帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「悪夢の第四楽章」

「悪夢の第四楽章 ー超空間波動怪獣クインメザード登場ー
ウルトラマンガイア』第37話
1999年5月22日放送(第37話)
脚本 長谷川圭一
監督・特技監督 原田昌樹

 

超空間波動怪獣クインメザード
身長 66m
体重 3万9千t
KCBを中心とした時空の歪みから現れた。
電波干渉で情報を遮断し、電話を使って人々を操る。放送電波を使って干渉電波を広範囲に拡散して人間同士を争わせて自滅に追い込む事が目的だった。
パイロットウェーブで時空の歪み内のクラゲは燃やされるが本体は既にKCB内に潜伏していて稲森博士の姿を利用して藤宮に玲子を殺させようとするが失敗した。
電波回線の中の特殊空間でガイアと戦う。幻影アグルを作り出してガイアV2と戦わせるが、ジオ・ベースから送られてきた特殊弾で特殊空間を乱れさせられ、最後はガイアV2のリキデイターで倒された。

 

幻影ウルトラマンアグル
身長 50m
体重 4万6千t
「人間が撃ち込んだ地底貫通ミサイルによって滅ぼされた地球怪獣の怨念」としてクインメザードが作り出した幻影。
ジオ・ベースから送られてきた特殊弾の影響で消滅した。

 

物語
根源的破滅招来体の脅威にさらされている世界。そんな中、波動生命体による最悪の作戦が始まる。

 

感想
今度は中国で地底貫通ミサイルによる先制攻撃が行われる。
地底怪獣殲滅を理由に各国の武装強化はその歯止めを失いつつあった。
武装を強化して脅威に対抗する話はウルトラシリーズでは数多くある。有名なのはやはり『セブン』の「超兵器R1号」であろう。『セブン』では武装強化を中止する結末だったが『ガイア』では疑問を抱きながらも武装強化の道を突き進んでいく事になる。
地底貫通ミサイルについての街頭インタビューで寄せられた意見は「日本でもやるべき」「環境に影響がある」「怪獣が現れてから慌てても……」と様々。どの意見もそれぞれ一理あるだけに難しいところ。

 

根源的破滅招来体の脅威に対抗する為には多少の問題があっても地底貫通ミサイル使用は止む無しと言う論調が生まれかけている中、リンブンは集団犯罪が増加しているのも根源的破滅招来体の影響なのかと呟く。その疑問に対して田端さんは「街を破壊する怪獣以上に人間の心が壊れる事の方が恐ろしい」と答える。
たとえウルトラマンや特別チームが怪獣を毎回倒しても怪獣が毎回現れて街が毎回破壊されると言う異常事態に変わりは無い。そして異常事態は人々の心までも異常な状態へと変えていってしまう。

 

根源破滅教団の幹部らしき人物が登場。波動生命体に操られているからか藤宮の正体も知っていて「地球の意思を見失った裏切り者」と糾弾してくる。
放送当時は世紀末でオウム真理教事件もあったので不安な情勢と新興宗教と言う話はかなりリアリティを感じるものであった。又、クトゥルー神話では邪神やその関係者が思念を送って邪神の助けになる人物の心に干渉してくる話がある。根源破滅教団はこれらの要素が結び付いて誕生したものなのかなと思う。

 

今回は「悪夢の第四楽章」と言うサブタイトルの通りに波動生命体の四回目の登場となっている。
「クラゲ」「電波で操る」「人の心を攻撃する」と今まで出された設定が再び取り上げられて登場人物も以前の話を踏まえた行動をしているのが嬉しい。今だと当たり前かもしれないが平成以前のヒーロー作品ではこういうのはあまり無かったので。

 

波動生命体に操られた人々から逃げる玲子の前に稲森博士の姿がパソコン画面に現れる。
稲森「許せない……。藤宮君の目を曇らせるだなんて酷い女……。私が……彼の迷いを断ち切らなくちゃ……」。
「藤宮の目を曇らせる酷い女って自分の事じゃん!」と幻影稲森にツッコミたくなる。

 

再び藤宮の前に稲森博士が現れる。藤宮は何度その姿を利用したら気が済むと怒りを露わにするが稲森博士はホログラムではなく実体で自分は帰って来たのだと答える。
だが、肌を露出した格好をし、藤宮の頬を撫でる等、今回の稲森博士は生前の稲森博士とあまりにもギャップがある。ぶっちゃけ、藤宮は稲森博士の外見に心を許したわけではないだろうからこういう事をしても逆効果だったと思う。こう言うのを見ると波動生命体は人間の心を調査したけれど理解する事は出来なかった事が分かる。

 

波動生命体は幻影稲森と操った瀬沼チーフと根源破滅教団の口を借りて自らの意思を示す。根源的破滅招来体が自分達の考えを語るのは大変珍しい。
「たった数百年で二百種以上……。人類が絶滅させた動物達の数だ!」、
「人間はそのエゴで他の生物を殺し続ける。それどころか互いに憎しみ合い、恐ろしい殺戮兵器でこの地球自体すら破壊しかねない。まさにガン細胞そのものよね」、
「もし地球上で絶滅して良い種があるとするならばそれは人間だけだ!」。
言っている事は真実なので否定は出来ないが、波動生命体にそれを言う資格は無い気がする。
わざわざ人間の口から人間を否定する言葉を発せさせるのが波動生命体の狙いの一つであろう。良く言えば人間自身に自分達の罪を認識させる。悪く言えば趣味が悪い。

 

「ごめんなさい!」と言って瀬沼チーフを倒しちゃう我夢が面白い。

 

幻影稲森は藤宮に向かって「せっかく地球が与えてくれた力を正しく使えず無くしてしまうなんて……。もう一度、自分自身の力で取り戻すのよ」と告げると「迷いを捨てないと、きっとまた地球を救うと言う大切な使命を忘れる」として藤宮に銃を渡して「邪魔する存在は全て消すのよ」と玲子を殺すよう促す。
しかし、幻影稲森が本物の稲森博士ではない事を理解している藤宮は誘惑に屈しないで幻影稲森を撃つ。すると幻影稲森は「またお前を利用できれば面白かったのに……」と捨て台詞を吐いた。この言葉を聞くに波動生命体は本当に地球の事を考えているのではなく、藤宮達の心を掻き乱す事に快楽を感じているように思える。我夢が「人の心を弄ぶ。お前達は卑劣すぎるぞ!」と言っていたが、波動生命体は手段がエゲツなさすぎて、掲げている正しい目的もエゲツない手段を正当化する為の詭弁に思えてしまう。

 

電波回線に潜り込もうとする波動生命体。地球の光に導かれて後を追う我夢。
不思議な世界での戦いは『ネクサス』のメタフィールドを思わせる。今回は「特殊空間での戦い」「心を攻撃する敵」等、今回の脚本を担当した長谷川さんが後にメインライターを務める『ネクサス』を思わせる要素が多かった。
電波回線での特殊空間と言えば『電光超人グリッドマン』を思い出す。長谷川さんが好きそうな要素が多い作品なので、もし関わっていたらどうなっていたのかなと思っていたが、まさか後に長谷川さんが脚本を担当した『SSSS.GRIDMAN』と言う作品が誕生するとは驚きだった。

 

波動生命体は「身勝手な人間どもが地底へと撃ち込んだミサイル! その炎で焼き殺された地球怪獣の無念の叫びだ! その怨念を受けてみろ!」と幻影アグルを作り出してガイアV2と戦わせると「争え滅べ! それが地球の意思! 人間の運命だ!」と叫ぶ。
「人間が滅ぼしていった地球怪獣の想い」「人間が滅びる事こそ地球の意思」と波動生命体は我夢を揺さぶる言葉を並べるが今の我夢には卑劣な波動生命体への怒りが強くてあまり効果は無かった感じ。
それでもガイアとアグルの力を得ているガイアV2が幻影アグルに意外と苦戦したのは我夢の心に問題があったのかな。もしそうなら、波動生命体は人の心を弄ぶような事をしないでもっとストレートに人間の罪を我夢に問い掛けていればひょっとしたら勝機もあったかもしれない。「策士策に溺れる」「自業自得」と言ったところだろうか。

 

今回は失敗に終わったが「TVを使って人心を混乱させる」と言う作戦は最終章で「ウルトラマンの敗北とその正体がTV中継される」として再び使われる事となる。

 

ガイアV2と幻影アグルが戦っている頃、藤宮は玲子を連れて波動生命体に操られている人々から必死に逃げていた。
「今は生きる事だけを考えろ!」と言う言葉に藤宮の考えが少しずつ変わってきている事が分かる。

 

ジオ・ベースから送られて来た特殊弾はいきなりの登場であったが波動生命体の特殊空間を乱れさせると言う今回の話の流れを大きく変えるものであった。
この特殊弾は脚本の長谷川さんによるとパーセルとの事。脚本では稲森博士が設計したパーセルには波動生命体の干渉波が応用されていたらしいので、特殊弾は波動生命体の干渉波を中和する為に稲森博士が作り出していたものだったのかもしれない。
もしそうだったとしたら、幻影稲森(波動生命体)を本物の稲森博士の遺作が滅ぼすとして物語がまとまったのでカットされたのは実に残念。

 

波動生命体が倒され、玲子は「あなたはちゃんと救ってくれた」と語るが藤宮は「俺のせいで稲森博士が死んだと言う事実は決して変わりはしない」と答えて去っていく。
「いつまで過去に囚われているつもり?」と言う玲子の叫びも藤宮を振り向かせる事は出来なかった。そんな藤宮にお礼を言いにやって来る少女。それは「滅亡の化石」で藤宮がとっさに助け出した少女であった。「お兄ちゃん、この前はありがとう」と言う少女の言葉に思わず振り向き手を振りそうになる藤宮。まだ手を振る事は出来ず再び去っていくがそれでも藤宮の心に一筋の光が差し込んだ瞬間であった。
今回の話で藤宮は3人の女性と関わっているが、幻影稲森と言う過去の呪縛を振り切り、玲子と言う現在を守り、少女と言う未来の光を知ると見る事が出来る。