「再会の空 ー宇宙忍獣Xサバーガ登場ー」
『ウルトラマンガイア』第36話
1999年5月15日放送(第36話)
脚本 吉田伸
監督 市野龍一
特技監督 佐川和夫
宇宙忍獣Xサバーガ
身長 75m
体重 8万2千t
藤宮が再び開けたワームホールから現れた番人。
岩盤を使った畳返しの術、土遁の術、分身の術を使う驚異の忍獣。
左手にドリルを持つ。右手から小型Xサバーガを発射して相手のエネルギーを吸い取って爆発させる。
藤宮に本体の位置を当てられ最後はガイア・スプリームヴァージョンの飛び蹴りで倒された。
物語
藤宮の生存を知らされた我夢と玲子は藤宮の所に向かう。
今まで一人で行動してきた藤宮は根源的破滅招来体を倒す為にある作戦を実行に移す。
感想
皆が予想していた通り再登場を果たした藤宮。
約2ヶ月続いたバラエティ編が終わり、ここからは最終章に向けて物語が進む事になる。
様々な海を調査していた藤宮はノルウェーのセイリア島で人々の争いでワームホールが開いてゾーリムが現れる場面を描いた壁画を見付ける。
これは古代にあった出来事を記したものなのか遠い未来を予言したものなのかは不明。どちらにせよ、現在に根源的破滅招来体が存在していると言う事実に変わりは無い。
稲森博士の墓に花を供えた藤宮はアグルの力が戻っては来なかった事、地球はもう自分に語りかけてはくれなかった事を語る。我夢にアグルの力を与えた後、藤宮は再びプロノーン・カラモスに行ったらしいが何も起きなかったようだ。
全てを失った藤宮は全ての元凶である根源的破滅招来体を倒す事で全てを終わらせてしまおうと考える。
藤宮の前に立体映像として現れたのは死んだはずの稲森博士。
驚く藤宮に稲森博士は「大いなる力で蘇った」と答える。
目の前の稲森博士が根源的破滅招来体によって現れた存在だと知った藤宮は根源的破滅招来体が地球を狙う理由を尋ねる。それに対して稲森博士は「掃き溜めに蠢く害虫の存在意義なんて考える必要無い」「操られていたがクリシスの答えは嘘ではない」「人類は滅ぼすべき」と答える。姿形は稲森博士そのものだが人格は全くの別物である事が分かる。これで藤宮は稲森博士の立体映像を消す決断が出来たのだが、たとえ偽者でも稲森博士を自分の手で消した事で藤宮はまた一つ心に傷を負ってしまうのであった。
藤宮はいくつもの工学特許を取っていて、その財力で世界各地に潜伏場所を持っているらしい。仮面ライダーだと変身者が社長だったりする事もあるがウルトラマンで変身者が財力を持っている事は珍しい。正確にはウルトラマンではないが『R/B』でオーブダークに変身する愛染くらいだろうか。
そう言えば、我夢が開発したリパルサー・リフトって特許はどうなっているのだろうか? ひょっとして我夢も実は大金持ち?
再会した藤宮に我夢は「もう協力できない理由なんて無い」と言うが藤宮は「ある」と答える。
藤宮「我夢。俺のせいでたくさんの人が傷付いた。俺は心のどこかで自分の力に溺れていた。俺は……その償いをしなければならない」、
我夢「僕が君の立場だったら同じ事をしたと思う」、
藤宮「違うんだよ……。思うのと実際にしてしまった事は……」。
確かに「人類を滅ぼそうと思う」と「実際に人類を滅ぼそうとした」の間には大きな壁がある。実際に多くのものを傷付けてしまった藤宮の心が完全に癒される事はこの先も無いのかもしれない。ただ、実際に手を血で染めて罪を背負った分、藤宮の覚悟は我夢より遥かに深く大きく強くなっていく。
「元気そうだな」と話しかける藤宮に玲子は「あなたの深刻ぶった顔を随分見ていないから」と答える。藤宮にこう言えるのは玲子ぐらいであろう。
自分の過去を悔やむ藤宮に玲子は誰もあなたを責めないと語るが藤宮はたとえ君達が許しても……と答える。
確かに藤宮の事情を知っている玲子や我夢やダニエル議長達は藤宮を責めないと思うが、藤宮が傷付けたのは彼女らだけではない。実際、後の「大地裂く牙」では藤宮の行動で部下を失った柊准将が登場する事になる。
玲子「確かに人を傷付けた苦しみは分からない。でも、あなたの悲しみは分かる。それを放ってはおけないよ。だって、あなたが変わらなきゃ出会った意味なんて何も無いもの」。
「目の前にいるあなたが苦しんでいるから助けたい」と言う玲子の感覚はとても大事だと思う。我夢や藤宮は人類全体を代表して大きな視点で話をしてしまいがちだが、昔のACのCMにあった「命は大切だ。命を大切に。そんなこと何千何万回言われるより、「あなたが大切だ」、誰かがそう言ってくれたら、それだけで生きていける」と言う言葉のように、今の傷付いた藤宮に必要なのは人類がどうたらこうたらと言う大きな話より「あなたを助けたい」と面と向かって言われる事だと思う。
小型戦闘機に乗り込んだ藤宮はG.U.A.R.Dの対空間レーザーシステムをハッキングしてエリアル・ベースに向けて発射する。それに対して我夢はガイアV2に変身してフォトンクラッシャーで迎撃するが、両者のエネルギーの激突からあのワームホールが再び開く事になる。
藤宮の今回の作戦は再び開いたワームホールから根源的破滅招来体の世界に突入して自分の命と引き換えに全てを終わらせる事であった。
ワームホールに特攻を仕掛ける藤宮だったがバリアーに阻まれる。ここまでかと藤宮は自爆スイッチに手を伸ばし、高エネルギー爆弾による爆発でワームホールは消え、藤宮はガイアV2によって間一髪助け出される。そこにワームホールから現れたXサバーガが地上に舞い降りる。
Xサバーガはウルトラ怪獣の中でも特に好きな名前。名前にアルファベットを入れるセンスが素晴らしい。個人的に『ビックリマン』を思い出して懐かしい。
Xサバーガは肩書きの「忍獣」に恥じない多くの忍術を見せてくれて面白い戦いになっている。特に畳返しには度肝を抜かれた。
「ガイアのエネルギーを吸い取った小Xサバーガは自ら爆発! ガイアピンチ!」と言うナレーションは不要だった気がする。佐川監督によると説明しないと視聴者は分からないと思ったらしいが映像だけでも十分分かると思う。
最後にキックで決着はウルトラシリーズでは珍しい。
Xサバーガに苦戦するガイアV2を見た藤宮はアグレイターに目をやるがそこに光は無い。藤宮は悔しさと共にアグレイターを沼に投げつけるが、そこから分身中のXサバーガの本体を見付け、体に巻きつけていた爆弾をXサバーガ本体に投げつけてガイアV2に逆転のきっかけを与える事になる。
ところで我夢は倒れた藤宮を見て「藤宮! 僕は……許さん!」と叫んでスプリームヴァージョンになるが、藤宮は自分が投げた爆弾の影響で吹き飛ばされたのであってXサバーガが攻撃したわけではないので、Xサバーガがちょっと可哀相だった。
戦いが終わった後、藤宮の今回の作戦を知った我夢は驚き怒る。
我夢「甘ったれるな! 藤宮、そんな償い方なんて誰も求めていない! 君を心配する人はちゃんといるのに、どうしてそれを分かってやらないんだ?」。
藤宮はその言葉に応えず、フラフラになりながら無言で去っていった。
今回の藤宮の作戦は「特攻」。つまり「自らの死」である。
おそらく根源的破滅招来体だけでなく、それに騙されてしまった自分自身も許せなかったのだろう。あれだけの事をしてしまった以上、とてつもない罪の意識が藤宮にそうさせたのだと考えられる。仕方が無いと言えば仕方が無いところはある。藤宮がこの罪の意識も背負って生きていこうと思えるようになるのはまだ後の話である。
今回の話のように藤宮は昔から思い詰めると極端な行動に走る事が多い。相談できる相手がいればまた違ったのだろうが、そこが「相手を危険に巻き込みたくない」「他人を頼ってはいけない」と言う藤宮の他人への思いやりや生真面目さと言える。この辺が「我夢以上に純粋」と言われるところなのかもしれない。
それにしても我夢の口から「甘ったれるな!」と言う叱咤が出てくるとは思わなかった。様々な戦いを経て我夢も成長している事が分かる。