帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「真の勇者」

「真の勇者 ーカオスダークネス リドリアス モグルドン ボルギルス登場ー
ウルトラマンコスモス』第65話
2002年9月28日放送(第60話)
脚本 大西伸介
監督 根本実樹
特技監督 佐川和夫

 

カオスダークネス
身長 70m
体重 7万6千t
今度は地球に現れる。更なる進化を遂げていてカオスキメラへの抵抗力を身に付けている。
憎しみのまま暴れるが、怪獣達、ムサシ、EYES、コスモスによる説得で憎しみとは違うある想いを感じ取る。

 

カオスヘッダー0
身長 69m
体重 6万4千t
浄化されたカオスヘッダーが最後に進化した最も原初的な姿。
コスモスと共に元の世界へと帰っていった。

 

友好巨鳥リドリアス
身長 48m
体重 5万8千t
鏑矢諸島からカオスヘッダーを説得する為にやって来た。
ラクルナモードと共にカオスヘッダーの浄化に成功する。

 

地中怪獣モグルドン
身長 55m
体重 6万4千t
鏑矢諸島からカオスヘッダーを説得する為にやって来た。
ラクルナモードと共にカオスヘッダーの浄化に成功する。

 

電撃怪獣ボルギルス
身長 53m
体重 5万9千t
鏑矢諸島からカオスヘッダーを説得する為にやって来た。
ラクルナモードと共にカオスヘッダーの浄化に成功する。

 

物語
カオスダークネスが地球に現れEYESが迎撃に向かう。
出口が見えない終わりなき戦いの中、集結した怪獣達の行動がムサシに事態解決の糸口を確信させる。
果たしてムサシの訴えは届くのか……!

 

感想
月面の決戦」の続き。

 

カオスヘッダーによって鏑矢諸島のシールドが破壊されて怪獣達は解放され、地底に眠っていた怪獣達も活発に動き出すようになった。怪獣が人前に現れる可能性が大幅に上がった事で人類はこれまで以上に怪獣達とどう接していくのか問われる事となる。それは後の『THE FINAL BATTLE』で描かれる事になる。

 

アヤノ隊員はカワヤ医師からムサシが正常に戻った事を聞かされて安堵する。
カワヤ「心配いらないよ、だってこいつはウルトラ……、いや、ウルトラマンモス健康体なんだからよ。……どうしたんだ? 二人とも」。
どー考えてもムサシとコスモスの関係を知っているとしか思えないカワヤ医師の言葉。

 

元々のカオスヘッダーは善でも悪でもないように思えるとしてアヤノ隊員は攻撃以外の選択肢を考え始める。それに対してヒウラキャップは憎しみを知ったカオスヘッダーは明らかな悪意を持って人類に挑戦してきていると難色を示すが、そこにムサシがやって来る。
ムサシ「心を持ったからこそ、カオスヘッダーと分かり合えるのではないでしょうか? 元々、人工生命体であるカオスヘッダーは彼らを作り出した者達の意思通りに動いていただけなんです。ある意味、カオスヘッダーも犠牲者なんです。そんな彼らが心を持った。しかも、カオスヘッダーの目的は他の生物の命を奪う事じゃないって分かったんです。それなのに、これ以上僕達が攻撃的になってもいいんでしょうか?」。
しかし、そこにカオスダークネスが出現。街を破壊するカオスダークネスを前にヒウラキャップは全てを断ち切る。
ヒウラ「ムサシ! 今はその事について話している時間は無い。カオスヘッダーとの戦いはもう避けられないんだ!」。
攻撃以外の選択を出来るのが理想かもしれないが目の前で街が破壊されると言う現実を前にしてそれは難しい話である。
この会話で面白かったのは心を持った事でカオスヘッダーと分かり合える可能性が生まれたと言う事。最初は意思を発しない光のウイルスだったカオスヘッダーが「カオスを倒す力」や「邪悪の巨人」等で人間を分析して人間と同じように自分の意思を発し始めた時は敵がどんどん恐ろしく強大になっていると感じたのだが、言われてみれば確かにカオスヘッダーの考えている事が分かればそこから交渉をして和解へと持っていく事も可能であった。

 

ムサシを残して出撃したEYESはキメラミサイルを使うが進化して抵抗力を身に付けたカオスダークネスにはもう通じなくなっていた。
ヒウラ「いくら武器を開発しても奴らはまたその先を行く……。俺達に出来る事はもう無いのか?」。
ヒーロー作品では敵が強くなったのに対抗して主人公達も強くなり、主人公達が強くなったのに対抗して敵も強くなっていく事が多い。基本的にヒーロー作品は半年から一年で終了するのだが、もし、ヒーロー作品が決められた期間で終了しないでずっと戦いが続いていったら主人公と敵は果てしないパワーアップ合戦を続けていく事になるだろう。

 

そこに現れたリドリアスはいつもと違う鳴き声でカオスヘッダーに呼びかけ、続いてボルギルスとモグルドンも姿を現す。
それを見た西条武官は怪獣達が暴れようとしているとして攻撃許可を求めるが、佐原司令官は怪獣達には何か考えがあるようだとしばらく様子を見守る事にする。あの防衛軍が怪獣の気持ちを考えるようになったのは物凄い変化である。
攻撃を受けながらも何かを訴え続けるリドリアスとその訴えを聞いて不安定になって苦しむカオスダークネスを見てムサシはある事を確信する。
ムサシ「カオスヘッダーの心が反応している? 怪獣達の心が通じるなら、きっと僕達の心も……」。
因みにカオスダークネスの説得に集まった怪獣はリドリアス、モグルドン、ボルギルスの3体のみ。特にカオス化された怪獣はリドリアス以外は誰も参加していない。やはりカオスヘッダーに対するわだかまり等があったのだろうか。
ここで今まで登場した全ての怪獣がカオスヘッダーを説得して戦いを終わらせた方が盛り上がったかもしれないが、『コスモス』の終盤では全体を一つの方向に強引に進めてしまう事を否定しているので、カオスヘッダーを許せなくて説得に向かわなかった怪獣もいたとする方が『コスモス』のテーマに合っていたのかなと思う。

 

リドリアスを守る為にカオスダークネスを攻撃するEYES。この構図は「カオスヘッダーの影」と同じ。やはり歴史は繰り返すものなのか?
そこにシェパードに乗ってムサシがやって来て訴える。
ムサシ「カオスヘッダー! もし、お前が人間の心を理解できるのなら、争いを憎む気持ちだって理解できるはずだ! もう止めよう、止めるんだ! 頼むから、僕の気持ちを分かってくれ!」。
カオスヘッダーが人間の心を知って「憎しみ」を知ったと言う展開を「争いを憎む気持ちも分かるはず」と逆転させたのが上手かった。マイナスの要素である「憎しみ」と言う言葉をプラスに変えたアイデアが見事。こういう発想の転換や視点の変化が出来るのが『コスモス』と言う作品であったと思う。
ムサシの訴えを聞いて不安定になって苦しむカオスダークネスは暴れ出し、EYESはムサシを守る為に反撃しようとするが、ムサシはそれを制して説得を続ける。「カオスヘッダーの影」ではリドリアスもゴルメデも救おうとしたがカオスヘッダーは倒したムサシ。あれから1年以上経った今回の話で遂にムサシはカオスヘッダーをも救おうとする。


ヒウラキャップは「落ちてきたロボット」で「たとえ生物でなくても心があるものはおざなりに出来ない」と語っていたが、いざカオスヘッダーが心を持つとそれを理由に攻撃を続けてしまったのは皮肉とも言える。
因みにヒウラキャップは「カオスヘッダーの影」で「怪獣達の本当の心を知りたい」と言ってムサシをEYESに誘い、その怪獣達の心がカオスヘッダーの心を動かして事態は収束を迎える事となった。こうして見返すと『コスモス』は「心」と言う言葉で始まりと終わりが繋がっていた。

 

カオスダークネスの攻撃がムサシに命中する寸前にコスモスが復活してムサシを救出する。
コスモス「君の勇気が残り少ない私の力に最後の炎を灯してくれた」。
コスモスに助けられたムサシはカオスヘッダーを救いたいと訴えるが、そこにカオスダークネスの攻撃が迫る。コスモスはそれを受け止めるとルナモードからコロナモードにモードチェンジして応戦する。
ムサシの制止も聞かないで残された最後の力全てをぶつけて戦うコスモスはなんとブレージングウェーブでカオスダークネスごと街まで破壊してしまう。
おいおい、慈愛の巨人だろう?とツッコミたくなるが、コスモスは『THE FIRST CONTACT』でもバルタン星人との戦いで街を破壊している。実は怪獣保護もカオスヘッダーとの和解もムサシが言っている事でコスモス自身は特に言及していない。おそらくコスモスはイゴマスやイフェメラみたいな無害な存在を進んで倒す事はしないが、今まで破壊活動を続けてきたカオスヘッダーを救おうとするほど慈愛の存在ではないのかもしれない。
又、カオスヘッダーに対するコスモスの姿勢には「憎しみ」が感じられる。カオスヘッダーがコスモスを憎いと言ったように、ウルトラマンと言えどもコスモスも憎しみと言う感情を捨て去る事は出来ないのかもしれない。
しかし、続く戦いの中でコスモスにはネイバスター光線を放つエネルギーも無くなってしまう。次々と新兵器を作るが進化を繰り返すカオスヘッダーに追いつけなくなったEYESに数多くの奇跡の技を有していながら終わりなき戦いの中で遂に力尽き始めたコスモス。結局、「攻撃」と言う選択は事態解決には至らなかった。

 

コスモスとカオスダークネスの戦いに巻き込まれたムサシから輝石が落ちる。それを拾い上げたムサシの手の中で輝石が光を発し、ムサシは子供の時に初めてコスモスを呼び出した時と同じように輝石を撃ち出す。
雲の隙間から零れ出た太陽の光が輝石を通して降り注ぎ、エクリプスモードが誕生した時と同じように光となったムサシはコスモスのカラータイマーに宿る。そしてコスモスは怒りの巨人コロナモードから光り輝く奇跡の巨人ミラクルナモードへとモードチェンジした。
カオスダークネスの攻撃を受けながらもフルムーンレクトを発し続けるミラクルナモードを見てヒウラキャップが叫ぶ。
ヒウラ「コスモスを、ムサシを援護しろ! ただし、カオスヘッダーの放つ光球だけを狙う! ムサシとコスモスを守る為に、そして……カオスヘッダーも守る為に……。皆行くぞ! 全ての命を守る。これが俺達の究極の目的だったはずだ!」。
リドリアス達も訴え続ける中、カオスダークネスの苦しみが段々と鎮まっていく。そしてミラクルナモードが最後に放ったルナファイナルを受けて悪魔のような姿をしていたカオスダークネスは天使のように光り輝くカオスヘッダー0へと進化した。
カオスヘッダー「コスモス……、私を包むこの想いは?」、
コスモス「この地を去ろう、カオスヘッダー。憎しみも争いももう私達に必要は無い。共に帰ろう」、
カオスヘッダー「コスモス……」。
光となって宇宙へと帰っていくカオスヘッダー。コスモスの発言を聞くとカオスヘッダーとコスモスは非常に近しい存在に思える。最後にどちらも光り輝く存在になった事から元は同じ存在から分かれたのではないかとも考えられるが後にジャスティスやレジェンドが登場しているので違うかな。
コスモスとカオスヘッダーの考えはどちらも間違っているとは言い切れなくて、両者の考えを上手く合わせる事が出来たら良かったのかなと思う。
さて、この場面は皆でカオスヘッダーを洗脳しているのではないか?と言う批判がある。話の流れを考えると戦う事の無意味さや相手を赦す気持ちを怪獣達やムサシからコスモスへ、そしてコスモスからカオスヘッダーへと伝えられていったと見えるのだが、フルムーンレクトと言う光線技を使っての表現は説明不足だったのかもしれない。コスモスは光を通して相手の心と触れ合っているとか言う説明があれば良かったのかな。

 

最初は光のウイルスだったが心を持った事で対話が可能な存在となったカオスヘッダー。
対立から長い時間をかけてお互いを理解していくと言う展開は『コスモス』が掲げる「コミュニケーション」のテーマを表していたと言える。

 

再び分離するコスモスとムサシ。コスモスに指を差されたムサシは戸惑いながら答える。
ムサシ「僕が……僕が真の勇者になれたって言うの?」、
コスモス「カオスヘッダーとも共存できる可能性を君は教えてくれた。私も及ばぬ本当の愛の心を君は見せてくれた」、
ムサシ「コスモス……。その心を教えてくれたのは……あなただ。あなたがいてくれたから僕は、本当の優しさも、強さも、勇気も知る事が出来た。コスモス……、もう一度僕と一緒に怪獣達を守ろう」。
ムサシに頼みにコスモスはゆっくりと首を振る。
コスモス「これからは君と仲間達とで守るのだ、全ての命を……」、
ムサシ「コスモス……、僕はもう一度あなたと一緒に飛びたい……。子供の頃のように……!」、
コスモス「ムサシ……、君はもう……一人で……飛べる」。
そしてゆっくりと空を見上げるコスモス。
ムサシ「コスモス! コスモス……! また会えるよね? きっと……きっとまた会えるよね?」。
それに答えず、コスモスは宇宙へと帰っていった。
ムサシ「コスモス! ……さよなら。さよなら! ウルトラマンコスモス!」。
そんなコスモスをムサシは手を振り見送るのだった。
コスモスは『THE FIRST CONTACT』ではムサシにとって憧れであり父親代わりでもあった。続くTVシリーズでは理想を掲げるが実現させる力が無いムサシに奇跡の力を授ける存在となった。そして子供の頃から純真で一直線で理想を追い続けていたムサシは遂にコスモスでさえ不可能だった奇跡を起こした。
ウルトラマンと主人公の別れは数あるが、さすが子供時代から話が続いているだけあって今回のムサシの成長とコスモスからの卒業は胸に来るものがあった。

 

コスモスとムサシの別れを見守るEYES。
シノブ「もう……コスモスには会えないのでしょうか? もう……こんな奇跡には……」、
ヒウラ「それは分からない。だがな、少なくとも夢を持たない限り奇跡は起こらない。夢を追い続ければきっと……!」、
ムサシ「きっとまた僕達はコスモスに会える」。
輝石を手にムサシは笑顔で語った。

 

初回放送で放送された「特別総集編2 コスモス最後の戦い」ではムサシが不在なのでカオスヘッダーを説得してEYESの意識を変えてコスモスを復活させたのはリドリアス達となっている。これまでカオスヘッダーに寄生され人間に倒されたり保護されたりしてきた怪獣達が最後に事態を解決する大きな鍵となると言う構図はなるほどであった。
「特別総集編」のコスモスの「君はもう一人で飛べる」はムサシではなくTVの前の視聴者に呼びかけているように見えた。

 

今回の話は大西さんと佐川監督のウルトラシリーズ最終作となっている。