「悲しみの沼 ー泥怪人ツチケラ登場ー」
『ウルトラマンガイア』第39話
1999年6月5日放送(第39話)
脚本 川上英幸
監督・特技監督 北浦嗣巳
泥怪人ツチケラ
身長 220cm~53m
体重 440kg~4万8千t
かつて軍の秘密研究所にいて独自の細菌兵器製造に取り組んでいた近藤が偶然作り上げた人間を生物兵器へと変化させる人工細菌を投与された姿。
人工細胞の全てを破壊して沼に逃げ込む。早くに妻を亡くしていて一人娘の智恵も空襲で失う。近藤と同じ研究員だった老人は贖罪として自分の命尽きるまで近藤に寄り添っていこうと決意し、妖怪の伝説を流して沼に人が近付かないようにしていた。
沼の地下から溢れ出る有害物質を吸収して巨大化凶暴化してしまう。
どんな方法を使っても死ぬ事が出来なかったが最後はガイア・スプリームヴァージョンによって浄化された。
物語
地底貫通弾の影響を調べる我夢はある沼にやって来る。
その沼にはツチケラと言う妖怪の伝説があったが、その伝説の真実は愚かで哀しい人間の物語であった。
感想
沼に棲んで人間を食べると言う伝説の妖怪ツチケラ。
刑事が言うには危険な場所に子供を近付けない為の作り話との事だが、特撮作品で伝説が本当に作り話だった事は殆ど無い。必ず悪人が地元の人も近付かない場所に行って伝説を蘇らせてしまう。
今回登場した現金輸送車の襲撃犯は『ダイナ』でミジー星人を演じた中嶋修武さんと佐藤信一さん。古川と菅原と言う名前だが「カマ」と「ウド」と言う愛称になっている。
今回の話は前回の「大地裂く牙」から約1ヶ月後と言う設定。
我夢は地底貫通弾による地質汚染を調査していて、表面的には際立った被害は見られなかったが実際は地下をじわじわと汚染していた事が判明する。
すぐに被害が分かるのはまだマシで真に恐ろしいのは被害が無いと思っていたら数十年経って実は被害があったと分かる場合。被害が分かった時に慌てて対策を立てても数十年と言う時間の遅れを埋めるのは並大抵の事ではない。
現金輸送車襲撃犯が沼に潜伏している恐れがあるとして刑事が捜査にやって来るがツチケラの触手で沼に引きずり込まれそうになる。それを見てジェクターガンで触手を撃ち抜く我夢。アナライザーなのにさり気に銃の腕前が凄い。
怪物出現にチーム・ライトニングが出撃する。
大河原が「さらに上がった射撃の腕を見せてやるぜ!」と意気込んでいるが、銃の腕前が上がったとしてもこういう仕事はやはりチーム・ハーキュリーズ向きだと思う。ライトニングがツチケラの触手と格闘できるとは思えない。
ツチケラの声を聞いて北田と大河原は「地の底から響いてくるようで気味の悪い」と感じるが梶尾リーダーは「苦しんでいるように聞こえる」と答える。
この時点ではまだツチケラの話は聞いておらず単なる怪物と言う認識のはずだが、意外と梶尾リーダーは怪獣の気持ちが理解できるタイプなのかもしれない。
怪物に向かって「近藤」と呼びかける老人は「もしかしたら力になれるかもしれない」と言う我夢の言葉に「根源的破滅招来体だが何だが知らないが武力で全てを解決しようとするXIGが力になれるはずはない」と答える。
かつて近藤と老人は軍の秘密研究所にいて独自の細菌兵器製造に取り組んでいた。全ては戦争の為で戦争に勝てば再び平和な世界が戻って来ると信じて研究に没頭していた。しかし、人間を生物兵器へと変化させる人工細菌を作り上げてしまい、その使用に反対した近藤は愛国心に反するとして最初の人体実験に選ばれてしまう。
ここで語られる「先の戦争」は第二次世界大戦の事であろう。ウルトラシリーズで戦争について語られるのは久し振り。扉を開けて軍人が現れる場面がマジで怖い。戦争と言う実際の話が下敷きになっているからか今回の話はリアリティがあると言うか生々しかった。
根源的破滅招来体を戦争中の敵国とすれば戦いに勝てば平和な世界が戻って来ると信じて地底貫通弾やワーム・ジャンプ・ミサイルが開発されて使用される事の危うさが分かる。又、有効な作戦を批判するのは愛国心に反していると言う件も「大地裂く牙」や「宇宙怪獣大進撃」で取り上げられている。
基本的にウルトラシリーズは架空の話なのだが、こういう実際にあった話を重ねる事でテーマがより深くなる。
人工細胞を投与された近藤が変化する場面は実際に描かれていてかなりの衝撃。
老人以外の全ての研究員を殺して人工細胞の全てを破壊した近藤は沼に逃げ込む。
早くに妻を病気で亡くした近藤にとってかけがえのない存在である一人娘の智恵は老人によって育てられ、近藤はその成長だけを楽しみに生きていくが空襲に巻き込まれて智恵は死んでしまい、老人は自分の命が尽きるまで近藤に寄り添って生きていく事を誓う。
正直言って、ウルトラシリーズの登場人物でここまで重い人生を背負った人物は他にいないであろう。そう強く思えるのはやはり戦争と言う実際の出来事が下敷きにあるからだと思う。
傷だらけで智恵の位牌とオルゴールを抱えて「許してくれぇ!」と絶叫する老人の姿が辛い。
今まで大人しかった近藤が凶暴になった原因は沼の地下から溢れ出る有害物質の影響であった。劇中では地底貫通弾の影響とされているが、沼の近くに廃液処分場がある事も説明されているので、ここの影響もあるだろう。
そう考えると近藤は「戦争時の細菌兵器」「高度経済成長時の廃液」「地底貫通弾」と各時代で様々な被害を受けてきた事が分かる。これは50年前にあった戦争時代だけに問題があるのではなく、いつの時代にもこういう犠牲になった人はいると言う話なのかなと思う。
今回のガイア・スプリームヴァージョンが近藤に放った光線技はいつもとは違ってなんだか優しい感じだった。だが自分は実際はいつもと同じ必殺光線であれはあくまで演出だったと考える。
老人が近藤はどんな方法を使っても死ねないと言っていたのでガイアは殺す事で近藤を救ったのだと思う。(ガイアに浄化光線なんて便利なものがあるとも思えないし)
「ありがとう、ウルトラマン。ありがとう、平野。俺はお前がいてくれたおかげで心を失わずにすんだ。これで智恵のもとに逝ける。ありがとう、平野……」。
全てが終わった後、老人と我夢は同じ事を考えて呟く。
「人が人を許さない限り、争いは無くならないんだ……」。
この場面、普通だったら老人と我夢の声をシンクロさせるのだが今回は二人の声が微妙にズレている。それは結局はウルトラマンに変身して根源的破滅招来体を倒すと言う武力での解決しか示せなかった我夢と老人の違いなのかもしれない。
今回の話に藤宮は登場していないが出来れば登場してほしかった。
後に藤宮は自分の行動が地底貫通弾使用に繋がってしまった事を後悔するが、それなら地底貫通弾の影響を示した近藤の姿を実際に見ておくべきだったと思う。老人が非難していた武力による解決もかつて藤宮が語っていた事だし。(柊准将も出た方が良いがさすがにそこまでは無理だろうな)