帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「悪魔の審判」

「悪魔の審判 ーキリエロイドⅡ登場ー
ウルトラマンティガ』第25話
1997年2月22日放送(第25話)
脚本 小中千昭
監督・特技監督 村石宏實

 

炎魔戦士キリエロイドⅡ
身長 55m
体重 4万5千t
メトロポリスで目撃される天使は炎魔人キリエル人が作り出したものだった。
預言者はTVを通して「ウルトラマンこそ悪魔で、悪魔を倒さなければ人類は滅びる」と警告し、その言葉を信じた人々が「ウルトラマンこそ悪魔」と叫ぶのを見て巫女は人間の惨めさを嘲笑う。
闇の中から出現した地獄の門が開くと無数のキリエル人が地上に降り立ってしまう。
ダイゴがティガに変身すると預言者と巫女もキリエロイドⅡに合体変身した。
ティガがパワータイプに変身するとキリエロイドⅡも腕に刃物を付けたパワー対応に変身し、ティガがスカイタイプに変身すると今度は羽根が生えたスカイ対応に変身した。ティガを倒すと地獄の門をこじ開けようとしたが、人々の光を受けて復活したティガ・マルチタイプのゼペリオン光線で地獄の門と共に消滅した。
こうして人々もキリエル信仰を捨てたと思われたが……。

 

物語
メトロポリスに現れた天使に魅了される人々。
キリエル人の預言者はTVを通して「ウルトラマンこそ悪魔だ」と訴える。
預言者の言葉を信じた人々は「ウルトラマンこそ、悪魔、悪魔、悪魔……」と唱える。

 

感想
オープニング映像のスタッグ、シャーロック、デ・ラ・ムの走行シーンが変更されている。どうしてここだけ?

 

悪魔の預言」のラストシーンと全く同じ場面から始まるキリエル人の続編。
劇中では語られていないが今回の脚本の冒頭にキリエル人の設定が紹介されているらしい。
「キリエル人とは、外宇宙より来たる精神生命体。地球へその先陣が訪れたのはおそらく中世期。彼らの姿は様々に“観察”され、芸術家によって描かれてきた。地球の人々はキリエル人のことを、それと知らずに悪魔という呼称で恐れ、祀ってきた。彼らは決まった星に住んでいるのではなく、ホログラフィカルな時空の断層にその世界を構築している。そして、人間にとってそこは“地獄”と呼ぶ場所である。キリエル人は“地獄の門”を開き、地球世界を暗黒へと塗り込めようとしていた……」。
ウルトラシリーズと言うよりクトゥルー神話の世界となっている。イメージ的にはニャルラトホテプが近いのかな?

 

キリエルの神々に仕える者として前回の預言者に続いて今回は巫女も登場している。この巫女は「悪魔の預言」のラストシーンで振り向いていた女性で名前はオオヌマ・ケイコと言うらしい。
キリエル人に仕えると瞬間移動、衝撃波を撃つ、空に浮く等の超能力を手に入れられるが最大の魅力は「死んでも永遠に生きられる」であろうか?

 

預言者がTVを通して「ウルトラマンこそ悪魔だ」と訴えたのは「悪魔の預言」でイルマ隊長がTVで「ティガは人類を守ってくれる存在」と発言したのに対抗してであろう。
人類に対して全く喋らない謎の存在ティガと違って、キリエル人は「天使」と言う分かりやすいキーワードを使って人類に直接語りかけて支持を集めていく。

 

無数のキリエル人を背後に従えて巫女は「人間は悲しい程に愚かで滑稽な程に弱々しい惨めな生き物」と嘲笑うがダイゴは「人間は弱くない」と反論する。
最終回の話になるが、キリエル人から力を与えられた預言者や巫女と違って「輝けるものたちへ」の人間は自分の中に眠っていた力を引き出して光になった。この「与えられた力ではなく、自分の中に眠っている力を発揮する」と言うのが平成ウルトラシリーズの一つのテーマとなっている。

 

地獄の門を閉じようとするティガに向かって預言者と巫女は「人間達の目の前で無残な最期を晒すが良い!」と言ってキリエロイドⅡに合体変身する。
北斗星司と南夕子が合体変身したエースは男女の性を超えた完全な存在、いわゆる「神」になったと言う意味があったが、今回の預言者と巫女のキリエロイドⅡへの合体変身も同じ意味があるのだろうか。

 

キリエロイドの表情は前回は泣き顔だったが今回は笑い顔となっている。前回はキリエル信仰の衰退を嘆いていて、今回はその復活に歓喜しているのだろうか。

 

ティガとの戦いではキリエロイドがちゃんと前回よりパワーアップしていたのが嬉しかった。特に羽が生えたスカイ対応はカッコ良すぎ!

 

人々の支持を得たキリエル人はティガを圧倒する。
キリエル人の脅威の前にイルマ隊長は弱気になるが、ダイゴが口にした「光」と言う言葉に希望を見出し、預言者と同じようにTVを通して人々に訴える。
ウルトラマンティガは私達を守ってきてくれました。今度は私達が力を貸す番です。お願いです! ティガに光を! 光を与えてください!!」。
イルマ隊長の訴えを聞いてたくさんの人が手に光を持ってやって来て、人々の光を受けたティガは復活する。人々の支持を得たティガはキリエル人を圧倒し、勝利を収めたティガは人々に直接感謝のポーズを取るのであった。
この「光と闇の対比」と「敗れたティガを人々の光が救う」と言う展開は最終決戦にも引き継がれる事となった。

 

人々の光を受けて復活する時のティガは画面手前の『アダムの創造』と呼ばれる絵と同じポーズを取っている。
アダムの創造』は神が最初の人間アダムに生命を吹き込む場面を描いていて、人々がティガに光を与える展開とリンクされている。

 

「終わったら……デートしよう」。
ダイゴとレナのこの約束は後に「怪獣動物園」で果たされる事になる。
この後の走り去るシャーロックの背後でダイゴがビルの影に入り、直後に光が飛び立つ流れがスムーズで良かった。

 

悪魔の預言」でイルマ隊長の息子の幼い時の写真が登場したが、今回はイルマ隊長の夫であったミウラ・カツヒトが事故で死んでいた事、その時のイルマ隊長はブラジルの観測センターで地球外の通信を解読する極秘の仕事に就いていたので日本に戻る事が出来ず、それが原因でカツヒトの母に息子のトモキを引き取られた事が語られた。
因みに『空想特撮映像のすばらしき世界』(朝日ソノラマ)によると、カツヒトはガッツウイングのテストパイロットだったらしい。

 

そのカツヒトの母はキリエル信仰にハマってしまっていた。
キリエル人は死んだ人間にも永遠の命を与える事が出来るので、預言者のようにカツヒトも現世に帰って来れた可能性がある。実現していたらかなり辛い話になっていただろうが……。

 

「聞きなさい! 私には分かっている……。本当の悪魔はウルトラマンティガなのよ。あの巨人が現れてから、この日本はどうなってしまったと思っているの……」。
カツヒトの母が電話で訴えていた言葉はヒーローの存在理由を揺るがす内容であった。
ヒーローを登場させるには、まず敵を登場させなければならない。つまり、ヒーローの存在がそのまま敵の存在理由にもなってしまっているのだ。ウルトラマンと言う怪獣退治の専門家が現れた事で日本は怪獣が毎週のように現れる状況になってしまったと言える。

 

今回はイルマ隊長と息子トモキの話でもある。
冒頭でイルマ隊長は隊員服でトモキと会うが、カツヒトの母のせいもあってかなりギクシャクした雰囲気であった。それがラストでは私服でトモキと会い、カツヒトの母も二人の邪魔をしなかった。
回線に不法侵入した事を謝るトモキ。それを叱らず、抱きしめるメグミ。GUTSの隊長としては不法侵入の件は注意すべき事かもしれないが今日は母として来たのだった。
途中で「地球に降りてきた男」で語られたレナの家庭事情に触れられたのは細かくて良かった。

 

トモキはGUTSのセキュリティを突破し、地区の回線に不法侵入して一帯の電圧を限界まで引き上げる等、ヤズミもたまげるコンピューター能力を秘めていた。将来、TPCに入隊したら大活躍間違い無しだろう。

 

今回は「人々はティガとキリエル人のどちらを信じるか?」と言う話で、「悪魔の預言」に続いてティガを信じるイルマ隊長とキリエル人を信じる預言者や巫女の戦いだったと言える。ただし、「悪魔の預言」の時と違って、イルマ隊長はティガを「人類を守り導いてくれる存在」と崇拝するのではなく「共に戦う存在」と認識を改めている。
キリエロイドⅡが倒され、人々のキリエル信仰も消え去ったと思いきや、地面に落ちたキリエル人の羽を拾う女性が……。
あなたは全ての人がティガを信じて応援していたと思いますか……?