帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「虹が出た 前編」

「虹が出た 前編
ウルトラマンブレーザー』第7話
2023年8月26日放送(第7話)
脚本 山崎太基
監督 中川和博

 

天弓怪獣ニジカガチ
身長 60m
体重 4万5千t
「虹蛇神」と呼ばれる空の主で、乾いた土地に雨を降らせるが人の心に邪な気持ちがあったら嵐となって災いをもたらすと言われている。人間のすぐそばに在りながら時に恵みの雨をもたらし時に荒神となって全てを奪い去る。
横峯教授によって目覚めて富士の樹海に現れる。
大気を吸い込んで気圧を変える事で雨雲を作り出す。虹色の光線を発する。

 

物語
日本各地で一週間も消えない「逆さ虹」が観測された。
ゲント隊長は恩師で怪獣研究学の第一人者である横峯教授へ相談に向かう。

 

感想
元地球防衛大の教授で怪獣研究学の第一人者である横峯教授が登場。
地球防衛隊の怪獣対策マニュアルは横峯教授の草案を基にしているとの事。
怪獣が出現する事が当たり前となった世界だと怪獣を研究する学問があっても不思議ではないのだが意外と昔の作品ではそういうのは無くて、むしろ怪獣を研究すると異端児扱いされる事が多かったイメージがある。
今回は「研究対象であった怪獣にのめり込みすぎた学者」と言う部分は昔から何度か見られた話なのだが、その学者の怪獣研究に社会的な権威が与えられているところは意外と昔には無かったものであった。

 

横峯教授の存在をテルアキ副隊長は「一般教養」と言っていたが一般人に近いアンリ隊員が知らなかったので実際は怪獣の生態に興味がある人以外にはあまり知られていない人物なのかもしれない。
こういう「その人達の中では一般教養レベルの存在だが、そのグループ以外の人達には全然知られていない人であった」と言うのはオタクと非オタクの話を見ているような感覚がある。

 

「怪獣よりお天道様の方がよっぽど脅威かもなぁ」。
怪獣には様々な種類があって「生物」や「兵器」として描かれるものもあれば今回のニジカガチのような「自然」を表す怪獣もいる。
何となくだが、昔から自然現象を司る怪獣はレベルが一段高いものが多い印象がある。

 

今回登場したニジカガチは自然現象を司るので映像でも暴風や台風の目と言った自然現象の場面が多くあった。
台詞だけでなく実際に映像で見せてくれたのでニジカガチの凄さが実感できた。

 

今回はちょっと遠くから映した映像が多く、人物や怪獣の周りの風景も映されているので、「自然」と言うテーマが言葉だけでなく映像でもちゃんと伝えられていた。
ニジカガチの出現が山の中で、人々が襲われる場面がビニールハウスや畑で、横峰教授が人類の間違いについて語る場所が工場の近くと言葉での説明が少なくても映像で色々察せられるように作られているのが良かった。

 

「昔は人間と怪獣が共生していた」と言われるとちょっと驚いてしまうが、今回のニジカガチは古来から伝承が残っている妖怪や八百万の神みたいな存在なので、そう考えるとなるほどとなる。

 

今回の話はどことなく妖怪譚の雰囲気がある。
横峯教授の出身地は岩手県との事なので柳田国男さんの『遠野物語』を思い出すところがある。

 

異常な暑さや急激な大雨は現実でも起きている問題なので今回の話は妙にリアリティを感じるところがあった。
そう言えばコロナ禍でアマビエが注目されたが、どんな時代になっても人間はこういう怪獣や妖怪を考えてしまう存在なのかもしれない。

 

ゲント隊長と横峯教授の対立だが、ゲント隊長はあくまで人間を中心に物事を考えているので、人間が脅かされる事を理由にして人間以外の存在を駆除できるし、世界の調和を崩す人間の好き勝手な行動も「それも地球の営み」と正当化する事が出来てしまう。一方の横峯教授は自然を中心に物事を考えているので、人間が世界の調和を崩すのなら人間の排除を選択する事が出来てしまう。

 

横峰教授の真意を知ったゲント隊長は感情的にならず冷静に自分の考えを述べていて、こういうところがさすが隊長だなと感じた。
若手の隊員ではなく隊長なのでゲントは第1話の時点でしっかりとした軸を持っていた珍しい主人公となった。

 

ニジカガチの攻撃に危機を感じたブレーザーは衝突の直前に姿を消す。
ウルトラマンは「自分の命が尽きても戦う」と言う考えの持ち主が多いので、相手の攻撃が直撃する前に姿を消して戦いから離れるのは非常に珍しい。こういう選択が出来るのはブレーザーが宇宙警備隊のような組織に属していないからだと思われる。

 

今回の話は山崎太基さんのウルトラシリーズ脚本デビュー作となっている。