「クオ・ヴァディス」
『ネオ・ウルトラQ』第1話
2013年1月12日放送(第1話)
脚本 いながききよたか
監督 石井岳龍
巡礼怪獣ニルワニエ
身長 4m
体重 4t
千年に一度起きる太陽の黒点極大期と何らかの関わりを持っていると言われている怪獣。古文書にも記録が残されていた。漢字表記は「爾流王仁恵」。
雷と共に現れ、人間のルールに則りながら市街地を進み、最後は竜ヶ森にある御神木と同化した。
物語
怪獣の出現が続いて怪獣保護派と怪獣駆除派が激しく対立する世界。
突如現れた怪獣ニルワニエは周りの人々を振り回しながらもただひたすらにある地点を目指して進む。
感想
「『Q』のセカンドシーズン」と言うコンセプトで制作された作品。
『Q』が(ゴジラシリーズと共に)日本における「怪獣」の概念を確定させた作品だとすると本作は「2013年の日本における怪獣」を定義しようとした作品だと言える。因みに主人公の南風原は今回の話の中で怪獣を「自然災害の一種」「宇宙の謎」「人間の心の闇」と定義している。
今回登場したニルワニエは人間のルールに則って移動して建物も壊さないよう注意していた。かつては建物と共に人間の常識を派手にぶっ壊していた怪獣もいつの間にか人間社会の中で窮屈そうにしているように見える存在になってしまった。それでも何もせずとも周りの人間を振り回してしまうのは怪獣の面目躍如と言ったところかな。
タイトルバックをあえて『Q』とは違った感じにしたのが2013年の『Q』らしくて良かった。
本作は全体的に薄暗い色調になっているが、これがモノクロとカラーを合わせた雰囲気になっていて、これも2013年の『Q』と言う感じに仕上がっていた。
主人公は『Q』と同じく3人組。
南風原は学者で心理カウンセラーと言う設定で『怪奇』の牧の雰囲気が付け加えられた感じ。
絵美子が雑誌に寄稿しているライターや正平がバーのマスターと言う設定は『Q』より『Q倶楽部』に近かった。屋島教授も『Q』の一の谷博士より『Qdf』の渡来教授を思わせるキャラだった。
本作では怪獣出現が当たり前になっていて怪獣保護派と怪獣駆除派による対立が描かれた。
しかし、「この作品における怪獣とは何か」「怪獣によってどのような被害が生まれて怪獣駆除派が現れたのか」「その状況でどのようにして怪獣保護派が生まれたのか」「正平はどうしてあそこまで怪獣に感情移入するのか」と言った辺りの説明がされていなかったので登場人物に感情移入しにくいところがあった。
今回が本作における世界観の説明をした話だったとしても怪獣保護派も怪獣駆除派も相手を非難するだけで視聴者に向けて説明されていたとはあまり思えなかった。
たとえば今回の怪獣をゴジラ型のデザインにすれば、そこからゴジラシリーズやウルトラシリーズに登場した様々な怪獣へとイメージを広げる事が出来て、この世界では過去に怪獣によるどのような事件があったのか視聴者が脳内補完する事が出来たかなと思う。
妻と子を怪獣に殺された小林がニルワニエを殺そうとした流れは理解できる。
同じ怪獣と言ってもニルワニエと小林の妻子を殺した怪獣は別の存在だと思うが、小林は怪獣を憎む事で自分は妻子を守れなかったと言う罪悪感から逃れようとしていたのだろう。まさしくニルワニエは小林の心の救済の為の「生贄」であったのだ。
今回の話では人間を傷付けているのが怪獣ではなくて同じ人間であると言うところがポイント。
そして昔は一体の怪獣が大勢の人間を蹂躙していたが今は大勢の人間が一体の怪獣を蹂躙する時代となった。
正平が叫ぶ「今はお前達の方が怪獣だ!」が今回の話のキーワードなのだろう。
南風原はニルワニエの粘液が地図に記されている竜ヶ森に引き寄せられた事からニルワニエの目的を突き止める。
て、ちょっと待って。実際に竜ヶ森を目指すのは分かるが、地図に書かれている「竜ヶ森」の文字にまで反応するのはおかしくないか?
竜ヶ森は今は失われたパワースポットと説明されているので「竜ヶ森」と言う文字そのものにも何らかの力があったのだろうか……。
因みに竜ヶ森は『初代マン』の「ウルトラ作戦第一号」で初代マンが初めて人間の前に姿を現した場所である。
ニルワニエの目的は結局のところ明確には語られていない。
南風原が怪獣の正体について「宇宙の謎」と「人間の心の闇」を挙げているので、おそらくは太陽黒点と言う宇宙の闇と小林と言う人間の心の闇からニルワニエが生まれ、最後は小林の心の闇を消したと同時に太陽黒点も消えたと言う感じだろうか。
竜ヶ森の石碑にはニルワニエは墓場に「行く」のではなくて「帰った」と記されているので、家族と言う帰るべき場所を失った小林と連動していたとも考えられる。
怪獣ニルワニエは安らぎの地に帰ったが怪獣化した人間達は帰る事無くどこへ向かおうとしているのだろうか……。
「街を練り歩く怪獣」と言うアイデアは面白かったが、人間社会のど真ん中に現れた怪獣を巡る人間模様と言う部分は上手く見せられていなかった感じがする。何と言うか、視聴者を無視して画面の向こう側で勝手に騒いでいるように思えた。
タイトルの「クオ・ヴァディス」は新約聖書の「Quo vadis?」(どこに行かれるのですか?)から引用されている。
今回の話はいながききよたかさんと石井岳龍さんのウルトラシリーズデビュー作となっている。
今回の話は2014年1月に「『ネオ・ウルトラQ』特別上映part3」の1本として劇場公開された。