帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『地球防衛軍』

地球防衛軍
1957年12月28日公開
原作 丘見丈二郎
脚本 木村武
特技監督 圓谷英二
監督 本多猪四郎

 

空の大怪獣ラドン』で「空飛ぶ円盤」に言及される場面があったが実際に宇宙人が出る事は無かった。しかし、『空の大怪獣ラドン』の翌年に公開された本作では宇宙からの侵略者ミステリアンが登場する事となった。
これまで登場した怪獣達は「野生の生物が一匹か二匹現れて暴れる」と言う形であったが今回登場するミステリアンは「宇宙人が組織で人類に戦いを挑む」「科学を駆使して自然災害をも引き起こす」とこれまでより上位でスケールアップした存在となっている。

 

ゴジララドンと違ってミステリアンは組織力と科学力を有している強敵であるが、一方でモゲラが橋の爆破に巻き込まれて活動停止に陥ったり、「面と向かえば二本足で立っている生物」として渥美一人でも格闘で勝てる等、ゴジラのような人間の力ではどうする事も出来ない絶対的な存在ではないとされている。

 

最初のモゲラ襲撃場面は東京と言う大都会ではなく地方都市を舞台にした事で昔ながらの木造家屋と宇宙の機械兵器モゲラと言うギャップのある組み合わせが生まれて印象に残るものになっている。

 

翻訳機を通したミステリアンの言葉は「ワレワレハウチュウジンダ」の原型の一つとなったらしい。
言葉遣い、格好、動きとミステリアンは人間と同じようでどこか違う部分があって、そこが不気味さ怖さに繋がっていた。

 

「我々はあくまで平和主義者」と主張するミステリアンだが、「地球人が水爆を使ったら自分達も水爆を使うと脅す」「ミステリアンが火星から地球に来た理由を問われたら地球人も火星に進出していると切り返す」「ミステリアンが地球人と結婚する事を認めるよう要求していながら既に数人の女性を拉致していた」と彼らの話は全体的に「脅迫」「質問に答えない」「有無を言わせない」となっていた。
ミステリアンは地球人の現在の科学力では自分達に対抗する事は出来ないだろうと下に見ていて、地球人と対等の立場で交渉するつもりは無くて自分達の要求だけ述べていったのだが、人と言うのは「勝つから戦争をして、負けるから戦争をしない」と言うわけではなく、本作の地球人達は「このままミステリアンの要求を飲んだら自分達の尊厳が奪われる」と考えて戦う事を決意したところがある。
ミステリアンの敗因は「人は強い者や優れている者の言う事を最終的には聞き入れるだろう」と言う傲慢にあったと言える。屈辱を与えられた人は勝ち負けに関係無く牙を剥く事があるのだ。

 

白石博士は地球人でありながらミステリアンに迎え入れられるほどの知識があったのだが、残念ながら彼は科学を最優先にするところがあって、科学力が優れているミステリアンを上に、科学力が劣っている地球人を下に置いた話し方をしてしまった。
地球人から見たら「地球人からミステリアンに寝返った」と言う形になっている白石博士がミステリアンの素晴らしさと地球人の愚かさを語ってしまった事で地球人の中にミステリアンへの怒りが増幅してしまったところがある。
客観的に見たらミステリアンが優れていて地球人が劣っていたとしても、それを正直にそのまま話した事を地球人がはいそうですかと受け入れる事は難しい。白石博士はもう少し人には感情と言うものがあると言う事を考えて話してほしかった。
白石博士は地球人とミステリアンの橋渡しになれる立場で、実際に白石博士はそのつもりだったので、もう少し話し方に気を付けていたら白石博士は恋人や妹や親友や恩師と別れる事もミステリアンの仲間達を自分の手で殺す事も回避出来たかもしれないと思うと非常に残念である。

 

地球人とミステリアンの初戦は実弾中心の地球人が光線や光弾を駆使するミステリアンに敗れる結果となるが、その事によって「若い連中が考えた」と言う電子砲が開発される事になり、地球は新たな世代の新たな考えが活躍する時代へと変わる事となった。

 

最初はミステリアンのドームが出現した日本が中心となって戦っていたが、初戦の敗北を受けて国を超えて地球人が一体になってミステリアンと戦う形が作られる事になる。
昔は多くの領主が乱立していたがやがて一つの国に纏められるようになり、さらに第一次世界大戦第二次世界大戦を経て多くの国々が資本主義陣営と共産主義陣営に纏められ、遂に宇宙からの侵略者に対抗する為に「地球防衛軍」と言う地球上の国々が集まった組織が出来る事となった。

 

ミステリアンによると「地球人は20年後に原水爆によって滅びる」との事。
ステロイドでその悲劇を経験したミステリアンが言っているので、おそらく今の地球の状況はミステロイドが滅亡する直前に酷似しているのであろう。
しかし、ミステリアンとの戦いによって地球は資本主義陣営と共産主義陣営による冷戦が終結して「地球防衛軍」と言う地球上の国々が集まった組織が作られ、原水爆とは違う電子砲やマーカライト・ファープと言った技術が実用化される事となった。皮肉な話だが、ミステリアンの侵略によって地球人は原水爆によって滅びる運命を回避する事が出来たと言える。

 

地球防衛軍とミステリアンの全面戦争が繰り広げられる中、映画の前半で存在感を放っていたモゲラが再登場したのを見て自分は「ここで地球防衛軍の兵器とモゲラの最終決戦が始まるんだな!」と期待に拳を握り締めたのだが、まさかそのままモゲラがマーカライト・ファープの下敷きになって呆気なく終わってしまうとは思わなかった。初見時は思わず「……マジ?」と声が出た記憶がある。(冷静に考えたらモゲラは橋の爆破に巻き込まれて活動停止してしまうレベルだったので電子砲やマーカライト・ファープを相手に活躍するのは無理があったのは分かるが、それでもまさかこんな呆気ない退場だったとは……)

 

空の大怪獣ラドン』ではラドン自衛隊の戦いがメインになったら炭坑技師だった主人公の活躍が少なくなってしまったが、本作も地球防衛軍が結成されてミステリアンとの全面戦争が始まると科学者の渥美の活躍を作るのが大変になった印象を受けた。
最終的に渥美はミステリアンのドームに一人で潜入して形勢逆転に関わる事になるのだが、科学者が一人で宇宙人の基地に潜入して形勢を逆転させるのはちょっと無理を感じた。

 

宇宙ステーションに敗走したミステリアンを監視する為に人工衛星が打ち上げられる。
この人工衛星は当初は登場する予定ではなかったが本作が公開される直前にソビエトが人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げたのを受けて登場させる事になったらしい。
現実世界ではアメリカとソビエトの冷戦によってスプートニク1号が生まれる事になったが、映画の世界ではミステリアンの宇宙ステーションと地球人の人工衛星が睨み合う形になって、この後は宇宙を舞台にしたミステリアンと地球人の冷戦が始まるのを予感させる結末となっている。

 

小さい村の祭りから始まって最後は地球人と宇宙人の全面戦争が展開されて宇宙に打ち上げられた人工衛星まで出てくると90分の映画とは思えないほどスケールがどんどん大きくなっていく作品であった。

 

原作の丘見丈二郎さんは本作の後も『宇宙大戦争』『妖星ゴラス』『宇宙大怪獣ドゴラ』と言ったSF色の強い作品の原作を手掛けている。