「影の侵略者」
『ウルトラQ dark fantasy』第13話
2004年6月29日放送(第13話)
脚本 太田愛
監督 原田昌樹
入れ替わり
元々は鏡の中にあった影でいつも人間を見ていて自由に憧れていた。体が出来上がると元となった人間を殺して入れ替わる。元の人間とは鏡を通して見たかのように左右逆になっている。周りの人間を模倣して学習していたが、それが終了すると独自に動き出した。闇の鏡から生まれたので感情はあるが善悪の規範が無く気の向くままに殺戮を繰り返す。人間同士の信頼や秩序を崩壊させるので「影の侵略者」と呼ばれる。
社会が荒廃し人間の心に闇が溜まると闇の鏡が開いて入れ替わりが現れるらしい。
光の世界に出た入れ替わりは我が身を光と影とに分かつ事で鏡の番人ヴァーノを倒して闇の鏡を封印する事が出来るが闇の鏡を封印すると入れ替わりも消滅してしまう。
色鮮やかなものに心奪われる傾向がある。
鏡の番人ヴァーノ
身長 210cm
体重 110kg
闇の鏡を守護する存在。
剛一と心を通わせた入れ替わりの亜乃留によって消滅させられた。
物語
自分の知っている人間がある日から別の何かと入れ替わっているのではないかと疑う人間が増えた。
調査を開始した剛一は「入れ替わり」の一人と出会う事になる。
感想
ある日突然に見知った人間が別の何かと入れ替わっているのかもしれないと言う発想が面白かったものの、その真相である「入れ替わり」について物語の中盤で亜乃留や渡来教授の説明台詞であっさりと解明してしまったのは拍子抜けだった。
入れ替わりが人間と全く見分けが付かないので、昨日まで隣人だった人達がいつの間にか殺人者に代わってしまっていたと言う恐怖が生じるが、物語の早い段階で入れ替わりの事を知っている剛一と亜乃留の話になったのであまり深く掘り下げられなかった。
人間の心に闇が溜まって入れ替わりが誕生すると言う設定だが、こちらも剛一が善悪の規範を持たない亜乃留に心を持たせると言う展開になったので入れ替わりの元となった人間の心の闇は描かれなかった。
今回の話は設定は面白かったがそれを物語に活かしていなかった。入れ替わりの元となった娘と母親の関係が実はギクシャクしていたとか、姿形は本物と同じだが内面が決定的に違う入れ替わりの娘に対して母親が複雑な感情を抱くとか色々描けそうだったのだが……。
入れ替わりは元となった人間を殺して入れ替わっていると言う衝撃な事実が明らかになるが、殺された元の人間や家族についての話が一切無いのが残念だった。自分の事しか考えていなかった亜乃留が剛一に心惹かれて大切な人だと認識するが、それだったら自分が最初に殺した人間に想いを馳せてほしかった。
仲間の入れ替わりによってあっさり殺された人間を見て亜乃留が壊れやすいのに自分自身より大切な人を持つ人間に憧れていたと気付く流れは良いが、自分が最初に殺した人間を無視したままなので、結局は自分と自分にとって大切な人の事だけを考えていると言う範囲は少し広がったがエゴイストのままに見えてしまった。なのでエンディングのナレーションで亜乃留の事を「闇に生まれ、光に憧れ、人を愛した者、それは美しく心優しい影」と言われても首を傾げてしまう。
亜乃留が自分以外の存在を大切にしようと考えたきっかけが子供の幸せを我が事のように思える母親の姿だったので、亜乃留に子供を奪われた母親との関係をちゃんと描いてほしかった。
出来れば今回の話は次回の「李里依とリリー」と入れ替えてほしかった。
「李里依とリリー」では本物の李里依から生まれた精神体のリリーが罪を犯し最後は本物の李里依を殺そうとするが自分が消えてしまう話になっている。順番を入れ替えれば今回の話を「本当に李里依を殺してしまったリリーが人の心を持つようになる話」と捉える事も出来て二つの話で上手くテーマを分けられた気がする。
平成ウルトラの常連である斉藤麻衣さんが持つ雰囲気はやはり特撮作品に合っているなぁと再認識した話であった。
闇、揺らぎて影を生み、
影、形を盗みて光の世界へ
放たるべし。
コントラ・トリニタス第4章12節