「ウルトラ警備隊西へ 後編」
『ウルトラセブン』制作第18話
1968年1月14日放送(第15話)
脚本 金城哲夫
監督 満田かずほ
特殊技術 高野宏一
策略宇宙人ペダン星人
身長 2m
体重 50kg
ライトンR30爆弾の開発中止と引き替えに地球から手を引くとダンに伝えるが結局は侵略活動を開始する。キングジョーに神戸港を破壊させ、その間に母星から宇宙船団を呼び寄せようとした。
キングジョーが倒されると宇宙船で逃げようとしたがワイドショットで撃墜されてキングジョーと一緒に爆発し、それを知った宇宙船団も母星へと引き返した。
実は出身地が『ウルトラマン』の「遊星から来た兄弟」に登場したザラブ星人と同じ第8銀河系となっている。裏切るからかな?
宇宙ロボットキングジョー
身長 55m
体重 4万8千t
光線を撃つ。
ウルトラセブンのあらゆる攻撃が通用しなかったが、ライトンR30爆弾を受けて機能が停止し、墜落したペダン星人の宇宙船と一緒に爆発して瓦礫と化した。
物語
ダンはペダン星人と会って事件を平和的に解決しようとする。
しかし、遊星間戦争と言う状況の中、ダンの理想は脆くも……。
感想
「ウルトラ警備隊西へ 前編」の続き。
前回のクライマックスでウルトラセブンが大ピンチに陥るのだが今回の冒頭でキングジョーが思ったよりあっさり一時撤退している。今回の話に限らず、ウルトラシリーズの前後編では前編での危機的状況が後編であっさりと解決する事がある。
自分の命も危ない状況だったのにキングジョーを見て「素晴らしいメカニズムだ」と言っちゃう土田博士は一歩間違えたら人の道を踏み外しそうな危なさが垣間見えて少ない出番ながらも印象に残る人物であった。
地球人がペダン星を侵略しようとしていると言うのはペダン星人の誤解だと訴えるアマギ隊員に対して、ダンはそんな言い訳は通用しないと答える。これは「闇に光る目」でのアンノン星人の件があったからであろう。結局、地球人は同じ過ちを繰り返してしまった事になる。
前回に続いてスパイ風の展開があり、今回はウルトラ警備隊の変装姿を見る事が出来る。
ダンとドロシーの波止場の場面は夕焼けが実に美しかった。
今回の前後編は大型ロケだったからか、風景を印象的に撮っている場面が多かった。
ペダン星人が「ウルトラセブン。どう? 私達の味方にならない? 地球はいずれ私達のものだわ。その方が身の為よ」と言ってきたのには驚いた。ウルトラシリーズで相手が仲間になれとウルトラマン達を誘う展開はあまり見ない。
ペダン星人の申し出にダンは「断る! 僕は地球の平和を守る為に働くんだ」と答えるが、ペダン星人に「地球は平和なら他の星はどうなっても良いと言うの?」と問われる。『ウルトラマン』の「怪獣墓場」でウルトラマンが「地球の平和の為にやむなく怪獣達を倒してきた」と懺悔した事がある。この時は「倒した後に懺悔する」であったが今回のダンは「我々地球防衛軍の本当の目的は宇宙全体の平和なのだ!」と言って事件を平和的に解決しようとした。つまり「懺悔しないように倒すと言う選択肢を回避する」事にしたのだ。しかし、ペダン星人が「地球防衛軍の本当の目的は宇宙全体の平和だと考えているのはウルトラセブンだけ」「人間は狡くて欲張りでとんだ食わせもの」と言ったようにダンの考えは実現せず、挙げ句の果てに「ノンマルトの使者」では「人間の平和の為に同じ地球に住む者さえ倒す」事になってしまう。
ペダン星人の「他人の家を覗いたり石を投げ込んだりするのはルールに反する事だわ」は全くもってその通り。他人が嫌がる事をしてはいけないとは誰もが分かっているのだが人間は言われないと気付けないし、気付いても止める事が出来なかったりする。
ダンは「地球人はペダン星を侵略するつもりは無いんだ。あのロケットは単なる観測ロケットだったんだ」と弁明するが、ペダン星人は「観測? いかにも立派な名目だわ。でも、何の為の観測なの? それはいずれ自分達が利用する為にやっている事。その手には乗らないわ」と反論する。この時点ではどこまで計画が進んでいたか分からないが、もし観測の結果、アンノン星やペダン星が無人の星だと分かったら「超兵器R1号」で実験場にされていたかもしれない。
このダンとペダン星人の会話は宇宙人二人が地球人の姿で対峙し、地球人の姿でありながら宇宙人の視点で地球について論じていると言う構図が面白い。
ところでダンが地球人寄りなので気付きにくいが、この場面は地球の行く末が宇宙人達によって決められて地球人が蚊帳の外になっている。先の「闇に光る目」のアンノン星人もだったが、地球人では交渉の相手にならないとされて、宇宙人のウルトラセブンが地球の立場を弁明する事になるところに宇宙における地球人の評価が見えていくる。
ダンはペダン星人との話し合いの結果を伝えるがウルトラ警備隊も土田博士もペダン星人の話を信じない。これまでロケットは観測用のもので侵略の意思は無いと言う地球人の話をペダン星人が信じなかった事に戸惑ったり怒ったりしていたのに今度はその地球人がペダン星人の話を信じる事が出来なくなっていた。
「皆、何を疑っているんだ。まず相手を信じる事です。そうでなければ人間は永遠に平和を掴む事なんて出来っこないんだ!」と皆に訴えるダン。
嫌がる事を相手にされ、それが相手への不信に繋がり、その積み重ねがやがて争いへと発展していき、平和は遠のいていく……。
最初の目的は報復だったのに途中から侵略に変わってしまったと言われるペダン星人だが、ワシントン基地の弁明に対して返事を出さず、ダンとの会話で「地球はいずれ私達のものだわ」と言っていた事から報復はあくまで口実で最初から地球侵略が真の目的だったように思える。
ペダン星人は地球から手を引くと言っていながら地球侵略の準備を進めていたが、実は土田博士も研究を中止しようと言っていながらその後も研究を続けていた。結局、どちらも相手の事を考えてはいなかった。今回は理想主義的なダンが戦争と言う現実に翻弄された話だったと言える。(土田博士の場合はドロシーの記憶が消されている事からペダン星人は信用できないと判断したと見る事も出来るが)
アンヌ隊員がショック療法でドロシーの記憶を戻したのに驚いた。そんな事が出来たのね。
ドロシーによると、ペダン星人がキングジョーに使っている特殊な金属はライトンR30を使用した弾丸で破壊できるとの事。『ウルトラマン』の「さらばウルトラマン」ではスペシウム光線が通用しなかったゼットンが人間が開発した無重力弾に倒された理由は説明されていなかったが今回はアイスラッガーやエメリウム光線が通用しなかったキングジョーが人間が開発したライトンR30爆弾で倒された理由が説明された。
ドロシーが記憶を取り戻してライトンR30爆弾を完成させるまで、かなりの時間が経過したと思われる。この頃のウルトラセブンにはまだ活動時間の制限が無かったが、強敵キングジョーを相手に数十分近く戦うなんて、よくエネルギーが尽きなかったなと思う。
『平成セブン』の「模造された男」は今回の前後編の後日談となっている。
今回の前後編は2023年11月に『円谷映画祭2023』Part1で『庵野秀明セレクション 4K『ウルトラセブン』』として劇場公開されている。