「輝けるものたちへ ーガタノゾーア ゾイガー登場ー」
『ウルトラマンティガ』第52話
1997年8月30日放送(第52話)
脚本 小中千昭・長谷川圭一・右田昌万
監督 村石宏實
特技監督 神澤信一
邪神ガタノゾーア
全高 200m
体重 20万t
ティガを石像に戻して世界を絶望で覆い尽くした闇の支配者。
GUTSによるティガ復活オペレーションを阻止するが、世界中の子供達が光となって石像に宿ったグリッターティガのゼペリオン光線とタイマーフラッシュスペシャルで消滅した。
超古代尖兵怪獣ゾイガー
身長 55m
体重 4万8千t
ガタノゾーアを守るがイルマ隊長とハヤテ隊長に倒された。
世界各地を襲撃していた他のゾイガーもガタノゾーアの消滅と共に消え去ったらしい。
物語
ウルトラマンが倒され、絶望が世界を飲み込む。
しかし、希望を捨てない人々はティガを復活させるオペレーションを進める。
遂に奇跡が起き、人々の光がティガに……!!
感想
「暗黒の支配者」の続き。
ティガの敗北にショックを受ける人々。「ウルトラマンが負けた……」の場面は人々の絶望を見事に表していた。
ティガの敗北を信じず、ティガの人形を手に「ウルトラマンはまだ死んでいない」と信じる子供達。
一方、レナも自分達に出来る事をしなければならないと語る。
そこに響く「そうだ。諦めてはいけない」と言う声。後にキリノの声だと分かるが、最初に見た時はティガ自身の意思が遂に現れたのかと思った。
光を失って石像に戻ったティガ。ダイゴはカラータイマーの中にある結晶体に閉じ込められていた。そこにキリエルの預言者と巫女が姿を現わす。
「キリエル人はアレが復活する前に愚かな人間達を救ってやる事が出来たのだ」、
「もう遅いわ。キリエルの神々はこの星を見捨てたのよ」、
「私は言ったはずだ。この星の守護神になるのは君にはおこがましいと」。
ティガ、そしてキリエル人よりティガを選んだ人々に対する嘲りを残してキリエル人は地球を去っていく。預言者や巫女のようにティガよりキリエル人を選んだ人々も一緒に地球を見捨てて去っていったのだろうか。結局のところ、キリエル人の話は「ガタノゾーアには勝てないので逃げる」なのだが、この時点ではガタノゾーアによって闇に覆われた地球で人々が生きていく事は不可能に近いので、地球を離れると言うキリエル人の選択は人々を滅亡から救い出せるものであったと言える。
因みに『テレビマガジン特別編集 ウルトラマンティガ』には小中さんが書き下ろした小説『キリエル人』が掲載されている。クトゥルー神話を愛する『ティガ』ファンなら快哉を叫ぶ佳編。
収容されていたマサキは闇に覆われた世界を以前に見た夢と同じだと呟く。どうやらダイゴが見た滅びの闇の夢をマサキも見ていたらしい。
「かつて自分がしようとした事は間違っていなかった」「闇の覆う世界を光で照らし導く存在が必要だった」と語るマサキ。確かに人類全てがウルトラマンになればガタノゾーアにも負けないであろう。しかし、どこか他者を見下していたマサキに人類を導く事が出来たかは難しい。
ひょっとしたら、マサキ自身が誰かに導いてほしかったのかもしれない。その導いてくれる存在がいなかったから自分自身が導く存在になろうとしたのかもしれない。
マサキは遂にティガ(ダイゴ)の事を認めた。自分自身を導いてくれる存在だと。いや、自分が生きていく上での模範とすべき存在であると。
タンゴ博士は自己中心的なところがあったがマサキに対する忠誠心は最後まで揺るがず、マサキに償えるチャンスだと訴え、イルマ隊長達にマサキの考えを説明した。GUTSとは合わなかったが、マサキとは合うものがあったのだろう。
主人公達と敵対する人物をただ悪く描くのではなく、マサキの存在によってタンゴ博士が救われたとしたのが良かった。
レナはティガを復活させようと訴え、石像を光によって変換するメカニズムをただ一人解明したマサキに注目が集まる。マサキはまだ自分の考えを完全に捨て切れていなかったがマユミの一喝によって迷いを断ち切ると、地球にやって来たハヤテ隊長によってアートデッセイ号に連れて来られる。
そしてヤオ博士のマキシマ・オーバードライブをエネルギーユニットにしたマサキの光遺伝子コンバーターの原理を応用したマキシマ・コンバーター・ユニットが完成。ドルファー202に乗っていたホリイとシンジョウによってティガの石像へと届けられる事になる。これらを陰でサポートしていたのはあのキリノであった。
このかつての設定や人物が次々と再登場して繋がっていく展開は見ていて快感であった。『ティガ』の最終章は小中さん、長谷川さん、右田さんによる合作と言うウルトラシリーズでも珍しい形が採られたがそれが良い結果を生んだ。
マユミから「素敵な力を持っている」と言われたキリノは「そう思えるようになったのはつい最近の事だ」と答える。
「ダイゴから心の光を貰った者」と自らを語るキリノは自分にしか出来ない自分にはまだやれる事をやろうとする。それはかつてキリノが見たダイゴの行動と同じであった。
「ダイゴ君。君にだけは僕の声は届かない。でも、生きていると信じているよ。また光になってくれ」。
自分が超能力者であると世間にバレたら迫害されるとして以前はダイゴにだけ声を届けていたキリノが今回はダイゴを救う為に見ず知らずの他人達に声を届けると言う展開が素晴らしい。
自分自身が死にそうな状態なのにマユミの事を心配するシンジョウ。
劇中では描かれていないが、昔のシンジョウが泳げなかったのは両親が海で死んでしまったかららしい。その両親が死んだ海に潜ってシンジョウはティガを復活させる事になる。
ガッツウイングEX-Jで自ら出撃するイルマ隊長。「自分が代わりたかったです」と告げるムナカタリーダーに向かって「私だってたまには前に出たいわよ」と答える。デスクワークのイメージが強い人だが結構強くて驚いた。
ティガのカラータイマーにマキシマ・コンバーター・ユニットの照準を合わせ、マサキは遂に光の波形を見付ける。
マサキ「これだ! この波形だ! 蘇ってくれ! ティガ!」、
レナ「ダイゴ、目を覚まして。私達の光だよ」。
ティガに照射される光。しかし、GUTSの作戦を知ったガタノゾーアの妨害で、ダイゴが光を掴む寸前で計画は失敗に終わってしまう。
レナ「光が! 光が消えていく!?」。
GUTSによるティガ復活作戦が失敗に終わり、世界は再び絶望に飲み込まれそうになる。その時、希望を捨てずにレナ達の戦いを見ていた子供達が次々と光になっていく。世界各地で立ち上った無数の光はティガのカラータイマーへと集まっていく。
レナ「光が……、光がいっぱい……!」。
結晶体に閉じ込められていたダイゴに聞こえてくるもの見えてくるもの、それは希望に溢れた子供達の声と姿であった。
ダイゴ「これが……、これが光なんだ!!」。
再び手を伸ばしたダイゴは遂に光を掴み、闇の中に光の巨人グリッターティガが現れるのであった。
光となった子供達がパンチをするとグリッターティガも光のパンチを繰り出す。「僕がティガだ!!」、「私がティガよ!!」、「僕がティガになってる」。
そしてレナも「私も……ティガの中に……」。ティガの中にいるレナ。それはダイゴと同じ目線であった。
子供達と共にゼペリオン光線を撃つグリッターティガ。そしてグリッターティガのカラータイマーから放たれた光がガタノゾーアを消し去る。人の光が闇を消し去ったのだった。
滅びの闇を消し去ったグリッターティガは光となって消え、皆も無事に帰って来た。サワイ総監は「人類、全ての勝利だよ!」と語り、それを受けてハヤテ隊長は「まだまだ人類の知らない世界がある。これからですよ、総監。俺達にはやるべき事が一杯ある!」と告げる。地球の闇に打ち克った人類。それは次の時代への扉を開けた事を意味していた。
アートデッセイ号の甲板。帰って来たダイゴにレナが抱きつく。
ダイゴ「レナの声、聞こえたよ」。
ダイゴが石になったスパークレンスを渡すとレナの手の中で砂となって消えてしまった。
レナ「もう、ウルトラマンにはなれないね」、
ダイゴ「人間は皆、自分自身の力で光になれるんだ。レナもなれただろう」。
第1話では「光を継ぐもの」とウルトラマンに変身できる人物は古代英雄戦士を継ぐダイゴ一人だけとされていたが最終回では「輝けるものたち」と最後まで希望を捨てなかった皆がウルトラマンに変身できるとされた。これはウルトラマンを「宇宙人」ではなく「光」とした『ティガ』だからこそ出来た展開であった。
『ティガ』によって主人公の正体が明かされたら皆と別れると言う法則が打ち破られた。
モロボシ・ダンに始まり、郷秀樹、南夕子、北斗星司、東光太郎、おおとりゲン、矢的猛、星涼子。彼らの正体が明かされる時は別れの時だった。たとえ主人公が去らなくても『80』の城野隊員が死んでしまったように、正体を知られた主人公と正体を知った人間が一緒に生きていく事は無かった。やはりウルトラマンは人間ならざる存在で、人間との間には大きな壁が立ちはだかっていた。
しかし、『ティガ』では正体を知られたダイゴと正体を知ったレナは共に生きている。それはウルトラマンを人間ならざる存在ではなく人間が本来持っている光としたから。レナや世界中の子供達が光となってティガに宿ってダイゴと一緒に戦った場面はウルトラマンと人間を隔てていた壁が取り除かれた瞬間であった。ダンとアンヌ隊員の別離から29年。ウルトラシリーズは新たな段階へと進む事になった。
「1+1は?」「ニー!!」。
滅びの闇に打ち克ったGUTS。その顔は笑みに溢れていた。
昭和ウルトラシリーズの最終回はウルトラマンが違う星から来た存在なので最後は何かしら別れがあるものなのだが、『ティガ』はラストシーンでもレギュラー陣全員が揃っていると言う当時はかなり珍しい最終回となった。
ところでシンジョウはどこからカメラを取り出したんだ? あと記念写真に一人だけ写らなかったヤズミが哀れだ……。
TV画面を通してティガを応援していた子供達が光になってティガのカラータイマーに集まる展開は『ティガ』と言うTVを見ていた子供達がTV画面を通してティガを助けると言う意味でもある。
TVの中の出来事とTVの視聴者の間にある壁を取り除いて両者の行動に合わせようと言うのは実験的で面白かった。ヒーローショーでは観客の子供達の「頑張れー!」の声でウルトラマン達が再び立ち上がる展開があるがTV作品ではこういう双方向の作りは中々大変なところがある。ふと思ったのだが、『トリガー』から始動した没入型ライブアトラクション『INTO THE STORY』は『ティガ』最終回が試みた画面の中の展開と視聴者の行動を繋げるを実現させたものと言えるかもしれない。
『ティガ』で多くの脚本を手掛けた小中さんによって書かれた『ティガ』の小説版『輝けるものたちへ』が2019年6月に刊行されている。
TVの話を基本にしているが、イルマ隊長の視点で物語が進められ、TVでは描かれなかった話や設定の他、小中さんが1998年に発表した『ティガ』の外伝『深淵を歩くもの』と関わる部分等が追加されている。