帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「うたかたの…」

「うたかたの… ージョバリエ登場ー
ウルトラマンティガ』第28話
1997年3月15日放送(第28話)
脚本・監督・特技監督 川崎郷太

 

甲獣ジョバリエ
身長 63m
体重 5万3千t
突然現れた怪獣で目的は一切不明。GUTSやTPCが攻撃しないと寝てばかりだったが……。
額から光線を発して空に爆発を起こす。
TPC地上部隊の攻撃にも耐えるが、ティガ・マルチタイプのウルトラヒートハッグで大爆発を起こした。
放たれた標的」のムザン星人の着ぐるみを改造している。

 

物語
今日も怪獣が現れる。
今日もGUTSが出撃する。
今日も人間と怪獣が戦う。
今日もウルトラマンが戦う。
今日も、明日も、明後日も……。

 

感想
セカンド・コンタクト」と「幻の疾走」に登場したクリッターが三度登場。
ナレーションでクリッター及びガゾートによる事故はその後も続いていたと語られているので、劇中には登場していないがガゾートⅢやガゾートⅣがいたのかもしれない。

 

今回は登場人物が怪獣や武装について様々な議論を行っている。
過去のウルトラシリーズでもその回に登場した怪獣について議論する事はあったが、今回はクリッターやジョバリエだけでなく怪獣全般について議論が行われた。
『A』のヤプールや『レオ』の円盤生物のように敵が組織やグループだった場合は「敵組織を倒したら戦いが終わる」と言ったゴールを設定する事が出来るのだが、『初代マン』や『セブン』のように組織立った敵が存在しない場合は「敵を全て倒して戦いを終わらせる」と言うゴールを設定できないので「戦いはまだ続くが地球人達はウルトラマンの助け無しで戦えるようになった」と言ったゴールを設定する事になる。だがそれは「ウルトラマンがいなくなった後も人類の戦いはずっと続いていく」と言う事でもある。
『ティガ』は超古代怪獣と言うグループがあるのだがそれとは別にグループに属していない怪獣も多くいるので、超古代怪獣を全て倒しても超古代怪獣とは別の怪獣との戦いは続く事になる。そうなると『初代マン』や『セブン』のようなゴールを設定する事になるのだが、そこで「人類の戦いがずっと続いていく」を回避するにはどうすれば良いのかと言うのが今回の話だったと思われる。
ヤズミが主張する「GUTSやTPCを強大にして人類の脅威になる対象を減らそう」と言うのは簡単に言えば「怪獣を全て倒す」で、レナが主張する「怪獣が出現する原因を考える」「他の生物との共存を考える」は「怪獣が現れないようにする」「怪獣が現れても戦う必要が無いようにする」で、「怪獣との戦いを終わらせるにはどうすれば良いのか?」と言う問題に対してヤズミは「怪獣がいなくなれば良い」と怪獣側に変化を、レナは「人類の生活や考え方を変える事で怪獣の出現や怪獣との戦いは回避できる」と人類側に変化を求めている。
正直言うと、この問題は『ティガ』の中では答えが出るところまでは行かなかったが、この後も『ガイア』『コスモス』『X』と何度か取り上げられる事になる。

 

元々は人類に無害だったクリッターが人類の電磁波によって人類に有害なガゾートに変化してしまったと言うレナの訴えに対してホリイは現代社会では電磁波は止められないとして、電磁波問題を解決したらガゾートの被害が無くなると分かっていながら、それについて考える事は止めたと答える。そこでムナカタリーダーは「今は非常時」と言い、ヤズミは「脅威になる対象を減らせば人類は生き残れる」と発言する。
ここでの議論は「怪獣出現」を「体調不良」に変えると分かりやすいのかもしれない。レナは「体調不良にならないように生活習慣を見直そう」と言って、ホリイは「そうは言っても仕事もあるので簡単に生活習慣を変えられない」と言っているのに対して、ムナカタリーダーは「体調を崩した以上、生活習慣について考えるよりまずは今の体調不良を治す事を考えるべき」と言って、ヤズミは「体調を崩してもすぐに元に戻せる強力な薬を開発するべき」と言っているのだ。
今回の話では議論が噛み合っていないと感じるところがいくつかあるのだが、それは「怪獣が現れて暴れないようにする」と言う「体調を崩さない為の「予防」」と「出現した怪獣への対処」と言う「体調を崩した後の「治療」」と言う似ているようで実は違うところを一緒に議論してしまっているからだと思われる。レナ、ホリイ、マユミは「予防」の、ムナカタ、ヤズミ、シンジョウは「治療」の話をしていて、「予防」についての話をするメンバーと「治療」についての話をするメンバーが議論を行うと噛み合わなくなってしまっている。
因みにダイゴは「なぜ戦う? 何の為なんだ……」とレナ達と同じように「予防」の立場で考えはじめて「この人達を守る為なのか? 仲間だから……、皆が、好きだから!!」とムナカタ達と同じ「治療」の立場の答えを出している。

 

マユミ「早く怪獣なんか出ない世の中になればいいのにね。そしたら……」、
シンジョウ「その為にTPCやGUTSは強くなっていくんだ。平和を守っているんだぞ? 俺達は」、
マユミ「平和? 今が平和? お兄ちゃん達が戦うのを止めれば、神様も怪獣を出すのを止めるわ、きっと」。
久し振りに会ったらしく、かなりギクシャクしているシンジョウとマユミの兄妹。ひょっとして「幻の疾走」以来ちゃんと会話していなかったのだろうか?
最初のマユミの言葉だが、おそらく単にシンジョウを心配しての言葉だったと思われる。「怪獣が出なくなったら、もうお兄ちゃん達が危険な任務を受ける事も無いのに」と言おうとしたらシンジョウが見当違いな返答をしたので怒ってしまったように見える。
シンジョウはシンジョウなりにマユミに気を使っているのだろうが、マユミは気を使われて喜ぶ人間ではない。ここはいつまでも兄としてマユミを守ろうとするシンジョウと、兄とは違う自分なりの考えを持ち始めたマユミとのズレが出たと思われる。

 

今回は戦車部隊や廃墟と化した街と特撮も気合いが入っていて物語に説得力を持たせている。
ヤズミが思わず「凄い」と言ったようにGUTSとTPCもいつの間にか凄い軍事力を持つ組織になっていた。
ヒーロー作品は物語が進むにつれて戦力がドンドン増強されていき、パワーアップを示す為に演出が派手になっていくが、今回の戦車部隊や廃墟と化した街はそれらと描いている事は同じだったりする。

 

ヤズミ「だからGUTSやTPCはもっと大きく強くなるべきだって言ったら、レナさん怒っちゃって……」、
マユミ「アンタ、死ぬの恐くないの?」、
ヤズミ「平和を守る……為なら……。この仕事は常に危険と隣り合わせ……」、
マユミ「好きな人、いる?」、
ヤズミ「話をまとめろよ!」、
マユミ「死んじゃうとね……、好きな人と会えなくなるんだよ……」、
ヤズミ「今は……、今は非常時なんだ! そんな甘い事……」、
マユミ「平和になってから話せばいい?どうせ誰かの受け売りでしょ?まったく子供なんだから。皆が武器を捨ててみるといいわ。怪獣なんて出なくなるわ」、
ヤズミ「そんなに簡単な問題じゃないんだぞ! そっちこそ子供みたいな事言うなよ」。
ヤズミ、恋人を殺されたマユミに「好きな人と会えなくなるなんて甘い事」とよく言えたな……。
マユミの「武器を捨てれば怪獣は出なくなる」はかなり唐突な話だが、怪獣を「人類にとって脅威となる存在」と考えた場合、人類にとって脅威となる存在を全て敵として倒していったら人類はいつか人類以外の全ての存在を敵として倒さなくてはいけなくなる恐れがある。しかし、武器を捨てる、つまり敵意を捨てる事が出来れば中には戦わなくても済む存在もいるのかもしれない。(ただ、人類の考えとは関係無しに襲ってくる存在がいる事も確かなんだよね)

 

TPCではティガのピラミッドやユザレのタイムカプセルの分析が続けられていて、破壊された巨人像の破片から地球以外の有機物らしきものが見付かったらしい。やはり、巨人像も古代ウルトラマンの星雲から来たものだったのだろうか?
また、ユザレのカプセルのノイズ部分からは「明かり」や「光」と言った単語が拾えたらしい。TPCがこれだけの時間をかけても殆ど分かっていなかったものを一年足らずで全て解読したマサキ・ケイゴはやっぱり凄かったんだな。

 

ダイゴは「ティガよ! なぜ戦う? 何の為なんだ……。ティガー!!」とスパークレンスに問い掛けてティガに変身する。そしてジョバリエとの戦いの中で皆の顔が浮かび上がると「これが答えなのか? この人達を守る為なのか? 仲間だから……、皆が、好きだから!!」と叫んでジョバリエを吹き飛ばした。
レナとの会話で「ティガは人類だけでなく地球全体を守ろうとしている」と語られたが、結局、ダイゴは皆の為、人類の為に戦ってしまった。人間と人間以外の存在の戦いになった時、人間はどうしても自分達人間を守る為に戦ってしまう。それは人間として仕方が無いもので、人間ウルトラマンの限界でもあると言える。(宇宙人ウルトラマンでもセブンのように人間に入れ込みすぎて公平な判断が出来なくなってしまう場合が多々あるが)

 

クリッター殲滅作戦が遂に発動されるが何故かクリッターの巣に命中しない。そして世界中の雲が高度を上げて大気圏外に出て行く。
レナは「クリッターの方が人類に愛想尽かして出て行った」と語るが、それはあくまでレナの解釈。おそらくクリッターは地球が棲み辛くなったので棲み良い場所に移動しただけだと思われるが、人類にはクリッターが人類に愛想を尽かして笑っているように思えてならなかった。「セカンド・コンタクト」で人類とガゾートはコミュニケーションが取れないとされたが、だからこそ今回のようにクリッターの真意を劇中の人物や視聴者が色々と考えられる話を作る事が出来た。

 

クリッターが地球を離れた時にシンジョウが「クリッターを追わなくていいんですか? 戻ってきますよ!」と言っている。シンジョウ役の影丸茂樹さんがカジ参謀を演じた『平成セブン』の「栄光と伝説」でも似た台詞があるので、今回の話でヤズミやシンジョウが主張した「人類を守る為に戦い続ける」と言う道を選択した場合の未来が『平成セブン』と考える事も出来る。

 

色々なところで何回も言われているが、ヤズミ突撃からクリッター浮上までの『TAKE ME HIGHER』の使い方が最高!

 

戦いが終わった後、ヤズミはマユミの気持ちも分かったのかマユミの手伝いをして、マユミもヤズミの気持ちが分かったのかヤズミの握手を受け入れる。
こうしてマユミの物語に一つの区切りが付けられるのだが、今回の話の本来の目的であった「マユミ救済計画」は果たされたとは言えないところがあった。マユミが真に救済されるのは次作『ダイナ』の「夢幻の鳥」となる。

 

今回の話は川崎監督がウルトラシリーズで初めて脚本、本編、特撮の全てを一人で担当した回となった。