帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「雪の扉」

「雪の扉 ーグラルファン登場ー
ウルトラマンコスモス』第57話
2002年8月10日放送(第53話)
脚本 太田愛
監督・特技監督 原田昌樹

 

伝説聖獣グラルファン
身長 60m
体重 6万t
カードに描かれている扉の向こう側の世界に棲んでいると言われている伝説の生き物。
とても寒い世界に棲んでいて冬の季節を街に運んで来る。
音楽が好きでトマノのかつての演奏を聴いてやって来た。
人の心の奥の古い記憶を目の前に蘇らせる。
呼び出したトマノが自分が思い出の世界に生きられない事を感じると暁とコスモスによって元の世界に帰された。

 

物語
夢が破れて目的も無く日々を生きる少年は一人の老人と出会う。そして……。

 

感想
今回の話はゲストである暁の回想となっている。
変則的なエピソードであるが、こういう話も出来るのがウルトラシリーズの強み。

 

暁は高校受験を控えた中学生と言う設定。同じく中学生だった堀村が登場する「ともだち」と同じく今回も思春期ならではの話になっている。
ウルトラシリーズで中学生を扱った話と言えば『80』の学園編があるが、『80』では中学生達が抱える問題が怪獣事件と繋がる事が多かったのに対して『コスモス』では中学生達が抱える問題と怪獣事件は別になっていて、彼らは転校や受験と言った自分達の問題をウルトラマンに解決してもらうのではなく自分自身で解決する事になる。

 

音楽を聴いてカードの扉を通ってやってくると言うグラルファンの設定が幻想的。
グラルファンは寒い所に棲んでいて出現すると街に冬をもたらすと言う設定だが、これは脚本が真夏の設定なのに撮影が真冬だったので捻り出した苦肉の策だったらしい。
なので冒頭と最後の真夏の場面はCGで加工されたものとの事。撮影時期を考えたら当然の処置なのだが言われないと意外と気付かなかった。

 

グラルファンがいる間、世界の時間は止まるのでトマノは誰も知らないうちに思い出の世界に旅立つ事になるのだが、トマノは暁にだけ止まった時間の中で動ける方法を教える。ひょっとしたら自分の最期を誰かに見届けてほしかったのかな。

 

「どうしてそんなに思い出の世界に行きたいの?」と言う暁の質問にトマノはバイオリンと家族の写真に目をやる。
「私は……有名なバイオリニストにはなれませんでした。でも、バイオリンをずっと弾き続ける事が出来ました。今は昔のようにはバイオリンを弾けませんが、それもこの年では当たり前の事です」。
家族の写真、かつて一枚だけ録音された自分の演奏、今のトマノを支えるのは全て過去のものであった。話を聞いた暁は今のトマノには誰にもどうする事も出来ない寂しさがある事を感じ取る。
よほど過去が酷かったり現在が満ち足りていなければ人間は思い出の世界に心を惹かれてしまう。それは老若男女関係が無い。事実、まだ中学生である暁でさえトロフィーと言う彼にとっての思い出の品を部屋に置いていた。

 

今回は番外編に近いのでEYESの出番はかなり少ない。出番が無くても話が成り立つと言うか逆に出番が無かった方が話がすっきりするところがあった。
こういう話を見るとウルトラマンや特別チームが登場しない『Qdf』みたいな作品も必要なのかなと思う。

 

雪降る街で出会った暁はアヤノ隊員に寒くて風邪を引くから早く帰った方がいいと忠告するが、アヤノ隊員は「ちっちっち。EYESのユニフォームは耐熱耐寒。冬だってバッチリ暖かいの」と得意気に説明する。
実情を知っていると思わず笑ってしまう台詞。

 

トマノの言葉通りにグラルファンが現れ、光の粉が舞い散る瞬間に目を閉じた暁は止まった時間の中でトマノの家に向かう。
かつて自分が演奏した曲が流れる中、思い出の世界を見つめるトマノ。そこには若かった自分とまだ生きていた家族がいた。
暁「トマノさん……。あの思い出と一緒に行くんだね……」、
トマノ「私は……行けません……」、
暁「どうして? あれ、写真の中の思い出の時間じゃない。トマノさんが想っていたもの全部あそこにあるんだよ。なのに何で?」、
トマノ「こんな風に見て……初めて分かりました……。あれは皆、……あそこにいる私……、あの時の私のものなのです……。あの時間を……もう一度生きる事は……出来ない……」、
暁「トマノさん……」、
トマノ「一度きりです……」、
暁「一度きり?」、
トマノ「そう、どんな一瞬も……、一度きりです……」。
トマノの話を聞いた暁はあの中学校生活最後の地区大会を思い出す。
暁「一度きりだから……忘れない。一度きりだから……空っぽになるくらい何かに本気になったりする」。
考えた末、暁はトマノからグラルファンのカードを取り、グラルファンを帰す事を決める。
多くの人間が過去に戻って人生をやり直したいなと思うが「20歳が日々を生きる」と「40歳が20年前に戻って日々を生きる」は一見すると同じようで実は全く違うものになるのだろうなぁ……。

 

夜空に浮かぶ巨大な扉。
光が舞い散る中、扉が開き、静かに光臨するグラルファン。
美しいの一言。

 

暁とコスモスによってグラルファンは元の世界に帰される。
暁はトマノにカードを返そうとするが、トマノは扉を開けてグラルファンを呼び出した者は現実世界の時間から消えなければならないとして別れを告げる。
「覚えていてください。私が幸福だったと言う事を……。誰に知られる事も無い平凡な一生でした。けど、精一杯生きた……。心から寂しいと思えるほど大切なものを持つ事が出来たんです」。
トマノを演じた天本英世さんは『Q』の「あけてくれ!」に友野役で出演していて今回のトマノはそのオマージュだと思われる。友野とトマノの対になっている人生は色々と考えさせられるものがある。

 

「僕は思い出を作る為に生きるわけじゃない。でも……、いつか……、僕がこの世界から去って行く時、精一杯生きた……、そう思いたい。僕は走る! ゴールが見えなくても……、一番じゃなくても……。僕は……大人になる」。