帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『ウルトラマンになりたかった男』

ウルトラマンになりたかった男』
1993年10月18日放送
脚本 佐々木守
監督 杉村六郎

 

ウルトラマン」の裏側を舞台にした作品だが『ウルトラマンをつくった男たち』や『私が愛したウルトラセブン』と違って完全フィクションとなっていて、『オールウルトラマンVS怪獣軍団』と言う劇場作品を制作する事になった円谷プロアメリカでコンピューターを使った映像技術を勉強してきた寺村がスタッフとして加わる事になり従来の着ぐるみを使うスタッフの朝見は現場から外されてしまうと言う内容になっている。
前2作が1960年代を舞台にしていたのに対して本作は放送当時の1990年代を舞台にしていて、従来の着ぐるみを使った特撮からコンピューターを使った映像作りへと変わるのかどうかと言う当時の状況をテーマにしている。因みに本作が放送された1993年はゴジラシリーズのハリウッド版制作決定が話題となり、ウルトラシリーズもハリウッドで制作された『パワード』が発売される頃であった。

 

主人公の朝見を演じる武田鉄矢さんの演技が素晴らしい。
仕事では現場から外され、営業で汗を流し、新しいスタッフに皮肉を言いながらも手助けをし、家庭では年頃となった姪との付き合いに頭を悩ます。こういう口煩くも人生を語れる役が実によく似合う。
朝見は最初の『ウルトラマン』から20年間ずっと現場に関わっていて、本来は操演担当なのだが着ぐるみの中に入って怪獣を演じ、怪獣の設定まで手掛けると言う何でも屋。器用と言うよりウルトラマンや怪獣が好きだから出来るのだろう。

 

このドラマのテーマは「転換期」。
朝見は従来の着ぐるみを支持する立場で「怪獣たって生き物なんだよ。心臓が無きゃ駄目なんだ。全身が脈打ってなきゃ駄目なんだよ。コンピューターで描いたモンなんかただの図案だよ。中に人が入ってる。だから生き物なんだよ」と着ぐるみ怪獣の精神を語る。
対する寺村はコンピューター映像を支持する立場で今回の劇場作品に登場するゴッドキングはウルトラマンの10倍の大きさで従来の着ぐるみでは表現は不可能だと語る。
そして朝見の姪と付き合っている順一は着ぐるみの動きには限界があると寺村のもとでコンピューター映像を勉強するが、朝見を否定しているかと言えばそうではなくて積極的に意見を仰いでいる。おそらく着ぐるみもコンピューター映像も一つの手段だと考えていて、そのどちらにも興味があるのだろう。
「時代は平成」「昭和あっての平成」「日本国内ではなく国際的な作品」「俺達の特撮が生き残るかどうかの瀬戸際」「新しい見通しを開こうと」「安易にCGだと言わないでもらいたい」「出来のいいアニメ」「ウルトラマンがアニメになっていいのか」「CGとアニメは違う」とコンピューター映像の導入に賛否が分かれるスタッフ達。この作品で論じられた着ぐるみとコンピューター映像の話は放送から30年経った現在でも続いている。おそらく一つの答えに絞れる問題じゃないんだろうなぁ。

 

ウルトラマンがアニメになっていいのか」と言う台詞が出てくるが『ザ☆ウル』の立場は……。

 

最終的にゴッドキングはコンピューター映像で描かれて、ウルトラマンとの対決シーンでは霧のスクリーンにゴッドキングの映像を映して手足や頭等は実物大の人形を使うと言う着ぐるみとコンピューター映像の両方を融合させた作りになる。
この超巨大な怪獣とウルトラマンの対決と言う構図は後の平成ウルトラシリーズへと引き継がれていった。

 

本作にはボスゴンとゴッドキングと言うオリジナル怪獣が登場している。
ゴッドキングは本作の為に作られた怪獣らしいが、ボスゴンは元々は別の番組の為に作られていた怪獣だったらしい。

 

本作は撮影前に準備運動するウルトラマン等、撮影所の雰囲気が楽しめる面白い場面がある。
「撮影場面を見せたら子供の夢が壊れる」と言う意見もあるが、劇中では子供が撮影所に入り込んでウルトラマンや怪獣が着ぐるみだと分かっていながらも楽しんでいる場面がある。子供でもある年齢になるとウルトラマンや怪獣が作り物だと分かるようになるが、それでも夢は壊れずに楽しめるものなんじゃないのかなと自分は思っている。まぁ、これに関しては人それぞれなので、あくまで自分はそう思うと言う話で。

 

現場を外された朝見にプロデューサーがやや意地悪く言った「大切な収入源」であるウルトラマンの着ぐるみを着ての営業活動。
実際に大切な収入源なのだが、それを分かっていない人もいると言う事か……。

 

武田鉄矢さんが演じた朝見のやや情けないところが良かった。
初恋の相手だと思われる奥さんに泣きついたり、その奥さんが寺村と再婚する事を知って驚いたり、営業の休憩時間にウルトラマンの着ぐるみを脱いで溜息を吐いたりと、こういう哀愁漂うおじさんが主役のウルトラマンがあっても面白いかもと思える。中年体型のウルトラマンもなかなか味がある。

 

憎まれ役だと思われた寺村だが、それは朝見からそう見えるだけであって、寺村は着ぐるみを否定しているわけではなく、ただ自分のスタンスを貫いているだけであった。
よく考えたら、順一とプロデューサー以外のスタッフからの支持が得られなくて撮影の意見を出してくれなかったり、奥さんの夫の友達だった為に夫からの離婚話を奥さんと子供に伝えに行って子供から嫌われたりと朝見とはまた違った大人の哀愁があった。

 

無事に『オールウルトラマンVS怪獣軍団』の撮影も終わって朝見は今日もウルトラマンの着ぐるみを着て営業に汗をかく。
ウルトラマンが好きなんだ……。どうしてかなぁ……。ウルトラマンになりたいんだろうなぁ……。人生のウルトラマンに……なりたいんだろうなぁ」。

 

監督の杉村六郎さんはウルトラ作品に関わるのは今回のみとなっている。