帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「綺亞羅」

「綺亞羅」
ウルトラQ dark fantasy』第7話
2004年5月18日放送(第7話)
脚本 小中千昭
監督 金子修介

 

綺亞羅
ジャズ・ベーシストの坂口の前に現れた謎の少女。
坂口の隠していた本音を叶えていく。
背中から美しい羽を広げる。血の代わりにジェル状の体液を流す。異人(まれびと)と言う不気味な男達を付き従わせている。
過去にもジャズ音楽家の前に姿を現していたらしいが詳しい目的等は不明。

 

物語
ある夜、先の見えないジャズ・ベーシストの坂口は不思議な少女と出会う。
自分に付きまとう少女を迷惑に思いながらも何故か突き放す事が出来ない坂口。二人の行く末は果たして……?

 

感想
今回は主人公レギュラーが登場せず、その役回りは坂口の友人である田中が引き受けている。
剛一や涼の役回りは事件のあらましを視聴者に伝える事だが、その為には剛一達と当事者に面識を作らなければならない。又、剛一達は事件を解決する権利を物語上与えられない事が多くて自分達を頼ってきた人達を結局は救う事が出来ない話も多い。その為、剛一達のようなレギュラーを毎回登場させるより今回の田中のようにその回のゲストに因んだ一般人を登場させた方が物語がスムーズに進む事がある。

 

不思議な少女と関わった男性が最後は現実世界から消えてしまう展開は「パズルの女」と同じだが、パズルの女の真意を解き明かす事に重点が置かれていた「パズルの女」に対して今回は綺亞羅の真意は最後までボカされていて代わりに坂口の心情に力が入れられている。又、ラストシーンも「パズルの女」の望月がパズルの女と幸せそうに微笑み合っていたのに対して今回の坂口は橋から転落死した姿が生々しく描かれている。

 

自分はジャズの世界を知らないのでバスター・カークランドや栄光のブルーノートレーベル1553についての話は分からないが命の限界を感じ全てを捨てて夢を追いかけようとするも現実の前に敗北した男の話は理解できる。
坂口の友人として登場した田中は一見嫌な奴に見えるが現実を生き抜く為に夢を捨てて、夢に生きようと足掻く坂口の事を思いやってもいた。ここで田中を単なる嫌な奴にしなかった事で現実を捨てて夢に生きる坂口の行為を簡単に美化せず物語に深みが出た。

 

綺亞羅は「現実に生きろ」と忠告する田中を押しのけ、田中が持っていた幻のレコードを持ち出す等、坂口の願望を叶えていたとも言える。
「田中を殴りたい」「このレコードを持つのは自分こそが相応しい」「思い通りに生きているつもりで他人の顔色ばかり見ている」と言った綺亞羅の言葉は坂口の本音だったのかもしれない。

 

綺亞羅が羽を広げる場面は美しくて『Qdf』でも屈指の名場面となっている。
ウルトラシリーズに登場する宇宙人は着ぐるみかメイクした役者かの二種に大きく分けられる。人間の役者にCGを加えた綺亞羅の登場は新しい表現方法だと思ったが残念ながら後に続かなかった。色々と手間がかかって大変だったのかな。今回も動き自体はぎこちなかったし。

 

綺亞羅が広げた羽で坂口を包み込み、翌朝、綺亞羅が坂口に抱きついている場面は色々と考えてしまう。

 

結局、綺亞羅が何者だったかは謎のままであった。
アイルランドの伝説の妖精リャナンシーを連想させるものがあるらしい。
綺亞羅が音楽家達を取り殺していったのか、それとも命尽きる音楽家達に救いを与えていたのか、それとも全ては坂口の深層心理の表れだったのか……。

 

全てが対比されている坂口と田中。
坂口に綺亞羅と言う現実離れした少女がいたのに対して田中には普通に彼女らしき女性がいた。
物語の冒頭で阪口は不思議な服に身を包んだ綺亞羅を部屋に連れ込む事になった。一方、物語のラストで田中は繁華街で綺亞羅と擦れ違うが、現実によくいる家出少女の格好をした綺亞羅に気付く事無く通り過ぎていった。
夢に生きる坂口と現実に生きる田中。最後に綺亞羅に気付かなかった事は田中にとって幸せだったのか、それとも……。