帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「アルゴス・デモクラシー」

アルゴス・デモクラシー」
ネオ・ウルトラQ』第11話
2013年3月23日放送(第11話)
脚本 いながききよたか
監督 入江悠

 

知的恐球アルゴス
身長 1km
体重 計測不能
テロリストと人質がいる建物を見えない壁で隔離してテロリストと人質の命か内閣総理大臣の命かどちらを助けてほしいかを日本国民全員に投票させた。
人類に興味を持つものとして人類が固執するデモクラシーと言う考えに興味を持ったと語り、今回のような実験を繰り返す事で人類はさらなる優れた思考を獲得するだろうとする。しかし、実際は単なる人間を試す遊びに過ぎなかった。
実体の無い虚像であったが光線を発して破壊活動を行える。

 

物語
「怪獣解放戦線」を名乗るテロリストグループが怪獣対策特措法成立を進める議員の集会を占拠した。
しかし、謎の存在アルゴスの出現で事態は思わぬ方向に……。

 

感想
アルゴスを通して民主主義について語る話。
民主主義を知ったアルゴスは投票と言うシステムを使って民衆が他者の命をどう判断するかを観察する。
投票が行われなかったら破壊活動が行われると逃げ道が塞がれた中で民衆はどのような考えを出すのか興味深かったが残念ながら世論の動き等は描かれなかった。そこを描かなかったらアルゴスの実験の意味が無い気がするのだが……。せめてもう一方の当事者である首相は出してほしかった。
壮大な設定を出した割りにドラマが足りていないのが残念だった。

 

この「民衆の投票によって誰かの命が奪われる」と言う展開を見て自分は『平成ライダー昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』でファン投票によって平成ライダーが勝つか昭和ライダーが勝つかを決定する企画を思い出した。
たとえば平成ライダーが勝つ方に投票すると言う事は裏を返せば昭和ライダーが負ける方に投票したと言える。仮に負けた方のライダーが命を落とす事になった場合、ファン投票によって負けたライダーが決められる、つまり、命を奪われるライダーが決められると言う事になり、ファンにどちらのライダーを殺すのかを判断させたとなる。
まぁ、この映画では負けた方のライダーが命を落とす事は無かったが。

 

アルゴスと対峙した南風原は民主主義は国民全員が知的で理性的である事を前提にしてしか成り立たない不完全なイデオロギーだとして、恐怖に支配された民主主義は衆愚政治と言われ、民衆の扇動ほど恐ろしいものはないと訴える。それなら余計にアルゴス国民投票の話の後の世論の動きを描いてほしかった。

 

民主主義に欠陥があっても人間はまだそれに代わるものを見付けていないので知恵で補いながら使っていくしかないと訴える南風原
正平は投票が行われたら絵美子達は負けるだろうと考えていたので、この弱者からの訴えを取り上げる事こそ弱者切り捨てとなる民主主義を補うものと言う事なのだろうが、世論の動きがどちらに優勢になっているのかを描いていないので南風原達が投票で切り捨てられる弱者側と言う事がいまいち分かり難かった。

 

「テロリストと首相とでは民衆は首相の命を選ぶ」と正平達は考えるが、建物の中には子供達もいるので自分は五分五分になっていたのではないかと考える。

 

結局のところアルゴスの目的は単なる遊びであった。
絶望的な方法で人間を試したと言う事だが、それなら世論の動きとか、せめて建物の中にいる人質の家族とかは出してほしかった。
アルゴスの目的は人間観察なのだが、その人間を描いていないのはドラマとして問題だった。

 

今回は「クオ・ヴァディス」の続編的な側面も持っていて怪獣保護派と怪獣駆除派の対立が描かれている。
唐沢議員の集会に乗り込んだ絵美子が見せた怪獣の写真はニルワニエ、ブレザレン、プラーナの三体。ニルワニエはともかくブレザレンとプラーナのその後はどうなっているのか非常に気になる。

 

絵美子は政府やマスコミによって一方的に悪者に仕立て上げられた怪獣達もいるとして上の怪獣達の写真を出しているが、それならセーデガンやガストロポッドの方が合っていた気がする。
扇動された民衆が悪ではなかった怪獣を断罪していくのは後に南風原アルゴスに語る「民衆の扇動ほど恐ろしいものは無い」に繋がるものがあるのだが劇中では特に触れられなかった。
前半は怪獣の命について後半は人間の命について他者が議論すると言う共通点があるので、その辺りをもっと繋げてほしかった。

 

クオ・ヴァディス」でも絵美子は怪獣保護派寄りの考えだったが、怪獣に家族を殺された人もいる集会に乗り込んで怪獣の写真を見せて怪獣の権利を訴えるのはどうかなと思う。せめて言い方は考えないと。子供を傷付けたと言う点では絵美子も後のテロリストと同じである。

 

今回のゲストの怪獣保護派と怪獣駆除派の面々だが、怪獣駆除派の集会で唐沢議員は「お母さんと子供達をこの手で守り抜く」と怪獣対策特措法成立に向けて理解を呼び掛けている。ここに「お母さん」はいて「お父さん」は何故かいないのがポイント。怪獣の写真を見て気持ち悪いと吐き捨てる場面もあるので、この怪獣駆除派は「ゴジラウルトラマンと言った怪獣作品そのものを嫌悪している女性達」と見る事が出来る。つまり、怪獣対策特措法は都条例とか表現規制法とかの怪獣版みたいなものを意味しているのだろう。
一方の怪獣解放戦線は「怪獣の生存権を踏みにじるな」と怪獣駆除派の集会に乗り込むが、こちらは大人の男性のみで構成されている。つまり、いい年した大人の男性怪獣オタクがこれまた大好きな銃を持って女性による怪獣反対の集会に乗り込んで暴れると言う構図になっているのだ。
怪獣解放戦線のリーダーが怪獣保護そのものより女性議員が嫌いだからと言う感じだったのはああいう怪獣作品に対して偉そうな事を言う煩い女性が嫌いと言う事で、転んだ子供を怪獣解放戦線のメンバーが助けようとしたのを母親がヒステリックに止めたのはいい年した男性怪獣オタクに自分の子供を触られたくないと言う事になる。
そう考えると絵美子が怪獣解放戦線のリーダーに投げかけた「あなた達のしている事って子供じみている」と言う言葉も男性怪獣オタクに対する批判と受け取れる事が出来る。

 

今回の話は入江監督のウルトラシリーズ監督最終作となっている。

 

今回の話は2014年2月に「『ネオ・ウルトラQ』特別上映part4」の1本として劇場公開された。