帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『ウルトラマンティガ・ウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』

ウルトラマンティガウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』
1999年3月6日公開
脚本 長谷川圭一
監督・特技監督 小中和哉

 

ウルトラマンティガ
身長 53m
体重 4万4千t
勉が赤い球に願って現れたウルトラマン
スキューラと海中で戦い、ゼペリオン光線で勝利を収める。

 

ウルトラマンダイナ
身長 55m
体重 4万5千t
勉が赤い球に願って現れたウルトラマン
バジリスと宇宙で戦い、ソルジェント光線で勝利を収める。

 

巨大異形獣サタンビゾー
身長 67m
体重 5万t
勉の世界で放送されている『ウルトラマンガイア』の第13話「悪魔の接吻」に登場する怪獣。
黒我夢の姿で我夢に向かって「僕は君だよ」と語りかける。
必殺武器は1千度の破壊光弾と鋼鉄でも貫く鋭利な爪だー!
浩によって勉の世界に呼び出されるがガイアV2のフォトンエッジで倒される。
劇中では語られていないが魔界ゾーランドの出身らしい。
名前の由来は「悪魔サタン」から。

 

巨大顎海獣スキューラ
身長 73m
体重 5万6千t
耕平が作った模型が赤い球の力で実体化したもの。
口を大きく開いて噛み付く。
海中でティガと戦うがゼペリオン光線で倒される。
名前の由来はギリシア神話に登場する海の怪物「スキュラ」かな。

 

骨翼超獣バジリス
身長 69m
体重 4万5千t
亘が作った模型が赤い球の力で実体化したもの。
口から炎を発する。
宇宙でダイナと戦うがソルジェント光線で倒される。
名前の由来はヨーロッパの想像上の生物「バジリスク」かな。

 

最強合体獣キングオブモンス
身長 83m
体重 8万2千t
将来は日本一のモデラーになると豪語する浩が作った模型が赤い球の力で実体化したもの。耕平と亘の作品コンセプトも取り入れられている。
口から炎や光線を発し、腹部から鋭い牙を出す。
スキューラとバジリスがティガとダイナに倒されるとパワーダウンして最後はガイア・スプリームヴァージョンのフォトン・ストリームで倒された。
名前の意味は「怪獣の王」かな。

 

物語
小学生になってもウルトラシリーズにハマっている勉は秘密の場所で夢に見た赤い球を見付ける。
何でも願いが叶うと言われる赤い球に勉は「我夢に会いたい」と願う。すると……。

 

感想
『ダイナ』に続いて実現したTVシリーズ放送中の新作映画公開。
今回は世界観が異なるティガ・ダイナとガイアの共演が一つの目玉となっている。この「世界観が異なるウルトラマン達を共演させる映画」はこの後も『超ウルトラ8兄弟』や『サーガ』等が作られ、やがてウルトラシリーズそのものが「それぞれ別の世界を舞台にしているがマルチバースの設定を使って他の世界のウルトラマン達とも共演出来る」と言うのが基本設定となっていった。
ところで今回の映画の目玉の一つがティガとダイナとガイアの共演である事は事実なのだが、それにしてもタイトルが長すぎるような……。

 

今回は「『ガイア』がTV放送されている世界」と言う面白い設定になっている。
勉がTVで見ていた話はこの世界の『ガイア』の第13話で「悪魔の接吻」と言うサブタイトルになっている。
我夢がジェクターガンを持って走っていたり、サタンビゾーが魔界ゾーランドの出身でペラペラとよく喋ったりと我々が見ている『ガイア』とは随分と雰囲気が異なっている。
『ガイア』はそれまでのウルトラシリーズに比べて設定や登場人物が多いのでTVシリーズと劇場版をパラレルワールドにして切り離す事で必要以上に複雑にならないようにしたのは良かったと思う。因みにサタンビゾーと黒我夢はTVシリーズでも「我夢VS我夢」に設定を変えて登場している。

 

『ガイア』がTV放送されている世界と言う設定は『初代マン』の「怪獣殿下 前篇」を思い出す。ウルトラシリーズ以外だとゴジラシリーズの『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』が近い。
ウルトラシリーズのグッズがおもちゃ屋で売られ、子供達が我夢に向かって変身をせがむのは他の話では見られない本作ならではのユニークな場面であった。

 

ウルトラシリーズで学校の描写があるのは久し振りな気がする。
夢に見た少女が転校生として現れ主人公と仲良くなると言うあまりにもベタな転校生ネタが懐かしい。
いじめっ子の浩もよくいるガキ大将なのだが喋り方が丁寧なのが新しかった。

 

勉は小学生になってもウルトラシリーズを見続けているいわゆる「オタク」となっている。今でこそオタクの扱いも悪くなくなってきて特撮オタクを題材にした『トクサツガガガ』がNHKで放送されるようになったが本作が公開された頃はまだオタクは肩身が狭いところがあった。

 

勉が描いたウルトラマンの絵を踏みにじって登場する浩。
赤い球でウルトラマンである我夢を呼び出して喜ぶ勉に対して「もしそれが本当なら自分は怪獣を出して勉みたいなネクラ怪獣オタクはペチャンコに踏み潰してやる」と赤い球に怪獣出現を願ってサタンビゾーを出現させる。
サタンビゾーの名前がすぐに出てこなかった勉と違って浩は名前だけでなく身長、体重、必殺技まであっさりと言ってのける。
怪獣をバカにしている浩が実は怪獣オタクで、勉をイジメていたのはウルトラ好きなのを大っぴらに言える勉に嫉妬していたと言う設定が面白かった。サタンビゾーの解説を実に楽しそうにしている浩を見ていると誰かに怪獣の話をしたくてたまらなかったのだろうなぁと言うのが分かる。

 

バミューダ海域を調査していた我夢はいきなり勉の世界にやって来た事に混乱気味。
それでもサタンビゾー相手にとりあえずガイアV2に変身する。フォトンエッジでサタンビゾーを倒すがガイアV2がフォトンエッジを使うのは意外と珍しい。
学校で我夢を囲んだ子供達の一人が言った「生我夢だ」が何かツボにはまった。
子供達の変身コールを浴びて思わず逃げ出した我夢が「何なんだ、この街は!? どうして皆、僕がガイアだって知っているんだ!?」と叫ぶ場面は見ていて思わずニヤリとしてしまう。

 

本作のカギの一つである『ガリバー旅行記』。
子供の頃に読んだ我夢は不思議な世界をいくつも旅するガリバーが羨ましくて何度も読み返し、これがきっかけで量子力学に興味を抱いたらしい。
量子物理学には自分とは違う自分がいくつも同じに存在していると言う「多世界解釈」と言うSFで言えば「パラレルワールド」と言う考え方があり、『ガリバー旅行記』は社会風刺に基づくフィクションだが見方を変えればパラレルワールドを行き来した時空旅行者とも考えられるらしい。自分も『ガリバー旅行記』を読んだ事はあるがそう考えた事は無かった。こういう事を思い付けるかどうかが天才と凡人の分かれ目なのかな?

 

ウルトラマンも怪獣も特別チームも存在しない世界では我夢は謎の戦闘機乗り。警察に出頭した我夢は取り押さえられるが赤い球の力が尽きた為に勉の世界から消えてしまう。
そう言えば勉の世界にいる我夢役の俳優さんはこんな事件が起きてどうなったのかなとちょっと心配になる。勉の世界にいる我夢役の俳優さんについては今回はあまり触れられなかったが本作の脚本を手掛けた長谷川さんが執筆した小説『ティガ・ダイナ&ウルトラマンガイア 超時空のアドベンチャー』では重要人物の一人として登場している。

 

元の世界に戻った我夢は勉の世界での記憶を失っていたが手にした『ガリバー旅行記』にある勉の名前から全てを思い出す。そしてPALに保存されていた赤い球のデータを検索した我夢は赤い球が記憶している様々なビジョンを浴びて炎に包まれた廃墟で祈るリサの姿を見る。
「私は人が生み出した究極のマシン。こことは別次元の人間だ。心に思い描いた事を全て現実にする。その為に私は作られた。物質文明の最終到達点。だが、私は作られるべきではなかった。人の欲望に終わりは無いから。人は私に様々な願いをし、最後は自らの欲望により滅ぶ」。
赤い球の正体を知った我夢は再び勉の世界に行く事を決意する。
ところで勉の世界に行く前の我夢の任務がバミューダ海域の調査と言う事はひょっとしてチーム・マーリンが出動していたのかな。劇中ではマーリンの姿は一切描かれていないけれど……。

 

赤い球を持ち去った浩は友達と一緒に学校の工作室で怪獣を作る。
「将来は日本一のモデラーになる」と豪語する浩だが、自分としては浩のキングオブモンスより耕平のスキューラや亘のバジリスの方がデザイン設定共に独創性があるような気がする。「そのジャンルのオタクだと新しいものを作るのが難しいところがある」と言う話を聞く事があるが、怪獣オタクの浩より怪獣と距離がある耕平と亘の方が独創的な怪獣を生み出せてしまうものなのかな。

 

浩が自分が怪獣好きなのを周りに言えない不満から世界の破滅を願う展開なのだが、その割に浩が怪獣好きを明かした後の周りの反応が無いのが残念だった。今までネクラ怪獣オタクとしてイジメられていた勉や怪獣を卒業していた耕平や亘の浩に対する見方の変化は入れるべきだったと思う。(浩が赤い球に願って耕平や亘も自分と同じ怪獣好きにしたのかもしれないが劇中ではそのような描写は無い)

 

勉の世界に行く為に我夢はまだ実験中の時空移動メカ・アドベンチャーを動かす。
光の国ですら『ベリアル銀河帝国』の時点では光の国の全エネルギーを集めても別の宇宙に送れるのは一人が限度だった事を考えると我夢の天才ぶりが分かる。
因みに「アドベンチャー」と言う名前は『ガリバー旅行記』でガリバーを乗せて海を渡った帆船が由来らしい。

 

人間の欲望を吸収してエネルギーを増す赤い球。勉が我夢を呼び出した時はまだエネルギー不足だったが浩によってエネルギーが満たされてしまう。
赤い球に願いをかけていた浩だったが、いつの間にか赤い球の支配下に堕ちてしまっていた。
「これからとっても面白い遊びを始めるところだった。怪獣がガイアを倒す決定的瞬間だ」、
「球がこの世界を滅ぼせと言っている」、
「無理するな。お前も強くてカッコいい怪獣が好きなんだろ? 街を破壊し大暴れする怪獣が大好きだ。でも、そんな事言ったら笑われるもんな。いい年して怪獣なんか、幼稚な、ダサい、くだらない。くだらなくて悪かったな!」、
「今こそ見せてやる。怪獣の本当の凄さを、その恐ろしさを! 全て壊してやる! こんな世界、全てブチ壊すんだ! 暴れろ!! 俺の最強怪獣キング・オブ・モンス!!!」。
この時の浩の演技が実に良い。設定上、勉中心の展開になるのは当然なのだが浩の描写をもっと増やしてほしかったところがある。
浩の言葉は『ダイナ』の「怪獣戯曲」での鳴海浩也の発言に通じる部分がある。「怪獣戯曲」を子供向けに組み直したのが本作と考える事も出来るかも。

 

現れたキングオブモンスによって勉が描いたウルトラマンの絵が破壊される。全てをぶっ壊せと叫ぶ浩。我夢に助けを求める勉。その時、我夢の乗ったアドベンチャーが勉と浩の世界に現れる。
避難する人々と壊される街で我夢はアドベンチャーを使ってキングオブモンスと戦う。アドベンチャーが戦闘モードに変形したのには驚いた。
赤い球の力でパワーアップするキングオブモンスに撃墜される我夢だったが「ガイアが負けるもんか!」と言う勉の叫びと共にガイアV2に変身する。

 

キングオブモンスに苦戦するガイアV2を見た勉は浩にぶつかっていき、ショックで正気に戻った浩達に「赤い球の悪い力に支配されていた」と説明するが、優は「違うよ。この球は鏡みたいなものなんだ。人の心を映す鏡。僕にもこの球の声が聞こえたよ。でも、本当はそれは僕ら自身の声だったのさ。僕もこの世界は好きじゃないもの。僕はちっとも自由じゃないもの。だから全部壊れたらいいんだ。そして僕がこの球にお願いしてもっと自由な楽しい世界を作ってもらうよ」と語り出す。
優のこの展開は唐突で残念だった。今回は最後まで勉と浩の話にした方が物語に筋が通っていたと思う。

 

優の願いを受けて赤い球の力でキングオブモンスはパワーアップし、さらにスキューラとバジリスも現れる。
学校が壊されて危機に陥る勉達だったが、勉は祈るリサの姿を見て何かを理解する。
優を助けて赤い球に怪獣が消えるよう願う勉だったが既に実体化した存在を消す事は不可能だった。それを知った勉は愕然とするが、浩達の声援を聞くと自分が一人じゃない事に気付いて赤い球に新たな願いをかける。
「一人なんかじゃない。ウルトラマンだって!」。
そして勉の願いを受けてガイアと同じウルトラマンであるティガとダイナが現れた!

 

現れたティガとダイナによって助け出される勉達。
ここに三大ウルトラマンと三大怪獣の戦いの幕が切って落とされる!
ティガは対ガタノゾーア戦を思い出す水中戦をスキューラと繰り広げ、ダイナは宇宙空間でバジリスと戦う。どちらもオリジナルの声と音楽を使っているのが嬉しい。欲を言えばタイプチェンジもしてほしかったかな。
因みに『空想特撮映像のすばらしき世界』(朝日ソノラマ)によるとダイゴは2010年に獅子鼻樹海で、アスカは2017年にザリーナ地帯でそれぞれワームホールに飲み込まれた事があったらしい。おそらくその時に勉の世界にやって来たと思われる。

 

世界観の異なるティガとダイナをガイアと共演させるのが本作の目的の一つなのだがティガとダイナの登場が唐突だったのがちょっと残念。この前の場面でもう少しティガとダイナについて触れても良かったかなと思う。

 

勉達の声援を受けたガイアV2はスプリームヴァージョンにヴァージョンアップしてキングオブモンスを倒す。そして戦いが終わった後、我夢が勉達の所にやって来る。
勉「僕、怖かったけど……、本当は怖かったけど……」、
我夢「カッコ良かった」。
ウルトラマンと子供の話は段々と少なくなってきているが、ウルトラマンは頼れるヒーローとして描かれるし子供も事件を通して成長すると言う分かりやすくて筋を通しやすいドラマが展開できるしと今後もこのパターンは残してほしいなと思う。

 

リサ「どうする? 球の力で新しいおもちゃを作る? もっと素晴らしい願いだって叶えられるよ」、
勉「これ以上この球に頼ったら僕達いつかこの街を滅ぼすよ。こんな球あっちゃいけないんだ。僕は願う。この球が永遠に消えて無くなるように」。
勉のその言葉を受けて赤い球はリサの元へ。
リサ「数え切れない破滅を見てきた。でも、その旅もやっと終われるかもしれない」。
リサの正体を知った勉はうろたえるが悩んだ末に赤い球の消滅を願う。
リサ「私と勉君は出会う運命だった……なんてね」。
そして「君は未来を守った」と言う言葉を残してリサは消えるのだった。
リサは転校ばかりしていたと言う設定だが、転校や引越しを次元移動、新しい学校や街を別の次元とする考えは学園モノとSFを上手く融合していたと思う。

 

リサ、ティガとダイナ、そして我夢も『ガリバー旅行記』の本を勉に渡して消える。
そして朝が来る。壊されたはずの街は何事も無かったかのよう。全ては夢だったのか? 夢を通じて勉はパラレルワールドに旅立っていたのだろうか?
学校に行くと転校生が。その名は七瀬リサ。勉の事も赤い球の事も知らない普通の少女。
「世界は滅んだりしない。君達が明日を信じる限り」。
勉に聞こえる我夢の声。空を見上げればファイターEXの姿が……。
たとえ全てが夢だったとしても勉は何かを得て成長していた。

 

途中で優が説明していたが赤い球は人の心を映す鏡だったらしい。そう考えるとウルトラマンは勉の、怪獣は浩の心を映した姿だったと考えられる。
この考えをTVシリーズに応用すると、地球からウルトラマンの力を与えられて全てを守りたいと考えた我夢の心が映し出されたのがガイア、地球の為には人類は滅ぼさなければならないと考えた藤宮の心が映し出されたのがアグルと考える事も出来る。

 

ラストシーンで勉が「お母さん。ウルトラマンも好きだけど、お母さんも大好きだよ」と告げるがちょっと唐突だと思う。
ウルトラマンを空想の象徴に、母親を現実の象徴にして、空想だけでなく現実に生きる事も大切だと言う意味なのだろうが最後にいきなり触れられてもピンと来ないところがある。(そう言えば、キングオブモンスが勉の家を壊しても勉が母親の事を気にしなかったのはおかしかった)
本作は色々なドラマがあったのだが全体的に描写不足であと一つ二つのエピソードがあればなぁと思うところがあった。

 

ウルトラマンM78劇場 Love&Peace』が同時上映された。

 

本作の後日談として、本作の脚本を担当した長谷川さんによって書かれた小説『ティガ・ダイナ&ウルトラマンガイア 超時空のアドベンチャー』が発売されている。