帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『キングコング対ゴジラ』

キングコング対ゴジラ
1962年8月11日公開
脚本 関沢新一
特技監督 円谷英二
監督 本多猪四郎

 

7年振りに公開されたゴジラシリーズの第3作。
なのだが、タイトルで「ゴジラ」より「キングコング」が先に出てくる事からも分かるように、「東宝キング・コングの敵キャラクターにゴジラが選ばれた」と言う内容になっていて、『ゴジラ』『ゴジラの逆襲』と比べるとゴジラについて語られる場面は少なくなっている。
実は昭和のゴジラシリーズは『ゴジラ』『ゴジラの逆襲』以外はキングコング、X星人、ヘドラ等と言ったゴジラ以外のキャラクターが物語の中心に据えられた作品が多く、ゴジラについて深掘りされる作品は意外と少ない。
なので、昭和のゴジラシリーズはゴジラの物語に期待して見ると物足りなさを感じるところがあるが、キングコング、X星人、ヘドラと言ったゴジラ以外のキャラクターをメインにした事で作品ごとにカラーがガラッと変わってバラエティ豊かなシリーズとなっている。

 

シリアスだった『ゴジラ』『ゴジラの逆襲』と違って本作はコメディになっている。
多湖部長演じる有島一郎さんの演技は漫画チックなところがあったが、そのおかげで生々しさが無くなって、「島で崇められている特別な存在を連れ出して見世物にする」と言う『モスラ』のネルソン一味と殆ど同じ言動をしているのに嫌悪感をあまり感じさせないキャラクターとなった。

 

本作はパシフィック製薬の多湖部長が抱いているライバル会社・セントラル製薬への対抗意識が一つの軸となっている。
両会社の名前はプロ野球の「パシフィック・リーグ」と「セントラル・リーグ」が由来となっていて、劇中でも「三振」「ピンチヒッター」「ノック」「トスバッティング」と言った野球用語が出ている。
因みにパシフィック製薬の元ネタとなったプロ野球パシフィック・リーグは本作が公開された1962年と1964年は日本一を果たしたが、1961年、1963年、1965年から1973年まではセントラル・リーグの巨人に日本一を奪われている。

 

「世界脅威シリーズ」と言う番組で地球について科学の解説がされるが、スポンサーであるパシフィック製薬の多湖部長は「つまらん」と切り捨てるとテコ入れとして巨大なる魔神キングコングを投入する事を訴える。
この「途中からテコ入れとして怪獣を投入する」と言う展開は『妖星ゴラス』の怪獣マグマの話を思い出す。

 

北極に出現したチェレンコフ光を発する氷山の正体はゴジラであった。
前作の『ゴジラの逆襲』でゴジラは北海道より北に位置する島で雪崩に生き埋めにされていたので、そこで氷漬けになって海に流されて北極に辿り着いたと考えられる。

 

歴代ゴジラでも屈指の人気を誇る「キンゴジ」が登場。
対決路線になって逞しくなった体が格好良い!
キンゴジが腕を前で交差させて「パコンパコン」と脇で音を鳴らすのは当時のプロレスラー・豊登のパフォーマンスが元ネタらしい。

 

重沢博士は帰巣本能によってゴジラは日本に戻ってくると推測する。
この言葉を聞いて「あれ? ゴジラは日本で生まれたっけ?」と疑問を覚えたが、そう言えば『ゴジラの逆襲』に登場した二代目のゴジラは岩戸島に出現した後に紀伊水道に現れているので元々の巣がその近くにあったのかもしれない。『ゴジラ』では大戸島に怪物ゴジラの伝説が残されているので、ゴジラの元となった恐竜は日本を中心に生息していた可能性がある。
因みにこの帰巣本能の話はゴジラとの戦いを終えたキングコングがファロ島へ帰る伏線にもなっている。

 

令和ではアウトな場面なのだが、桜井と古江とコンノのファロ島珍道中が面白くて好き。(特にタバコの場面)
これに関しては時代と共に常識は変わっていくものなので、「昔は良かった」「今の時代にこれをやれ」とは自分は考えていない。

 

ファロ島に現れた大ダコは撮影に本物のマダコを使っているので一般的なタコと同じ姿形になっている。角や尻尾を付けたり口や目から光線を吐くわけでもないのにちゃんと怪獣に見えるのが面白い。こうして見るとタコって不思議な形をしている生き物だよなぁと思う。

 

人間では大ダコに太刀打ち出来ないと言うのをしっかりと見せた後でキングコングが大ダコを倒す事でキングコングの強さを示したのはさすが。
キングコングはただ力が強いだけでなく、大ダコとしばらく戦うと近接戦闘は避けた方が良いと判断して距離を取って岩を投げる戦法に切り替える等、高い知能を持っている事が分かる。(逆にゴジラとの戦いでは放射熱戦を使わせない為に距離を詰めた方が良いと判断して最後は掴みかかっての戦いとなった)

 

キングコングはただ強い存在とはされておらず、大ダコを倒した直後にファロ島の住民が作った赤い汁を飲んで眠ってしまうと非力な人間でも十分に対処が出来るとされていて、この辺りのパワーバランスは実に上手かった。

 

キングコングパートの前半は『キング・コング』を下敷きにした展開になっているが、ゴジラパートの前半も「船が襲われる」「電車が襲われる」「山でヒロインと恋人が隠れてゴジラをやり過ごす」と『ゴジラ』を下敷きにした展開がある。

 

本作はタイトルから「キングコングゴジラの二大怪獣の対決」と言う印象を受けるが、実際には「キングコングゴジラの対決」ではなくて「キングコングゴジラ自衛隊の三つ巴」となっていて、「ゴジラの放射熱線による炎と熱にキングコングが怯んで退却する」「自衛隊が設置した炎の壁や100万ボルトの高圧電流線によってゴジラが進路を変える」「キングコングの帯電体質によって自衛隊が設置した高圧電流線が破られる」と三者の均衡が取られていた。

 

本作は途中までゴジラキングコングが少し距離を取って小競り合いを繰り返す感じだったので、終盤の落雷で覚醒したキングコングが一気に距離を詰めてゴジラに猛攻撃を仕掛けた場面はカタルシスがあって盛り上がった。

 

クライマックスの戦いで破壊される熱海城は昔から存在している城ではなくて1959年に建てられたものらしい。観光目的で城を建てるって凄いな、昭和時代。

 

「怪獣プロレス」と言う言葉はネガティブな感じで使われる事があるが、自分はプロレスが好きなのもあってネガティブなイメージは持っていない。プロレスで使われている様々なテクニックは怪獣作品に限らずあらゆる対決モノで戦いを盛り上げるのに実に効果的であると自分は考えている。

 

本作は結構ムチャクチャな展開を見せるが一方で日本にあった赤い汁や桜井のドラム等と言った伏線の張り方はかなり上手い。
お笑いには色々な形があって今は「アドリブによる笑い」が多いところがあるが、本作は「計算された笑い」と言った感じ。

 

ゴジラキングコングの戦いは両者揉み合ったまま熱海城を破壊してそのまま海へと落下、しばらくするとキングコングだけが姿を現して故郷に帰っていくと言う結末になっている。
キングコングは姿を現して故郷のファロ島へ戻っていったがゴジラは生死不明となっているので一見するとキングコングの勝利に思えるが、キングコングゴジラの戦いをプロレスの三本勝負に当てはめると那須高原の戦いと富士山の戦いはゴジラの勝利で熱海の戦いはキングコングの勝利と二対一でゴジラの勝利と言える形になっている。この辺りは日本の怪獣ゴジラアメリカの怪獣キングコングの両方の面子を立てた感じになっている。

 


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