「想像力を解き放て!」
『ウルトラマンアーク』第3話
2024年7月20日放送(第3話)
脚本 継田淳
監督 辻本貴則
宇宙獣モノゲロス
身長 59m
体重 2万1千t
今から16年前に空から獅子尾山に落下した謎の宇宙怪獣。
頭部から電撃を発する。
表向きは酸素濃度の急激な変化で自滅したとされているが、生き残ったユウマの証言によると一緒に落下した光の巨人によって爆破されたらしく、唯一残った巨大な角は「モノホーン」と呼ばれて今も獅子尾山に突き刺さったままとなっている。
名前の由来はギリシャ語で数字の「1」である「モノ」から。
宇宙獣ディゲロス
身長 56m
体重 2万2千t
モノホーンと共鳴する謎の物体?から星元市に現れた怪獣。
容姿はモノゲロスに酷似しているが角が二本になっている。
頭部の発光体から強力な光線を放ち、両肩から光弾を、両腕から炎弾を発する。
バリアーも備えていていて攻守共にバランスが取れていたが、ユウマの想像力を解き放ったアークのアークファイナライズを予想外の角度から受けて倒された。
名前の由来はギリシャ語で数字の「2」である「ディ」「ジ」から。
物語
SKIPに入って初めての出勤の日。
ユウマは今から丁度16年前に起きたK-DAYでの出来事を思い出す事になる。
果たしてモノゲロス案件の真相とは……?
感想
第3話であるが過去編となっていて、時系列を考えたら今回の話が『アーク』最初のエピソードと言える。
今回の話を見てから第1話と第2話を振り返って見ると初見では分からなかった様々な要素に気付く事になる。
ユウマは子供の頃に「僕が考えたヒーロー」を描いていて、それが現在のアークの姿になっている。
ユウマのおばあちゃんは家の納戸を片付けた時にユウマが子供の頃に描いたヒーローの絵を見付けている。もしおばあちゃんがユウマが描いたヒーローの絵とアークの姿が同じである事に気付いたらアークの正体にも気付きそう。
リンさんがユウマを名前ではなく「新人くん」と呼ぶ事で今回が第1話より前の話である事が分かりやすくなっている。
個人的な好みの話になるが、自分は『ドラゴンボール』の世代なのでブルマの「孫くん」やビーデルさんの「悟飯くん」と言った「主人公を君付けで呼ぶ女性キャラ」が好きなのだが、残念ながらウルトラシリーズではそういうキャラがパッと思い浮かばない。リンさんの「新人くん」呼びが良かったので、出来ればこの後も「ユウマくん」みたいに君付け呼びは残してほしかったかな。
番組の始まりとなる第1話の冒頭は視聴者の心をグッと掴む為にウルトラマンや怪獣によるド派手なバトルや破壊シーンが用意される事が多いのだが、今回は物語の始まりを第3話にした事でユウマのSKIP初出勤についてゆっくり丁寧に描く事が出来た。
モノゲロスに襲われたユウマは光の巨人に助けられるが他に目撃者がいなかったので「夢を見たんだろう」と周りに思われてしまった。
今回は他にも「16年前の夢から目覚めるユウマ」「SKIP初出勤の日の夢から目覚めるユウマ」と「ユウマは夢を見ていた」とする場面がいくつかある。もちろんこれは終盤の展開の伏線となる。
「走れ、ユウマ」の最初の意味はモノゲロスに襲われた父親がユウマに告げた「生きる為に走って逃げろ」だったのだが、モノゲロス案件から生き延びたユウマは「辛い思いをしているのは自分だけではない。皆の未来を守る為には走り続けるしかない」と思うようになったらしい。
家族揃って怪獣に襲われたところから「生きる為に走って逃げた」ユウマであったが、それは結果として「生きる為に両親を見捨てて自分だけ走って逃げた」と言う形になってしまった。ひょっとしたら、ユウマはその罪悪感から「今度は他の人を生かす為に自分が怪獣に向かって走っていく」に変えたのかもしれない。
ユウマは趣味は特に無く、音楽も聴かず、スポーツもやらず、常に怪獣の最新情報をチェックしていて、専門書以外の本は読まないとなっている。その話を聞いた石堂さんは「ユウマは自分と同じワーカホリック」だと解釈したが、ユウマはSKIPで仕事を始めてまだ数ヶ月しか経っておらず通勤路と通学路を言い間違えるレベルなので、怪獣関係以外に興味が無いのは仕事を始めるずっと前からの事だと思われる。そうなるとこれはワーカホリックと言うより一種の強迫性障害と言うか「怪獣事件で両親を見捨てて生き残ってしまった自分を許せない」と言う自己虐待に近いものを感じてしまう。
ー #石堂シュウの日記📔 ー
— ウルトラマンアーク THE MOVIE/ジェネスタ公式 (@ultraman_series) 2024年9月5日
今週もシュウの日記を
覗いてみましょう〜🔍
「USブラザーズ」の件で
お叱りを受けたみたいですね😂
来週もお楽しみに!#ウルトラマンアーク pic.twitter.com/Ytmwh4Zr6h
優しいお姉さんみたいな雰囲気だったリンさんが怪獣が出現したら即座に気を引き締めたのが良かった。
ディゲロスを見たユウマがモノゲロスを思い出してパニックに陥ったのを叱咤して正気に戻す場面は彼女が仕事で怪獣事件と何度も遭遇している事を示すと共に「一緒に頑張ろうね」と言ったユウマを怪獣事件の被害者ではなく同じSKIPの一員として扱っている事を示していて彼女のプロフェッショナルなところが見られた場面になっていた。
モノゲロスやディゲロスは宇宙人とも怪獣とも違う「人型ではあるが人ではない何か」となっていて、これまでのウルトラ怪獣とはちょっと違った不気味さや気味悪さがあって、それが『アーク』のオリジナリティになっている。
ユウマがアークと出会ったのは水溜まりに写った世界であった。
第1話や第2話でもアークが鏡の中からユウマに訴えてきたりとアークは鏡の向こう側の世界にいるような描写がされている。
円谷プロ作品で鏡の世界と言えば『ミラーマン』があるが、21世紀のヒーロー作品だと東映の『仮面ライダー龍騎』も出てくる。『龍騎』のミラーワールドの設定を考えたら、アークやユウマに「死」や「消滅」と言った存在の脆さ儚さを感じてちょっと怖くなるが、これが終盤の「全てはユウマが見ていた夢だった」に繋がるのかもしれない。
こういう考察は『アーク』がM78星雲とは無関係な設定だったから出来たもので、もしアークが光の国から派遣されたウルトラマンだったら、こういう脆さや儚さを感じる雰囲気は作れなかったと思う。
ウルトラシリーズである以上、M78星雲光の国からあまり離れないでほしいなと思うところはあるが、そこから離れる事でこれまで無かった新しいものを見る事が出来ると言うのは確かにあると思う。
第1話からユウマの石堂さんへの好感度が高かったが、今回の話を見ると16年前のモノゲロス案件でも今回のアークへの初変身でもユウマは上から降り注いだものに押し潰されそうになる場面がある。そこを光の巨人=アーク=ヒーローが助けてくれたわけだが、実は第1話の石堂さんもアークと同じようにユウマを上から降り注いだ瓦礫から助けている。ひょっとしたら、ユウマの中では石堂さんもアークと同じヒーローの扱いなのかもしれない。
バリアーで相手の攻撃を防ぎながら攻撃するアークとディゲロス。
バリアーは『初代マン』の頃からある伝統的な技なのだが、『アーク』ではそのバリアーを使った様々な戦法を見せていて、伝統的な技でも工夫次第で新しい映像をどんどん見せられる事を示した。
第1話の冒頭にあったアークが街の人々を助ける場面が今回の話では無かったのがちょっと残念だった。第1話の冒頭にきっちりと繋げて「あぁ、ここで第1話の冒頭になるのか!」と感じたかった。