「宇宙怪獣大進撃 ー宇宙戦闘獣超コッヴ 宇宙雷獣超パズズ登場ー」
『ウルトラマンガイア』第44話
1999年7月10日放送(第44話)
脚本 武上純希
監督 根本実樹
特技監督 佐川和夫
宇宙戦闘獣超コッヴ
身長 85m
体重 10万7千t
地球から44光年離れたM91と言う恒星に生息していた。根源的破滅招来体によって改造されたらしい。悪意は無いがテリトリーの外に運ばれた為に恐怖と驚きで動転して暴れる。
人類のワームホールと根源的破滅招来体のワームホールが重なった場所から現れ、ワームホールのエネルギーを吸収してパワーアップしていた。
頭から光弾を撃つ。強力な尻尾を振り回す。
最後はガイア・スプリームヴァージョンのフォトン・ストリームで倒された。
「光をつかめ!」「勇者立つ」のコッヴの着ぐるみを改造している。
宇宙雷獣超パズズ
身長 83m
体重 10万4千t
超コッヴと同じくM91に生息していて、根源的破滅招来体に改造されてテリトリーの外に運ばれた事で本能から暴れる。ワームホールのエネルギーを吸収してパワーアップしている。
角から雷を発する。強力な尻尾を振り回す。
最後はアグルV2のアグルストリームで倒された。
「石の翼」のパズズの着ぐるみを改造している。
物語
ワームホールを使って根源的破滅招来体に攻撃を仕掛ける事になった人類。それは防戦一方だった状態から脱する希望の光なのか、それとも……。
感想
密かに進められていた対根源的破滅招来体プロジェクト。それはワームホール発生に伴う電荷の分布から根源的破滅招来体の母星と思われる星を突き止め、空間に強い電荷を与える事で地球からその母星にまで届くワームホールを作り、恒星間ミサイルを改造したワーム・ジャンプ・ミサイルで根源的破滅招来体を直接攻撃すると言うもの。
怪獣とミサイルの違いはあるがやっている事は根源的破滅招来体と同じ。良くも悪くも人類は根源的破滅招来体と同じレベルに到達した。
今回のプロジェクトで中心的役割を担ったのはダニエル議長。今まで何の研究をしていたのか明かされていなかったが今回の話で無限の宇宙に飛び出して新たな友に会う為にワームホールの研究をしていた事が語られる。
しかし、ダニエル議長は根源的破滅招来体との戦いで宇宙にいるのは友人だけじゃなかった事を気付かされた。従来のウルトラシリーズだとウルトラマンが宇宙人なのでたとえ多くの侵略宇宙人がいたとしても宇宙には友人と言える宇宙人ウルトラマンがいると言えるのだが残念ながら『ガイア』の世界ではダニエル議長はまだ友人と言える宇宙人と出会えていない。
我夢はかつてクラウスが言った「破滅をもたらすものが現れたら人類は逆に攻撃を仕掛けるが、それは意味の無い事だ」と言う言葉をダニエル議長に向けるが周りの人々に否定されてしまう。
石室「我夢。お前の気持ちはよく分かる。しかし我々には世界の秩序を取り戻す義務があるんだ」、
千葉「子供達にもう一度希望に満ちた目で宇宙を見てもらいたいんだ」。
石室コマンダー達の話に理解を示しながらも我夢の疑問は拭えないままであった。
かつて「地球の洗濯」で石室コマンダーは「今は無心になって目の前の敵を砕く! それが何らかの答えを出してくれると信じています」と語り、藤宮は「目の前の敵を倒すだけじゃ駄目なんだよ」と語っていた。これらの言葉の通り『ガイア』は当初は目の前の脅威を排除して目の前の人々を守ると言う展開だったが、やがてその裏に潜む悪意や真実に目を向け、ただ無心に目の前の事態に取り組んでいくだけでは本当の解決にならないと言う展開に変わっていった。
プロジェクトに疑問を抱く我夢に向かって稲城リーダーは「時には力も必要」と諭し、頭ではそれは分かっていると言う我夢を「狼の群れに迷い込んできた羊で軍人には向かない」と突き放す。
軍人として戦う事に誇りを持つ稲城リーダーとしては一応は軍人でありながら戦いそのものに疑問を抱く我夢に対してある種の歯がゆさを感じてしまうのかもしれない。
今まで戦ってきた宇宙怪獣達の映像を見返す我夢の所に「さっきは言いすぎた」と稲城リーダーが謝りに来る。そして自分達は間違った事をしているんじゃないかと考えていたと語る我夢に稲城リーダーもある疑問をぶつける。
「私もずっと考えていて分からない事があるの。あまりにも単純な疑問だけど……。宇宙怪獣はなぜ暴れるの? 地球怪獣にも私達に理解できる彼らなりの理由があったわ。でも宇宙怪獣達は? やっぱり破滅招来体に操られているから?」。
『ガイア』の最初の頃は地球怪獣は根源的破滅招来体に目覚めさせられた尖兵であったが、やがて根源的破滅招来体とは違うそれぞれの理由を持って出現するようになった。なので、そこから宇宙怪獣についても考えるようになるのは自然の流れ。色々考えていそうな梶尾リーダーや神山リーダーではなく稲城リーダーだったのがちょっと意外だったが。
浅野未来が再登場。髪型が変わって雰囲気もちょっと変わった感じがする。
我夢が伝えた稲城リーダーの疑問に対し未来は「答えは簡単」と言い切る。
未来によると宇宙怪獣達も生物なので自分のテリトリーからいきなりよその星に連れて行かれたら恐怖と驚きで動転する。だから、操るなんて非効率的な方法を使わなくても放っておけば宇宙怪獣達は自分を守る為に新たな場所をテリトリーにする為に暴れ出す。つまり宇宙怪獣そのものは根源的破滅招来体にただ利用されているだけとの事。
確かにかつての藤宮や稲森博士を見ていると生物を操るのは想像以上に大変な事は分かる。そこは生物の本能を巧みに利用した根源的破滅招来体の方が遥かに上手だったと言える。
それにしても宇宙怪獣の本質に気付いていながら我夢に聞かれるまでアルケミー・スターズの誰にも知らせなかったと言うのは未来らしいと言うか何と言うか……。
未来の話を信じれば今回のプロジェクトで根源的破滅招来体の母星とされた星は実は全く無関係なコッヴやパズズが住んでいるだけの星である可能性が高くなる。それでもコッヴやパズズが住んでいる星を攻撃する事で人類にとっての脅威は減らせると思われたが実際は全くの逆になる恐れがあった。
人類はコッヴやパズズと言った怪獣達も「根源的破滅招来体」と便宜上呼んでいるうちにとんでもない間違いを犯していた。宇宙怪獣そのものは根源的破滅招来体とは関係の無いただの生物で、根源的破滅招来体に改造されて無理矢理テリトリーの外に運ばれなかったら暴れたりはしない悪意の無い存在であった。だから、このプロジェクトでコッヴやパズズの住んでいる星を破壊できたとしても根源的破滅招来体はコッヴやパズズ以外の生物が住む星と地球とをワームホールで結べば人類への攻撃を続ける事が出来る。これでは人類はかつて自分達の安全の為に野生生物を絶滅に追い込んだように今度は地球を完全に平和にする為に全宇宙の大型生物を抹殺しなければいけなくなってしまう。ここで我夢が述べた野生生物云々の話は前回の「銀色の眼のイザク」を踏まえての事だろう。かつて地球で過ちを犯した人類は今また宇宙で同じ過ちを犯してしまう状況に面していた。
ようやく根源的破滅招来体の母星を特定できたと思いきや、それも数ある手駒の一つに過ぎなかったと言う事は根源的破滅招来体の底知れなさを感じさせるものであった。
我夢はプロジェクトの責任者である谷本参謀にこのプロジェクトを実行に移したら人類は引き返せない泥沼に足を踏み入れる事になると訴えるが、谷本参謀はこのプロジェクトは根源的破滅招来体に対する唯一の有効的な攻撃手段で人類に残されたたった一つの希望だと返し、人類が宇宙の破壊者になってしまっても良いのか?と詰め寄る我夢に向かって他に有効な手段があるのか?と尋ね返す。
全体的な視点から見た場合、谷本参謀が進めるプロジェクトが人類をさらなる泥沼の状態に招いていしまう可能性は十分にあるのだが、根源的破滅招来体の脅威にさらされている以上、何かしら手は打たなければならないのは事実で、今は他に有効な手段は無いがきっと何かあるかもと言う我夢の言葉で中止に出来るものではない。理想を訴えるだけでなく何か対案を出さなければ現実は変えられないのだ。(でも結局『ガイア』でその対案は出てこなかったが……)
ジオ・ベースから追い出された我夢はG.U.A.R.Dの職員に「XIGの隊服に腕を通していてこの作戦に反対するだなんて何を考えているんだ?」「本来なら軍法会議ものだぞ」と吐き捨てられる。このやり取りは「悲しみの沼」を思い出す。ワーム・ジャンプ・ミサイルによる宇宙への攻撃が泥沼状態に足を踏み入れる事になると言う展開も第二次世界大戦時の日本と重なるところがある。
あと「ガイアに会いたい!」にあった「軍の組織でも人間一人一人は良い人である」と言う話だが、今回の話を見るとやはり一人一人は良い人でも組織が誤った道に踏み込む可能性は大いにあったと言える。
悩む我夢は藤宮に助けを求める。
我夢「どうすればいい? 藤宮、教えてくれ」、
藤宮「過ちを止められるのはお前だけだ。我夢、愚かにも人類はこの作戦を唯一の希望だとしている。人類の希望を打ち砕く勇気があるか? ウルトラマン!」。
「大地裂く牙」ではウルトラマンに変身しながらもどうしていいのか分からずただ事態を呆然と見ていた我夢。今回もどうしたらいいのか分からない状態だったので、ここでウルトラマンに変身してもきっと同じ事の繰り返しになっていただろう。しかし、藤宮に突き放された事で我夢はウルトラマンに変身する前に決断を迫られる事になる。
一方、石室コマンダーはプロジェクト空域に侵入者がいたらそれが何者であっても排除しろと命令を出す。千葉参謀は根源的破滅招来体が先手を撃つ可能性を考えるが、石室コマンダーは敵は根源的破滅招来体だけではないかもしれないと返し、その会話を聞いた堤チーフはたとえ何者であっても迎撃するとして、神山リーダーに石室コマンダーは具体的な敵を想定していると伝える。
そして遂にプロジェクトが始動。悩んだ末に我夢はガイアに変身する。
ウルトラシリーズでは「ウルトラマンは人類の選択に介入しない」と言うのが一つのルールとしてある。実際は有名な『セブン』の「超兵器R1号」のように変身前の状態だと人類の選択に疑問をぶつける事は結構あるのだが、ウルトラマンに変身して人類の選択を直接阻止する事は少ない。もしそれをしてしまったらその後の人類は決断を下す際にウルトラマンの存在を頭に入れて決める事になる。それは人類がウルトラマンの支配下に入るとも言える。今回の話は「人類はあるラインを踏み越えてしまうのか?」と言うのがテーマになっているが実は「我夢はウルトラマンとしてあるラインを踏み越える事が出来るのか?」と言うテーマもあった。
石室コマンダーと堤チーフはウルトラマンがプロジェクトの妨害をする事を想定していたが、神山リーダーは驚きを隠せずチーム・クロウは悩んだ末にガイアV2を攻撃できなかった。
石室コマンダーは我夢の覚悟を見る為にあえてXIGを出撃させたように思えるが……。
ところで梶尾リーダーだったらこの時どういう行動をしていたのかな。気になる。
アルケミー・スターズが作ったワームホールに根源的破滅招来体のワームホールが接触し、人類のワームホールを使って怪獣が送り込まれてくる。
ワームホールを閉じると大量のエネルギーが行き場を失って危険な状態になるとしてガイアV2はそのエネルギーを受け止めようとするが耐え切れず墜落してしまう。そして次元が歪んでワームホールのエネルギーを吸収してパワーアップした超コッヴと超パズズが現れる。
超コッヴと超パズズの向かう先には惑星を破壊できるワーム・ジャンプ・ミサイルがあって、このままでは人類は自分が作り上げた最強の兵器で自滅してしまう。『ガイア』後半のテーマの一つに「過剰な武力は人類そのものにも危機をもたらす」と言うのがある。根源的破滅招来体との戦いで真に恐ろしいところは怪獣による破壊行為より状況全てが人類にとって不利な方向に進められてしまうところなのかもしれない。
暴れる超コッヴと超パズズを見た藤宮は「あいつら自身には地球破壊の目的意識が無いのだとしても、生物の本能で暴れているだけだとしても、だからこそ厄介なんじゃないか、我夢!」と言ってアグルV2に変身する。
一方、ガイアV2は宇宙怪獣達はただ無我夢中で生きようとしているだけと言う事が心に引っ掛かって迷ってしまう。アグルV2はそんな心の迷いを捨てるようガイアV2に向けて「行くぞ!」と呼びかけ、迷いを捨てたガイアV2はスプリームヴァージョンにヴァージョンアップする。
遂にガイアとアグルの本格的なタッグマッチが実現! これまでウルトラシリーズでタッグマッチが行われたのは『A』『レオ』『80』と少なかったので今回のタッグマッチは燃えた!
遂にガイアとアグルのタッグマッチが実現した燃える話で佐川監督による重量感溢れるド迫力バトルが展開されるのだが、それまでのドラマが「ただ敵を倒していくだけで良いのか?」と言う流れだったので、バトルがドラマとかけ離れてしまったのは事実だった。ドラマもバトルもそれぞれ良かっただけにこのズレは残念だった。
せめて最後のガッツポーズを何とかしてくれたらまだ話がまとまった気もする。佐川監督によるとガイアとアグルが迷いを振り切って戦いの末に友情を深めたと言う表現だったらしいが……。やっぱりガイアとアグルの初めてのタッグマッチは素直に敵を爽快に倒せる話にしてほしかった。(例えば「ガイアに会いたい!」でXIG子供隊員を守る為にガイアとアグルが一緒に戦うとか)
戦いが終わった後、M91は根源的破滅招来体の本拠地ではなくコッヴやパズズが生息する星であった事が判明する。
エリアル・ベースから沈みゆく夕陽を眺めながら石室コマンダーは人類が一つの希望を失ったと言うのに嬉しそうだなと我夢に尋ねる。その質問に我夢は人類はたとえ希望を失っても夜明けと共に新しい希望を見つけてくると答える。
今回は根源的破滅招来体の本拠地への攻撃が出来なかったと言う失敗の話であるが一方で人類が宇宙の破壊者にならずに済んだと言う成功の話でもあった。
今回存在が語られたM91は「コッヴやパズズが生息している星」と説明されている。なんとなく恐竜時代の地球みたいな雄大な自然の中を巨大生物が闊歩するイメージが出てくるが「ロック・ファイト」でヴァーサイトが登場しているので星そのものが巨大生物の改造実験所みたいな物である可能性もある。
今回の話ではM91は根源的破滅招来体の管理下にあるように思われるが、ひょっとしたら『コスモス』のノワール星人のように生物を改造する存在があって、そこがM91で改造した怪獣達を根源的破滅招来体に提供していた可能性もある。そう考えると今回のプロジェクトで根源的破滅招来体の正体にかなり迫れたと思いきや実は全く迫れていなかったとなる。
そう言えば「再会の空」で藤宮はワームホールを開いて根源的破滅招来体の世界に特攻するつもりだったが、今回の話を見たら全くの無駄死にになる可能性があった事が分かる。危なかった……。
本作と同じ時期に展開されていた『平成セブン』の『最終章6部作』は今回の話で人類がワーム・ジャンプ・ミサイルを撃ってしまった場合の物語と考える事が出来る内容になっている。