「悪夢の実験 ーゴルメデβ 鏑矢諸島の怪獣たち登場ー」
『ウルトラマンコスモス』第32話
2002年2月9日放送(第32話)
脚本 山本優
監督・特技監督 村石宏實
古代暴獣ゴルメデβ
身長 54m
体重 6万9千t
以前現れたゴルメデと同じ種類でドイガキ隊員によって仮に「β」と呼称された。
以前現れたゴルメデと体の構造は同じだが血液に猛烈な化学反応がある。外部のエネルギーを取り込んで自分のパワーに変換する事が出来るのでどんな兵器も通用しない。
実は防衛軍の開発工場から流れ出た汚れた産業廃棄物の影響で自分の力を制御できなくなっていて、テックサンダーを破壊した時に搭載されていたドリームスリープの影響を受けて副作用で錯乱してしまう。
コロナモードにエネルギーを使い果たされて大人しくなったところをルナモードのフルムーンレクトで眠りに就き、鏑矢諸島で静かに暮らす事になる。
鏑矢諸島の怪獣達
EYESがこれまで保護してきた怪獣達。
劇中で紹介されたのはリドリアス、スピットル、モグルドン、ミーニン、イフェメラ、ジェルガ、ボルギルスとなっている。
リドリアスは島の王となっていて、モグルドンはボルギルスと友達になりたいらしい。
ところでガルバスは元気かな……。
物語
防衛軍の動きが活発になる中、EYESは強力麻酔弾ドリームスリープの実験を推し進める。実験に反対するムサシの前に暴走するゴルメデβが現れて……。
感想
SRCが新たに推し進める強力麻酔弾実験計画。それは従来の麻酔弾の5倍の効果が期待されていると言う対怪獣強力麻酔弾ドリームスリープの実験を鏑矢諸島の怪獣達で行うと言うものであった。
ムサシは副作用の危険があって怪獣達の命が100%保障されていないと実験に反対するが、フブキ隊員は実際に効果を試して今後の捕獲作戦に役立てるべきだと返し、ドイガキ隊員も暴れる怪獣を苦しめずに早く捕獲できれば怪獣自身も傷付けなくて済むと説明する。
怪獣を捕獲する為により強力な装備を求めるEYESの姿勢は「強さと力」でのムサシを思わせる。ムサシが実験に強硬に反対したのもエリガルの一件があったからであろう。
今まで実験を渋っていたEYESが実験を強行するようになった背景には防衛軍の存在があった。この辺りから防衛軍が怪獣対策に乗り出してくるようになり、EYESも防衛軍に敵対姿勢を明確に示すようになる。
防衛軍が積極的に動くようになったのは西条武官の働きかけがあったと推察される。今回のヒウラキャップは怪獣保護よりドリームスリープ実験を優先していたが、そこには怪獣保護より防衛軍(西条武官)への対抗意識があるようにも思える。
この構図はやがて「カオスの敵」でより一層鮮明になる。
イケヤマ管理官は鏑矢諸島の怪獣達を見てリドリアスが島の王になったと言ったり鳴き声で怪獣が何を言おうとしているのか分かったりと、さすが日頃から怪獣と一緒にいると分かってくるものがあるんだなと感じる。これはゴルメデβが暴れる原因に気付けなかった防衛軍との対比にもなっている。
イケヤマ管理官も怪獣の説明役であるがムサシやドイガキ隊員が知識を元にしているのに対してイケヤマ管理官は経験を元にしている。
怪獣出現を受けて出動するムサシに向かっての「殺すなよ、ここに連れて来るんだ」はイケヤマ管理官ならではの言葉。
ゴルメデβが出現。『コスモス』で市街地に向かって人々の脅威となる怪獣は久し振りかな。
到着したムサシは怪獣にも暴れる理由があるとしてドイガキ隊員に調査を依頼する。ここは怪獣が暴れる理由を考えないで捕獲のみを考えた為に失敗したエリガルの時の反省を活かしている。
ドリームスリープを使わないでゴルメデβを捕獲しようとするムサシをヒウラキャップは厳しく叱責する。そこに防衛軍の戦闘機が現れてEYESが速やかに怪獣を捕獲しなければ自分達が代わりに始末すると宣言。シノブリーダーは防衛軍にそんな権限は無いと訴えるがトレジャーベースに西条武官が現れる。
扉を開けたらいきなり仁王立ちで登場し、鞭を鳴らす等、どこぞの悪の秘密組織の幹部かよ!とツッコみたくなる西条武官が登場。憎まれ役ではあるがここまでコテコテな登場をされると逆に笑えてしまう。
「TEAM EYESが手に余る時は人命尊重の立場から我々が強制的に解決する! もうEYESには……任せておけん!」。
いきなり相手の施設に上がりこんで机に足を投げ出すなどかなり態度が悪いが、実際、これはEYES(ヒウラキャップ)への宣戦布告なので嫌われにやって来たのであろう。
「怪獣捕獲などと生温いやり方は俺は初めから反対してきた。猶予は5分だ。……いいな」。
5分で怪獣をどうにかするなんて無茶苦茶だと言いたくなるが、実はコスモスはいつも3分以内に事態を解決しているので、コスモスが存在する世界でEYESの存在意義を掛けるならこの時間でも妥協しているとも言える。(まぁ、防衛軍が本気で怪獣殲滅をした場合、何分で完了できるのか知りたいところではあるが)
ヒウラキャップと西条武官の対立は『THE FIRST CONTACT』のアカツキキャップとシゲムラ参謀、TVシリーズ初期のムサシとフブキ隊員から続くものだが、前の二組と違ってヒウラキャップと西条武官は考えや立場の違いから来る対立と言うより感情的な対立が目立ち、この後も一向に和解する事無く対立し続けてしまう。この感情的な対立が続いていく関係は終盤のコスモスとカオスヘッダーにも繋がるところがある。
調査を終えたEYESはゴルメデβの体内を汚れた産業廃棄物が駆け巡っていて、出現地点の地下水脈の上流に防衛軍の開発工場がある事を突き止める。
今まで高圧的な態度を取っていた西条武官が真実を知って怒るヒウラキャップに怯える場面はギャップがあって見ていて痛快。その後の捕獲作戦を指示するヒウラキャップの後ろで西条武官が肩を落として帰る場面も初登場時からの落ちっぷりが激しくてかなり笑える。
今回はカオスヘッダー絡みではないのでエクリプスモードの登場は無し。ちゃんと各モードが使い分けされているのが嬉しい。
コロナモードはゴルメデβを暴れさせてエネルギーを使い果たさせるが、攻撃が激しすぎてエリガルの二の舞にならないかと見ていてちょっとハラハラしてしまう。
シールドに閉じ込められてシュンとしているゴルメデβを見て、とりあえずはここにいる事があいつの為だと言うイケヤマ管理官の言葉はさり気に重い。
怪獣だって生き物だとして無闇に実験するものじゃないと話すムサシとイケヤマ管理官の前にモグルドンに懐かれて困るアヤノ隊員が逃げてくる。それを見たムサシは満面の笑顔で「すっかり懐かれちゃいましたね、アヤノ先輩」。こんな時だけ先輩呼びとはやっぱりムサシはちょっと性悪だ。
今まで妙に物分りが良かった防衛軍だったが、強烈キャラ西条武官がグイグイ引っ張ってEYESとの対立構造を完成させた事でこれからはメインの話にも本格的に絡んでくるようになる。
一方で西条武官のキャラが強すぎて他の防衛軍関係者が前に出てこず、防衛軍=西条武官と言う偏ったイメージが定着してしまった。ここは強烈なキャラクターを使ったイメージ作りのリスクとも言える。
西条武官の名前は佐原司令官と合わせての『Q』由来なのだが、『Q』の万城目(佐原健二)と一平(西條康彦)は怪獣に強い敵意を抱いていたわけではないので、どうしてこの二人を元ネタにしたのか疑問が残る。
今回の話は山本さんのウルトラシリーズ脚本最終作となっている。