帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「夢の果て」

「夢の果て」
ウルトラマンデッカー』第24話
2023年1月14日放送(第24話)
脚本 根元歳三
監督 武居正能

 

精強宇宙球体スフィアソルジャー
全長 不明
重量 不明
スフィアオベリスクを倒すGUTS-SELECTの作戦を妨害するが最後はスフィアオベリスクごとデッカー・ダイナミックタイプとテラフェイザーに倒される。

 

最強スフィア獣マザースフィアザウルス
身長 88m
体重 8万8千t
宇宙空間でトリガーを倒して地球に降臨する。
地球でトリガー、テラフェイザー、デッカーを倒すとエタニティコアに影響を与える。

 

ウルトラマントリガー
身長 53m
体重 4万4千t
宇宙空間でのマザースフィアザウルスとの戦いに敗れて地球に落下する。

 

物語
マザースフィアが現れて地球を覆っていたバリアーの収縮が3時間後に迫る。
GUTS-SELECTは残された戦力でスフィアオベリスクを倒す作戦を考える。
一方、スフィアを取り込んだ事で記憶と自我を失ったアガムスは……。

 

感想
最終決戦を前に訓練校時代の同期が登場。
『ダイナ』では訓練校時代の仲間だとフドウ兄弟が出てくるので『デッカー』でも訓練校時代の仲間の登場に少し不安を覚えていたのだが特に何も無く生き延びる事が出来て良かった。なんか出る度に負傷していたのでヒヤヒヤしながら見ていたよ。

 

カナタは訓練校時代の成績が優秀ではなかったのでGUTS-SELECTに選ばれた事で周りから反感を買っていないのか心配だったがこれまでの話を見るとそういう事は無かったようだ。こういう訓練生の話で嫉妬等のこじれた人間関係が無かったのは意外と珍しい。

 

スフィアソルジャーが変形した三本の塔=スフィアオベリスクを倒す為にGUTS-SELECTとTPUは4班に分かれて突撃する。
『デッカー』はこういう地上に部隊を展開する話が多くて『トリガー』時代より軍の雰囲気が強くなった。この傾向は次作の『ブレーザー』にも引き継がれる事になる。

 

アガムスの話をどうやって決着させるんだろうと思って見ていたが、デッカーを倒して地球人を滅ぼす為にスフィアの力を取り込んだら乗っ取られて記憶と自我を失ってしまうが、そこからカナタの呼びかけで決して忘れたくないレリアとの思い出とレリアを愛していた自分を取り戻し、結果的に「デッカーや地球人への憎しみは忘れて、レリアと地球について語っていた事は思い出す」と言う状態になってデッカーや地球人への攻撃を止めると言うのは上手いと思った。レリアが生き返らない以上、アガムスからデッカーや地球人への憎しみを取り除く方法は寄生した相手から記憶を奪うスフィアを使うしか無かったと思う。

 

テラフェイザーとデッカーによって最後のスフィアオベリスクが倒され、地球を覆っていたバリアーが消滅して火星との通信も復活するが、そこに宇宙空間でトリガーを倒したマザースフィアザウルスが地球に降臨する。

 

マザースフィアザウルスのボリュームのあるデザインはさすがのラスボスと言った貫禄で好き。
女性の声が聞こえるのは『ダイナ』のグランスフィアと同じだが複数の声が混じっているように聞こえてより不気味な感じになっている。

 

アガムス死す。
レリアが死んだ時点でアガムスの生きる目的が殆ど無くなってしまったので正直言ってアガムスの話の結末は「いかにアガムスが納得して死ねるか」しかなかったと思う。今まではそれを「妻の死の遠因となった自分と地球人を破滅させる」「バズド星が滅びない時間軸を作る」にしていたのを最後に「レリアが夢見た「宇宙の友達と幸せな未来を作る」を叶える為にデッカーを救う」に変える事となった。「妻の笑顔はもう無いが、妻が笑顔で語っていた事を叶える手助けはまだ出来る」。レリアが生き返らない中でアガムスが納得して救われる結末はこれしかなかったと思う。

 

『デッカー』のメインストーリーの一つである「アガムスの復讐」であるが、未来人デッカーが「アガムスを救ってやってくれ」と言ってカナタも「アガムスを救いたい」と言った事で物語は「アガムスをどうやって救うか」に絞られる事となった。
登場人物を救う話にする場合、視聴者がその登場人物に感情移入できるかどうかが一つの鍵になるのだが、アガムスの復讐に感情移入するのはちょっと難しいところがあった。
と言うのもアガムスが復讐を誓った未来の地球人が劇中に殆ど出ていないのだ。同じ復讐者だと前作『トリガー』にイグニスがいたが、イグニスの場合はヒュドラムがリシュリア星人を殺す場面を描いているのでイグニスが掲げる復讐に納得できるしイグニスに救われてほしいと思う事が出来たのだが、アガムスの場合はスフィアによってレリアが命を落とす場面はあるが未来の地球人についてはバズド星に不時着した地球人は宇宙船のみで人は描かれていないし未来人デッカーも暴走したアガムスに対応する場面しか無いので、アガムスが地球人への復讐を掲げてもアガムスに救われてほしいと思う前に「え!? ちょっ、なんで地球人に復讐を向けるの?」と言う困惑が先に来てしまった。
又、アガムスは遡れる限界まで過去に遡った為に数百年後の未来から来る事となった。仲間や組織を持たない個人としての復讐なので数十億人の地球人を相手に復讐をするのなら文明が発達していない過去に行くのは分かるのだが、ドラマとして見たら「そんな数百年後の未来の事を言われても……」と言う困惑が先に来てしまう。今の時代で考えると「第二次世界大戦で自分の国が日本側に付いた事で妻が命を落としたので鎌倉時代や戦国時代の日本人相手に復讐をする」と言うようなもので、この場合でもやはり「そんな事を言われても鎌倉時代の人も困るだろう」と言う感想になる。
まぁ、この辺りは製作側も分かっていたのか、アガムスが地球人に憎しみを抱く事になった経緯についてはあまり掘り下げられず、代わりにアガムスを記憶喪失にさせて憎しみに狂う前の姿を出す事で視聴者にアガムスが救われてほしいと思わせる展開になっていた。

 

アガムスの復讐については「敵と戦って勝つ事を諦めて自分や身内に責任を求めた」と言うのはリアルでよくありそうな感じで面白かった。
アガムスの話に未来の地球人の過失が出てこなかったので、よくある地球人がとんでもない失敗を犯して犠牲者が出たと言う事では無さそう。(もしあったらアガムスは「地球人がスフィアを刺激しなければ」「地球人がスフィアとの戦いで失敗を犯さなければ」と言っていたはず。そういう具体的な失敗を挙げないでどの星の人間もいずれやるであろう「宇宙への進出」を責めたと言う事は「そもそも地球人が宇宙に進出してバズド星に不時着しなかったら……」と言うところしかレリアの死で地球人を責められるものが無かったと思われる)
『トリガー』のイグニスのヒュドラムへの復讐は実にシンプルで分かりやすくてヒーロー作品向きだったと思う。一方のアガムスの地球人への復讐だが「敵ではなく自分や身内に憎しみを向ける」「仲間に明確な過失は無いが悪化していく状況の中で仲間に憎しみを向けるしかなかった」と言うのは実に難しい。イグニスがヒュドラムに憎しみを抱くのはヒュドラムがリシュリア星人を襲う場面を一つ入れれば済むのだが、アガムスがスフィアによってレリアが命を落としてから憎しみの対象をスフィアから地球人へとスライドさせていくのは場面一つで済ませられるものではなくて色々なエピソードを積み重ねて少しずつ固めていかないといけなくて、ぶっちゃけると、1話30分で一つの戦いを終わらせる日本のヒーロー作品で描くのには向いていなかったと言える。
でも、上に書いたようにアガムスの復讐はリアルな感じで面白かったので、『オーブ』の『オリジンサーガ』のようにネット配信で10話近くかけてじっくり描くか、『超全集』やツブイマで配信される小説でエグいものをがっつり描くかしてほしかったなと思う。