『ULTRAMAN FINAL』
2023年5月11日配信
脚本 下山健人
監督 神山健治・荒牧伸志
『ULTRAMAN』のアニメシリーズ最終作。
原作より先に完結する事になったのでアニメオリジナルの展開となった。
漫画原作のアニメ作品がオリジナル展開になる事には様々な意見があるが、自分は同じ作品でも漫画とアニメは分けて見ているので、アニメが原作の途中で終わって描かれなかった部分は原作を読んで補完しなければいけないと言うのはあまり好きではない。なので、本作が原作より先にアニメが完結する事になったのでアニメ版はアニメ版としてちゃんと話を締めてくれたのは嬉しかった。
(自分は漫画等をアニメやドラマにする時にオリジナル展開にする事については肯定派だけれど、それにはやっぱり原作者やファンが納得する形が必要だと思う。まぁ、本来ならそれは「当たり前の事」だと思うんだけれどね……と『セクシー田中さん』の話を見て感じる)
今回は今まで以上に実際の人間の動きとアニメ的な動きが上手く融合していて理想的な超人バトルが展開されていた。
シリーズが進むごとに動きが滑らかになっていったが、それが劇中での進次郎が覚醒して能力が向上していく展開と上手く噛み合っていて、言葉だけでなく映像で進次郎のレベルアップが見せられていたと思う。特に最終決戦は進次郎がこれまでより頭一つ抜けた感じの動きになっていてクライマックスに相応しいものになっていた。
レナの母親の話はシーズン1の時は無くても良い感じだったのだが今回はハヤタや進次郎やレナの物語に上手く関わっていた。
一方で今回あまり上手くいっていないと感じたアニオリ部分が大谷教授の話。
現代の科特隊が新しいウルトラマンを作ろうと色々胡散臭い事をしていたのはシーズン1で触れられていたので実は大谷教授が指摘したウルトラマンの問題点はそれほど間違ってはいなかったりする。ただ、物語的に主人公達を責める人物に視聴者のヘイトを向けたかったのか、大谷教授は嫌な性格でメフィストの破壊行為は無視してウルトラマンだけを批判すると言うかなり無茶苦茶な人物となった。
大谷教授が指摘する現代のウルトラマンや科特隊の問題点について主人公側がきっちりと反論できたら良かったのだが、実際は「大谷教授の指摘は間違ってはいない」が「大谷教授が嫌な人物なので視聴者は大谷教授だけでなく大谷教授の指摘にも不快感を覚えるようになる」と言う作りになっていた。
クライマックスで「間違いない事は一つだけです! ウルトラマンは我々を守ろうとしている。それを応援しないでどうするんですか!」と大谷教授に告げた番組の司会の人が少し前にウルトラマンに無茶苦茶な批判をする大谷教授に顔をしかめる場面があったりと短い出番でもちゃんと掘り下げがあったのに対して大谷教授は出番が多いのに掘り下げが全く無かったりと全体的にウルトラマンの否定派は表面的な描写にとどまってウルトラマンの肯定派は細かい描写がされていた。
今回は「ウルトラマンと言う存在の是非」と言う難しいテーマを取り上げているのだが実はテーマについてきちんと話をしている部分は少なくて「主人公達に味方するのは良い人達で主人公達と対立するのはムカつく人達」と言う感情で話をするようになってしまっていた。あえてやったのだと思われるが、個人的にはウルトラマンの肯定派と否定派を平等に描いた方が面白くなったと思う。
『ULTRAMAN』は『初代マン』の後日談でそれが上手く活かされたところも多いが一方でそれが原因で無理が生じたところもあったのを感じた。
例えば『初代マン』には女の子のウルトラマンがいなかったので、初代マンに変身したハヤタの息子の進次郎の彼女であるレナが『美少女戦士セーラームーン』の変身ポーズでウルトラの母をモデルにしたマリーに変身する事になった。
又、イデの判断の結果で進次郎の状況がどんどん悪化するので実はイデが黒幕である可能性もあったのだが「『初代マン』のキャラが悪役にはならないだろう」と考えられてしまうので最初から黒幕の候補がゼットン星人のエドくらいしかいなかった。
他にも進次郎が「彼がウルトラマンの偽者に変身していた」と言ってザラヴィーの姿を見せてもイデ達がかつてにせウルトラマンに変身したザラブ星人の話題を出さなかったり、昔の初代マンとゼットンの戦いで民間人に被害が出たと言う話がいきなり出てきたりと『初代マン』を知っている視聴者は思わず首を傾げてしまう展開があった。この辺りは本作が『初代マン』の後日談で読者・視聴者が昔に何があったのかを知っているのが裏目に出たと言える。もし本作が『初代マン』の後日談ではなくて完全にオリジナルの作品だったらもっと作品の展開やテーマに合った前日談を用意出来たと思われる。
『レオ』関係の話はアニメ化されなかったが最後に諸星を新キャップにする事で『レオ』を匂わせるのが上手かった。原典のモロボシ・ダンは温和だった『セブン』時代と厳しくなった『レオ』時代のギャップに戸惑うところがあるのだが諸星は最初から鬼教官なのでこの後に『レオ』のダン隊長を彷彿とさせる厳しい特訓を持ち出してきても違和感が無いと思う。
最後のマントを羽織った進次郎がカッコイイ!
やはりブラザーズマントは良いなぁ。
個人的にシーズン2でイズミの死の原因となったマーヤがあまり悪くない人物のように扱われたのに違和感を覚えていたので今回の話のラストでアダド、マーヤ、ザラヴィー、バルキュアを「良い人・悪い人」ではなくて「要領が悪いんだけれど要領よく生きようとする人」としたのは上手い落とし所だったと思う。スピンオフでこの4人の話を見たいと感じるやりとりであった。
オーピニング曲はNOILION × MIYAVIの『RAYS』、エンディング曲はVoid_Chordsの『AVIATION』となっている。
かつて『ネクサス』がアニメのように特撮も視聴者層を広げようとするも残念ながら放送期間が短縮されて次回作が原点回帰になると上手くいったとは言えない結果に終わったが、その『ネクサス』と同じくシリアスでハードで複雑な内容の『ULTRAMAN』が漫画は10年を超える長期連載となってアニメもヒットしてシリーズが続けられた事を考えると特撮に比べて漫画やアニメはやれる事の幅が広いと改めて感じた。
漫画やアニメが特撮より対象年齢が高い作品も作れるのは全体の作品数が多いからだと考えられる。特撮ヒーローは基本的にウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊の3本なのに対して漫画は作品が多いので児童漫画の他に大人向けの漫画も作れるしアニメも『アンパンマン』の他に深夜アニメも作る事が出来る。特撮ヒーローで対象年齢を上げた作品を作るとなったらウルトラマン、仮面ライダー、スーパー戦隊の中で作る事になるのだが、それはアニメだと『アンパンマン』で『機動戦士ガンダムSEED』や『鋼の錬金術師』もやるようなものでかなりバランス良く作らないと失敗してしまうし仮に成功したとしてもそれを何年も続けるのはさすがに難しい。アニメが『アンパンマン』を見てオモチャを購入する層が全く見なくても成り立つ作品があるように特撮ヒーローも土曜日や日曜日の朝に放送されているのとは別に子供向けのオモチャを購入する層が見なくても成り立つ作品を色々作れるようになったら可能性も広がると思うのだが色々と難しいところがあるのだろうなぁ……。(でも、21世紀になっても『牙狼-GARO-』や『非公認戦隊アキバレンジャー』や『仮面ライダーアマゾンズ』と言った作品が作られているので可能性が全く無いと言うわけではないとは思っている)
配信リスト
第1話「新たなる予兆」
絵コンテ 安田賢司
第2話「親子にふりかかる呪い」
絵コンテ 荒牧伸志
第3話「ヒーローとしての選択」
絵コンテ 内山寛基・荒牧伸志
第4話「信じてもらえないなら、俺は一人でもやる」
絵コンテ 安田賢司
第5話「追う者と追われる者」
絵コンテ 安田賢司
第6話「歴戦の勇士」
絵コンテ 荒牧伸志
第7話「4人目の継承者」
絵コンテ 内山寛基・荒牧伸志
第8話「TARO vs ULTRAMAN」
絵コンテ 安田賢司
第9話「更なる覚醒」
絵コンテ 青木悠・荒牧伸志
第10話「真の厄災」
絵コンテ 佐野隆史
第11話「悪夢の召喚」
絵コンテ 岡村天斎
第12話「さらば、我らの――」
絵コンテ 荒牧伸志