帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「峠の海」

「峠の海」
ウルトラマンアーク』第5話
2024年8月3日放送(第5話)
脚本 根元歳三
監督 武居正能

 

巨鯨水獣リヴィジラ
身長 56m
体重 5万6千t
星元市の大光峠のトンネル工事現場から化石が発見され、それとは別の生きた個体が周囲に海を作り出した。
頭頂部の噴気孔から塩を大量に噴き出して相手の視界を奪い、自身は超音波を発して相手の位置を探るが、アークがアークエクサスラッシュとアークギガバリヤーで作ったスクリューで視界を晴らされて今度は自身が攪乱される事になり、最後はアークファイナライズで倒された。
名前の由来は「リヴィアタン・メルビレイ」と言うクジラから。

 

物語
トンネルの工事現場から怪獣の化石が発見される。
発見者は「恐竜博士」と呼ばれて伴所長の恩師でもある牧野博士であった。
その数日後、大光峠に巨大な海が出現する。

 

感想
伴所長の恩師である牧野博士が登場。
レギュラーメンバーの恩師で怪獣に関わる人物となると悲劇的な話になる事があるが今回はそんな事は無かった。良かった。
因みに伴所長は昔は「恐竜少年」であったらしい。演じる西興一朗さんが『爆竜戦隊アバレンジャー』のアバレッド役だった事を知っていると思わずニヤリとする設定である。

 

子供の頃は怪獣が怖かったユウマは牧野博士のおかげで生き物として怪獣と向かい合えるようになったらしい。
ユウマが怪獣を怖がったのは実際に怪獣に襲われて両親を失ったからであろう。そんなユウマが怪獣を分析可能な生き物と捉える事で恐怖を克服したと言うのが興味深い。
人間は未知のものや謎のものに恐怖を抱くらしく、ウルトラシリーズの怪獣でも恐怖を出す為にあえて人間には理解不能な要素が加えられる事がある。未知や謎があって理解不能であるが故に怪獣と言う存在が怖くなるのなら、怪獣を生物と捉えて理解可能な存在として分析する事で恐怖の対象ではなくすると言うのはなるほどであった。
牧野博士は今回限りの登場人物であるが、ユウマが怪獣への恐怖を払拭できなかったらアークがユウマをウルトラマンとして戦わせる事は無かったと思われるので、実は『アーク』の世界を救う事になった重要人物の一人であったと言える。

 

大光峠に海が出来てからの住民の避難やその後の調査の様子がリアルだった。
昔の作品は怪獣災害の被害者を個人にしていて、その人物の再起等をドラマにしていたが、『ブレーザー』や『アーク』は怪獣災害の被害者を住民にして、その住民達の避難等をドキュメンタリータッチで描くところがある。

 

K-DAY以前に未知の巨大生物の化石らしきものを持ってきた伴ヒロシの話を牧野博士は信じられなかった。その数年後にK-DAYが発生して怪獣が出現した時、牧野博士は自分が伴ヒロシの話を信じて怪獣に関する研究が進んでいたら……と後悔する。
この場面は「怪獣なんて実際にはそんなものは存在しない世界」がK-DAYを境に「想像の産物と思われた怪獣が実際に現れて被害者も出た世界」に変わったと言う「常識が変わった世界」を描いている。ウルトラシリーズでは意外と取り上げられる機会が少なかったところかもしれない。

 

「何より許せないのは過去の経験や知識だけで判断して若者の意見を退けてしまった事だ。子供達に「想像力は翼だ」なんて言っておきながらね」。
大人が子供に「何でも自由に考えてみてごらん」と言っておきながら子供があまりにも常識を超えた自由奔放な発想をしたら驚いてそれにブレーキをかけようとしてしまうのはよく見られる事。

 

『アーク』は「想像力」が重要なテーマになっているが、劇中で「怪獣が想像の産物と思われていた時でも怪獣の可能性を疑って研究を進めていたら数年後に実際に起きた怪獣災害の被害を抑えられたかもしれない」と言う展開で「想像力」の大切さを説いたのは見事であった。
「怪獣」と言う言葉だとどうしてもピンとこない人は「東日本大震災の前に大規模な「津波」が発生する可能性を考えて対策を講じる事が出来たかどうか」としたら今回の話で語られている「想像力」の大切さが分かってくれるだろうか。
フィクションで「想像力」を語る時はファンタジーなところに向かう事が多いのだが、今回は現実で生きていく時でも想像力は大切である事が分かる話となっていた。

 

ウルトラシリーズで水中戦は何度かあったがビル等の建物が無いので巨大感を出すのがイマイチ難しいところがあった。今回は街が水没したと言う設定でアークとリヴィジラの周りに建物や重機等が配置されて巨大感を出す事に成功している。

 

リヴィジラが超音波を発して周囲を探っている事に気付いたアークはアークエクサスラッシュにアークギガバリヤーを扇風機の羽のように付けて即席のスクリューを作り出す。
ウルトラマンは様々な能力を持っていて危機に陥ったら新技を披露して形勢逆転する事も少なくないので、序盤で見せた技を応用して危機を切り抜けるアークはウルトラマンの中ではある意味異端と言える。

 

リヴィジラが塩を噴いて周囲に海を作ったのは自身の生息に適した環境を作る為であった。「伝説は森の中に」のリオドもだったが、リヴィジラもそこに住む人間にとっては迷惑極まりない存在ではあるが、彼らは悪意で人間を苦しめているのではなくそういう生態を持つ生物にすぎない。いくら人間の都合があると言ってもそういう生物をどんどん排除していって良いのか。『アーク』はこの時点ではまだその辺りに話題は及んでいないが「満月の応え」でそこを糾弾する存在が現れる事になる。

 

今回登場したリヴィジラのデザインは河本けもんさんが担当している。
『アーク』の怪獣はこれまでのウルトラ怪獣とはちょっと違ったデザインが多くて今後のウルトラ怪獣のデザインの幅を広げる事になりそう。これも一つの「想像力」の大切さと言えるのかもしれない。

 

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