「カオス激襲 ーエリガル カオスエリガル登場ー」
『ウルトラマンコスモス』第63話
2002年9月14日放送(第58話)
脚本 大西伸介
監督 根本実樹
特技監督 佐川和夫
毒ガス怪獣エリガルⅡ
身長 54m
体重 5万8千t
人類のカオスヘッダー殲滅作戦に対抗する為にカオスヘッダーによって目覚めさせられた地球怪獣。
カオス化されるがエクリプスモードのコズミューム光線でカオスヘッダーと切り離される。
「Ⅱ」となっているが劇中では3体目になるのがちょっと気になる。(「強さと力」の前に現れた個体がいる)
カオスエリガルⅡ
身長 56m
体重 6万t
カオスヘッダーがエリガルⅡに取り憑いた姿。
両手の鎌と毒ガスでコスモスを苦しめるがエクリプスモードに毒ガスを吐かないように細胞を変化させられ、最後はコズミューム光線でカオスヘッダーを切り離された。
物語
遂に発動される殲滅作戦に対してカオスヘッダーはエリガルを使って先手を打って来る。
迷いを捨てて戦おうとするムサシだったが、そこにカオスヘッダーから思いがけない言葉が投げかけられる。
感想
太陽系の外れを調査していた探査船ワルツ3号が地球に帰還し、ムサシの親友ミツヤが再登場する。
ムサシはウルトラシリーズの主人公では珍しく、少年時代、特別チーム所属時、特別チーム後といくつかの時期が描かれているがEYESに入隊する前の宇宙開発センター時代だけは詳しく描かれる事が無かった。ミツヤはその時代を描写できる存在だったので上手く活用されなかったのは残念。
ミツヤが持ってきた二つの結晶体は組み合わせると文字情報が映し出される記録媒体だった。P87ポイント近くの小惑星で発見されたのでカオスヘッダーに関する謎が秘められている可能性があり、ドイガキ隊員と吉井ちゃんによって解析が行われる事になる。
「混沌……。天と地が区別が付かないほどドロドロに混ざり合った状態。つまり、カオス……」。
地球上のいかなる地域でもカオスヘッダー反応が検出されなくなり、EYESと防衛軍は前回の「地球の悲鳴」で倒したカオスウルトラマンが地球に残ったカオスヘッダーの集合体だったとして、地球上のカオスヘッダーは全滅したと結論付ける。
しかし、P87ポイントに集結し続けているカオスヘッダーの影響で地底の怪獣達がうごめ続けている中でカオスヘッダー殲滅作戦の準備が続けられる事となる。
カオスヘッダー殲滅作戦はカオスキメラを大量に搭載したテックブースター両サイドのモジュールファイターをP87ポイントに撃ち込んで起爆装置で爆破してカオスヘッダーを一気に殲滅させると言う内容で、カオスヘッダーの妨害が考えられる上、現在のEYESと防衛軍にはテックブースター以外の宇宙装備は無いと言う危険極まりない作戦であった。
自分は『コスモス』で宇宙関係のアイテムが少ないのが不満だったが、それがカオスヘッダーの正体を示す結晶体をすぐに見付ける事が出来なかった、最終決戦に使えるのがテックブースターのみと言う危険な作戦を遂行する事となった、とクライマックスに盛り上がるように繋がっていったのは上手いなぁと思った。
夜の司令室。一人悩むムサシの所にアヤノ隊員がやって来る。
アヤノ「明日で終わるんだね、カオスヘッダーとの戦い……。きっと……明日で終わるんだよね」、
ムサシ「やっぱり……、カオスヘッダーを倒す事しか出来ないのかなって……。何となくそう思って……」、
アヤノ「まだそんな事考えているの……。ムサシ……、気持ちは分かるけれど今は戦う事を考えなくちゃ。迷ってるのムサシだけじゃないよ。私だって……、皆だって……」。
アヤノ隊員に諭されたムサシは通路に出て、そこでヒウラキャップとシノブリーダーの会話を聞く事になる。
シノブ「もう言っても遅いかもしれないけれど、自ら一番危険な任務を引き受けるのは指揮官として軽率です」、
ヒウラ「そうかもしれない……。しかし、これは俺達の本当の任務じゃない。俺達の本当の任務は怪獣達を守る事だったはずだ。それなのにずっとカオスヘッダーとの戦いが続いて、俺は時々自分の任務を忘れかけてハッとする時がある」、
シノブ「でもそれは……」、
ヒウラ「でもそれはやむを得ない事だ。だが俺はこれ以上、隊員達に「やむを得ない」と言う言葉を使いたくはないんだ。ただ相手を倒すだけのこんな任務で彼らをこれ以上危険な目に遭わせたくはない。シノブ、カオスヘッダーさえ倒せれば俺達は本来の任務に戻れるはずだ。その為にも俺がP87ポイントの攻撃に行かなければならない」。
それを聞いたシノブリーダーは納得し、自室に戻ったムサシもある決意をする。
ムサシ「コスモス……。明日で戦いを終わらせよう。終わらせなければいけないんだ……!」。
ヒウラキャップはカオスヘッダーとの戦いが中心となった現在の状況が異常であると言う認識を持っていた。その異常な状態を正常に戻す為に自ら最後の危険を買って出るのだが、「カオスヘッダーを倒せば全てが終わる」「平和を取り戻す為には迷いを捨てて戦わなければならない」、これらの考え自体がやむを得ない戦時下における異常な結論とも言える。
カオスヘッダー殲滅作戦開始の3分前でP87ポイントから地球に向けてカオスヘッダーが襲来し、前回のドルバに続いて今度はエリガルⅡを目覚めさせてカオス化させる。
「ムサシ! お前は何としてもエリガルを救いたいはずだ。エリガルを救え! それが俺達TEAM EYESの本来の使命だ!」。
ヒウラキャップの指示を受けてムサシとフブキ隊員はカオスエリガルⅡの所へ向かうが、直後にP87ポイントから新たなカオスヘッダーが襲来し、通信障害を起こすと鏑矢諸島のシールドを破壊し防衛軍の戦闘機を全滅させてトレジャーベースの全システムをダウンさせてしまう。
一方、カオスエリガルⅡに向けてカオス抗体ミサイルが撃ち込まれるが進化したカオスヘッダーに効果は無く、ムサシはコスモスのダメージを気にして変身を躊躇うが、フブキ隊員が撃墜され、周囲に毒ガスがまき散らされるのを見て変身を決断。コスモスはエクリプスモードにモードチェンジするとバリアーで毒ガスを吸収してそのまま毒ガスを吐けないようにカオスエリガルⅡの細胞を変化させるのだった。
コスモスが毒ガスを吐かないようにしたおかげでエリガルⅡが人間を傷付ける事も無くなって「強さと力」での失敗を見事克服したと思いきや切り離されたカオスヘッダーがコスモスに向かってある疑問を投げかける。
「コスモス……。お前は……人間の為に……怪獣の体を変えた……。我々が……我々の為に怪獣を変化させるのと……どこが違う? そのどこが……悪い?」。
カオスヘッダーの言葉に衝撃を受けつつもコスモスは怒りに身を震わせるのであった。
このカオスヘッダーの言葉はヒーロー作品においてかなりの挑戦であった。
ウルトラマンは破壊活動する怪獣は倒すが地球上で最も破壊活動を行う人間を倒す事は無いし、地球侵略を企む宇宙人は倒すがどんな悪人でも人間の命を奪う事はしない。極端な話、ウルトラマンは同じ罪人でも相手が人間か否かで処罰を変える不公平な存在、あくまで「人間の為」に行動する存在と言える。
ウルトラマンはまだ未熟な人間が立派に成長できるように今は見守っている段階だとか色々理由付けされてはいるが、猶予を与え続けられている人間に対して即処罰されていった怪獣や侵略者はやりきれないものを感じるであろう。
今回の話でムサシは戦いによる決着に疑問を抱いていたが悪であるカオスヘッダーを倒す事は正しいと言う単純な善悪二元論で無理矢理正当化させた。しかし、このカオスヘッダーの問いかけによってコスモスやEYESの行動も所詮は「人間の為」と言う自己中心的なもので正しいとは言えないとなってしまい戦いの大義名分が崩れた。
人間が人間に向けて制作しているヒーロー作品でヒーローの行動が結果的に「人間の為」になってしまうのは当然であるし仕方が無い事でもある。その暗黙の部分をあえて取り上げたのは驚いた。出来ればもっと突っ込んでほしかったが残念ながら『コスモス』においてはここまで。しかし、良い問題提起だったと思う。
ようやくエリガルを救えたが暗い表情のムサシ。そこにトレジャーべースを占拠したカオスヘッダーから恨みの言葉が投げかけられる。
「コスモス……どこまでも、どこまでも我々の邪魔をする……! これ以上、邪魔はさせん! コスモス、お前が憎い。我々の秩序を乱すウルトラマンコスモス!」。
こうして善と悪の垣根が崩れた『コスモス』は理屈関係無しの「怒りと憎しみ」と言う感情で戦いが続いていく事となる。
と言う事で次回「月面の決戦」に続きます。