帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「怪獣狙撃手」

「怪獣狙撃手 ーネルドラント カオスネルドラント登場ー
ウルトラマンコスモス』第33話
2002年2月16日放送(第33話)
脚本 梶研吾林壮太郎
監督・特技監督 八木毅

 

岩石怪獣ネルドラント
身長 68m
体重 8万3千t
いきなり角と右目を負傷している状態で現れた。傷付くと生まれた場所に帰ろうとする習性があって龍厳山に向かう。劇中では語られていないが、防衛軍の施設近くに出現して電磁シールドで傷付いたらしい。ナガレがEYESを押しのけて出張ってきたのはそれが理由の一つかもしれない。
攻撃性の無い温和な怪獣だがナガレの攻撃で瀕死に陥り、さらにカオスヘッダーに取り憑かれてしまう。エクリプスモードのコズミューム光線でカオスネルドラントを切り離されるとEYESによって鏑矢諸島に移送され、ドイガキ隊員が調合した薬草エキスで回復したらしい。

 

カオスネルドラント
身長 68m
体重 8万3千t
カオスヘッダーがネルドラントに取り憑いた姿。
口から炎を吐く。
EYESのレーザーネットを打ち破る。(最後にレーザーネットが成功したのっていつだろう……)
エクリプスモードのコズミューム光線でネルドラントから切り離され、さらにそのまま空中に押し上げられて爆発した。

 

物語
傷付いたネルドラントを捕獲しようとするEYESを防衛軍のナガレが妨害する。
かつて大切な者を怪獣に奪われたナガレは全ての怪獣を自分の手で殺すと誓っていたのだった。

 

感想
前回の「悪夢の実験」に登場した西条武官はステレオタイプな憎まれ役だったが今回登場したナガレ・ジュンヤは怪獣を殲滅しようとする理由が描かれて単なる憎まれ役に留まらないキャラクターであった。
このまま準レギュラーにしてEYESやムサシと対比させていけば『コスモス』のテーマをより深く描けたと思うのでゲスト扱いだったのは勿体なかった。

 

西条武官の右腕であるナガレがチーフを務める怪獣殲滅兵器開発チーム・ガルズ。
おそらく西条武官がEYESに対抗して設立したチームだと思われる。
チームなのにナガレ以外のメンバーが登場しなかったのが残念。ウルトラシリーズで主人公チームのライバルチームが登場する事は少ないので上手くいけば『コスモス』の特徴の一つになれたかもしれなかった。
今まで防衛軍はEYESの捕獲作戦が失敗するまでは直接手を出さなかったが、今回のナガレはEYESの活動を妨害してまで怪獣を攻撃している。この辺りは西条武官の登場をきっかけに防衛軍内の強硬派が本格的に動き出したと見る事が出来る。

 

EYESの活動を妨害してまでネルドラントを攻撃したナガレの行動についてシノブリーダーは防衛軍も平和を願っているのは自分達と同じだが攻撃的な面が際立っていると説明する。それに対してムサシは誰であろうとああいうやり方は絶対に許さないと怒りを顕わにするが、そこにナガレがやって来て自分はEYESに気に入られようとは思っていないと宣戦布告をする。
怪獣を速やかに殲滅すれば人や街に対する被害は最小限に食い止められると言うナガレの意見に対してヒウラキャップはEYESの怪獣保護に対する精神は変わらない、その実現の為に命を懸けていると返す。
前回の西条武官と似た展開だったが、ナガレは西条武官のように大仰なポーズはせず、ヒウラキャップも感情を抑えて整然と反論していた。

 

ナガレ「あんた達は優しさを語り合う弱い集団だ。優しさじゃ平和は得られない。力だ! 力でこそ平和を手にする事が出来るんだ!」、
ムサシ「あなたは間違っている! 力だけじゃ平和は手に出来ない! 優しさこそが平和に繋がっているんだ!」、
ナガレ「優しさが平和に繋がるだと?」、
ムサシ「怪獣だって人間と同じこの地球に生きている命なんだ! 彼らの事を何一つ理解しようとしないで力で捻じ伏せて……、ただ殺すだけだったら人殺しと変わらない!」、
ナガレ「口先だけで偉そうな事を言うな! お前のこの奥に傷はあるのか? この胸の奥の奥に刻み込まれた深い傷はあるのか! どうなんだ!! 深い傷が刻み込まれた瞬間、あんたらにも現実が分かる。現実ってやつがな……」。
ナガレが主張する力で平和を得るは「強さと力」でムサシが陥った考え。それがどのような結果をもたらすのか分かっているからこそのムサシの反論だったのだろう。
因みにナガレが優しさを否定して力を掲げるのに対し、ムサシは力を否定しないで力に優しさを込める事が大事だと訴えている。エクリプス編でムサシは何か一つだけを掲げるのではなく様々なものを合わせていかなければならないと学んだのかもしれない。

 

友達を助けようとして自分が怪獣に襲われて命を失ったナガレの妹ミユキ。
今までも言葉で触れられる事は何度かあったが怪獣災害の具体的な被害が出てくるのはこの場面が初めてとなる。(と言うか『コスモス』唯一と言える)
この時に現れた怪獣のシルエットがなんとなくゴジラに見える。

 

ムサシの「怪獣だって人間と同じこの地球に生きている命」と言う発言で「怪獣」を2002年当時のアメリカが対テロ戦争の相手として掲げた「テロリスト」に置き換えると今回の話の構図が浮かび上がってくる。ナガレや防衛軍がアメリカ、怪獣がテロリストと称された人達、ムサシやEYESが日本と言ったところであろうか。
怪獣災害で妹を失ったナガレと比べると実際に被害を受けた事が無いムサシの訴えは理想論に聞こえて説得力が弱いと感じるが、被害を受けていないからと黙ってしまうのではなく、それでも自分の意見をしっかりと述べるムサシの姿は当時の日本と照らし合わせるとなかなか考えさせられるものがある。
自分もムサシが怪獣災害で何かを失った方がテーマをより深く語れるようになるのではと考えた時期があったが、それをすると実際に被害を受けていない人は意見を述べる資格が無くなると言う事になるので、ムサシを当時の日本と同じく被害を直接受けていない状態にしたのはむしろ良かったのかもしれない。

 

ナガレはEYESを「仲良し6人組」と称して元防衛軍所属であるシノブリーダーとフブキ隊員を「生温い組織に移った」と断じるが、フブキ隊員は曇った目では見えない事もたくさんあると反論し、シノブリーダーも同じ地球に住む生き物として怪獣を助けてみせると返す。
かつてはナガレと同じように「現実」を掲げて怪獣保護にシビアな見方をしていたフブキ隊員とシノブリーダーの変化が興味深い。

 

ネルドラントがまだ生きていた事を知ったナガレは止めを刺そうとするが今度はムサシがナガレの行動を妨害する。
ムサシ「妹さんの事は悲しいと思うけど、全ての怪獣が悪いわけじゃない! きっと人と怪獣は一緒に生きていける!」、
ナガレ「そんな事は望んでいない! 俺が望むのはあいつらの排除だ! 俺はあいつらを絶対に許さない! 必ずこの手で殺す!」。
「殺す」と言う言葉をはっきりと口にする人物はウルトラシリーズ(と言うか21世紀の日本のヒーロー作品)では意外と少なく、今回ははっきりと口にした事でテーマがより明確になったところがある。
ところで「怪獣」とは人間がこれまで認識していなかった巨大生物の総称だと思われるので、様々な巨大生物達を「怪獣」と一纏めにして殲滅してしまうのは乱暴と言える。「怪獣」と言う区別は「霊長類」とか「哺乳類」とかより幅が広いので、極端な話、クマに襲われたからクマもライオンもトラも皆殺しにしてやると言うレベルになってしまう。「怪獣」ではなく「ネルドラント種」とかならまだマシかなと思われるが、それでもネルドラントの被害を受けたのでネルドラント種を皆殺しにすると言うのは殺人犯が一人いたから人間が皆殺しにされると言うレベルになってしまう。こう考えると理想論を訴えるムサシに対してナガレは現実的な意見を持っているように見えて実はかなり滅茶苦茶な事を言っている事が分かる。

 

テックサンダー3号を操縦してカオスネルドラントの攻撃を避けるドイガキ隊員の姿に「怪獣一本釣り」からの成長が見られる。
「リーダー、しっかり掴まっててください!」とカッコ良く吼えるドイガキ隊員に向けるシノブリーダーの笑みに見ているこちらも思わずニヤリ。

 

信号弾でカオスネルドラントを誘導しようとするムサシを見てナガレはそんなものでは状況は変わらないとするがムサシは力強く答える。
「無理じゃない! 僕らはいつもこうやって来たんだ。絶対に諦めない。諦めるわけにはいかないんだ!」。
確かに「カオスヘッダーの影」以降、この展開は節目節目で使われている。
同じ状況だが比べてみるとムサシの中に確固たる信念が出来上がってきている事を感じる。

 

ネルドラントの攻撃を受けたムサシを見てナガレはネルドラントを攻撃してムサシに逃げろと告げる。その後、今度はナガレが攻撃を受けるとムサシはナガレを連れて一緒に逃げようとする。
ナガレ「俺に構わず逃げろ!」、
ムサシ「僕やEYESの皆も人の命や街を守りたいと思う心はあなたと同じだ。だから、僕はあなたも守りたい!」。
ムサシが攻撃を受けた時に相手を攻撃するナガレとナガレが攻撃を受けた時にナガレを助けにいくムサシの行動の違いに防衛軍とEYESの違いが見て取れる。
ナガレが人間を守る為に怪獣を排除しようとしていたのに対してムサシは人間も怪獣も全て守ろうとしていた。このように守る対象を人間から人間以外にも広げていったのが『コスモス』と言う作品であった。だが、その実現への道は長く険しい。

 

カラータイマーが点滅してからのモードチェンジだったのに全く苦戦する事無く勝利を収めたエクリプスモード。
ネルドラントからカオスネルドラントを切り離して、そのまま空中に押し上げて爆発させる展開はエクリプスモードの力強さが表れていた。

 

後日、再びトレジャーベースにナガレがやって来る。
「怪獣の殲滅を最優先すると言う考えは変わらない。だが、TEAM EYESの存在も否定はしない。人命と街を守りたいと言う願いは同じだって事が俺にも分かったからな」。
最初の宣戦布告の時もだが、わざわざ自分の意見をはっきりと述べに来るところがシノブリーダーが言う「ナガレの真っ直ぐな部分」なのかもしれない。
自分と違う考えを否定していたナガレが自分の主張を保ちながら異なる考えも受け入れるようになるのは後に明かされるカオスヘッダーの目的と対になっていて興味深い。