帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「繁栄の代償」

「繁栄の代償」
ウルトラマンデッカー』第21話
2022年12月10日放送(第21話)
脚本 足木淳一郎
監督 田口清隆

 

Sプラズマ融合獣スフィアジオモス
身長 70m
体重 7万t
回収されたスフィアの死骸から作られて完成すれば光の速度を生み出せると言われるSプラズマ増殖炉が暴走して周囲の建物を取り込んで怪獣化した姿。
周囲のエネルギーを吸収して放った光線で時空変動を起こして未来からスフィアザウルスを呼び寄せた。
地球のエネルギーを吸収するスフィアザウルスを護衛し、スフィアザウルスがナースデッセイ号のSプラズマナースキャノンで倒されるとスフィアザウルスの死骸を吸収して得たエネルギーで未来から次のスフィアザウルスを呼び寄せようとしたがダイナによって阻まれ、最後はティガとダイナのウルトラディメンションカードで発動されるウルトラデュアルソードのデュアルレジェンドフラッシュマルチスクラムで倒された。
『タイガ』の「きみの決める未来」のセグメゲルの着ぐるみを改造している。

 

精強融合獣スフィアザウルス
身長 68m
体重 6万8千t
スフィアジオモスによって未来から呼び寄せられた。
以前に現れた個体と同じく地球からエネルギーを吸収する。
ナースデッセイ号のSプラズマナースキャノンで倒されるとスフィアジオモスが未来から次の個体を呼び寄せようとするが……。

 

ウルトラマンダイナ
身長 55m
体重 4万5千t
スフィアザウルスが未来から来るのを阻止すべく現れた。
デッカーと共闘してティガとダイナのウルトラディメンションカードを託し、戦いが終わると「未来は誰にも分からない」と言うメッセージをカナタに残して未来に帰った。

 

物語
スフィアの反応を検知したGUTS-SELECTはサイテックラボラトリーホールディングに調査に向かう。
実はそこでは回収されたスフィアの死骸から新たなエネルギーの研究が行われていたのだった。

 

感想
開発中のSプラズマ増殖炉はいずれは光の速度に達する宇宙船のエンジンになるとの事。
『ティガ』『ダイナ』の世界ではマキシマ・ネオマキシマに続いてゼロドライブの研究が進められたが『トリガー』『デッカー』の世界ではゼロドライブに関する話は今のところ無い。シズマ会長が『ティガ』『ダイナ』の世界にいた頃はアスカ・カズマが光に消えて計画が凍結されていたのでゼロドライブに関する情報は『トリガー』『デッカー』の世界には持ち込まれなかったのかな。

 

スフィアの死骸を回収してSプラズマ増殖炉が作られる。
カナタはスフィアを利用する事に危機感を募らせるが実は「希望の光、赤き星より」でアキトがスフィアの死骸を分析して作ったスフィアソルジャーのモンスディメンションカードでケンゴが地球に来たりカナタが地球に帰ったりする事が出来たので、戦いに勝つ為にスフィアを捕獲して分析する事は完全に間違っているとは言えないと思う。

 

サイテックラボラトリーホールディングのヒヤマ・ユウジはスフィアの襲来によって地球の発展は停滞したとして人類に残された道はスフィアを打倒するかスフィアを利用して共生するかの二つだと訴える。この考えは「ゼロコロナ」と「ウィズコロナ」を思わせるところがある。カナタに反対されたヒヤマが「ではGUTS-SELECTにはスフィアを打倒する確実な手段があると言うのですか?」と尋ねてカナタが「今一生懸命やってんだろ!」と怒りをあらわにするところもコロナ禍での行政機関とその対応を批判して独自の行動を起こそうとした人々の対立を思い出すところがあった。

 

スフィアの危険性を訴えるカナタに対してヒヤマが反論した「人類は科学の力で自然の猛威に挑戦し、自らの力に取り込み発展してきた。それは歴史が証明しています!」は間違っていないと思う。
ウルトラシリーズに限らずこういう作品では科学が自然を制御していくのに否定的である事が多いが実際は『Q』『初代マン』が放送された1966年と『デッカー』が放送された2022年を比べると科学によって人々の生活は確実に快適になっている。ただ、クーラー等によって室内で快適な生活が送れるようになった一方で家の外は命の危険がある程の猛暑となったり、クリック一つで世界中から情報や物を得られるようになった一方でコロナウイルスが国境の壁を越えて世界中に広まったりもしている。

 

『ダイナ』ではTPCが大きな力を持っていたので危険な研究もTPCの中で行われる事が殆どだったが、『デッカー』のTPUはTPC程の力は持っていないのか、「人と怪獣」でシゲナガ博士の研究をサポートしたスポンサーや今回のサイテックラボラトリーホールディングのようにTPU以外の組織がTPUレベルの研究を行っている。

 

「アンダーコントロール」と言う言葉からも分かるようにSプラズマ増殖炉の話には核エネルギーの要素もある。『デッカー』の放送が2022年なのでどうしてもコロナと結びつけてしまうがおそらく本来は原発問題がテーマの話だと思う。

 

リュウモンも考え方には頷ける部分もあると言っていただけにヒヤマをSプラズマ増殖炉はやっぱり制御できなかったで身勝手な人物で終わらせてしまったのは勿体なかった。
スフィアの死骸を回収して分析して開発に繋げるところは同じなのにアキトは成功して賞賛されたのに対してヒヤマは非難されて失敗してしまった違いは何かとなったら「主人公側の人物かどうか」だったと言える。
Sプラズマ増殖炉が暴走してスフィアジオモスが誕生した直後にムラホシ隊長がSプラズマ増殖炉を武器に転用する作戦を提案した事に対して敵キャラのアガムス以外から非難が全く出なかったのも「ムラホシ隊長が主人公側の人間だったから」と考えられる。おそらくだがヒヤマが「スフィアジオモスを倒す為にSプラズマ増殖炉を武器に使おう!」と提案したら劇中の人物からも視聴者からも非難されていただろう。
自分としてはウルトラシリーズに限らず「主人公側は賞賛されて主人公側ではない人物は非難される」と言う物語の作り方はあまり好きではない。

 

作戦の説明をする時に怪獣の折り紙が使われていたのが印象に残った。
どうやらこれは『デッカー』のスタッフで折り紙の本を出している今井雄大さんが作った物らしい。

 

地上部隊が出る話は好きだが巨大怪獣相手にあの装備であの距離で戦うのは怖すぎる……。

 

アガムス再登場。
前回登場した「異次元からのいざない」ではダメージが残っていて辛そうだったが今回は回復して元気そうであった。「月面の戦士たち」でデッカーがいない地球を攻撃しなかったのは回復に時間を充てていたのかもしれない。まさか宇宙に追い払ったデッカーが数時間後に地球に帰ってくるのは予想外であったのだろう。

 

これまでのアガムスはカナタに対してはアサカゲ博士時代と同じく「カナタ君」と呼んでいたが今回は敵意剥き出しになって親しみが一切無い喋り方になってしまった。結構ショック。

 

スフィアジオモスとの戦いで弾切れになったカナタに弾倉を渡すアガムス。これは弾倉を渡すのをきっかけにカナタに未来の地球とバズド星についての話をする為。アガムスの思惑通り、未来の話を聞いたカナタは心の迷いからデッカーに変身出来なくなってしまう。

 

ダイナ登場!
『ダイナ』の初期にあったCGを使ったタイプチェンジを今の技術で再現してくれたのが嬉しい。こういう「やりたい事は分かるけれど上手くいかなかったなぁ」と言う演出を技術が進歩して再チャレンジしてくれるのはとても面白いので今後も色々やってほしい。

 

ダイナも色々あって大分落ち着いてきたし今回はアスカの姿や台詞は無かったのだがウルトラフォークとサムズアップの場面で「あ、これ、アスカだ!」にちゃんとなる。

 

基本的にウルトラマンは腕を組んで光線を撃つと動かないものなのでダイナがソルジェント光線を撃ちながらスフィアジオモスに向かって一気に距離を詰めていったのは見ていて「おおっ!?」となった。

 

今回はジオモスが登場する事から『ダイナ』の「滅びの微笑(前編)」「滅びの微笑(後編)」の要素があるのだがダイナが登場した終盤は二人のウルトラマンの共闘が見られた『光の星の戦士たち』の要素が一気に強くなる。

 

ダイナが自分のカードだけでなくティガのカードも作り出せたのは『光の星の戦士たち』で戦いが終わった後にティガとダイナの光が一つに混じり合っていたので、そこでアスカはティガの光も得ていたのかもしれない。

 

カナタは「分かんねぇ! 分かんねぇけど!」と言っているイメージがあって、正直に言うと「「分かんねぇ」と言って理解する事を放棄してその場の感情で動くのは危険だよ」と思っていたのだが、今回の話で「未来は誰にも分からない」と言う『ダイナ』の「少年宇宙人」の言葉を持ってきたのはなるほどとなった。
思えば今回登場したヒヤマは「自分は分かっている」と思っていた為に他の人の意見は聞かないし自分の行動の危険性も考えていなかった。一方でカナタは「分かんねぇ」だからこそ分かる為に他の人の話を聞くし色々考えている。これから先どうなるかは誰にも分からない。そこで大事なのは知ったかぶる事でも分かったと思い込む事でもなくて、「分からない」と言う事を理解してそこから色々聞いて考えていく事なのかもしれない。