帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「大地裂く牙」

「大地裂く牙 ー地殻怪地底獣ティグリス登場ー
ウルトラマンガイア』第38話
1999年5月29日放送(第38話)
脚本 古怒田健志
監督・特技監督 原田昌樹

 

地殻怪地底獣ティグリス
身長 90m
体重 11万t
津村町の地底に眠っていた怪獣で膨大な大地のエネルギーに守られていたが地底貫通弾の攻撃で半身が傷付いた状態で地上に現れる。
自分の敵である柊准将がいる管制室を目指すが防衛システムの追い討ちを受けて途中で力尽きる。その亡骸はガイアV2によって地底に帰された。
正式名称は「アルブームティグリス」と言うらしい。
脚本の古怒田さんによると四聖獣の一つ「白虎」に位置する存在らしい。

 

物語
エリアル・ベースにやって来た柊准将は日本での地底貫通弾使用を告げる。
我夢達は反対するが、怪獣から人々を守ろうとする柊准将の決意は固く……。

 

感想
我夢はマコトから借りた車で梶尾リーダーを律子が静養している病院に無理矢理連れて行く。自分は今まで殆どデートをした事が無いくせに他人のデートは仕切る仕切る。

 

何となくだが梶尾リーダーは子供の時から男連中とばかりつるんでいてクラスの女子ともあまり話していないイメージがある。

 

恋のせいか律子は以前に比べて明るく前向きになっている。(そして気のせいか、どこかポヤッとした雰囲気になっている)
花が咲く度に力が湧いてくると語る律子。有名な「葉っぱが落ちると死ぬ」と言う話の逆パターン。この続きで「うまく言えないが自然は命を分かち合っているんだと感じる」として後の風水の話と繋げるのが上手かった。

 

今回の律子のお見舞いは梶尾リーダーの事を振り切る為にアッコ自身が仕組んだように思える。
失恋を受け入れようとするアッコの空気が辛い。それを全く気付かない我夢が凄い。「我夢! 見て! この晴れわたった空を! まるで私の心のようだわ!」と言うアッコの言葉を「曇ってきた……みたいだ」と返すのはあんまりだ。もう少しアッコの事を慮ってやれよ。(でも、この時の落ち込んだアッコがちょっと可愛いかったりもする)
この辺りの我夢達の言動は学園ドラマそのもの。XIG学園を舞台に石室校長や千葉教頭や堤先生がいて、憧れの梶尾先輩や陰のある天才・藤宮がいると考えてみると違和感が全く無い。メインライターの小中さんが「『ガイア』を一言で説明すると『飛び出せ! 青春』」と学園ドラマに喩えたのも分かる。

 

地底貫通弾を使用する事を告げる柊准将に対して千葉参謀は「国際条約で戦争への使用を禁じられている大量破壊兵器はたとえ怪獣相手にでも無神経に使われる事は好まない」と答える。地底貫通弾は元々は人間同士の戦争目的で開発されたらしい。何をどう使ったらあれで敵国を攻撃できるのだろうか……?
千葉参謀の懸念に対して柊准将は「地底貫通弾は怪獣に致命傷を与えられる唯一の兵器」と答える。どうやら以前にも何度か使用されているようだ。「アグルの決意」で藤宮が復活させようとしていた怪獣達はこれで倒されたのかな。

 

環境汚染や地殻破壊等の悪影響の報告を受けても「環境が守られてもそこに住む人間が安全でなければ意味が無い」と言う柊准将の考えは「人間を滅ぼして環境を守る」と言う藤宮の考えと対になっている。

 

アグルの決意」で藤宮が目覚めさせたゾンネルによって部下を失っていた柊准将はエリアル・ベースから夕日を眺めて呟く。
「美しい景色だ……。こんな所にいるから地上の人間の痛みが分からなくなる」。
ウルトラシリーズではどんなに怪獣が街を破壊してもその具体的な被害が描かれる事は少ない。又、平成シリーズ以降では実際に怪獣が破壊をした現場より特別チームの司令室で話が進む事も多い。そういう今まで目が向けられていなかった部分を語るのが今回登場した柊准将であった。(ただ、これら柊准将のエピソードも殆ど台詞のみで説明されているのがちょっと残念だった)

 

何をしたわけでもなく地底に眠っているだけの怪獣にミサイルを撃ち込むなんて許されるはずがないとする藤宮は地底に眠っていた怪獣達を呼び起こして結果的に地底貫通弾を使わせたのは自分だとして絶対に発射を止める事を誓う。
地球に向けられた牙は必ず人間自身に跳ね返ると語る藤宮。前回の「悪夢の第四楽章」で玲子から「いつまでも過去を気にしていちゃ駄目よ」と諭された藤宮だったが自分の過去の言動が人々にどんな影響を及ぼしたのかを知って、さらに苦悩を深めていく事になる。まさにかつて向けた牙が自分自身に跳ね返ってきたのであった。

 

地底貫通弾のニュースを聞いてやって来た恵は我夢とは初めて会うが以前にガイアと会った時の感覚を我夢に感じる。この人は本当に一般人なのか……!?
恵の風水の話を理解できなかった我夢は結論を簡単に説明してくれるよう求める。普段の千葉参謀の気持ちが少しは分かったかなw

 

田端さんによると恵の風水は「趣味でやっている程度」との事。以前見てもらったと言う田端さんの家相は本当に駄目だったらしい。田端さんって結構貧乏くじを引くよなぁ。

 

目の前にXIGがいるのに津村町が危険な事をリンブンに知らせて避難指示を出すよう求める恵。これにはさすがの我夢も困惑。
「何も起こらなかったらお前のクビだけではすまない」と言う田端さんに向かって「あの恵さんが言うんだから何も起こらないわけないです」と反論し、玲子に向かって「うるさいなぁ!」とまで言ってしまうリンブン。普段は玲子に気があるような素振りを見せるリンブンだが今回は完全に恵>>>>>>>玲子となっている。

 

恵は「ミズノエノリュウは人間が作った街を見ていて、おそらくやり直すチャンスを与えてくれたと思う」として「人間さえその気になれば可能性はまだある。しかし、地底貫通弾はそのチャンスを投げ出そうとする行為かもしれない」と語る。
当初は単なる根源的破滅招来体の尖兵だった地球怪獣がいつの間にか地球の意思を示す存在へと変わっている。風水の話が『ガイア』の地球怪獣に上手くハマったのもあるが、地球怪獣の代表格であるミズノエノリュウが風格のある姿をしていたのも大きいかなと思う。もしミズノエノリュウが龍の怪獣でなかったらこういう展開にはならなかったかもしれない。

 

藤宮と柊准将と言う強い信念を持つ二人の対峙はかなりの緊迫感があって盛り上がる。
藤宮「これ以上地球を傷付けるな! こんな事を繰り返しているうちに地球は滅ぶ!」、
柊「テロリストに指図される覚えは無い」、
藤宮「自分達だけが生き残る為に他のものを滅ぼす事は人間の驕りだ!」、
柊「私はたくさんの人達が怪獣の犠牲になって空しく死んでいくのを見てきた……。怪獣は滅ぼさなくてはいけない!」。
発射を阻止しようとする藤宮を気絶させて柊准将が告げる。
柊「既にたくさんの人達が怪獣によって命を失っているんだ。その人達に対して、お前はどう責任をとる? 私は……これ以上の犠牲は出さない……。人類の……為に!」。
かつての藤宮が地球の事を考えて人類の事を意図的に無視していたのに対し、柊准将は人類の事を考えて意図的に地球の事を無視している。この二人はまさにコインの裏表と言える。
ところで柊准将が藤宮を「テロリスト」とハッキリと言ったのは驚いた。言われてみれば確かにそうなのだが。

 

藤宮に自分の出来る事を考えろと言われていた我夢は恵から聞いた風水の話でミズノエノリュウが与えたチャンスを逃してはいけないと走り出す。
「人も怪獣も地球から生まれたのに」。これが我夢が出した答え。でも、この答えを出したとして、そこから問題解決へとどうやって繋げていくのか。その道程を我夢は考え出す事が出来ていなかった。

 

地底貫通弾を受けても大地のエネルギーに守られていた為に生きていたティグリス。しかし、半身は激しく傷付いて血反吐を吐いていた。
想定外の事態に避難状況はまだ70%程度でチーム・ライトニングも現場に到着できていなかった。(バックアップを頼んでいたのにXIGが到着する前に柊准将が計画を実行したのがちょっと疑問だが、藤宮が妨害に来たので早めてしまったのかな)
到着したライトニングはティグリスの傷付いた姿に驚きを隠せないが、千葉参謀はまだ避難が終わっていないとしてティグリスを止めるよう命令する。千葉参謀は過激派ではないが人間の事を第一に考えて怪獣の事情は外して考えられるので実は考え方は柊准将に近い。

 

今回の話は多くの人が異なる立場や考え方から事件に関わっているが、その殆どが悩んだり迷ったりはしながらも自分は今何をするべきなのかが大体決まっていたのに対して我夢だけは柊准将とティグリスの戦いにどう関われば良いのか分からないまま終わってしまった。
ウルトラマンが登場するが殆ど何もしなかったと言う話は少ないながらも他にもあるが、ウルトラマンが登場しても何をしたら良いのか分からなくて結局は何も出来なかったと言う話は他に無いと思う。ヒーロー作品でヒーローは基本的にその作品にとって「正しい事」をするものなのだが今回はその「ヒーローが取るべき正しい事」が存在しない話であった。

 

ガイアV2が何も出来ないままティグリスは力尽きて絶命する。それを見ていた藤宮はガイアV2にティグリスをせめて地底に帰すよう促す。
「自分は何も出来なかった」と語る我夢に恵は答える。
「チャンスはまだあります。きっと……。大地に棲むもの達と共に生きていける方法は必ずあるはずです。私達はまだ諦めてはいけない」。