「送り火」
『ウルトラQ dark fantasy』第10話
2004年6月8日放送(第10話)
脚本 太田愛
監督 原田昌樹
物語
人の死に寄り添う黒い頭巾の男。
調査を始めた涼の前にヒタキと言う少年が現れて……。
誰もが最後に辿り着く「死」のお話。
感想
ウルトラシリーズでは珍しく「死」を真正面から扱った話。
死に往く人の魂を安らかに他界に送り出す異能の一族「送り火」。その手で触れた者を死なせると言う能力の為に恐怖の対象となり表の世界から抹殺された存在。死なせた人から小銭を頂く事を生業としているヒタキと彼を見守る「赤目」と呼ばれる謎の男。夜の闇から現れて朝の光へと消えていった彼らの存在は人々が普段の生活から排除したが決して逃れる事が出来ない「死」と言うものを表している。
ヒタキの能力は安楽死を連想させるもので色々と考えさせられるものであった。
『Qdf』の中で考えると今回の話は「綺亞羅」の男の子バージョンと言う見方も出来る。
「綺亞羅」では綺亞羅を謎の存在にして坂口を中心に据えていたが今回は死に逝く人々を脇に置いてヒタキを話の中心に置いている。
自分を必要としている人間を感じ取り、その人の魂が「マザーランド」と呼ばれる生まれてから一番最初の優しい記憶のあるところを通って行くのを見届けるヒタキ。
昨日の事を忘れたお婆さんも遥か昔の母親の姿はどこかで覚えていて、その優しい記憶の中で安らかな死を迎える。マザーランドは心を持った人間が生きて死んでいくのに必要なものなのかもしれない。
しかし、自分が送った人全てのマザーランドを覚えているヒタキには自分自身のマザーランドが無い。異能の人間には何か欠落があると言う定説の通り「送り火」は幼年期の頃の記憶が欠落していて自分の生まれを知らない。さらに「送り火」は自分のマザーランドと引き換えに最初の人間を送る事になる。自分の生まれも知らなかったヒタキが手に入れたマザーランドはクラウンのおじいさんとの思い出。しかし、初めて持った家族は初めて送る相手ともなる。ヒタキは自分のマザーランドと共にクラウンのおじいさんを送って名実共に「送り火」となった。
ヒタキの初仕事の相手となったクラウンのおじいさん。ヒタキ曰く「大道芸をしながら旅を続けていて、元は男爵の生まれ」との事。涼は冗談として受け取ったが後に明かされるヒタキの能力を考えると本当の話だったと思われる。
ヒタキが「送り火」だと知った涼は「ヒタキは自分のしている事が分かっていない」と叫ぶが実際に分かっていないのは涼の方だった。それは普段の生活から「死」を排除してしまっている涼と「死」を日常としているヒタキとの間にある溝を示している。それは「涼が死んだ時は自分がマザーランドに連れていく」と言うヒタキの言葉に涼が「自分は死んでも死なない」と返した事からも明らかである。
短い時間であるが一緒に過ごして手を取り合って警察から逃避行を繰り広げた二人であったが、この決定的な断絶を埋める事は最後まで出来なかった。
ティータイムの場面は普通に話が流れる中に渡来教授の可笑しさをさり気なく見せていたのが上手かった。
平成ウルトラシリーズの常連である影丸茂樹さんが演じる玉木刑事が登場。
これまでの話では意外と剛一の立ち位置が定まっていなかったが今回は堅物の玉木刑事や曲者の大盛検視官から情報を引き出して事件の輪郭を明らかにしている。
ひょっとしたら、涼とのコンビより玉木刑事と対立しながらお互いに補足し合っていく方が剛一を上手く描ける気がする。
その玉木刑事とコンビを組んでいる萩本刑事があまりにも小さくて目を引く。
背も声も小さいし足も遅いしハキハキしていないしと刑事として大丈夫なのかなとちょっと心配になる。
エンディングへ入っていく流れが上手く、歌詞も本編を連想させる部分があって物語に一層の深みを持たせていた。
今回の話は相坂きいろさんによってノベライズされている。
「いつか
あなたの命の火が消える時
あなたは、
誰に側にいてほしいですか?」。