「禁断の兵器 ーヘルズキング改登場ー」
『ウルトラマンコスモス』第61話
2002年8月31日放送(第56話)
脚本 増田貴彦
監督 市野龍一
特技監督 鈴木健二
対カオスヘッダー殲滅兵器ヘルズキング改
身長 57m
体重 6万7千t
破壊されたヘルズキングを防衛軍が極秘裏に回収して復元した。強化改造を施されてコスモスでさえ苦戦した戦闘力がさらに強化された。
防衛軍が開発した反応炉にカオスヘッダーが苦手としているソアッグ鉱石を搭載する事で高出力のソアッグビームを発射して物質を原子レベルにまで分解消滅させる事が可能。
ベリル星人が組み込んでいたセキュリティシステムが起動した事で暴走するがEYESとエクリプスモードのコズミューム光線でソアッグ反応炉を破壊され倒された。
物語
カオスウルトラマンカラミティとの戦いで深いダメージを負ってしまったコスモス。
EYESがカオスキメラ合成を進める一方で防衛軍は回収したヘルズキングを対カオスヘッダー殲滅兵器として改造する。
着々と最終決戦への準備が進められる中、ムサシはある疑問を口にする。
感想
今回の話は「カオスの敵」と対になっている。
「カオスの敵」ではEYESが人類の希望と称したマザルガスを西条武官がダビデス909で殺害し、今回は防衛軍が人類の希望と称するヘルズキング改をコスモスとEYESが破壊している。
EYESはヘルズキング改について異星人の侵略兵器が人類にとって希望になるのかと懸念を示していたが、そう言うEYESも怪獣であるマザルガスを人類の希望にしようとしていた。
ムサシは気付いたようだがヒウラキャップは自分の行動が西条武官と同じ事に気付いていないみたいだ。
カオスキメラの合成に成功したと思ったら増やせない事が判明。
P87ポイントのカオスヘッダーを一掃するにはカオスキメラに自己増殖機能を持たせなければいけないらしい。
『コスモス』は最終章を7部作にした事で一つ一つの要素をじっくり描けるようになった。怒涛の展開も盛り上がるが『コスモス』は単に敵を倒して終わりと言う作品ではないので、息も吐かせぬ急展開よりそれぞれの心情の変化を丁寧に追っていく方を選択したのは正解だったと思う。
カオスキメラの量産は無理だと判断した西条武官は消極的な佐原司令官を押し切ってProject H.Kを進める。極秘裏に進められていた計画だったがEYESが月面から採取したソアッグ鉱石が必要になったので遂に公開される事となった。
防衛軍施設に横たわるヘルズキング改を見て驚くヒウラキャップ達の前に「ふっふっふ……。驚いたかね? EYESの諸君」とお約束通りの悪役登場をする西条武官に笑うw
その後、防衛軍が誇るカオスヘッダーを倒す切り札ヘルズキング改の性能をEYESに見せつける為のテストが行われ、ソアッグビームで鉄の塊を消滅させるが、この時の鉄の塊の重量11万3272tと言う妙に細かい数字を西条武官が抑揚無く喋るのがなんか可笑しいw
この他にも「これから皆さん、信じられない光景を目の当たりにする事になる」と言う丁寧なのか無礼なのか分からない話し方やヘルズキング改の凄さを見せつけて悪役笑いで愉悦に浸る姿等、言動の一つ一つが可笑しくて笑ってしまう。
「我々にもう残された時間は無いのだよ、ヒウラ君。コスモスが絶対戦力でなくなった今、我々は我々独自の戦力を持たねばならんのだ。ヘルズキングは人類にとって唯一の希望だ」と言う佐原司令官の言葉にヒウラキャップとフブキ隊員の考えが動き、後の防衛軍との共闘へと繋がっていく事になる。
その一方で警備の振りをして防衛軍の動きを監視する為にムサシとフブキ隊員が残される等、EYESの防衛軍への不信は根強かった。怪獣や宇宙人との共存を目指しながらEYESは同じ人類である防衛軍と対立を続けていくのであった。
佐原司令官の言葉に何か引っかかるものを感じたムサシは直接の対話を求め、佐原司令官もそれに応じる。
ムサシ「本当に……本当にこれで良いんですか? こうするしかないんですか?」、
佐原「君の懸念も分かる。ヘルズキングを使うと言う事は悪魔の力を振るう事にもなる」、
ムサシ「だったら……!」、
佐原「我々には責任がある。我々の肩には何十億の地球人の未来がかかっているんだ。たとえ、この手を汚しても背負い続けなければならんのだ。それが我々防衛軍の責務であり、覚悟だ」、
ムサシ「……」、
佐原「これまで我々人類はコスモスに頼りすぎてきた。彼の負担を少しでも軽くする事が出来るのなら私は……喜んで悪魔と手を組もう……。想いは君達EYESと同じではないかね?」、
ムサシ「……汚した手で……、汚した手で、自分の首を絞める事にはなりませんか?」、
佐原「春野ムサシ隊員……だったな?」、
ムサシ「……はい」、
佐原「……覚えておこう」。
実は『コスモス』の中で一番物事を考えているのは佐原司令官ではないのかと思う時がある。
このやり取りを初めて見た時は人々の未来を守る為に自らの手が汚れる事も覚悟する佐原司令官の決意に感動し、さらにその考え方の危うさを指摘するムサシの言葉に衝撃を受けた。佐原司令官の言葉だけでも十分良い場面なのだが、そこからさらに考えを深めていったのに唸らされた。
今までの『コスモス』はムサシと対立する者の描写が浅かった為に結果としてムサシの発言も軽くなってしまうところがあったが、今回は佐原司令官の意見に説得力を持たせた事でそれに対するムサシの発言も重みが増した。
物語の初期の頃は会話も殆ど無かったムサシと防衛軍が長い戦いの中で少しずつ歩み寄っていき、遂に面と向かって話をして相手の考えをしっかりと受け取る事が出来たと言う展開は『コスモス』のテーマの一つであるコミュニケーションを長いスパンを使って描いたと言える。
佐原司令官の話を聞いたムサシはヘルズキング改を推し進める防衛軍とカオスキメラを推し進めるEYESが同じである事に気付き、カオスヘッダーを倒す為に戦力増強が進められる現状に危機感を抱く。
これはかつてムサシ自身も「強さと力」で強力になっていくカオスヘッダーを倒す為により強い力を求めた事で一番大切な「守る」を忘れて悲劇を起こしてしまった悔恨からきていると思われる。
「防衛軍は……いや、防衛軍だけじゃない。僕達EYESも皆、力で勝つ事だけを考えている。力と力の争い……。今までだって、その繰り返しだった。もっと……、もっと別の何かがあれば……!」。
誰もがやっぱりと思ったであろうヘルズキング改の暴走。ウルトラシリーズで敵が残したものを再利用するととんでもない目に遭う。
EYESはソアッグ反応炉を破壊すればヘルズキング改が停止する事を突き止めるが、防衛軍から破壊してはいけないとの要請が出る。この時の西条武官の「保護は君達の専売特許だろう? なるべく無傷で確保するんだ」は無責任この上ない。まぁ、カオスヘッダーに誘導されたマザルガスと状況は似ているので、マザルガスの時は多少の被害が出ても攻撃しないがヘルズキング改の時は攻撃するとしたEYESもかなり身勝手ではあるが……。
結局、ヒウラキャップは「これは……俺達の希望じゃない!」と言ってヘルズキング改を攻撃する事を決め、コスモスによってヘルズキング改は倒される事となる。ヘルズキング改を破壊された西条武官はSRCに圧力をかけるべきだと激昂するが佐原司令官に「悪いが! ……静かにしてくれないか」と一喝されて引き下がる。
マザルガスを倒されたヒウラキャップはお前は人類の希望を壊したと言って西条武官を殴り飛ばしたが、意外と西条武官が直接暴力を振るう事は無かった。(どちらかと言うと殴るより殴られるイメージの方が強かったりする)
西条武官が退室した後、佐原司令官はムサシの言葉を思い出してフッと笑みを浮かべる。ここで佐原司令官は相手を倒す以外の選択肢を得る事になり、「真の勇者」ではカオスヘッダーの周りに集結したリドリアス達の真意を感じとる事になる。
ヘルズキング改を破壊した後、EYESは「悪魔の力」を借りずに自分達の力で戦えばいいんだと決意を新たにする。
一方、ヘルズキング改との戦いでドイガキ隊員はソアッグ鉱石の光の波長がカオスキメラの自己増殖機能を促す事に気付き、カオスキメラの増殖に成功の兆しが見えたEYESはソアッグ鉱石の光を「希望の光」と称して喜ぶ。
しかし、ムサシはそんなEYESに防衛軍と同じものを感じて独り考えるのであった。