『ウルトラマンをつくった男たち 星の林に月の舟』
1989年3月21日放送
脚本 佐々木守(原作・監修 実相寺昭雄)
演出 山田高道
実相寺監督の半ノンフィクション自伝小説『星の林に月の舟 怪獣に夢見た男たち』をドラマ化した作品。
タイトルの『星の林に月の舟』は劇中の台詞にあるとおり柿本人麻呂の「天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」に由来している。
吉良平治は真夏に雪を降らせたり歌手の毛穴や汗のアップを撮ったりすると言った周りに理解されない演出を繰り返してドラマ部門から外されてしまう。かつてTBSに勤めていて現在は円谷プロを切り盛りしている円谷一郎は吉良を高く買っていて彼を円谷プロに誘う。円谷英二監督の「こだわり」に感銘を受けた吉良は円谷プロに出向する事になる。最初は考え方の違いで周囲と対立するが次第に吉良の「こだわり」が周りに理解されていくと言うお話。
『ウルトラマン』の裏側を舞台にした半ノンフィクションドラマとなっていて、円谷英二監督以外の関係者は名前を変えて登場している。
登場人物は実在の人物をモデルにしていて劇中で起きる出来事も実際のエピソードをモデルにしているのだが、一本の作品としてまとめる為に主人公の吉良(モデルは実相寺監督)を中心に構成されていて史実とは違うところがいくつかある。『ウルトラマン』とその裏側について色々知っている人は気になると思うが本作はドキュメンタリーではなくドラマなのでその辺りは割り切って見た方が良いと思う。
ゴールデンタイムに特撮作品の製作現場を舞台にしたドラマが放送されると言うのが凄い。放送時間と内容を考えると子供より大人の視聴者を考えて作られたはずで、『ウルトラマン』と言う作品に興味関心があるのは子供だけではなくなったと言う事が分かる。
本作が放送された年は最初の『ウルトラマン』が放送された年から20年以上経っているので『ウルトラマン』を見ていた子供達も既に大人になっていた。第3期ウルトラシリーズの頃から大人向けを意識した企画が出るようになってきたが、本作辺りから本格的にファンの二世代化を意識した作品が作られるようになった。
個人的に残念だったのは子供の登場が少なかった事。
『ウルトラマン』の製作現場が舞台なので子供が出てこないのは当然なのだが、放送された『ウルトラマン』を一番熱心に見ていたのは子供だったはず。たとえば撮影現場を通りがかった女子高生が子供番組の撮影を馬鹿にする場面があるが、そこに子供が来なかったのは不自然だった。あれだけ野次馬がいたら噂を聞いた子供が来てもおかしくないはず。「子供の目は恐いからなぁ」と言う台詞があるが、その子供の反応が描かれないで大人の反応ばかり描かれていた。(子供の反応が描かれたのはベーターカプセルの代わりにスプーンを掲げてしまったハヤタ隊員の真似をする場面ぐらい)
吉良がウルトラマンの人形にサインをする場面があったがそれもTBSの部長との話になっていて子供の為と言うより高視聴率を取った吉良に掌を返してご機嫌取りをしているように見えた。(ハヤタ隊員より実相寺監督のサインが欲しいと言う子供も当時だと不自然な感じだし)
本作は吉良を主人公にした職業モノのドラマなので、あえて吉良が仕事で関わる事が多い大人の反応に絞って描いたのだろうか。
撮影をしているスタッフの所に本物の怪獣レッドキングが現れて皆ビックリすると言うラストが面白かった。
予想していなかっただけに見ているこちらもビックリした。
色々と気になるところはあったが、子供向けの特撮作品やヒーロー作品を大人向けにする時に一般向けよりオタク向けになってしまう事が多い中、マニアックな方向に走らないでウルトラシリーズや特撮にあまり詳しくない人達にも分かりやすい内容になっていたのは良かったと思う。
最後に劇中で一番印象に残った言葉を挙げたい。
「俺達、怪獣に食わせてもらってるじゃないですか」。
円谷プロを象徴する言葉だと思う。
演出の山田高道さんはウルトラ作品に関わるのは今回のみとなっている。