酷似している地球出自の生物で進化した植物と考えられる。謎の男が言うには「選ばれし存在」。
ネオパンドンが蒔いた同種の種子はサンプル用の1本を除いて全てウルトラ警備隊に処理されてしまった。
体液は緑。植物を操れる。憎しみとか怨みとか言う概念が無い。
老人が育てて「ミツコ」と名付けた少女はネオパンドンに苦戦するセブンを助ける為にコントロールシステムを手に入れようとするがシマ隊員に射殺されてしまった。

 

円盤竜
身長 不明
体重 不明
ウルトラ警備隊、植物生命体、そしてセブンであるカザモリの動向を見る謎の存在。

 

物語
ネオパンドンと戦うセブン。地上に蒔かれた謎の光。植物を癒す少女。単独行動を取るカザモリ。サトミが不在でユキと言う新入隊員がいるウルトラ警備隊。全てを見る円盤竜。
オメガファイル開示から5年、謎が謎を呼ぶ新たな物語が始まる。

 

感想
『最終章6部作』の衝撃の結末でファンだけでなくスタッフさえも無いと思っていたオリジナルビデオシリーズ第3弾。
ダンもいなくなって『平成セブン』オリジナル設定がこれまで以上に前面に出るようになった。(森次さんは今回はナレーションのみの参加となっている)
これまでのシリーズより時間が短くなってテンポが良くなっている。

 

いきなりセブンとネオパンドンが戦っていたのに驚き。
今回はEPISODE:4から発売すると言う異色の構成だったが、『最終章6部作』でいなくなったセブンのその後をいきなり地球で普通に戦っているとした展開が見事だった。意表を突かれたし、これまで何があったのか、これからどうなるのかと後の展開に興味を繋げられたと思う。

 

カザモリとサトミがいなくなった第3期ウルトラ警備隊に新たにユキ隊員が加入している。
外見は女性だが言動は男性のユキ隊員はこれまでのウルトラシリーズでは珍しく、どちらかと言うと漫画やアニメやゲーム等に多いキャラクターであった。
作品ごとに変更されていくポインターはオリジナルとは全く違うものになっている。ここまで来ると逆にどこまで変わっていくのか興味が出てくる。

 

コントロールシステムを使ってネオパンドンを操っていた謎の男を演じたのはメトロン星人(3代目)の人間態を演じていた神威杏次さん。
狙ってか偶然か分からないが喋り方も姿もメトロン星人と似た感じになっていて、メトロン星人の残党が裏で糸を引いているのかのような雰囲気があった。

 

ネオパンドンのデザインが強敵感があって格好良かった。
『セブン』の「史上最大の侵略 前編」に登場したパンドンは技術の関係で本来のデザインから変更されたらしいが、そう言った過去の没になったデザインを時を経て復活させる事が出来るのは長いシリーズの利点と言える。

 

セブンとネオパンドンの戦いだが、謎の男が語っていた「セブンが抱えるパンドンへのトラウマ」があまり活かされていなかった感じがする。
後で分かる事だが、今回のセブンはダンではなくカザモリが変身していて意識もこの時点ではカザモリのものが強いので実はパンドンに対するトラウマはあまり無かったのかもしれない。それとも(『帰マン』の「ウルトラ5つの誓い」の郷秀樹のようにカザモリもセブンがパンドンに苦戦した夢を見ていたのだろうか?)

 

ゴース星人がパンドンを操る時に使っていたと言うコントロールシステムは一種のテレパシー強化装置でシステムを持つ者の感情を送り込んでコントロールするものであった。
宇宙人達は知性の無い怪獣をどうやって操っていたのかと言う疑問にテレパシー強化装置でコントロールしていたと言う答えはなるほどではある。「史上最大の侵略 後編」でゴース星人が全滅した後に改造パンドンが現れてセブンと戦っているが実はゴース星人の生き残りがいてその人物の怒りや憎しみで動いていたのかもしれない。

 

ミズノ隊員はパンドンのコントロールシステムをオメガファイルで見たと言っている。
封印が解かれたから希望者は自由に見られるようになったのかと思いきや実はそうではなかった。その理由は「パーフェクト・ワールド」で明かされる。

 

パンドンが蒔いた種子を危険視したウルトラ警備隊はサンプル用の1本を除いて全ての種子を薬物で処理する。しかし、その種子だけを処理できるはずもなく他の植物にも大きなダメージを与えてしまう。
そんな枯れた植物と汚染された湖を治す謎の少女。自然を汚すのは容易いが元に戻すのは難しい。少女の能力は失われた緑を戻せる素晴らしいものかと思いきやウルトラ警備隊は少女をただならぬ能力を持つ人間ではない存在として危険視する。
環境汚染は『平成セブン』通してのテーマの一つだが今回はそれに人間の常識を超える存在に対する畏怖を付け加えている。
後にセブンとネオパンドンが人間が枯らした木々を手前に戦っている。こういう細かい部分に気を使っていると嬉しい。

 

カザモリがサトミの家にやって来るが、サトミは不在で代わりに『はるかなはるかな星の物語』と言う童話の原稿が置いてあった。童話の内容はそのまま『EVOLUTION5部作』の内容に繋がっている。

 

謎の少女を追いかけるカザモリは村外れに住む老人と出会う。
ミツコと言う娘が20年前に死んだとか、あの少女は自分が育てて咲かせたミツコだとか、老人の話は飛んでいてカザモリもシマ隊員も困惑気味。
老人とミツコの関係はおそらく『竹取物語』がモデルであろう。『竹取物語』はかぐや姫の設定が異星人なので『浦島太郎』と同じくウルトラシリーズではよく取り上げられる題材となっていて今回の話の他に『A』の「さようなら夕子よ、月の妹よ」、『レオ』の「さようならかぐや姫」、『星の伝説』がある。
姿を見せないミツコが老人の玄関に薬草を置いていくのも昔話でよくある展開。ところで老人はミツコがいなくなって喘息を治す薬草をもらえなくなってしまったが、この後はどうなったのだろうか? 気になる。

 

今回のカザモリはウルトラ警備隊から離れている。
この「特別チームに所属しない変身者」と言う設定は後に『ネクサス』へと繋がっていく。
カザモリはテレパシーを使ったりしていて、ミツコと同じく人間の常識を超えた存在になっている。

 

カザモリの前に現れた謎の男はミツコが選ばれし存在で古い人類がミツコの仲間を全て殺してしまったから力に訴えたと語る。
しかし、実際は謎の男がネオパンドンを操ったのはウルトラ警備隊が種子を処理する前であった。と言うか、ネオパンドンで種子を蒔いたのに種子を処理されたからネオパンドンを操ったと言うのはどう考えてもおかしい。『平成セブン』はこう言う事実を自分の都合の良いように変えて話をする人物が多い。

 

ミツコを危険視して追うウルトラ警備隊。
カザモリはシラガネ隊長に「ミツコは地球にとって希望と言える存在」「地球は癒しの時代を迎えている」「植物生命体は傷付いた地球を癒す為に進化して生まれてきた」「その裏には地球の意思を受けた何者かがいる」と語る。カザモリの言葉は『G』や『ガイア』に登場したガイア理論を思い出す。
しかし、シラガネ隊長はカザモリの訴えに対して「ウルトラ警備隊は地球の安全を守ると言う重要な責任がある」と答える。

 

やたらとウルトラ警備隊を旧人類と呼ぶ謎の男はウルトラ警備隊がミツコを追うのを見て旧人類はやはり野蛮だとネオパンドンを出現させる。
力に訴えていると言う点では謎の男は旧人類であるウルトラ警備隊と全く同じ。
植物生命体に仇なす存在を皆滅ぼせと言って操ったネオパンドンに植物ごと破壊させていたところを見ると植物生命体を守りたいと言うのは単なる口実で本当はウルトラ警備隊や旧人類への復讐が真の目的のように思える。

 

再び現れたネオパンドンに対してカザモリはウルトラアイでセブンに変身する。
『誕生30周年企画』や『最終章6部作』ではカザモリに変身していたダンがセブンに変身していたのでカザモリ本人がセブンに変身するのはこれが初めて。
思えばカザモリ本人が全編に渡って登場する事自体かなり珍しかったりする。

 

謎の男からコントロールシステムを奪ったミツコはネオパンドンを止めるが、そこにやって来たシマ隊員はコントロールシステムを奪ってミツコに銃を向ける。
前にミツコを追いかけていたシマ隊員が崖から落ちそうになってミツコに助けられる場面があったが、シマ隊員にはミツコに罠にかけられて崖まで誘き寄せられたように見えたのかもしれない。
コントロールシステムを持ったシマ隊員はセブンにネオパンドンをぶっ潰せと願うが、そんなシマ隊員の怒りの気持ちを受けてネオパンドンが凶暴化してしまう。それを止めようとミツコがシマ隊員に迫るが、恐れたシマ隊員はなんとミツコを撃ってしまう。
得体の知れない相手への恐怖心が悲劇を引き起こす展開で、シマ隊員の心情が描かれていたのは良かったが、シマ隊員がコントロールシステムを持って怒りの気持ちを出した展開には疑問が残る。コントロールシステムが持ち主の気持ちを受けているのは分かっていたはずだし、そもそもコントロールシステムを持っていながらネオパンドンを止めようとしなかったのは不自然であった。

 

ミツコを撃ったシマ隊員の行動をシラガネ隊長は正しかったと語るが、ミズノ隊員の分析から植物生命体には憎しみとか怨みとか言う概念が無くて、ミツコにシマ隊員を傷付ける意思は無かった事が判明する。
シマ隊員は殺され傷付けられ酷い目に遭わされて人間を憎しまないなんてありえないと叫ぶが、ユキ隊員は人間が森を滅ぼした事はあっても植物が人間に復讐した話は聞いた事が無いと答える。
確かに植物が人間にとって脅威となる事はあっても植物に人間に対する明確な憎しみは無いと思う。人間ではそれは聖人のレベルだが……。

 

この時の地球の新種と言えるミツコを異常に敵視するシマ隊員と射殺と言う手段を許せないユキ隊員の事情は「ネバーランド」で語られている。

 

ミツコの死を知ったカザモリは植物生命体最後の種子をウルトラ警備隊から持ち去ってしまう。
謎の男にやはり人間の味方かと言われたカザモリはウルトラ警備隊と対立してでも植物生命体を守る事を決意する。
「この星では無垢なる存在は受け入れられないのか? サトミ……。君もそうだった……」「俺は……誰も守る事が出来なかった……。この無垢なる命は必ず守る。必ず……、何があっても……」。
そして、その上空には謎の円盤竜が……。

 

ウルトラシリーズでは地球以外の星の知的生命体は「宇宙人」と呼ばれる事が多いが『平成セブン』では「エイリアン」と言う言葉も度々出ている。さらに今回は懐かしい「星人」と言う呼称が登場。『帰マン』や『レオ』を思い出す。

 

地球防衛軍の看板を見付けたカザモリの眼前に廃墟となった基地が広がる。
「かつて、この星に地球防衛軍と呼ばれる巨大なる正義があり、選ばれた6人の戦士によりウルトラ警備隊が組織されていた。そして7番目の戦士・恒点観測員ウルトラセブンは存在した。しかし、時が経ち、ウルトラセブンはこの星に戻ったが、かつてのような絶対なる組織は既に消え去った後だった。その全ては、これから語られる事になる」。
『平成セブン』では東京近郊に新しい地球防衛軍の基地が作られたはずだが今回の廃墟跡を見ると町外れ、ひょっとしたら富士山麓にあるように思える。「パーフェクト・ワールド」には地球防衛軍創設当時に作られた通路が出てくるし、ひょっとしたら前の基地に戻されたのかもしれない。

 

脚本の神戸一彦さんはウルトラシリーズは今回の『EVOLUTION5部作』のみの登板となっている。