帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「ネバーランド」

EPISODE:3 ネバーランド
ウルトラセブン誕生35周年“EVOLUTION”5部作』第3話
2002年8月21日発売
脚本 武上純希
監督 小原直樹 
特技監督 高野敏幸

 

メタル宇宙人ガルト星人
身長 2m~50m
体重 150kg~4万t
普段は観測所のタシロに変身している。
カザモリとセブンの関係を知っていて、カザモリに地球の生物の進化に介入しないよう釘を刺す。
本人が言うには地球侵略の意思は無く、進化の瞬間を目撃したいだけらしい。
地球の進化の設計図を綴れる「あの方」の意思を継ぐとして新人類の地球支配を影ながら助けていた。
両手から光弾を発するがカザモリの念動波を受けて逃走。その後、ネオパンドンを呼び出す。

 

双頭合成獣ネオパンドン
身長 60m
体重 6万4千t
ガルト星人に呼び出されて街を破壊する。復活したセブンと戦うが……。

 

円盤竜
身長 不明
体重 不明
ある日突然現れて地球を監視していた。
正体はセブンとは違う星からやって来た恒点観測員。
死亡したサトミ隊員を収容して姿を消した。

 

物語
地球防衛軍壊滅から数ヶ月が経過し、ある存在による地球支配が静かに確実に進行していた。
カザモリがセブンから教えられた地球の支配を狙う新たな侵略者、それは……。

 

感想
自分が地球人でなくなっている事に不安を感じたカザモリは精神世界でセブンに語りかける。どうやらセブンは地球を去る時にカザモリの中に何かを残していったらしい。
カザモリは今の地球は地球人である自分にはもうどうしようもないところまで来ていてセブンの力が必要だと訴える。
前回の「パーフェクト・ワールド」ではセブンの力を発揮し始めたカザモリによってウルトラ警備隊は危機を脱したがシラガネ隊長は自分の力だけでゴドラ星人の精神波攻撃を破っているので、まだ地球人だけでも何とかなりそうな雰囲気があったのだが、それから数ヶ月が経過して状況は悪化しているようだ。
このカザモリの言葉によって『平成セブン』の地球はもはや地球人だけでは事態が打開できない世界になってしまった。他のシリーズに比べて状況が切迫しているので仕方が無いのだが、最後までウルトラマンの助けから離れられなくなると言うのは珍しい。

 

カザモリとセブンが会話している事を知ったタシロはガルト星人に変身してカザモリの精神世界に入り込むと、自分には侵略の意思は無くて全ての生物にある進化の瞬間を目撃したいだけだと告げる。
さらにカザモリに向かって自然に発生した生物の進化に第三者が介入する事は宇宙の摂理に反する重大な犯罪として処罰されるとして、この星の旧人類に感情移入しすぎるのは君の悪い癖だと釘を刺す。
ガルト星人はカザモリ=セブンと見ているようだ。ガルト星人はセブンが馬の首暗黒星雲に幽閉されているのを知っているので、今のカザモリはセブンの分身やコピーのような位置付けとなっているのだろうか。特殊な力に目覚めてもカザモリが地球人である事に変わりはないと思うのだが、どうやらこの世界ではカザモリは既に地球人ではいられなくなってしまっているようだ。
ガルト星人のメタリックなデザインがウルトラシリーズには珍しくてカッコイイ。
タシロの部下だった観測所の職員は殺されちゃったのかな。可哀相に……。

 

携帯電話にゼルダチップなるものを埋め込んで特殊な電磁波で地球人を支配する。これが星人の新たな作戦であった。幻覚を見ているので自分達が星人に支配されている事も滅亡に向かっている事も気付かないと言うのが怖い。
『ティガ』の「永遠の命」に似ているが、見た目で既に異様だった「永遠の命」と違って、見た目はいつもと同じ普通の生活を送っている今回の方が見ていてゾッとするところがあった。

 

星人の支配を受けていないウルトラ警備隊は星人の支配を受けている人々には認識されないと言う設定が面白く、コンビニでの買い物場面等は日常のすぐそばに我々の知らない非日常の世界が実はあったと言うのを上手く描いている。

 

ユキ隊員は何らかの理由で星人のマインドコントロールが効いていないマユコと言う少女を見付ける。サトミ隊員に自分達と一緒にいたら星人の攻撃に遭うから置いていった方が良いと注意されるが、独りぼっちの寂しさを知るユキ隊員はマユコを連れて帰ってしまう。
父も母も自分の事が分からなくなって寂しかっただろうとユキ隊員は尋ねるが、マユコはぶたれなくなったから良いと答える。ユキ隊員も子供の頃に虐待を受けていたと言う設定だったが、マユコの虐待を受けた傷を見せる場面はウルトラシリーズでは踏み込んだ描写であった。こういうTV作品では出来ない事をやれるのが『平成セブン』の強み。

 

新生ウルトラ警備隊の秘密基地が登場。と言っても使われなくなった建物を使っているだけと言うものであった。
基地が無くなってウルトラホークとかはどうしているのか気になる。
サイジョウ参謀が普通にいたのに驚いた。アンタ、この前のウルトラ警備隊反乱時はどこにいたんだ?

 

イナガキ参謀は地球防衛軍壊滅と言う事態になった事を謎の男に問い詰めるが、謎の男は全てシナリオ通りで今の平和も一時的なものに過ぎず、いずれ地球は新人類に引き継がれると答える。「やがて地球に聖域が出現する。汚れきった我々には美しく清められた星は似合わない」と言う台詞で謎の男が地球人で自分の死をも含んで行動している事が分かる。
謎の男はさらに「「あの方」は支配などしない。世界を自らの心のままにデザインできれば支配など必要無い」と背後に潜む大きな存在を仄めかす。

 

カザモリはサトミ隊員と会うが、自分にセブンを重ね合わせて見ているサトミ隊員に向かって、自分はサトミ隊員の望む存在ではなく地球の力にも宇宙の為にもなれない中途半端な男だと自分を卑下する。
セブンの力を欲するカザモリだが、それをしたら地球人である自分を捨てる事になってしまう。彷徨うカザモリはある寺で仏像を見て、セブンのビームランプと同じく仏には白毫と言う第三の目がある事に気付く。
住職が言うには仏の全身を包む光は白毫から発せられ、天眼、又は心の目とも言われる白毫は悟りを啓いた人間にも開くとの事。そして悟りを啓く事は今の自分とは違う自分になる事ではなく真実に一歩近付くと言う事だと語る。
いきなりやって来た寺でいきなり見知らぬ住職が重大なテーマを語ってしまうのは唐突で驚きだったが、人間がウルトラマンになる事を悟りを啓く事としたのは上手い落としどころだったと思う。そう言えば、ウルトラマンのデザインは仏像がモデルになっていると言う説があったなぁ。

 

ちょっとした疑問なのだが、星人によるマインドコントロールはどこまで進んでいるのだろうか?
もし地球規模なら住職は支配されていないように見えるし、もし一部地域のみだったら支配を受けていない人々は地球防衛軍壊滅をどう考えているのか気になる。
劇中見る限りでは今回の舞台となった新電波塔周辺のみの支配となっているようだが、それなら他の国はどのような状況になっているのだろうか?

 

セブンがカザモリに教えた戦うべき敵、最も邪悪な波動を発する存在、それは人類自身であった。
新人類である突然変異体ミュータントは目からマインドコントロールを発し、手から念動波を発する等、地球人でありながらその能力は宇宙人並となっていた。ウルトラシリーズに登場する宇宙人は地球人を遥かに超える能力を持っている事が多いが、実は地球人も他の宇宙人と同じように様々な能力を発揮できる事が判明した。

 

今回の話は新人類と旧人類の対決と言う構図は面白かったが、新人類である子供達の扱いがイマイチ残念であった。
ゲームで人殺しをさせようとしたり「出来損ないの子ネズミ」とか「走れなくなった馬」とか言ったりと単なる性格が最悪な自分勝手な屁理屈をこねるムカつくガキになっていた。狙いがあっての表現なのかもしれないが、今回のシリーズのテーマを考えるともう少し違う描き方は無かったのかなと思う。

 

次の話である「イノセント」では何故か新人類について一言も触れられていないので、新人類は地球の生態系が大変化を遂げる中での単なる一過性のものにすぎなかったのかもしれない。本来は植物生命体が進化の過程で誕生する予定だったが、進化の瞬間を見たいガルト星人が自分の手で進化を操って新人類を誕生させてみたと言ったところだろうか。
ところで今回の話が終わった後にユキ隊員がマユコを連れて歩いていなかったのは不思議。大人達のマインドコントロールが解けたとしてもマユコは虐待されていたのでそのまま両親の所に帰されたとは考えにくい。ひょっとしたら、ユキ隊員が育った施設に預けられたのかな?

 

新人類と旧人類の争いを感じたカザモリの目の前に再びガルト星人が現れる。恒点観測員条項1の1として「観測員は観測すべき星の生物の進化に介入してはならない」とあるらしい。カザモリは地球人なのに地球の出来事に関わってはいけない存在とされてしまった。
カザモリは進化に介入しているのはガルト星人の方でガルト星人も所詮は侵略者に過ぎないと詰め寄り、ガルト星人の地球は「あの方」の意思で進化の設計図を綴っていたと言う答えに対しても、その存在は地球の生物を弄んでいると切り捨てる。

 

マユコを庇ってユキ隊員が撃たれて死んでしまう夢が出るが、現実はマユコを庇ったユキ隊員を庇ったサトミ隊員が撃たれて死んでしまう。
レギュラーの特別チーム隊員が死亡するのは『80』の「ウルトラの星から飛んで来た女戦士」以来で平成ウルトラシリーズでは今回の話のみとなっている。(一度死にかけるが生き返ったと言う話はいくつかあるが)

 

凶弾に倒れたサトミ隊員を抱きしめるカザモリ。前回の「パーフェクト・ワールド」でサトミ隊員と約束したのに肝心な時に来れないとは……。
カザモリ「サトミ? 何で……、何でだよ? 何で一番平和を願っていた君が……犠牲にならなきゃ……」、
サトミ「人類を……お願い……」、
カザモリ「俺はウルトラセブンにはなれない……。俺はまだその一部でしかないんだ……」、
サトミ「あなたは……あなたよ……。カザモリ……君」。
最初から最後までカザモリを君付けで呼ぶサトミ隊員。力尽きたサトミ隊員を抱きしめカザモリは絶叫する。
「許してくれ……。俺のせいだ……。俺にもっと力があれば……」。
サトミ隊員の死を目の当たりにしてカザモリは遂に今までの自分を捨てる決心をする。

 

サトミ隊員の死に何か感じるものがあったのか円盤竜が遂に動き出す。
円盤竜の正体はセブンと同じ恒点観測員だったのだが、『セブン』のナースをそのまま使ったのが残念。スタッフの話で黄金の竜は古来から云々と言う説明があったが、どう説明しても『セブン』の中ではあれは「魔の山へ飛べ」でワイルド星人が使っていたナースになってしまう。別の宇宙の話なら同じナースでもこの宇宙では設定が違うでまだ納得できるところがあるのだが、『セブン』の直接の続編で設定が大幅に変わってしまうのはさすがに違和感があった。
最近のウルトラシリーズマルチバースを導入しているので以前とは違うキャラクターになった怪獣や宇宙人も多くなって慣れてきたところもあるが、人気のある怪獣は名前とデザインだけで人気が出たわけではなくて登場した話や設定等も含んで人気が出たところがあるので、名前とデザインさえ残っていれば設定等はどんなに変わっても良いと言うものではないと思う。設定を変えるにしてもオリジナルから連想できる変更に留めてほしい。

 

円盤竜に収容されたサトミ隊員は光の球の中で宇宙を進む。
馬の首暗黒星雲に幽閉されているセブンの所にやって来たサトミ隊員は願う。
「セブン、ウルトラセブン……。お願い、地には……平和を」。
そしてセブンに降り注ぐ光。目覚めたセブンから眩いばかりの光が発せられる。
一方、地球ではガルト星人が呼び出したネオパンドンを見るカザモリの額に白毫が現れ、セブンの光とカザモリの光が合わさって遂にウルトラセブンが復活する。
このセブンはセブンの粒子とカザモリの粒子が融合した一心同体型で、地球人でもあり宇宙人でもある存在となった二人はもう離れられない状態になったらしい。『帰マン』最終回のジャックと郷秀樹や『A』最終回のエースと北斗星司と同じ状態だと思われる。オリジナルビデオシリーズの『平成セブン』は第2期ウルトラシリーズとは繋がらない設定になっているが、セブンとカザモリが第2期ウルトラシリーズの『帰マン』や『A』と似た道を辿る事になったのは興味深い。

 

今回までの話で「イノセント」で提示されたカザモリの現状、サトミ隊員不在の理由、ユキ隊員の設定、地球防衛軍壊滅の経緯と言った謎が明かされ、残るは地球の進化に関わる話のみとなった。
最初にEPISODE:4を出して謎を提示し、そこからEPISODE:1に話を戻して謎を解いていくと言うシリーズ構成が面白かった。ただ、その代償としてサトミ隊員の死に対するウルトラ警備隊のリアクションが描かれなくなったのは残念だった。(今回の話ではクライマックスにセブンの復活があった為にウルトラ警備隊はサトミ隊員の死には触れずセブンの復活にのみ触れていて、次の話である「イノセント」ではサトミ隊員の死が視聴者に伏せられているのでウルトラ警備隊がサトミ隊員に触れる場面は無い)

 

今回の話は『平成セブン』でも特に重要な回なのだが、多くの要素がゴチャゴチャと複雑に組み合わさった上に一つ一つに結論が出ないまま次の回に続いてしまったので、結局のところ何をしたかったのかよく分からないところがあった。

 

実を言うと今回の話はあまり好きではなかったりする。
物語そのものにも色々と言いたい事があるが、スタッフやキャストのインタビューで「セブンを復活させる為に無理矢理サトミ隊員が死ぬ事になった」と言う印象がより強くなってしまったのが一番の理由である。
今回のサトミ隊員の死はセブンを復活させる為に行われたらしい。『最終章6部作』でセブンを地球に帰す為にフルハシ参謀を死なせたのと同じ事を繰り返すのはどうかなと思う。これでは仮に『EVOLUTION5部作』の次があった場合、セブンやダンを再び出す為に今度は誰が犠牲にされてしまうのだろうかと考えてしまう。
セブンを復活させる為に次々に生贄にされていく人々。物語に死は付き物だし、人々の危機があってこそヒーローは存在しうると言うのも分かるのだが、フルハシ参謀やサトミ隊員が死ぬほどの事がなければセブンは地球に帰って来れないだろうと言って大事な人を死なせる展開を繰り返すのなら、さすがにもう「そこまでしてセブンが帰って来るところを見たくはない」と言う感想が出てしまう。