帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「オヤジ星人」

「オヤジ星人 ーヘルズキング登場ー
ウルトラマンコスモス』第38話
2002年3月23日放送(第38話)
脚本 増田貴彦
監督 市野龍一
特技監督 鈴木健二

 

潜入宇宙人ベリル星人
身長 5m
体重 210kg
草野と警官を使って地球に入り込み着々と侵略準備を進めていた。
SRCの情報を収集し、ヘルズキングをコントロールする。
草野の体を隠れ蓑にしていたベリル星人はやがて家族の愛を覚えて自分の使命に悩み最終的に仲間の警官を射殺してムサシに家族を助けてほしいと頼む。
ヘルズキングが倒された後、草野の体を隠れ蓑にしていたベリル星人はベリル星からの追っ手が草野一家に及ばないよう草野の体から分離し、ムサシに草野一家と地球の平和を託して宇宙へ去っていった。

 

侵略変形メカヘルズキング
身長 57m
体重 6万5千t
ベリル星人がコントロールする侵略目的の機械生命体。
飛行形態でSRC関連施設地下の高純度エネルギーと変電所の高圧電流を吸収する。飛行形態では光線を撃ち、触手を伸ばしてエネルギーを吸収する。
ベリル星人の発する第2プログラムで飛行形態から戦闘形態に変形する。戦闘形態では両手の甲からヘルズガンを撃つ。
劇中では語られていないが飛行形態から戦闘形態への変形に必要なエネルギーを奪っていたらしい。
コロナモードを圧倒する戦闘力を誇るが弱点の喉に攻撃を受けて弱まったところをコロナモードのブレージングウェーブで爆破された。
名前の意味は「地獄の王」かな。

 

物語
侵略者と思われる人物を調査する事になったムサシ。
相手は何処にでもいそうな典型的なオヤジだったのだが……。

 

感想
今回は最初は笑わせて最後に泣かせると言う喜劇の基本の話となっている。
名優・赤星昇一郎さんの演技が素晴らしい。家族に振り回されて仕事のノルマに追われる中年サラリーマン草野と家族の温かさに戸惑いながらも任務を遂行しようとする工作員ベリル星人と言う二つの顔を完璧に演じ分けていた。

 

調査していたムサシの所にいきなりやって来て凶悪な宇宙人に追われていると訴える女子高生の香織。そこに彼女の名前を大声で呼ぶ情けなさそうな父親の草野がやって来る。娘の香織曰く「あんなのお父さんじゃないよ。オヤジ星から来たオヤジ星人」。
『帰マン』の「地球頂きます!」にママゴンが登場してから30年、遂に父親も怪獣(宇宙人)になったのか……。ママゴンに比べて弱そうだが……。
父親はいちいち煩くてウザいらしいが、初対面の人の車に乗り込んでプチ家出だからと渋谷に連れて行ってもらおうとする娘の方が遥かに未知の存在だ。

 

今回登場した「喜多浦食品株式会社」の元ネタは北浦監督であろう。因みに草野が納豆ラーメンを売り込もうとしたスーパーの名前は「キヌタ」となっている。
喜多浦食品は納豆ラーメンの「ねばるっしょ」に社運を賭けたり、納豆の香りがする納豆ハンカチなるものを景品として付けるなどユニークな会社。実は「動け! 怪獣」でアヤノ隊員が用意した巨大マヨネーズ等のお好み焼きセットは喜多浦食品の物だった。又、らくだ便と同じく超時空を超えた会社らしく、『オリジンサーガ』の「あととむ ~跡求~」では惑星カノンのスザーク号にキタウラ食品が作った桃の缶詰があった。

 

草野を尾行していたムサシの背後を取ったネコ座第3惑星から来たニャントロ星人。その正体は女子高生の香織。
背後を取られるムサシが駄目なのか、背後を取れるニャントロ星人香織が凄いのか……。
因みに『ニャン』ではニャンはネコ座フェリス星からの使者と言う設定になっている。

 

防衛軍特務部隊が草野をマークしている事を知ったヒウラキャップはムサシに調査を命じるが、わざわざ変装したのにムサシは一般人の香織に見付かって背後を取られてしまう。ムサシ本人が言うように尾行には向いていないようだ。まぁ、本職の特務部隊も似たようなものであったが……。
前回の「フブキ退任?!」でEYESが防衛軍の傘下に入る事を拒んだからか両者はまたもや対立関係に戻ってしまい、お互いの情報を活用できない状況に陥ってしまった。
ムサシは草野を警戒するあまり特務部隊が本当にマークしていた警官に拉致されてしまうが、EYESと防衛軍がお互いの情報をきちんと共有して活用していたらこのような事態にはならなかった。
その事を反省してか次の「邪悪の光」ではEYESが防衛軍からの要請を受けてカオスヘッダーに関する情報を提供する事になる。

 

ヘルズキング出現で人々が避難する中、草野だけは反対方向に向かって駆けていた。娘の香織と妻の和代が止めても草野は仕事の資料があるからと言って聞き入れない。それを聞いた香織はいつも持っているパンダのぬいぐるみを草野に渡す。
草野「これはお前の宝物だろう?」、
香織「いいから持っていって! 絶対に安全なんでしょう?」、
草野「え?」、
香織「忘れちゃったの? お父さんがそう言って私に買ってくれたんじゃない」、
草野「香織……」、
香織「でも無理はしちゃ駄目だよ!」、
和代「お願い。無事に戻るって約束して!」。
娘に渡されたパンダ大明神の縫いぐるみの背中を見ると「守ってあげる」と言う言葉が書かれていた。こういう親子の話はベタだがやはりグッ来る。
赤星さんの演技力で父親の部分が描かれ、娘の部分も父親に反発しているようで父親を尾行していたムサシと絡んだりするなどフォローがされていて唐突感が無く自然な流れになっていた。

 

警官に捕らえられたムサシの所にやって来る草野。ムサシを撃つかと思いきや仲間であるはずの警官を撃ってしまう。そこに入ってくる電話。
草野「はい! 「ねばるっしょ」の草野と申します」、
香織「お父さん無事だったのね?」、
草野「香織か?」。
避難所から電話をかける香織と和代。
香織「うん、私も母さんも大丈夫」、
和代「あなた怪我は無い?」、
草野「大丈夫だ。心配するな。香織の事は……頼んだぞ……」。
電話を切ってポツリと呟いた「お父さんか……」の時の何とも言えない表情が全てを物語る。そして草野は警官が奪ったコスモプラックをムサシに返して頭を下げる。
「頼む……。私の家族を……守ってくれ……!」。

 

実は警官こそ特務部隊がマークしていたと言う展開は意外で良い意味で予想を裏切られた。
普段は情けないオヤジの草野と人当たりの良い警官の正体を表した時の恐ろしさがギャップがあってインパクト大。
ところで気になるのは草野に撃たれた警官の正体。
草野と同じでベリル星人が地球人の体を乗っ取っていたのか、それとも草野は憑依型で警官は変身型だったのか。
もし警官が変身型だったとすると、草野のような人間関係を手に入れられなかったので草野と違って家族の温かさを知る事が無く迷わずに任務を遂行できたと言う解釈が出来る。
一方で草野は家族を愛したと言ってはいるが地球人全てを愛したとは言っていないので、警官が憑依した地球人の体ごと仲間のベリル星人を撃ち殺したと解釈する事も出来る。(この解釈だとムサシの対応に疑問が生じてしまうが)

 

ヘルズキングのデザインはウルトラシリーズのロボット怪獣の中でも上位に入るカッコ良さ。
西部劇をイメージした戦闘シーンも面白い。
ヘルズキングは早撃ちで勝利し、さらに今度は拳で勝負とコスモスを挑発。ロボットでありながらキャラクターが立っていた。
射撃でも格闘でもコロナモードを圧倒したヘルズキングはかなりの強敵で、草野から弱点を知らされていなかったらコスモスは負けていたかもしれない。これが「禁断の兵器」でのヘルズキング改に繋がる事になる。

 

戦いが終わった後、ベリル星人はムサシに自分が取った行動の真意を明かす。
「私は大きな過ちを犯してしまった。愛しちゃったんですよ。偽りであるはずの家族をね。ベリル星には家族の概念が無い。活動を続けているうちに家族の温かさを知り、妻を、香織を愛おしく思うようになってしまい、迷いが生まれた。しかし、家族の愛が私に勇気を与えてくれた。後悔はしていません」。
そしてベリル星人は父親を探す香織と和代を見て草野の体から分離する。
ベリル星を裏切った事で狙われ、宇宙を放浪する事になったベリル星人。
「私の家族を、そしてこの地球をよろしく頼みます。ウルトラマンコスモス。また会いましょう、宇宙のどこかで……」。
そしてベリル星人は宇宙へと去っていき、香織と和代は公園で寝ている父親と再会する。それを見てムサシは空に輝く一つの光を仰ぎ見る。
「家族の温かさか……。それが……この地球を救ったんだ……」。