帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズとゴジラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦! 南海の大怪獣』

『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦! 南海の大怪獣』
1970年8月1日公開
脚本 小川英
特殊技術 有川貞昌
監督 本多猪四郎

 

公開された年の1月に円谷英二監督が亡くなり、円谷監督の後継者であった有川貞昌さんも本作で東宝での特技監督を終え、東宝の特殊技術課も解散する事になり、『ゴジラ』から長年に亘って特撮作品を担当してきた本多猪四郎さんも翌年に東宝を去る等、東宝特撮怪獣映画にとって一つの区切りとなった作品。

 

有川監督の肩書きが「特技監督」ではなくて「特殊技術」とクレジットされている。
円谷プロウルトラシリーズで「特技監督円谷英二だけのもの」と言うクレームが東宝から入って「特技監督」のクレジットが「特殊技術」に変えられたと言う話があったが、本作は円谷監督が亡くなってから初めての東宝特撮怪獣作品なので有川監督の肩書きが「特技監督」から「特殊技術」に変えられたのかな?

 

本作はミニチュアだけでなくアニメーション合成も色々と使われていて、『ゴジラ』から15年近く続いた円谷監督と有川監督による怪獣特撮の集大成的な内容となっている。

 

ゲゾラは着ぐるみでありながら人間的な形を消した面白いデザインとなっている。
この頃の怪獣はエビラ、カマキラス、クモンガ、本作のゲゾラ、ガニメ、カメーバと既存の生物を巨大化させたものとなっていてデザイン的にはオリジナリティに欠けるところはあるが、人間的な要素を外した事でゴジラを祖とする日本の怪獣の中では独特の存在感を放っているところがある。

 

本作に登場する怪獣の正体は宇宙アメーバであった。
宇宙アメーバの目的は地球の支配だったので、ミステリアン、ナタール人、X星人、キラアク星人に続く侵略者となるが、前出の宇宙人達よりSFとクトゥルー神話的コズミックホラーの要素が強くなっていて、この頃の東宝特撮怪獣作品ではかなり珍しいキャラクターとなっていた。どちらかと言うと『ウルトラセブン』に登場しそうな宇宙生物だった。

 

宇宙アメーバはあまりにも高度に進化した為に手も足も失って他の生物に寄生する事でしか生きられなくなってしまった。
宇宙アメーバの元々の姿がどのようなものだったのかは不明だが、高度に進化した結末が自分達では火を起こす事も出来ないと言うのはなんとも哀しい。こうして見ると「進化」とは一体何なのかと考えてしまう。

 

ゲゾラはイカの怪獣なので陸には上がってこないだろうと思っていたので何事も無く上陸して家を壊していったのは驚いた。最初から陸上で活動している生物ではなく、本来は陸上で活動していない生物が上陸して襲いかかってくるシチュエーションは安全圏を破られた感じがしてかなり怖かった。
ゲゾラはテレパシーで人間の気持ちを読み取る事が出来る。これによって口を閉じて物音を立てないようにしても心の声を聞かれて居場所を発見される事になり、どこに隠れてもゲゾラからは決して逃げる事が出来ないと言う恐怖が生まれた。
海も陸も安全ではない上にどこに隠れても心の声を聞かれて追跡されてしまうとゲゾラの設定は歴代の怪獣の中でもかなり絶体絶命で恐ろしいものとなっていた。

 

ゲゾラはイカの怪獣なので他の怪獣に比べて目の位置が低くなっているが、これによって人間との距離が近くなって「ゲゾラにハッキリと認識されて襲われる」と言う構図が生まれて「怪獣に襲われる」と言うのが強調される事となった。
本作は他にもガニメとカメーバが登場しているがこちらも他の怪獣に比べて頭の位置が低くなっていて、ゲゾラと同じように「人間のすぐ近くに怪獣の顔がある」と言う構図が作られるようになっている。

 

火で撃退されたゲゾラは今度はガニメとなって人間を襲うようになる。
軟体動物であるイカと違って蟹や亀は固い甲羅に覆われているのでガニメやカメーバはゲゾラより防御力が優れているところがある。この相手に合わせて防御力が高い姿に変わると言うのは平成時代のヒーロー作品に見られるタイプチェンジに近いところがある。もし本作の宇宙アメーバをリメイクするなら戦う相手に合わせてパワー、スピード、攻撃力、防御力等を変えていくのを見てみたい。

 

宇宙アメーバは一つの作品の中でゲゾラ、ガニメ、カメーバと3体の怪獣の変身している。
宇宙アメーバの変身は面白い設定であったが一つの映画の中で様々な怪獣に変身した為に一体一体の印象が薄くなってしまったところがあったかなと感じる。
個人的には海、陸と続いたら最後は空を飛ぶ怪獣に変身してほしかったところ。

 

宇宙アメーバは分裂する能力も身に付け、最後はガニメとカメーバの戦いが始まるが、やはりここは何とかゲゾラも二体目を出して、タイトルに登場した三体の怪獣による三つ巴を見せてほしかった。

 

セルジオ島では宇宙アメーバが現れるずっと前からゲゾラの伝説が語られていた。
と言う事は今回登場した宇宙アメーバが正体のゲゾラとはまた別の大昔にセルジオ島に現れた怪獣ゲゾラが存在する事になるのだが……。

 

宇宙アメーバは人間にも寄生する事が出来る。
ゲゾラやガニメやカメーバより小さいが火と言う道具を使える人間の方が天敵のコウモリを排除する事が出来ると言う展開が面白い。
ゴジラ』や『キング・コング』と言った怪獣作品の初期から強大な怪獣が何体も現れているが最終的にはそれら怪獣は倒されて最後に生き延びるのは人間となっている。今回はその「怪獣作品で最終的に生き延びる事になる種族・人間」が最後の敵となる。

 

本作を初めて見て一番驚いたのは小畑の終盤の戦いであろう。
それまで小物な悪人描写が繰り返しあっただけに終盤で小畑が宇宙アメーバとの戦いを決意したのは意外で驚いた。
興味深いのは小畑は世界平和等に目覚めて宇宙アメーバと戦ったのではなく、アヤ子の「そんな怪物に支配されて、あなた悔しくないの?」と言う問いかけに奮起した事であろう。小畑は利己的な人間であるが、利己的故に誰かに支配されるのは我慢ならないとして、安易に小畑を改心させず当初からの性格のまま宇宙アメーバに反抗させた。自分勝手な悪人故に宇宙生物にも従う事が出来ない。ここに心を持つ人間の面白さを感じる。

 

宇宙アメーバに乗っ取られた小畑は身体能力が向上していたが外見に大きな変化は見られなかった。
ゲゾラもガニメもカメーバも宇宙アメーバに乗っ取られたイカや蟹や亀が巨大化したものだと思われるので、それなら小畑と言う人間が宇宙アメーバに乗っ取られたらどのような怪獣になっていたのか、ちょっと見てみたかったところはある。

 

宇宙アメーバに乗っ取られた小畑が喋ると発音とは無関係に顔のアチコチが動いている。これは宇宙アメーバが人間の動かし方をまだ完全に理解出来ていないのを示しているのかな。
宇宙アメーバに乗っ取られた小畑は首を絞められても平気だったが、ひょっとしたらこの時の小畑は既に呼吸をしておらず、宇宙アメーバは人形のように小畑の体をそれっぽく動かしていただけだったのかもしれない。
そう考えると終盤の小畑は既に生きている人ではないものが動いていたとしてかなり怖いものとなる。

 

セルジオ島はかつて日本軍が支配していた事から日本語を話す島民もいて本来は日本人に友好的だったのだが、高度経済成長期の日本企業がセルジオ島の伝説を無視して開拓を進めた為に「アンチ日本」と呼ばれる島民が出てくるようになってしまった。
戦争に敗れた日本が今度は高度経済成長でかつて軍が支配していた島を今度は企業が買い取る事になるが、昔は友好的だった現地民との関係が悪化してしまった。経済の力で世界を相手に勝ち続けた日本だが、その中で様々なものを失い、足元が脆くなっていっている事を感じる。

 

どんなにしぶとい宇宙生物でも原爆の何十倍と言うエネルギーを持つ火山爆発の中にいては生きられるはずがない。
高度経済成長で我が物顔で世界に進出した日本人と高度に進化して地球に侵入した宇宙アメーバ。しかし、そのどちらもいまだ大自然の力に勝てなかったりする。