帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「我夢VS我夢」

「我夢VS我夢 ー巨大異形獣サタンビゾー 精神寄生獣ビゾーム登場ー
ウルトラマンガイア』第42話
1999年6月26日放送(第42話)
脚本 小中千昭
監督・特技監督 村石宏實

 

巨大異形獣サタンビゾー
身長 67m
体重 5万t
黒我夢が変身した姿で我夢は自分の心の姿なのかと恐れる。
光線を発し、爪で襲い掛かる。
最後はガイアV2のフォトンエッジで倒された。
超時空の大決戦』に登場した個体との関係は不明。

 

精神寄生獣ビゾーム
身長 50m
体重 4万6千t
クラウスが持ちえた情報と肉体を差し出して根源的破滅招来体が送り込んだ精神寄生体と融合して変身した姿。我夢が心の奥に作っていた怪物でもある。
光線を発し、光の剣を使う。バラバラにされても小型に分裂する。
ガイア・スプリームヴァージョンのフォトン・ストリームで小型ビゾームを一掃されると最後はクロスカウンター対決に敗れて粉砕された。

 

物語
黒い自分に苛まれる我夢。実は前回の戦いでXIGナビに細工されていたのだった。
さらに我夢はアルケミー・スターズに裏切り者がいる事に気付く。

 

感想
今回からオープニング映像にアグルV2が追加されている。

 

夜の街。走る我夢。襲い掛かる謎の人物。それは全身黒尽くめの我夢だった。
「僕は……君さ! 頭脳と直感に秀でたと言うだけでXIGの隊員になって地球を守る? 銃を持ち、格闘技まで習得し、あげくガイアの力を……!」。
細かい部分は違うが全体的な雰囲気は劇場版の『超時空の大決戦』にあった場面を踏まえている。こういうTVシリーズと劇場版のリンクは劇場版を見ていると思わずニヤリとするもので好き。

 

「アルケミー・スターズがなぜ生まれたと思う? なぜ僕達はネットワークで集まらなければならなかった? 他の子供や大人達が気味悪がったからじゃないか。他とちょっと違うだけで人間はすぐ異端を排除する。人間なんてその程度の生き物だよ。僕らこそ生き延びるのにふさわしい存在……」。
これまであまり触れられてこなかったアルケミー・スターズの実情が語られる。ただ、今までの話でアルケミー・スターズが他の人達に迫害された場面は我夢の子供時代くらいしかなかった。そのせいかアルケミー・スターズと言う新人類が旧人類と対立する展開も十分に可能だったのだが、それも今回のクラウスくらいしかなかった。この辺りはもう少し掘り下げられそうな要素だったのでちょっと勿体なかった。

 

Σズイグルが現れたワームホールがコッヴの時と同じ星域に繋がっていた事が確認され、根源的破滅招来体の所在地を特定できるかもしれないとして世界各地のアルケミー・スターズが動き始める。
動き出したアルケミー・スターズの計画に疑問を持った我夢は「やはり攻撃は最大の防御なのか」と石室コマンダーに尋ねると「それは戦略として誤り。防御すべき事を尽くさずして攻撃に走れば手痛い結果を招く事になる」との答えをもらう。これは後の「宇宙怪獣大進撃」に通じる話となる。

 

「若い時には色々と考えすぎるものだ。考えなくていい事まで考えてしまう。考えが袋小路に入っている事にも気付かず……。俺自身の事だ。若い時、そうだった。どうして地球が自分に力を与えたのか、どうしてアルケミー・スターズが生まれたのか、それを地球に聞いたところで答えてはくれまい」と言う石室コマンダーの話に我夢は「分かっています。でも……、答えが欲しい時だってあるんです」と答える。
この会話はよく考えたら「ウルトラマンや根源的破滅招来体やアルケミー・スターズ等に関して明確な回答はこの先も語られない」と言う作品からのメッセージだったようにも思える。

 

XIGナビが人間の手によって細工されていた事と人間が作ったはずのクリシスが既に根源的破滅招来体の支配を受けていた事から我夢はアルケミー・スターズに裏切り者がいる事に気付く。
根源破滅教団のように人間でありながら根源的破滅招来体が正しいと考える人がいたのでアルケミー・スターズにもそう言う人がいる可能性は十分にありえる。我夢が今までその疑惑を思い付かなかったのはアルケミー・スターズが地球と人類を救う為に集まったと言う経緯があったからだろう。だが、地球と人類の為には根源的破滅招来体に滅ぼされた方が良いと考える人もいるだろうし、最初は地球と人類の為にと思っても実際に危機を目の当たりにしたら自分の身を守る為に根源的破滅招来体に協力する人もいるだろう。「明日なき対決」で藤宮が我夢を「鈍い」と評した事があったが、基本的に我夢は起きた事に対して分析をするリアクションの人間で自分から積極的に何かを疑ってアクションを起こす事は少ない気がする。この我夢の性善説的な考えが残念ながら根源的破滅招来体に付け込まれる隙となってしまった。

 

千葉参謀の「我夢は単独行動が多い」との言葉に石室コマンダーは「彼にしか出来ない事がある」と返すが、千葉参謀は「そうじゃないんだ……。彼はまだまだ若い。若すぎるほどに……。この地球を見舞う危機に対して、そんな若者に託さなければならない……。辛いんだ……」と説明する。
ヒーロー作品に限らず漫画やアニメやゲームもだが基本的にこういう作品の主人公は若者である事が多いが、よく考えたら20歳前後の人間に数十億人が暮らしている地球の命運を託すと言うのはかなり酷な事である。

 

今回の舞台はドイツだが「伝説との戦い」と同じく今回も実際にドイツでロケをしたわけではなく日本国内で撮影したものをドイツっぽく見せている。

 

再登場したキャサリンはアルケミー・スターズについてどう思うかと言う我夢の問いに「地球の自己防衛本能が生み出した鬼っ子。それでもいいと思っている。どういう理由で生まれたとしても私達は私達。一人一人違う人間。だから皆同じ事を考えたり同じ事をする必要も義務も無い」と答える。
相変わらずキャサリンは結論を出すのが早くて迷いが無い。この辺りは我夢や藤宮と言った他のアルケミー・スターズとはかなり違う。
ここでキャサリンが述べた「アルケミー・スターズは地球の自己防衛本能が生み出した鬼っ子」と言う言葉は実はガイアやアグルと言ったウルトラマンにも通じるものがある。

 

何故か妙に優しいアッコ。我夢の事を本格的に気にしだした?
でも、そういう時に限ってキャサリンが再登場して我夢とデートをしてしまう。
我夢とキャサリンの関係を無自覚なテレパシーで感じ取ってしまうアッコに笑った。こういうラブコメ演出はウルトラシリーズにもっとあっても良いかなと思う。
「なんかよく分からないけど、チョー激ムカ」。

 

クラウスが消えたと言われる城の庭園に我夢とキャスがやって来てクラウス消失の謎を解くと辺りが闇に包まれて庭園にルーン文字が浮かび上がり無数の精神寄生体が降り立ってその一体が黒我夢=クラウスとなる。
クラウス「そう、僕はクラウス。でも高山我夢でもある。僕は君の隠された本当の心さ。才能を託され、そして強大な力を託された」。
我夢が得たウルトラマンの力とクラウスが得た根源的破滅招来体の力を考えると二人は表裏一体の関係と言える。ただ今まで何の伏線も無くいきなり現れたクラウスでは主人公我夢のもう一人の姿とするには役不足だったところがある。話を聞く限り、クリシスの回答に手を加えて藤宮の運命を狂わせたりXIGナビに細工をして我夢の変身を阻止したりと色々やっているのだが、似た設定なら第1話から出ていた『G』のスタンレーの方が上手く描かれていたと思う。

 

今回の精神寄生体の話は完全にクトゥルー神話の雰囲気になっていた。
いつか見た未来」のようなSF作品の一方で今回のようなコズミックホラーな話も出来ると言う幅広さが『ガイア』の面白さの一つである。

 

藤宮「待て!」。
いきなり現れる藤宮。それは我夢の心に響いてきた藤宮の心であった。
藤宮「我夢。あれはお前。それに俺のもう一人の姿だ。それでも戦うのか?」、
我夢「確かにあいつはもう一人の僕。僕の心の奥にいる怪物だ。だから、僕が倒さなくちゃいけないんだ!」。
そして我夢はガイアV2に変身する。
藤宮「お前に倒せるか? 我夢。自分の心の奥に作っていた怪物に……」。
いきなり我夢と藤宮がテレパシーみたいな事をして驚いた。これまでも精神的な会話をしているところがあったが前回の「アグル復活」で二人がウルトラマンとして同じ方向を向くようになってこういう力も完全に使えるようになったのかな。

 

ガイアV2とビゾームの戦いはウルトラシリーズでは珍しい光の剣の対決が面白かった。
決着はクロスカウンターだったがこちらはスポ根要素を盛り込んだ『ダイナ』の「死闘! ダイナVSダイナ」に比べて印象は弱めかな?

 

それにしてもガイアの正体を見抜いたキャスの勘は凄い。
ガイアと我夢に一番多く会っている梶尾リーダーが未だに気付いていないと言うのに……。

 

サタンビゾーやビゾームはゼットンがモデルで、精神寄生体はキリエル人がモデルかな。

 

我夢「あいつは……、本当に僕の心の奥の怪物だった。僕の心の奥底にあいつがいるような事を隠しているなんて思ってもなかった……。思いたくもなかった。でも、あったんだ。だから……、僕はあいつと戦った。僕、勝ったぜ。戦って勝ったんだ。僕は……人と戦いたくなんてなかった。僕はそんな強くなんてない。でも今は……、戦うしかないじゃないか!」。
劇中に登場した時点でクラウスは精神寄生体に我が身を捧げていたのであまりそう言った印象は無いのだが、よく考えたら今回の我夢はクラウスと言う人間を殺した事になる。出来ればその辺りをもっと掘り下げてほしかった気もするが作品が終盤に差し掛かって色々な問題を解決しなければいけないところでこのテーマは難しすぎるかな。クラウスは今回の話でいきなり出てきたキャラクターだったがこれも我夢が人殺しをしたと言う印象を視聴者が持たないようにあえてクラウスを描写が少ないキャラクターにしたのかも。