帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「銀色の眼のイザク」

「銀色の眼のイザク ーアルテスタイガー怪獣イザク登場ー
ウルトラマンガイア』第43話
1999年7月3日放送(第43話)
脚本 太田愛
監督 根本実樹
特技監督 佐川和夫

 

アルテスタイガー怪獣イザク
身長 62m
体重 5万4千t
アルテ平原一帯に生息していたアルテスタイガー最後の一頭で「銀色の眼のイザク」と呼ばれていた。
アルテスタイガーは地上で最も美しい虎と言われていたが毛皮と薬になる骨の為に人間に狩られて1970年代に絶滅した。その後、人間によって絶滅した地球生物をクローン技術で再生させる計画の最初のテストケースとしてイザクが選ばれるが根源的破滅招来体によって怪獣に変えられてしまう。
かつて重油混じりの水を飲んで人間と戦っていた記憶から石油コンビナートに現れる。人間に対する憎しみよりも激しい「生きたい」と言う意思を持っていたがガイア・スプリームヴァージョンに倒されて光となって昇天した。
正式名称は「イザクプラチアード」と言うらしい。

 

物語
人間によって絶滅してしまった地球生物をクローン技術で復活させる計画が進められるが根源的破滅招来体が介入してしまう。

 

感想
人間が過去に犯してきた過ちを償えるかもしれない計画。それは人間によって絶滅してしまった地球生物をクローン技術で復活させると言うもの。何もしないよりはマシかもしれないが、それは償いとは違うのではないかとちょっと思う。
生態系保全の為の調査を援助して野生生物の保護にも力を入れている岩倉財閥。表向きは素晴らしい企業だが実は裏では……と言う展開が多いが今回そういう展開は無かった。
イザクを復活させようとした岩倉財閥自然科学研究所の小谷研究員は藤宮の知り合い。藤宮にも心配してくれる知り合いがいた事にホッとする。だが、研究所がワームホールからの雷撃と怪獣化したイザクによって破壊されてしまったので小谷研究員も死んでしまったと思われる。悲しい。

 

藤宮は今回からバイクで移動。孤独な雰囲気と相まって仮面ライダーみたいな感じ。と思ったら後に本当に仮面ライダーになったりする。

 

今回のアグルV2はイザクの荒んだ心を鎮めようとして反撃しないで攻撃を受け続けるが、アグルV2を助ける為にファイターがイザクを攻撃してしまった為に失敗に終わってしまう。
あのアグルが相手の怒りの気持ちを黙って受け止めるとは変わったものだ。そんなアグルV2の気持ちは見ているだけで十分分かるので、わざわざナレーションで説明する必要は無かったと思う。後の場面で我夢もアグルV2の行動の理由を語っているし。

 

今回はコンビナート爆破が凄い迫力になっている。実際に炎を吐く場面はやはり凄い。スピード感はCGの方が上だが重量感や迫力はやはりアナログ特撮の方が上かなと思う場面であった。

 

NGOだった神山リーダーと勉強してきた我夢と藤宮によって語られるアルテの虎の物語。アルテスタイガーをテリトリーから追いやったのも絶滅させたのも、クローン技術で復活させようとしたところを根源的破滅招来体に怪獣化させられたのも、イザクがかつての記憶から石油コンビナートを襲ったのも全て人間が原因。イザクは人間が犯してきた過ちの象徴と言える。
神山リーダーが最後に呟いた「イザク達にとっては私達人間が破滅招来体のような存在だったのかもしれませんね」と言う言葉が衝撃だった。根源的破滅招来体の正体はこの時点でもまだ謎のままなのだが、様々な生命を滅ぼしてきた人間の行いを根源的破滅招来体と重ねる事で根源的破滅招来体が地球を襲撃して人間を滅ぼそうとする理由に一つの推測が立てられるようになった。これは根源的破滅招来体の正体について色々考えてきた視聴者にガツンと大きな一撃を与えるものであった。

 

「人間によって絶滅させられた地球生物から見れば人間こそ根源的破滅招来体かもしれない」と言う神山リーダーの言葉に衝撃を受けた梶尾リーダーは再びイザクと戦う時に攻撃を躊躇ってしまうが、それでも「あれは怪獣なんだ」と自分に言い聞かせる。
たとえ人間に罪があって宇宙規模で考えたら人間は滅ぼした方が良いとしても、それでも人間は死にたくない生きたいと願う。他の地球生物の命を奪っておきながらそれは自分勝手かもしれないが、それが生物と言うものなのだろう。そういう意味では人間もかつて人間が滅ぼしてしまった幾多の地球生物も同じ生きる存在と言える。

 

イザクは人間を憎んでいると考えた藤宮は自分が犠牲となる事でその憎しみを癒そうとするが実際に戦ってそれは思い上がりであった事に気付く。
イザクはアルテスタイガー最後の一頭だったが、アルテスタイガーは散り散りになって一頭ずつ倒されていったので、イザクは自分が最後の一頭だとは知らなかった。実はイザクには憎しみよりも激しい「生きたい」と言う意思があった。これによってウルトラシリーズで定番だった「怪獣の憎しみを鎮める」と言う手段が封じられてしまった。この辺りの容赦の無い展開は『ガイア』ならではと言える。

 

石室コマンダーは根源的破滅招来体が怪獣となったイザクにあえて地球生物の痕跡を残したのは人間にかつて犯した過ちを気付かせる為であると推測する。
もし、ここで人間が自分達が犯してきた過ちに苛まれてイザクを倒す事を躊躇したら根源的破滅招来体は今後も人間が絶滅させてしまった地球生物を利用し続けていく。その連鎖を断ち切る為にはイザクを倒さなければならない。
このかつて絶滅した地球生物を根源的破滅招来体が利用する展開は「46億年の亡霊」と同じであるが今回は人間が絶滅に追いやった存在を出した事でより重い展開になった。

 

イザクとの戦いでガイア・スプリームヴァージョンは光線を撃とうとするがイザクの「俺は生きる! ガイア、俺は生きる!」と言う声を聞くと思い留まって肉弾戦を展開する。ガイア・スプリームヴァージョンが光線技ではなく自らの手でイザクを葬ったのが良かった。ただ、イザクの「生きたい」と言う意思は直接喋らせなくても十分伝わったと思う。今回は必要以上に言葉による説明があった気がする。

 

イザクを葬った後、
我夢「許してくれ……」、
藤宮「我夢……」、
我夢「僕にも……イザクの声が聞こえた……。イザクは……この地球で生まれ、この星で生きたいと……、そう望んだだけなんだ……。それを僕は……!」、
藤宮「戦うのが辛ければその光を捨てればいい。イザクを葬ったのはお前じゃない。アルテスタイガーを絶滅させた俺達人間なんだ。我夢、いつかお前は言ったよな、「人間は変われる」と。俺はそれを信じたいと思った。でもな我夢。人間は人間が過去に犯した過ちを自分達の傷みとして背負っていかない限り本当に変わったりは出来ないんじゃないか? 俺達もイザクの事は忘れない」、
我夢「ああ……」。
『ガイア』に限らずウルトラシリーズでは人間が過去に犯してきた過ちが何度か取り上げられたが、その殆どが「いつか人間は変われる。変わらなくちゃいけない」と言うちょっとフワッとした感じの結論で終わる事が多かった。それが今回の話では「人間は過去に犯してきた過ちを背負わなければ本当に変わる事は出来ない」と少し具体的な答えとなった。この答えを実行に移せるかどうかがこれからの人間の課題なのであろう。